義歯治療は多くの患者さんにとって身近な歯科治療の一つですが、その費用体系については十分に理解されていないことが多いものです。歯科診療における保険点数は、1点=10円で計算され、患者さんの自己負担割合(1〜3割)によって実際の支払額が決まります[1]。
入れ歯(義歯)の治療費は、保険制度によって歯型採得から装着まで細かく点数が決められており、義歯の形態や使用する材料によっても金額が変わるため、一概にいくらかかるとは言い切れません[1]。しかし、基本的な仕組みを理解しておくことで、治療前に概算費用を把握することができます。
義歯治療には、歯型採得、噛み合わせの確認、試適、装着など複数の処置が含まれ、それぞれに保険点数が設定されています。また、義歯の種類(部分入れ歯か総入れ歯か)や欠損歯数によっても点数が異なります[4]。
令和6年度の歯科診療報酬改定では、義歯関連の点数が全体的に引き上げられました。特に注目すべき変更点として、局部義歯(部分入れ歯)と総義歯(総入れ歯)の点数アップが挙げられます[6]。
具体的な改定内容は以下の通りです:
【有床義歯の点数改定】
この改定により、特に総義歯の点数が大幅に引き上げられ、患者さんの負担も変わってきます。例えば、総義歯の場合、3割負担の方で約700円ほど負担増となりますが、これは質の高い義歯提供のための改定と考えられます。
また、磁性アタッチメントのキーパー付き根面板を用いる場合の点数も550点(+200点)と大幅に引き上げられており[6]、より安定した義歯装着のための技術評価が高まっていることがわかります。
義歯の保険点数は、部分入れ歯(局部義歯)と総入れ歯(総義歯)で大きく異なります。部分入れ歯は残存歯に装着するため、欠損歯数によって点数が細かく分けられています[1][4]。
部分入れ歯の場合、令和6年度の保険点数は以下のように設定されています:
一方、総入れ歯は1顎につき2,420点と固定されています[4]。つまり、上顎または下顎の歯がすべて欠損している場合に適用される点数です。
また、熱可塑性樹脂有床義歯(ノンクラスプデンチャーなど)も保険適用されており、局部義歯と同じ点数体系になっていますが、総義歯の場合は2,500点と若干高くなっています[7]。
これらの点数に加えて、義歯製作過程での各種処置(歯型採得、噛み合わせ採得など)の点数も別途加算されるため、実際の総費用はこれらを合計したものになります[3]。
義歯の保険点数は、単に義歯本体の費用だけでなく、製作過程における様々な処置や材料費も含まれています。これらを理解することで、総費用の内訳が明確になります。
義歯製作における主な処置と保険点数は以下の通りです:
材料費としては以下のような点数が加算されます:
例えば、奥歯2本が欠損した場合の部分入れ歯を作製する場合、処置費用(ハリガネをかける穴の形成、歯型採得、ろう義歯試適、装着料、管理料)で約372点、材料費で約1,600点、合計で約2,000点となり、1〜3割負担で2,000〜6,000円程度の費用がかかります[1]。
また、令和6年度の改定では、咬合採得時に歯科医師が歯科技工士と対面で咬合状態を確認した場合に「歯科技工士連携加算1」として50点を加算できるようになりました[6]。これは義歯の適合性向上を目的とした新たな評価制度です。
義歯治療における実際の患者負担額を計算するには、保険点数に10円を掛け、さらに自己負担割合(1〜3割)を乗じます。ここでは、具体的な例を挙げて説明します。
【5〜8歯の部分入れ歯を作製する場合の費用例】
渋谷の歯科医院の例では、以下のような点数内訳になっています[3]:
合計:1,644点
この場合、1割負担の方は約1,644円、3割負担の方は約4,932円の自己負担となります。
【総義歯(上顎)の場合】
令和6年度の点数では、総義歯本体が2,420点[4]に、各種処置費用を合わせると約3,000点前後になることが予想されます。
ただし、これらはあくまで目安であり、実際の治療内容や歯科医院によって異なる場合があります。また、義歯の修理や調整が必要になった場合は、別途費用がかかります。義歯修理の基本点数は260点(令和6年度)となっています[2]。
保険適用の義歯と自費診療の義歯には、費用面だけでなく品質や使用材料にも大きな違いがあります。患者さんが適切な選択をするためのポイントを解説します。
保険適用義歯のメリット・デメリット
自費診療義歯のメリット・デメリット
保険適用の義歯でも、令和6年度の診療報酬改定により、品質向上への取り組みが進んでいます。例えば、歯科技工士との連携加算が新設されたことで、より適合性の高い義歯製作が評価されるようになりました[6]。
自費診療を検討する際のポイントとしては、以下の点が挙げられます:
保険診療と自費診療の中間的な選択肢として、保険適用の義歯のベースに自費部分を追加する「差額診療」という方法もあります。例えば、保険適用の金属クラスプ(バネ)を目立たない樹脂製に変更するなどの対応が可能です。
義歯治療は長期にわたって使用するものですので、単に初期費用だけでなく、耐久性や快適性も含めた総合的な判断が重要です。歯科医師とよく相談し、自分に最適な義歯を選択することをおすすめします。
義歯の保険点数自体は全国一律ですが、実際の治療内容や追加オプションによって、歯科医院ごとに総費用に差が生じることがあります。また、地域によって歯科技工所の技術レベルや対応力にも違いがあり、これが義歯の品質に影響することもあります。
地域による違いのポイント
歯科医院選びで重視すべきポイントは以下の通りです:
また、令和6年度の診療報酬改定で新設された「歯科技工士連携加算」を算定している歯科医院は、歯科技工士と直接連携して義歯を製作しているため、より質の高い義歯が期待できます[6]。
義歯治療は長期にわたって使用するものですので、単に費用だけでなく、これらのポイントを総合的に判断して歯科医院を選ぶことをおすすめします。
義歯治療は一度の来院で完了するものではなく、複数回の通院が必要です。治療回数と保険点数の関係を理解することで、総費用の見通しを立てやすくなります。
一般的な義歯治療の流れと各回の保険点数は以下の通りです:
1回目(初診)
2回目
3回目
4回目
5回目
これらを合計すると、5〜8歯の部分入れ歯の場合、約1,644点(16,440円)となり、患者負担は1〜3割(約1,644円〜4,932円)となります[3]。
ただし、患者さんの口腔内の状態によっては、追加の処置が必要になることもあります。例えば、義歯を装着する前に残存歯の治療が必要な場合や、装着後に調整が必要な場合などです。
また、義歯装着後は「新製有床義歯管理料」(困難な場合230点、それ以外190点)が算定され、装着翌月からは「歯科口腔リハビリテーション料I」(困難な場合124点、それ以外104点)が月1回算定されます[5]。これらは義歯の調整や管理に関する費用です。
義歯治療は長期的な視点で考えることが重要です。初期費用だけでなく、定期的なメンテナンスや調整の費用も含めて計画を立てることをおすすめします。