口腔機能訓練の内容と効果・算定まで歯科が押さえる全手順

口腔機能訓練の具体的な内容・手順を歯科従事者向けに解説。パタカラ体操や舌圧訓練など各訓練の適応と保険算定まで、現場で今すぐ使える情報とは?

口腔機能訓練の内容と歯科現場での実践ポイント

50代の来院患者の約半数はすでに口腔機能低下症に該当しています。


🦷 口腔機能訓練の内容:歯科現場での実践ポイント
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訓練の全体像を把握する

口腔機能訓練は「食べる・話す・呼吸する」を支える筋肉を鍛える7項目の取り組み。各患者の口腔機能精密検査の結果に基づいて、個別に訓練内容を選定します。

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保険算定と組み合わせる

2024年改定で新設された「歯科口腔リハビリテーション料3(50点・月2回)」を活用すれば、管理料と合わせて毎月252点以上の算定が可能です。

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継続できる訓練を提案する

パタカラ体操だけでなく、東京歯科大学の研究でカラオケが舌圧・口腔乾燥・舌口唇運動機能の複数項目に同時に効果を示すことが確認されています。患者の嗜好に合わせた提案が継続率アップの鍵です。


口腔機能訓練の内容とは:7つの検査項目に対応した訓練メニュー


口腔機能訓練とは、「食べる(咀嚼・嚥下・唾液の分泌)」「話す(発音・構音)」「表情をつくる」「呼吸する」など、口腔とその周囲の筋肉が担う複数の機能を維持・向上させるためのトレーニングです。歯科口腔リハビリテーションの一環として位置づけられており、単に体操を指示するだけでなく、患者の口腔機能精密検査の結果と照らし合わせて、低下が認められた項目に絞って訓練内容を選定することが重要です。


口腔機能低下症の診断には7つの検査項目が用いられ、そのうち3項目以上に基準値以下が認められた場合に診断が確定します。訓練もこの7項目に対応する形で構成されています。


検査項目 主な訓練内容 基準値
口腔衛生状態不良 口腔清掃指導・舌ブラシ使用 舌苔付着50%以上
口腔乾燥 唾液腺マッサージ・口腔保湿剤 口腔粘膜湿潤度27未満
咬合力低下 咀嚼訓練義歯調整 残存歯数20本未満 など
舌口唇運動機能低下 パタカラ体操・早口言葉・カラオケ /pa//ta//ka/ いずれかが6回/秒未満
低舌圧 舌圧トレーニング(ペコぱんだ等) 30kPa未満
咀嚼機能低下 咀嚼訓練・食形態指導 咀嚼能力100mg/dL未満
嚥下機能低下 嚥下おでこ体操・嚥下体操 EAT-10で3点以上


ここで注意したいのは、「訓練を多く指導すれば良い」という考え方が必ずしも正解ではないという点です。複数の訓練を一度に指示されると患者は混乱し、かえって継続できなくなるケースが報告されています。つまり優先順位をつけた指導が原則です。


歯科衛生士が主体となって訓練指導を行う場合、歯科医師の指示のもとで「歯科口腔リハビリテーション料3」として算定が可能なため、体制整備と連携フローを院内で明確にしておくことが運用面でも重要になります。




参考:口腔機能低下症の診断・保険算定・検査・訓練方法(株式会社ジーシー)

https://www.gcdental.co.jp/product/oralfunction/flow.html


口腔機能訓練の内容①:パタカラ体操と舌口唇運動機能向上の具体的手順

パタカラ体操は、口腔機能訓練の中でも最もよく知られた手法のひとつで、舌口唇運動機能低下に対して直接アプローチできる訓練です。「パ」「タ」「カ」「ラ」のそれぞれの音には異なる筋群が関わっており、それぞれを繰り返すことで食べる・飲み込む・話すために必要な筋肉をバランスよく鍛えられます。


- 🅿️ 「パ」:口輪筋(唇を閉じる筋肉)→ 食べこぼし予防
- 🅣 「タ」:舌を口蓋に押しつける力 → 食塊形成・押しつぶし機能
- 🅺 「カ」:軟口蓋・咽頭後壁 → 誤嚥防止・気道保護
- 🅡 「ラ」:舌先の精細な運動 → 流動物のコントロール


臨床での指導ポイントは「速さ」と「明瞭さ」のバランスです。オーラルディアドコキネシス検査では1秒間に6回以上が基準値とされていますが、速さだけを追って口の動きが小さくなっては意味がありません。最初は「大きく・ゆっくり」発音する練習から始め、徐々に速さを加えていく指導が効果的です。


実施回数の目安は1日3回(朝・昼・夕の食前)で、1回あたり5〜10回繰り返す形が一般的です。家族と声を合わせながら行えると、継続率が上がりやすいという現場からの報告もあります。これは使えそうです。


パタカラ体操だけでなく、早口言葉(例:「東京特許許可局」など)も舌口唇運動機能の訓練として有効です。早口言葉はある程度の楽しさがある一方で短い訓練になるため、継続性の観点からは後述するカラオケ訓練との組み合わせも選択肢のひとつになります。


歯科衛生士実地指導料に口腔機能指導加算(12点)を組み合わせることで、指導の記録・算定漏れ防止につながります。訓練指導記録を毎回残す習慣をつけておくと、後の再評価時にも役立ちます。




参考:大阪府歯科医師会「お口の働きを高める体操」(パタカラ体操の各音の意味と効果)

https://www.oda.or.jp/pdf/gymnastics_m01.pdf


口腔機能訓練の内容②:低舌圧に対する舌圧訓練と嚥下体操の選び方

舌圧とは、舌が口蓋(上あご)に押しつけられる力のことです。30kPa未満が口腔機能低下症の基準値とされており、この数値が低いと食塊を正しく形成・移送できなくなり、むせや誤嚥のリスクが高まります。結論は「舌圧の低下が嚥下障害の入口になる」ということです。


舌圧訓練の代表的なツールとして、「ペコぱんだ(JMS)」があります。舌でバルーン部分を押しつぶす動作を繰り返すことで、選択的に舌圧を高める訓練が可能です。訓練用の硬さはSoft(S)・Medium Hard(MH)の2種類があり、基準値を若干下回る程度の患者にはMHタイプが導入しやすいとされています。1日30回程度を目安に使用します。


嚥下機能低下に対しては「嚥下おでこ体操(舌骨上筋群訓練)」が有効です。おでこに手を当てて、そのまま頭を前に倒そうとする力に抵抗しながら5秒間保持する動作を5〜10回繰り返します。この訓練は喉の筋群を強化し、飲み込む際に気道を閉じる力を高めます。


嚥下体操のセットとしては「藤島式嚥下体操」も広く使われており、深呼吸・首の体操・肩の体操・口の体操・発声練習・咳払い・嚥下訓練の流れで構成されています。食前に1回行うのが最も効果的で、1回の訓練時間は5〜10分程度が適切です。


訓練の長時間化は逆効果になりますね。疲労感から継続意欲が低下するため、シンプルで短い訓練を毎日継続させる指導設計が求められます。


訓練名 対象項目 目安回数・時間
ペコぱんだ舌圧訓練 低舌圧 1日30回
嚥下おでこ体操 嚥下機能低下 5秒保持×5〜10回
藤島式嚥下体操 嚥下機能低下・全般 食前に1回・5〜10分
唾液腺マッサージ 口腔乾燥 1日3回・各10回ずつ


舌圧検査は3ヵ月に1回算定でき、数値の変化が患者のトレーニングへのモチベーション維持に直結します。「前回より数値が上がりましたよ」という一言が継続の原動力になるため、定期的な再評価と結果フィードバックがセットで機能します。




参考:日本歯科衛生士会「オーラルフレイル予防のための口腔機能訓練器具」

https://www.jdha.or.jp/pdf/health/hatookuchi_2018080101.pdf


口腔機能訓練の内容③:唾液腺マッサージと口腔乾燥への対応ポイント

口腔乾燥は見過ごされがちな症状ですが、口腔粘膜湿潤度が27未満になると口腔機能低下症の診断基準に該当します。唾液が不足すると咀嚼・嚥下・自浄作用・味覚のすべてに影響し、二次的に感染リスクも上昇します。口腔乾燥への対応は急ぎの課題です。


唾液腺マッサージは、三大唾液腺(耳下腺・顎下腺舌下腺)を体外から刺激することで唾液分泌を促す訓練です。手技は次の手順で行います。


- 👂 耳下腺:耳の斜め前(頰骨弓の下)に指を当て、前後にゆっくり10回マッサージ
- 👋 顎下腺:下顎の骨の内側のやわらかい部分を親指で押し上げるように5回
- 👅 舌下腺:顎の先端から親指でぐっと押し上げるように5回


食事の前に行うことで、食前の唾液分泌を促進し咀嚼・嚥下機能のウォームアップにもなります。口腔保湿剤(例:オーラルアクアジェル)との併用で乾燥への即効性が高まり、患者の「口が潤った」という実感が継続につながります。


口腔乾燥の原因として多いのは薬剤性(降圧剤・抗うつ薬など複数の薬を服用している患者)や加齢性です。歯科側からの指導だけで限界がある場合は、担当医師や薬剤師への連携という選択肢も視野に入れておくと丁寧な対応になります。


唾液腺マッサージ単独で取り組んでも効果が限定的なケースでは、パタカラ体操やカラオケ訓練(副交感神経を優位にすることでコルチゾールを低下させ唾液分泌を増やす作用)との組み合わせで、乾燥以外の項目に対しても複合的な効果を期待できます。訓練の組み合わせが条件です。


口腔機能訓練の内容④:継続率を高めるカラオケ訓練という意外な選択肢

パタカラ体操は確かに有効ですが、患者が3ヵ月も4ヵ月も飽きずに続けられるかという点では課題があります。複数の訓練を一度に指導されると継続が難しいという患者からの訴えは多く、「何から始めればいい?」と混乱してしまうことも少なくありません。


こうした継続性の問題を解決する選択肢として、近年注目されているのがカラオケを活用した口腔機能訓練です。東京歯科大学老年歯科補綴学講座の上田貴之教授らの研究(GC Dental Technical Report No.184)では、カラオケ訓練を実施した高齢者に舌圧の向上・口腔乾燥の改善・舌口唇運動機能の改善が確認されました。


さらに理化学研究所のMiyazakiらが報告したランダム化比較試験では、カラオケ訓練群において呼吸機能の向上および舌圧の向上が認められ、スクラッチアート群には見られなかった効果が確認されています。これは意外ですね。


カラオケ訓練を指導する際の楽曲選定にも工夫があります。上記研究では「おどるポンポコリン(ちびまる子ちゃんの主題歌)」が採用されており、その理由は歌詞の中に「パ・タ・カ・ラ」に相当する音が24.9%と非常に高い割合で含まれているからです。サザエさんの主題歌が8.0%、ドラえもんの主題歌が8.1%であることと比べると、その差は明らかです。


🎵 おすすめ楽曲の「パタカラ」含有率比較。


| 楽曲 | 歌詞文字数 | パタカラ該当数 | 該当率 |
|------|-----------|--------------|------|
| おどるポンポコリン | 517字 | 129音 | 24.9% |
| サザエさん | 273字 | 22音 | 8.0% |
| ドラえもんのうた | 333字 | 27音 | 8.1% |


(出典:GC Dental Technical Report No.184・東京歯科大学上田貴之教授)


訓練の継続率という観点でいえば、「楽しさ」は非常に重要な要素です。57歳の女性患者が「2日に一度、気晴らしも兼ねてカラオケをしている」と話したケースでは、複数の訓練を並行するよりもカラオケのみに絞ったほうが継続できたという報告があります。


患者の年齢層や趣味を考慮し、「この患者にはカラオケ訓練が向いているかもしれない」という視点を持つことで、訓練提案の幅が広がります。特に昭和歌謡や演歌が好きな60〜80代の患者には、自然な会話の延長で提案できるでしょう。




参考:GC口腔機能管理に役立つ意外なトレーニング法(東京歯科大学 上田貴之教授)

https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2023-06/184_1.pdf


口腔機能訓練の内容⑤:2024年改定後の保険算定フローと歯科口腔リハビリテーション料3の活用

2024年(令和6年)のいわゆるトリプル改定において、口腔機能訓練に関連する保険算定に大きな変更が加えられました。最も重要な新設項目が「歯科口腔リハビリテーション料3(歯リハ3)」です。これは月に2回まで算定可能で、1口腔につき50点、1ヵ月で100点が上限となります。


口腔機能低下症と診断された患者への算定フローは以下の通りです。


- 📌 STEP 1:口腔機能精密検査(舌圧検査140点・咀嚼能力検査140点など、3ヵ月に1回)
- 📌 STEP 2:3項目以上低下 → 口腔機能低下症と診断
- 📌 STEP 3:管理計画書を作成・説明
- 📌 STEP 4:口腔機能管理料(60点・毎月算定可)+口管強加算(50点)を算定
- 📌 STEP 5:訓練指導 → 歯科口腔リハビリテーション料3(50点×月2回)
- 📌 STEP 6:歯科衛生実地指導料(80点または100点)+口腔機能指導加算(12点)


口管強(口腔管理体制強化加算)を届け出た診療所であれば、毎月の算定合計額がさらに高くなります。例として、初回検査月には舌圧検査・咀嚼能力検査・口腔機能管理料・歯リハ3×2回・歯科衛生実地指導料が重なり、532点(口管強あり:582点)もの算定が可能です。


これは見逃せない数字です。


ただし、算定にあたっては正しい記録・管理計画書の作成・定期的な再評価が要件として定められています。「訓練をした」という記録だけでなく、「どの項目に対してどの訓練をどのように指導したか」という内容の記録が必要です。記録様式はGCの公式サイトから無料でダウンロードできるため、院内フォーマットの整備に活用すると業務効率が上がります。


また、50歳代では来院患者の約半数が口腔機能低下症に該当するという調査結果(地域歯科診療所対象の日本老年歯科医学会報告)があります。SPTやP重防を行う既存患者の中に、実は口腔機能低下症に相当する患者が埋もれている可能性が高いことを念頭に置いた、スクリーニングの仕組みを作ることが長期的な算定増につながります。




参考:令和6年度歯科診療報酬改定の主なポイント(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001213977.pdf




開口訓練器 170mm /8-9286-01