保険の再診料が医科の69.5%しかなく、診ても診ても収入が増えない構造になっています。
歯科医師の年収が低い背景には、保険診療の点数設計という「制度の壁」があります。多くの人が「歯科医師は高収入」というイメージを持っていますが、実際の数字は少し異なります。
令和6年度の診療報酬改定後のデータによると、医科の初診料は291点・再診料は75点であるのに対し、歯科の初診料は264点(医科比約91%)・再診料は56点(医科比約75%)にとどまっています。つまり、再診のたびに医科より少ない報酬しか受け取れない仕組みになっているのです。これが原則です。
さらに深刻なのが、1日に診られる患者数の上限です。歯科の治療は1人あたり平均30分前後かかるため、8時間診療でも最大16〜20人程度が限界になります。一方、医科の診療所では1人あたり平均10.5分・1日40人前後を診ることが可能です。つまり「点数×患者数」というシンプルな掛け算で見ると、歯科は医科に比べて収益を上げにくい構造に置かれています。
日本における歯科診療報酬は、制度発足当初から医科よりも低く設定され、医療費抑制の影響を受け続けてきた歴史があります。保険の仕組みを変えるのは個人の力では難しいですが、この「天井」の存在を理解した上でキャリアを設計することが大切です。
| 項目 | 医科 | 歯科 |
|---|---|---|
| 初診料 | 291点 | 264点 |
| 再診料 | 75点 | 56点 |
| 1日の平均患者数 | 約40人 | 約14〜17人 |
歯科の保険点数の課題と歴史的背景については、以下の記事でも詳しく解説されています。
歯科の保険点数が低く抑えられてきた歴史的な経緯と制度の問題点が整理されています。
歯科診療報酬が常に低く抑えられてきた歴史的経緯と背景
「歯科医師の平均年収は約800〜1,100万円」というデータを見て、安心している方がいるかもしれません。ただ、平均値には注意が必要です。
歯科医師の中には年収200万円以下という層が全体の4人に1人存在するというデータがあります。これは「ワーキングプア」とも呼ばれる状態です。つまり、一部の高収入の開業医が平均を押し上げている一方で、研修明けの若手勤務医や、経営が苦しい開業医などは、一般のサラリーマンより低い収入で働いているケースも少なくないのです。
2025年最新の厚生労働省調査(医師・歯科医師・薬剤師統計)によると、全国の歯科医師の平均年収は約792万円です。ただし、勤務医は約690万円、開業医は約1,420万円と大きく二極化しています。開業医と勤務医の差は約2倍以上です。
勤務医として働く場合、初任給は月給35万円前後が相場で、歩合制(売上の約20%が給与として支給されるケースが多い)が本格導入される3〜4年目以降に差が生じてきます。低い人では年収500万円、高い人では年収1,000万円超と、同じ「勤務医」の中でも大きな開きがあります。意外ですね。
これは問題ですね。平均に惑わされず、自分が今どの層にいるかを把握することが、年収改善の第一歩です。
歯科医師の年収の実態と、勤務医・開業医の格差について詳細なデータがまとめられています。
歯科医師の年収と変化の原因について(歯科医院紹介サイト)
制度的な問題とは別に、個人の行動が原因で年収が低くなっているケースもあります。
① スキルと保険点数の算定ミス
治療技術が低いと患者の満足度が下がり、来院数の減少につながります。来院数は年収と直結します。ただ、見落とされがちなのが「保険点数の算定ミス」です。同じ診療を行っていても、点数の取りこぼしがあると収入はそのまま下がります。保険算定は技術の練習と同様に重要なスキルです。
② コミュニケーション不足によるリピーター減少
患者との信頼関係が構築できていないと、治療途中でキャンセルされたり、定期検診に来なくなったりします。リコール患者を増やすことが、安定した収入の基盤になります。スタッフとのコミュニケーション不足も、医療事故リスクや離職率の上昇につながる危険があります。
③ 環境(職場・立地)の問題
勤務医の場合、そもそもの給与設定が低い職場や、院長との相性が悪い環境に長く居続けることで、年収の機会損失が生まれます。開業医の場合は、立地・評判・借入額・マーケティングという4つの変数がすべて年収に影響します。環境を変えることで年収が大きく変わることがあります。これは使えそうです。
歯科医師として年収が低いと感じる場合の3つの原因と具体的な改善策が解説されています。
歯科医師の年収が低いときに考えられる3つの原因と上げる方法(デンタルハッピーDR)
年収を上げるルートは大きく4つあります。自分のステージやリスク許容度に合わせて選ぶのが基本です。
① 自由診療(自費診療)の比率を上げる
保険診療は点数が低く、収益の上限がほぼ決まっています。一方、インプラント・矯正・セラミック治療などの自由診療は、保険外のため医院側が料金を設定できます。自費診療の比率を高めることで、1患者あたりの単価が大幅に上がります。たとえば、インプラント1本の費用は30〜50万円程度が相場で、保険の補綴(被せ物)数本分の収益に相当します。
② 専門資格・専門医の取得
インプラント、矯正、歯周病など、専門領域の資格を持つ歯科医師は、患者から高い信頼を得やすく、診療単価も上がります。専門医資格の保有は差別化の武器になります。たとえば矯正専門医の年収は、一般歯科医より200〜400万円高くなるケースも珍しくありません。
③ 転職・勤務先の見直し
勤務医として年収が低い状態が続いている場合、それが「妥当な市場相場」なのか「その職場の問題」なのかを切り分けることが重要です。定期的に転職サイトで求人をチェックし、自分の市場価値を確認する習慣をつけましょう。2026年現在、歯科医師数は統計開始以来初めて減少に転じており、求人側には追い風が吹いています。転職のタイミングとしては今が狙い目です。
歯科医師の転職支援・キャリアデザインを専門とするサービスとして「デンタルハッピーDR(doctor-happy.net)」が4,000医院以上の求人を保有しており、年収比較・条件交渉をサポートしています。
④ 開業・医療法人化
最もリターンが大きい選択肢ですが、同時にリスクも伴います。個人開業の平均年収は約632万円〜1,400万円と幅が広く、医療法人化した院長では平均約1,429万円というデータがあります。開業資金は通常5,000万円〜1億円程度が必要で、その半分以上が借入返済に消えるケースも多い点に注意が必要です。経営スキルを身につけてから開業に踏み切ることが、成功率を上げるために重要な条件です。
| 方法 | 難易度 | 効果 | リスク |
|---|---|---|---|
| 自由診療比率アップ | 中 | 中〜大 | 低 |
| 専門資格取得 | 高 | 中〜大 | 低 |
| 転職・環境改善 | 低〜中 | 小〜中 | 低 |
| 開業・医療法人化 | 最高 | 大 | 高 |
自由診療の推進や専門資格の取得による年収アップ戦略の詳細はこちらでも解説されています。
歯科医師の年収が低い理由と改善策について(ORTC)
年収を上げる話をするとき、多くの記事では「収入を増やす」視点が中心です。しかし、「無駄に出ていくお金を減らす」という視点も、実質的な手取りに直結します。これは意外と見落とされがちな観点です。
開業医の場合、診療用ユニットのリース料・滅菌器・レントゲン機器のメンテナンスコスト・技工物外注費・スタッフ人件費などの固定費が毎月積み上がります。医業収入が4,000万円あっても、固定費が3,200万円かかれば手元に残るのは800万円に過ぎません。つまり売上より「利益率」の管理が院長の年収を決めます。
また、勤務医において意外に多いのが「保険点数の算定漏れ」です。同じ診療をしていても、算定できる項目を正確に拾えているかどうかで、月間の売上に数十万円単位の差が生じることがあります。たとえば「歯科疾患管理料」「歯周病検査」「歯科衛生実地指導料」などの管理系点数は、条件を満たしていても算定していないケースが散見されます。点数の取りこぼしは、知らないだけで損をしているということです。
さらに、開業医が節税を行わずに個人で税金を払い続けると、所得税・住民税・事業税を合計すると収入の40〜50%を持っていかれることになります。医療法人化することで法人税率(最大23.2%)が適用され、役員報酬・退職金スキームを活用することで大幅な節税が可能になります。収入を増やすだけでなく、「出ていくお金を減らす」ことも年収戦略の重要な一つです。
固定費の最適化や節税スキームについては、歯科専門の税理士・コンサルタントへの相談が初めの一歩になります。歯科に特化した経営支援サービスを提供する「ORTC(ortc.jp)」では、経営戦略のオンラインセミナーも定期的に開催されています。
歯科医院の経営戦略と収益構造の改善に関する実践的な情報はこちらで確認できます。
歯科医師の平均年収が500万円って本当?稼ぐために必要なこととは(ORTC)

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