咀嚼能力検査と咬合圧検査を同月に両方算定すると、査定で丸ごと取り消されます。
口腔機能低下症とは、加齢や全身疾患などを背景に、咀嚼・嚥下・唾液分泌・口腔感覚などの複数の口腔機能が複合的に低下している状態です。2018年(平成30年)に保険病名として収載され、現在では多くの歯科医院で日常的な対象疾患となっています。オーラルフレイルと混同されがちですが、明確な違いがあります。口腔機能低下症は診断基準に基づく「医療保険病名」であるのに対し、オーラルフレイルは口の機能が低下しつつある「状態」を示す概念です。
診断には以下の7項目を評価します。それぞれ客観的な基準値が設けられており、数字をもとに判定します。
| 検査項目 | 評価方法 | 該当基準 |
|---|---|---|
| ①口腔衛生状態不良 | 舌苔付着度(TCI)を視診 | TCIスコア9点以上(50%以上) |
| ②口腔乾燥 | 口腔水分計または唾液量測定 | 水分計27.0未満、またはガーゼ重量2g以下 |
| ③咬合力低下 | 感圧フィルムまたは残存歯数 | 200N未満、または残存歯数20本未満 |
| ④舌口唇運動機能低下 | 「pa」「ta」「ka」の10秒発音回数 | 1秒あたり6回未満 |
| ⑤低舌圧 | 舌圧測定器による最大舌圧 | 30kPa未満 |
| ⑥咀嚼機能低下 | グミゼリー咀嚼後のグルコース溶出量 | 100mg/dL未満 |
| ⑦嚥下機能低下 | 嚥下スクリーニングまたは自記式質問票 | 合計3点以上または聖隷式でA×3以上 |
7項目のうち3項目以上に該当した場合に口腔機能低下症と診断します。これが原則です。
7つの検査のうち、③咬合力低下(残存歯数による判断)・①口腔衛生状態不良(舌の視診)・⑦嚥下機能低下(問診票)の3つは特別な測定機器が不要です。つまり、機器がなくても最低3項目の評価は開始できるということですね。最初からすべての機器を揃えなくても、段階的に導入できます。
日本歯科医学会「口腔機能低下症に関する基本的な考え方」(令和6年3月改訂版)- 診断基準・管理内容の詳細が記載されています
保険収載されている検査の点数と算定ルールは、下表のとおりです。
| 検査名 | 点数 | 算定頻度 | 施設基準届出 |
|---|---|---|---|
| 舌圧検査 | 140点 | 3か月に1回 | 不要 ✅ |
| 咀嚼能力検査1 | 140点 | 3か月に1回 | 必要 ⚠️ |
| 咬合圧検査1 | 130点 | 3か月に1回 | 必要 ⚠️ |
| 口腔細菌定量検査2 | 65点 | 3か月に1回(継続管理中) | 必要 ⚠️ |
ここで意外と見落とされるのが、舌圧検査だけは施設基準の届出が不要という点です。咀嚼能力検査・咬合圧検査・口腔細菌定量検査2はいずれも地方厚生(支)局長への届出が必要ですが、舌圧検査はその手続きなしで即日算定を開始できます。
JMS舌圧測定器(TPM-02)を1台導入するだけで、届出ゼロのまま舌圧検査140点を算定できます。「まず1つの機器から口腔機能低下症の検査をはじめてみたい」という医院にとって、舌圧検査は最もハードルが低いスタートラインです。これは使えそうです。
届出が必要な咀嚼能力検査・咬合圧検査を算定したい場合は、特掲診療料の施設基準に係る届出書類を地方厚生局へ提出します。各届出書類の記入例はジーシー社のWebサイトから無償でダウンロードできるため、書式に迷う必要はありません。
株式会社ジーシー「令和6年度改定対応 施設基準の届出書について」- 届出書記入例・記入用紙のダウンロードページ
また、咀嚼能力検査と咬合圧検査は同月の併算定が不可という点も徹底して覚えておく必要があります。どちらも3か月以内に一方を算定した場合は、もう一方を算定できません。両方まとめて実施・算定しようとすると査定になります。3か月ごとに交互に使い分ける運用が現実的な対応策です。
口腔機能低下症と診断されたあとの管理料の体系が、令和6年6月改定で整理・拡充されました。現在算定できる主な管理料は次のとおりです。
| 算定項目 | 点数 | 算定頻度 | 条件 |
|---|---|---|---|
| 歯科疾患管理料 | 初診80点・再診100点 | 月1回 | 歯管の基本として算定 |
| 口腔機能管理料 | 60点 | 月1回 | 50歳以上かつ口腔機能低下症診断後 |
| 口腔管理体制強化加算 | +50点 | 月1回 | 口管強届出診療所のみ |
| 歯科口腔リハビリテーション料3(新設) | 50点 | 月2回 | 口腔機能管理料算定患者 |
| 歯科衛生実地指導料1+口腔機能指導加算 | 10点+12点 | 月1回 | 歯科衛生士による個別指導 |
口腔機能管理料(60点)は「歯管(歯科疾患管理料)」または「特疾患(歯科特定疾患療養管理料)」を算定している患者に対して、上乗せして算定できます。つまり通常の月100点の歯管に加えて、さらに60点追加できるイメージです。
令和6年6月改定で新設された「歯科口腔リハビリテーション料3」は月2回・50点で算定でき、歯科医師または歯科医師の指示のもとで歯科衛生士も実施が可能です。個別の口腔機能訓練や生活・栄養指導などが対象となります。口腔管理体制強化加算(口管強)の届出がある診療所では、口腔機能管理料に月50点がさらに上乗せされます。
検査月の算定合計をイメージすると、舌圧検査140点+咀嚼能力検査140点+口腔機能管理料60点+歯リハ3×2回(100点)+歯衛指1(10点)+口腔機能指導加算(12点)で合計462点(口管強加算なし時)の算定が可能です。口管強の届出がある場合はさらに50点が加算され、512点を超えます。月単位では管理月が252点、検査月が512点前後と、継続算定で着実に積み上がります。
経営戦略研究所「口腔機能管理料 算定のポイント(令和6年6月改定版)」- 管理料の概要・各検査の点数・算定フローをわかりやすく解説
口腔機能低下症の検査自体は、年齢制限なく実施できます。ただし、「口腔機能管理料」を算定するには条件があります。原則として50歳以上の患者が対象です。ただし、脳卒中やパーキンソン病、がん治療中など「全身的な疾患を有する患者」であれば、50歳未満であっても口腔機能管理料の算定が可能です。年齢だけ見ていると見落とします。
50歳未満かつ全身疾患のない患者が3項目以上に該当した場合でも、口腔機能管理料は算定できません。その場合は「歯科疾患管理料」と「歯科衛生実地指導料の口腔機能指導加算」の算定が可能です。傷病名には「口腔機能管理中」とつけることが推奨されています。これが条件です。
もう一つ見落とされがちな点があります。無歯顎の患者は通常、歯科疾患管理料(歯管)が算定できません。ところが、口腔機能低下症と診断された無歯顎患者については、例外的に歯管を算定できます。無歯顎=歯管算定不可という思い込みは、口腔機能低下症では当てはまりません。義歯を使用している高齢無歯顎患者はまさに口腔機能低下症のターゲット層であるため、このルールは実臨床で非常に重要です。
また、令和6年6月改定でポイントになるのが、口腔機能管理料の算定条件がより明確になったことです。単に口腔機能低下症と診断されるだけでなく、「舌圧検査・咀嚼能力検査・咬合圧検査・口腔細菌定量検査2のうち少なくとも1つで低下が認められていること」が算定の要件として明示されました。7項目のうち3つ以上該当していても、上記の機器検査で低下が確認されていない場合は算定できません。注意が必要です。
厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(歯科)」- 口腔機能管理料の算定要件改定の公式資料
口腔機能低下症の検査・管理は、歯科医師だけでなく歯科医師の指示のもとで歯科衛生士も実施できます。令和6年6月改定では、歯科衛生士が口腔機能に関わる指導を行った場合に「口腔機能指導加算(12点)」が新設されたことも、このチームアプローチを後押しするものです。
実務上のポイントは、「歯科口腔リハビリテーション料3」と「口腔機能指導加算」の同時算定が可能という点です。ただし、両者の指導内容が重複していてはいけません。カルテにはそれぞれ別の指導内容を明記する必要があります。カルテ記載は別々にする必要があります。
多くの医院がSPT(歯周病安定期治療)や定期メインテナンスのなかに、口腔機能管理を組み込む運用を取っています。たとえばSPTの1時間にプラス30分の枠を設けて、6か月ごとの口腔機能精密検査を実施している事例も報告されています。歯科衛生士が担当患者の約9割に定期的な口腔機能検査を実施しているクリニックも実在します。こうした医院では算定モレを防ぐためにチェックリストやシステムによる自動管理を導入しており、属人的な運用から脱却しています。
管理計画書は発行が求められますが、既存の「歯科疾患管理料に係る交付文書」に管理方針を記載する形で代用することも認められています。専用の管理計画書がなくても算定は可能です。ただし、管理の内容(指導した内容・訓練状況・改善の有無など)はカルテに要点を必ず記録してください。
口腔機能低下症の管理は、毎月必ずしも実施しなくても構いません。管理の開始初期は短めの来院間隔で動機づけと習慣化を促し、状況が安定してきたらSPTや義歯調整のタイミングに合わせた間隔で無理なく継続するのが現実的です。月1回必須ではありません。また、オンライン診療による口腔機能管理も認められており、遠方の患者や来院が困難な患者への継続管理にも活用できます。
日本老年歯科医学会「口腔機能低下症 保険診療における検査と診断」- 歯科衛生士の役割・管理フローについての権威ある解説資料
十分な情報が集まりましたので、記事を作成します。