齲蝕の初期治療は削るな 早期介入で患者生涯資産を守る

歯科医師が見落としやすい「初期齲蝕の管理」「間食頻度」「二次カリエスの95%を占める原因」など、3つの重要な盲点を解説。これらの知識を患者指導に取り入れることで、10年単位の根本的な予防が実現します。

齲蝕の診断・治療で知るべき重要な盲点

初期齲蝕は削ってはいけない—それでも削り続ける歯科医が約4割
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認識の盲点

初期段階のむし歯(エナメル質の白濁)は削らずに再石灰化で回復可能なのに、まだ多くの診療所で予防的に切削されている。

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データ

銀歯による虫歯治療は約5年で二次カリエスが発症し、73%の確率で再度虫歯になる。 1回の治療で終わるケースは極少数。

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患者への影響

早期介入により患者の歯を守り、生涯の根本的な予防の道を開く。 これが「歯を護る」時代の歯科医の責任。


齲蝕は削るな:初期段階で「診て護る」予防マネジメント

歯科診療の最新ガイドラインで大きな転換が起きています。従来の「早期発見、早期治療:削って詰める」という方針から、「リスク評価、予防、長期管理:診て護る」へと時代が移りました。これは単なる用語の変更ではなく、患者さんの生涯を左右する治療哲学の根本的な転換です。


初期齲蝕の段階では、歯の表面にあるエナメル質がわずかに脱灰(ミネラルが溶け出した状態)しているだけです。この段階での切削は、健康な部位まで削ることになり、後々の修復物の劣化リスクを生み出します。


これが基本です。


むし歯とは脱灰と再石灰化のせめぎあいの結果です。そのため、初期段階では再石灰化を促す処置(フッ化物の塗布、プラークコントロール、食生活の見直し)で十分に対応できます。実際、2~3ヶ月の期間でエナメル質の白濁が回復する臨床例は多数報告されています。


ところが、まだ約4割の歯科医療現場では、初期齲蝕でも予防的に切削を行っているのが実態です。


一度削った歯は二度と元に戻りません。


これが患者さんの将来への大きな負債となるわけです。


齲蝕の原因因子を個別評価:Keyesの輪で食い止める

虫歯は単一の原因では発症しません。これを理解することが、根本的な齲蝕管理の第一歩です。むし歯発症には、細菌、食事性気質、宿主(唾液と歯質)、そして時間という4つのリスク因子が関わっています。


これを「Keyesの輪」と呼びます。


患者さんごとに、どの因子が最も高いリスクを持つかは大きく異なります。唾液の分泌量が極端に少ない患者、間食回数が多い患者、菌数が多い患者——それぞれの原因に応じた処置と指導が必要です。


例えば、唾液検査(サクソンテスト)で乾燥が認められた場合、その原因を調べることが重要です。がん放射線治療シェーグレン症候群、鼻疾患による口呼吸、歯並び由来の口呼吸、水分補給不足など、原因によって対策が大きく変わります。


この個別評価が現在のところ、多くの一般診療所で十分に実施されていません。だからこそ、患者さんに「歯磨きが足りないから虫歯になる」というアドバイスだけで終わってしまうのです。実は、患者さん自身が気付いていない根本原因が隠れているかもしれません。


齲蝕の盲点:間食頻度が内容より虫歯リスクを決定する

歯科医向けの知識として、最も見落とされやすい要素があります。


それが「間食の頻度」です。


患者さんの多くは「甘いものを控えればいい」と思っていますが、実はそれよりもはるかに重要な要素があります。


口腔内のpH(酸性度)は、食事をするたびに急低下します。歯が溶ける「脱灰」がおこるのは、食後20~30分(エナメル質)から40~60分(象牙質)の時間帯です。この間、唾液による中和と再石灰化が追いつかないと、虫歯は進行します。


1日3食を決まった時間に食べる患者さんの場合、脱灰の時間は1日3クールです。しかし、同じ人が昼食の後に1時間経ってからおやつを食べるとどうなるでしょう。昼食による脱灰が完全に回復する前に、新たな脱灰が始まります。


つまり、脱灰の時間が2倍になるわけです。


この仕組みを患者さんに説明すると、「甘い内容の食事そのものより、その食べ方の時間間隔が勝負である」という理解が深まります。つまり、あなたの患者さんが「歯磨き頑張っているのに虫歯になる」と悩んでいるなら、その原因は歯磨きの強度ではなく、食生活のタイミングかもしれません。


齲蝕治療後の失敗:二次カリエスの95%が銀歯から発症する理由

虫歯治療そのものが、新たなむし歯を生み出すパラドックスがあります。


これが二次カリエス(二次虫歯)です。


保険診療で一般的に使用される銀歯(金属の詰め物・被せ物)は、経年劣化により歯との隙間が生じます。この隙間に細菌が侵入し、銀歯の内部で虫歯が進行するわけです。北海道大学の研究では、銀歯による治療後、5年以内に73%の確率で二次カリエスが発症することが報告されています。


さらに驚くべき統計があります。「人が30年の間にかかるむし歯のうち、80%が二次カリエスである」という報告もあります。つまり、一度治療した歯は、新規の虫歯よりも高い確率で再度虫歯になるリスクを抱え続けるわけです。


この背景には、銀歯そのものの寿命が約5~7年という限定的な期間にあります。被せ物がしっかり装着されていても、時間とともに目に見えない隙間が拡大するのです。患者さんが「治療してからずっと大丈夫」と思っていても、3~4年経過した時点で既に二次カリエスが進行している可能性があります。歯と銀歯の境目は目視では確認できず、レントゲンでも初期段階では検出が難しいため、患者さんは問題の存在に気付きません。


患者さんに「5年ごとのチェックが大切」と伝えることで、無症状のうちに早期発見できる可能性が高まります。


齲蝕管理システム(ICCMS)で医院の診療を再構築する

国際的に認識されている最新のう蝕管理システムが「ICCMS(う蝕の診断およびマネジメントシステム)」です。


これは4つの「D」で構成されています。


Determine(患者レベルのリスク評価)では、初診時に簡単な口腔診査と唾液検査、食生活アンケートで患者さんのリスク層を判定します。Detect(う蝕の進行ステージと活動性の検出)では、最新のICDAS基準を用いて、エナメル質表面の微細な変化を評価します。従来の「CO/C1/C2」の分類ではなく、脱灰の深さを0~6段階で評価する方法です。


Decide(個人に合わせた治療計画)では、患者さんのリスクと具体的な原因に応じて、オーダーメイドの予防計画を立案します。Do(予防・制御・介入)では、フッ化物濃度の段階的な活用(低リスク患者には1450ppm、中程度リスクには5000ppm、高リスク患者には9000~22500ppm)と、定期的なメンテナンスを実施します。


このシステムを導入すると、医院全体の予防マインドが大きく変わります。単なる「虫歯の治療」から「虫歯をつくらない環境の構築」へのシフトが実現します。


参考:日本ヘルスケア歯科学会「むし歯予防・管理の最前線」
https://www.nhf.or.jp/column/1.html


参考:日本歯科保存学会「根面う蝕の診療ガイドライン」
https://www.hozon.or.jp/


高濃度フッ化物のセルフケア導入については、処方された場合の患者さんへの説明資料として、日本薬機法に基づいた指導が必須です。