VFで誤嚥が見つかっても、そのまま禁食にするのは間違いです。
摂食嚥下障害の精密検査として代表的なものが、嚥下内視鏡検査(VE:Videoendoscopic examination of swallowing)と嚥下造影検査(VF:Videofluoroscopic examination of swallowing)の2つです。どちらも「飲み込みの様子をリアルタイムで映像記録し、障害の状態を評価する」という目的を持つ検査ですが、その仕組みと観察できる範囲に大きな違いがあります。
VEは鼻腔から細いファイバースコープを咽頭部へ挿入し、咽頭・喉頭の動きや食物の通過状態を直接観察する検査です。機器が携帯できるため、病室・施設・在宅どこでも実施できる点が最大の強みです。一方でVFは、バリウムなどの造影剤を含む食品をX線透視下で飲み込んでもらい、口腔から食道までの動きを動画で記録する検査です。VFはレントゲン室での実施が必須であり、X線被曝(1回あたり約12〜15mGy程度)を伴いますが、準備期・口腔期・咽頭期・食道期という嚥下の5期をほぼ網羅して評価できるため、「嚥下機能検査のゴールドスタンダード」と位置づけられています。
つまりVEは「現場で迅速に行える精密検査」、VFは「より詳細な全体像を把握する検査」というイメージが基本です。
歯科従事者にとって重要なのは、口腔機能の状態が嚥下の準備期・口腔期に直接影響を与えるという点です。義歯の適合不良や舌圧低下・咀嚼機能低下は嚥下前の食塊形成を乱し、VF所見にも反映されます。口腔機能管理と嚥下評価は切り離せない関係にあることを理解しておくことが大切です。
参考リンク:VEとVFの評価のポイントや注意事項、VFとVEの違いを網羅した専門サイト
嚥下障害にかかわる検査(VF、VE)- STナビ
VEを実際に実施する場合、まず鼻腔から細径の内視鏡(ファイバースコープまたは電子内視鏡)を挿入し、咽頭・喉頭を観察できる位置に固定します。その後、実際の飲食物(必要に応じて着色水やとろみ食・ゼリーなど)を用いて嚥下してもらい、食塊の動きや咽頭残留の有無、誤嚥・喉頭侵入の有無などを観察・記録します。挿入時の違和感は避けられませんが、X線被曝がないため繰り返し実施しやすく、長時間の観察も可能です。
嚥下の瞬間に咽頭収縮で内視鏡先端が覆われ、映像が一時的に真っ白になる「ホワイトアウト」が起こります。この瞬間は直接の誤嚥確認が難しい点はデメリットですが、その前後の観察と組み合わせることでVFと同程度の誤嚥検出率があると報告されています(Nurse Senka 2016)。これは意外ですね。
VEによる嚥下機能の総合評価には、兵頭スコアが広く使用されています。以下の4項目をそれぞれ0〜3点で採点します。
| 評価項目 | 0点(正常) | 3点(重度) |
|---|---|---|
| ①唾液貯留 | 貯留なし | 声門下まで流入 |
| ②咳嗽反射・声門閉鎖 | 良好 | 消失 |
| ③嚥下反射の惹起性 | 正常 | 反射なし |
| ④嚥下後クリアランス | 残留なし | 著明な残留 |
合計点の解釈は「4点以下:経口摂取概ね問題なし」「5〜8点:誤嚥リスクあり・食形態・気道管理の検討が必要」「9点以上:経口摂取困難・不可」が目安です。9点以上というのは4項目すべてが満点に近い状態で、重篤な嚥下障害を意味します。
歯科従事者にとってとくに重要なのは「①唾液貯留」の評価です。口腔内の清潔度・唾液分泌量・口腔機能の低下が唾液の咽頭貯留に影響を与えるため、口腔ケアの徹底や口腔機能管理がVEスコアの改善に直結します。スコアが改善できれば食形態の幅が広がり、患者のQOL向上につながります。これは使えそうです。
参考リンク:兵頭スコアの採点方法・VE評価項目・訪問歯科でのVE実施まで詳しく解説
摂食嚥下機能検査について - さいたま口腔リハビリテーション歯科クリニック
VF検査はレントゲン室で行うため、外来・入院患者が対象となります。造影剤(バリウム入りの液体・ゼリー・固形食)を飲み込んでもらいながら側面もしくは正面からX線透視を行い、嚥下運動の全体像を動画に記録します。
VFで観察できる主な評価ポイントを整理すると次のとおりです。
ここで強調したいのは「誤嚥が見つかった=禁食」ではないという点です。実は、誤嚥していても咳で自力喀出できれば肺炎は起こりにくく、誤嚥した内容が少量で肺への侵襲性が低ければ臨床上の問題にならないケースも多々あります。「誤嚥=誤嚥性肺炎」ではないということです。
VFで誤嚥が確認されたときの対応手順は「誤嚥が最小限になる姿勢・食形態・摂食ペースを探ること」が最初のステップです。大量誤嚥の場合は経口摂取の制限を検討しますが、そのときも肺炎・発熱の頻度・呼吸機能・免疫機能・生命予後を総合的に判断する必要があります。
歯科従事者が関わる場面として重要なのは、VF実施前の「口腔状態の整備」です。義歯の不適合・残存歯の欠損・口腔乾燥などが食塊形成に悪影響を及ぼし、VF所見の結果を左右することがあります。検査前に治すべき歯科的な問題がないかを確認することが原則です。
参考リンク:VFの観察ポイント・評価スケール・結果の解釈の仕方を解説した専門記事
第3回 摂食嚥下障害の検査-嚥下造影検査(VF)と嚥下内視鏡検査(VE)- ナース専科
VEとVFはそれぞれ得意とする観察領域が異なるため、目的に応じた使い分けが重要です。以下の比較表を参考にしてください。
| 項目 | VE(嚥下内視鏡) | VF(嚥下造影) |
|---|---|---|
| 実施場所 | ベッドサイド・在宅・施設 | レントゲン室(病院) |
| X線被曝 | なし | あり(約12〜15mGy) |
| 携帯性 | 高い(訪問可能) | 低い(設備固定) |
| 観察範囲 | 咽頭・喉頭のみ | 口腔〜食道まで全体 |
| 不顕性誤嚥 | やや見逃しリスクあり | 評価しやすい |
| 粘膜・分泌物確認 | 優れている | 困難 |
| 実際の食物使用 | 可能 | 造影剤入りの模擬食品 |
| 評価スコア | 兵頭スコア(4項目) | NIH-Swallowing Safety Scale等 |
歯科従事者・とくに訪問歯科に関わる場合は、VEの携帯性を活かした「現場での迅速評価」が現実的な選択肢になります。実際、平成24年度の調査では介護保険施設の7割以上がVF・VEを実施できない(連携先がない)状況でした。歯科医師がVE機器と研修を持って現場に入ることは、この空白を埋める直接的な手段になります。
一方で、口腔期の咀嚼・食塊形成の問題や食道期の逆流・通過障害が疑われる場合は、VFの方が情報量が豊富です。VEとVFは排他的なものではなく、「まずVEでスクリーニング、詳細はVFで確認」という連携運用が最も情報を引き出しやすい組み合わせです。VEとVFの併用が原則です。
なお、VEを歯科診療所・訪問歯科で算定する場合は、診療報酬上「内視鏡下嚥下機能検査(D298-2)720点」として算定可能です(医科)。歯科領域での摂食嚥下関連加算を適切に理解し、算定漏れのないよう確認しておくことも経営・コンプライアンス上の重要な視点です。
参考リンク:介護施設でのVE・VF実施状況の実態と、食形態判定への応用に関する厚生労働省の研究報告
嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドライン - 国立国際医療研究センター病院
嚥下評価は「精密検査(VE・VF)だけ」で完結するものではありません。日常的なスクリーニングから精密検査、そしてその後の訓練・連携まで一連の流れとして捉えることが大切です。
まず現場で行うスクリーニング検査として代表的なものが「RSST(反復唾液嚥下テスト)」と「MWST(改訂水飲みテスト)」です。RSSTはVFとの比較で感度0.98と高く、30秒間に3回未満の場合は嚥下障害を疑います。MWSTは3mlの冷水を使ったテストで、特異度0.88と高く、3点以下なら精密検査へ進む判断の基準になります。これらは道具不要または最低限の器具で実施でき、歯科衛生士が担当できる場面も多いです。
スクリーニングで問題が検出された後の精密検査(VE・VF)の結果を受けて、歯科側が担うべき介入は次の3つです。
多職種連携の観点では、歯科医師・歯科衛生士がVEの結果を携帯し、介護施設での多職種カンファレンス(ミールラウンド)に参加する事例が増えています。VEで得た兵頭スコアと食形態判定の情報を看護師・管理栄養士・言語聴覚士と共有することで、食事提供の精度が大きく向上します。
歯科従事者が摂食嚥下の専門知識を深めるには、日本老年歯科医学会の「摂食機能療法専門歯科医師」認定や、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の認定士取得が有効な選択肢です。日本歯科医師会では「嚥下機能評価研修会〜嚥下内視鏡検査実習」も定期的に開催しており、実技を含む研修を受けてVEを現場に導入する歯科医師も増えています。
嚥下評価は「できる医療機関に任せればいい」という時代ではありません。訪問歯科の現場にVE機器と評価スキルを持ち込める歯科従事者が、地域の摂食嚥下支援の核になる時代に入っています。口腔機能管理の延長線上にVE・VFを位置づけ、日常臨床のルーティンに組み込んでいくことが、今後の歯科の社会的役割を広げることにつながります。
参考リンク:日本歯科医師会による嚥下内視鏡実習研修の案内。歯科医師向けに実技を含む研修内容が確認できる
令和5年度 嚥下機能評価研修会〜嚥下内視鏡検査実習 - 日本歯科医師会
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