訪問歯科 保険点数と算定方法の基本知識

訪問歯科診療における保険点数の仕組みや算定方法について解説します。診療時間や訪問先によって点数が変わることをご存知でしたか?

訪問歯科 保険点数の算定方法

訪問歯科診療の保険点数
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基本算定項目

歯科訪問診療料と訪問歯科衛生指導料が主な算定項目です

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診療時間による違い

20分以上と20分未満で点数が異なります

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訪問先による区分

同一建物か否か、診療人数によって点数が変わります

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訪問歯科診療は、通院が困難な患者さんに対して歯科医療を提供する重要なサービスです。しかし、その診療報酬体系は複雑で、正確に理解しておかないと適切な算定ができません。本記事では、訪問歯科における保険点数の基本から、算定のポイントまで詳しく解説します。

 

訪問歯科の基本診療報酬体系

訪問歯科診療における診療報酬は、主に「歯科訪問診療料」と「訪問歯科衛生指導料」の2つの大きな算定項目から成り立っています。

 

歯科訪問診療料は、歯科医師が患者さんの居宅や施設などを訪問して診療を行った際に算定できる基本的な報酬です。一方、訪問歯科衛生指導料は、歯科衛生士が口腔ケアや衛生指導を行った際に算定できます。

 

歯科訪問診療料は、診療を行う人数や時間によって細かく区分されています。令和6年度の診療報酬改定後の点数は以下の通りです:

算定項目 診療人数 20分以上の点数 20分未満の点数
歯科訪問診療1 1名 1,100点 880点
歯科訪問診療2 2~9名 361点 253点
歯科訪問診療3 10名以上 185点 130点

これらの点数は、1点=10円で計算されます。つまり、1名の患者さんに20分以上の診療を行った場合、歯科訪問診療料として11,000円が算定できることになります。

 

なお、診療録とレセプトには診療の開始時刻と終了時刻を記載する必要があります。これは、適切な時間に基づいた算定を証明するために重要です。

 

訪問歯科 保険点数の算定における3つのポイント

訪問歯科の保険点数を正確に算定するためには、以下の3つのポイントを押さえておく必要があります。

 

  1. 訪問人数:同一建物内で診療を受ける患者さんの人数によって点数が変わります。1名のみの場合は「歯科訪問診療1」、2~9名の場合は「歯科訪問診療2」、10名以上の場合は「歯科訪問診療3」を算定します。

  2. 訪問先:訪問先は「同一建物居住者」と「同一建物居住者以外」に分類されます。同一建物居住者とは、同じ建物に居住する複数の患者さんを指します。一方、同一建物居住者以外は、居宅等に訪問して1人だけを診療する場合です。

  3. 診療時間:患者1人あたりの診療時間が20分以上か未満かによって点数が異なります。20分未満の場合、歯科訪問診療1を除いて、所定点数の約70%に減算されます。

特に注意すべき点として、同居する同一世帯の場合は例外があります。例えば、夫婦や兄弟の居宅へ訪問診療する場合、1人目には歯科訪問診療1を適用し、2人目以降は歯科訪問診療2を算定します。この際、レセプトの摘要欄に「同一世帯(1)」と記載する必要があります。

 

訪問歯科 保険点数に加算できる主な項目

訪問歯科診療では、基本の診療料に加えて、様々な加算を算定できる場合があります。これらの加算を適切に理解し活用することで、提供するサービスに見合った報酬を得ることができます。

 

主な加算項目は以下の通りです:

  1. 緊急歯科訪問診療加算:患者の急変等により、通常の診療時間外に緊急で訪問した場合に算定できます。歯科訪問診療1の場合は425点、歯科訪問診療2では159点、歯科訪問診療3では120点が加算されます。

  2. 夜間歯科訪問診療加算:夜間(午後6時から午後10時まで)に訪問診療を行った場合に算定できます。歯科訪問診療1では850点、歯科訪問診療2では317点、歯科訪問診療3では240点が加算されます。

  3. 深夜歯科訪問診療加算:深夜(午後10時から午前6時まで)に訪問診療を行った場合に算定できます。歯科訪問診療1では1,700点、歯科訪問診療2では636点、歯科訪問診療3では481点が加算されます。

  4. 在宅歯科医療推進加算:自宅やマンションなどの集合住宅に訪問して診療を行った場合、歯科訪問診療1に100点を加算できます。

  5. 口腔管理体制強化加算:歯科医院が口腔管理体制を強化している場合、150点を加算できます。それ以外の場合は100点です。

これらの加算は、診療の状況や時間帯、医院の体制によって算定できるものが異なります。適切な加算を行うことで、訪問歯科診療の経営効率を高めることができます。

 

訪問歯科 保険点数における特別な対応と加算

訪問歯科診療では、特別な対応が必要な患者さんに対して、追加の加算が認められています。これらの加算は、より複雑な医療ケアを必要とする患者さんへの対応に対する評価として設けられています。

 

特別な管理を必要とする患者への加算
特別な管理を必要とする患者さんに対しては、所定点数に特別管理指導加算200点を加算することができます。特別な管理を必要とする患者さんとは、例えば以下のような状態の方が該当します:

  • 人工呼吸器を装着している患者さん
  • 在宅酸素療法を行っている患者さん
  • 中心静脈栄養を実施している患者さん
  • 経管栄養を実施している患者さん
  • 疼痛管理を必要とする患者さん

歯科診療支援機関に関する加算
歯科訪問診療を行う医療機関の体制によっても加算が異なります。歯科診療支援機関として認定されている場合、以下のような加算が可能です:

  • 歯援診1・2(歯科診療支援機関1・2):900点
  • 在宅療養支援歯科診療所以外の診療所:500点

これらの加算は、医療機関の体制や患者さんの状態によって算定できるものが異なりますので、適切な理解と運用が必要です。

 

訪問歯科 保険点数の実際の計算例と注意点

実際の訪問歯科診療における保険点数の計算例を見てみましょう。これにより、算定の仕組みをより具体的に理解することができます。

 

ケース1:個人宅への訪問(1名の患者、診療時間25分)

  • 歯科訪問診療1:1,100点
  • 実際の治療費:例えば歯石除去300点、レントゲン撮影100点
  • 合計:1,500点(15,000円)
  • 患者負担(3割負担の場合):4,500円

ケース2:施設への訪問(同一建物内5名の患者、各20分以上診療)

  • 歯科訪問診療2:361点×5名=1,805点
  • 実際の治療費:患者ごとに異なる
  • 合計:1,805点+各患者の治療費
  • 患者負担:各患者の負担割合に応じて計算

注意点

  1. 診療時間の記録:診療の開始時刻と終了時刻を正確に記録することが重要です。これは適切な算定のための証拠となります。

  2. 同一建物の定義:同一建物とは、同一の建物内に居住する患者を指します。ただし、同居する同一世帯の場合は例外があるため、注意が必要です。

  3. 加算の重複算定:一部の加算は重複して算定できないものがあります。例えば、20分未満の診療の場合、特別管理加算や地域連携加算などは算定できますが、その他の加算は算定できない場合があります。

  4. レセプト記載:算定した加算や特記事項は、レセプトの摘要欄に適切に記載する必要があります。例えば、同一世帯の場合は「同一世帯(1)」と記載します。

訪問歯科診療の保険点数を正確に算定するためには、これらの注意点を十分に理解し、適切な記録と請求を行うことが重要です。

 

訪問歯科 保険点数の最新改定と今後の動向

訪問歯科診療の保険点数は、診療報酬改定によって変更されることがあります。最新の改定内容と今後の動向について理解しておくことは、適切な診療報酬の算定のために重要です。

 

令和6年度診療報酬改定のポイント
令和6年度(2024年)の診療報酬改定では、訪問歯科診療に関して以下のような変更がありました:

  1. 歯科訪問診療料の見直し:診療人数による区分がより細分化され、10人以上の場合の点数が調整されました。

  2. 在宅療養支援歯科診療所の施設基準の見直し:より質の高い在宅歯科医療の提供を促進するための基準が見直されました。

  3. ICTを活用した歯科訪問診療の評価:オンラインでの診療や指導に関する評価が新設されました。

今後の動向
今後の訪問歯科診療における保険点数の動向としては、以下のような方向性が予想されます:

  1. 地域包括ケアシステムとの連携強化:地域の医療・介護サービスとの連携を評価する加算の拡充が予想されます。

  2. 質の評価の重視:単に訪問して診療を行うだけでなく、その質や効果を評価する仕組みが強化される可能性があります。

  3. ICT活用の促進:遠隔での診療や指導、多職種連携におけるICT活用がさらに評価される方向に進むと考えられます。

  4. 予防的介入の評価:口腔機能の維持・向上を目的とした予防的介入に対する評価が高まる可能性があります。

訪問歯科診療に携わる歯科医療従事者は、これらの動向を注視し、適切な対応を取ることが求められます。診療報酬改定の情報は、厚生労働省や日本歯科医師会などの公式サイトで確認することができます。

 

厚生労働省:令和6年度診療報酬改定について
訪問歯科診療の保険点数は複雑ですが、正確に理解し適切に算定することで、患者さんに質の高い歯科医療を提供しながら、診療所の経営も安定させることができます。最新の情報を常にアップデートし、適切な診療報酬請求を心がけましょう。