咬合力低下の検査で知るべき正しい判定基準と評価法

咬合力低下の検査は「歯が20本あれば大丈夫」と思っていませんか?実は歯が揃っていても500N未満なら該当します。正しい判定基準と評価法を徹底解説します。

咬合力低下の検査と正しい判定基準・評価法

歯が20本以上あっても、咬合力が500N未満なら「咬合力低下」に該当します。


この記事の3つのポイント
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咬合力低下の判定は2つのルートがある

咬合圧検査(デンタルプレスケールⅡで500N未満)か残存歯数(20本未満)のいずれかで評価。ただし咬合圧検査が優先される。

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機器の設定で基準値が変わる

デンタルプレスケールⅡはフィルタ機能の有無で判定基準が異なる(フィルタあり350N未満/フィルタなし500N未満)。設定ミスに要注意。

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咬合力低下は全身の栄養状態・フレイルに直結

放置すると低栄養・サルコペニアが進行し、要介護リスクが高まる。歯科での早期発見・管理が患者の全身健康を守る鍵になる。


咬合力低下の検査が口腔機能低下症の診断に与える位置づけ

口腔機能低下症は、2018年に歯科の保険病名として新たに収載された疾患です。加齢や疾患・障害など複合的な要因によって口腔の機能が低下している状態を指し、放置すると咀嚼障害や摂食嚥下障害、さらには低栄養・フレイル・サルコペニアへと進展していく可能性があります。


この疾患の診断には、7つの評価項目を用います。具体的には「①口腔衛生状態不良、②口腔乾燥、③咬合力低下、④舌口唇運動機能低下、⑤低舌圧、⑥咀嚼機能低下、⑦嚥下機能低下」の7項目です。このうち3項目以上に低下が認められた場合に「口腔機能低下症」と診断されます。


つまり、咬合力低下は単体の問題ではなく、7つの評価項目のうちの1つとして体系的に扱われます。これが基本です。


咬合力低下の検査は、口腔機能精密検査の中でも「個別的機能の評価」に位置づけられており、噛む力という患者の実生活への直接的な影響が非常に大きいため、見落としのない評価が求められます。残存歯数という簡便法と、感圧フィルムを使った客観的な咬合圧検査という2種類のアプローチが用意されていますが、どちらを使うか、あるいは組み合わせるかを理解しておくことが歯科従事者にとって重要です。


参考情報:口腔機能低下症の7項目と診断フローについての詳細は、日本老年歯科医学会の公式資料が体系的にまとめています。


日本老年歯科医学会「口腔機能低下症 保険診療における検査と診断」(Ver.4.0)


咬合力低下の検査法①:咬合圧検査(デンタルプレスケールⅡ)の正しい使い方

咬合力低下の評価において、最初に選択すべきは感圧フィルムを使った咬合圧検査です。これが基本です。代表的な機器はGC(ジーシー)が製造販売するデンタルプレスケールⅡで、専用の感圧シートを口腔内に挿入し、咬頭嵌合位で3秒間クレンチングさせて全歯列の咬合力を計測します。


ここで多くの歯科従事者がつまずく点があります。デンタルプレスケールⅡには「フィルタ機能あり」と「フィルタ機能なし」の2種類の測定モードがあり、それぞれ判定基準が異なります。


| 使用する機器・モード | 咬合力低下の判定基準 |
|---|---|
| デンタルプレスケール(旧型) | 200N未満 |
| デンタルプレスケールⅡ(フィルタ機能なし) | 500N未満 |
| デンタルプレスケールⅡ(フィルタ機能あり) | 350N未満 |
| Oramo-bf(Oramo2) | 375N未満 |


旧型のデンタルプレスケールと新型のデンタルプレスケールⅡでは判定基準が500N対200Nと2.5倍以上の差があります。機器の新旧を混同すると診断に影響が出るため、院内で使用している機器とその設定を必ず確認することが条件です。


測定方法として重要なのは、義歯を使用している患者の場合は「義歯を装着した状態」で計測するという点です。義歯なしで測定してしまうと実態を正確に反映できません。


参考情報:判定基準の詳細と機器情報については、日本歯科医師会オーラルフレイル対応マニュアルで確認できます。


日本歯科医師会「オーラルフレイルの評価」マニュアル(第3章)


咬合力低下の検査法②:残存歯数による評価の正しいカウント方法

咬合圧検査の機器が手元にない場合や、簡便な評価が必要な場合には、残存歯数による代替評価が認められています。判定基準は「残存歯数が20本未満(19本以下)」です。


ただし、このカウント方法には明確なルールがあります。単純に口腔内に見えている歯の数を数えるだけでは不正確です。


以下の歯は残存歯数からは除外します。


- 残根(歯冠がほとんど崩壊しているもの)
- 動揺度3の歯(最も重篤なぐらつきを持つ歯)
- ブリッジのポンティック(欠損部を補う人工的な部分)
- インプラントの上部構造


また、日本歯科医学会の基本的な考え方によれば、残存歯数による評価は咬合圧検査の代替であり、咬合圧検査の結果を優先することが明記されています。つまり残存歯数が20本以上あっても、咬合圧検査の結果が500N未満であれば「咬合力低下あり」と判定されることになります。意外ですね。


逆に、残存歯数が19本以下でも、咬合圧検査で一定の力が出ていた場合、その情報もアセスメントに活かせます。日常の義歯の適合状態の確認や、補綴治療の必要性を説明する際の客観的な根拠としても活用できます。


咬合力低下の検査結果が出たときの保険算定と管理の流れ

咬合力低下の検査を含む口腔機能精密検査を実施し、7項目中3項目以上に低下が認められた場合に「口腔機能低下症」と診断されます。診断後は管理計画を立案し、患者または家族に説明・同意を得たうえで「口腔機能管理」を開始する流れになります。


保険算定上の主なポイントを整理すると、以下のとおりです。


- 咬合圧検査(D011-3):130点、3か月に1回まで算定可
- 舌圧検査:140点、3か月に1回まで算定可
- 咀嚼能力検査:140点、3か月に1回まで算定可
- 口腔機能管理料:60点、毎月算定可
- 歯科口腔リハビリテーション料3:50点、月2回まで算定可


ここで押さえておきたい点があります。咬合圧検査と咀嚼能力検査は、同じ3か月以内にいずれか1回しか算定できません。同時算定は不可です。また、口腔機能管理料は歯科疾患管理料を算定する場合に算定できる仕組みになっています。


再評価は6か月後に口腔機能精密検査を実施します。管理中の項目については3か月ごとに検査が可能です。低下が2項目以下になっても、継続管理は可能です。これは知っておくと便利です。


なお、口腔機能低下症が疑われる患者に有床義歯を新製する場合、有床義歯咀嚼機能検査として咀嚼能力測定または咬合圧測定を実施・算定した場合は、その結果を口腔機能低下症の検査結果としてみなすことができます。


参考情報:保険算定の詳細や施設基準については、GCの情報サイトが網羅的にまとめています。


株式会社ジーシー「口腔機能低下症の診断・保険算定・検査・訓練方法」


咬合力低下が全身に及ぼす影響と歯科従事者が知るべき独自の視点

咬合力低下は「噛む力が弱くなった」という口腔内の問題だけではありません。その先にある全身への影響こそが、歯科従事者がこの検査を重視すべき最大の理由です。


噛む力が低下すると、硬い食品を避けるようになります。肉・魚・野菜・果物といった栄養価の高い食品が食卓から遠のき、柔らかく食べやすいものに偏るようになります。この食事内容の変化が低栄養を引き起こし、全身の筋肉量が減少するサルコペニアへとつながります。


日本老年歯科医学会の研究(松尾ら, 老年歯学, 2016)によれば、口腔機能低下症の5項目の該当数が3項目を超えると、栄養状態(MNA-SF)の平均値が低栄養状態に達することが明らかになっています。咬合力低下はその構成要素の1つです。


また、サルコペニアが進行するとフレイルへと至り、転倒・骨折・要介護状態のリスクが高まります。これは単なる口腔の話ではなく、患者の生命予後にまで関わる問題です。


厳しいところですね。


さらに、見過ごされがちな観点として、咬合力と筋力の関係があります。咬合力は残存歯数や義歯の状態だけでなく、咬筋側頭筋などの咀嚼筋の筋力低下にも影響されます。つまり、歯の本数が十分あっても全身の筋力が低下しているために咬合力が落ちているケースも存在します。握力や歩行速度といった全身フレイルのサインと併行して咬合力が低下している場合、その患者は口腔のみならず全身の多職種連携が必要なフェーズにある可能性があります。


このような患者では、歯科から管理栄養士・理学療法士・主治医への連携を起点にした支援が有効です。各地域の「摂食嚥下関連医療資源マップ」などを活用して、専門機関への紹介ルートをあらかじめ把握しておくことをお勧めします。


咬合力低下の検査結果は、患者との信頼構築にも活かせます。数値として「現在の噛む力は○○Nです」と説明することで、感覚的な訴えではなく客観的なデータに基づいた動機づけが可能になります。これは使えそうです。


参考情報:咬合力と全身状態の関係については、健康長寿ネットに分かりやすく整理されています。


健康長寿ネット「オーラルフレイル・口腔機能低下症の診断」(日本歯科大学 高橋賢晃 医長)