咀嚼機能低下の検査をグミで行うだけでは、3か月以内に再算定すると査定される可能性があります。
咀嚼機能低下の検査として保険算定できる主な方法が、グルコース含有グミゼリーを用いた「咀嚼能力検査1(140点)」です。具体的には、グルコースを含む規格化されたグミゼリーを患者に咀嚼させ、10mlの水を口に含んだ後にろ過用メッシュへ吐き出させます。その溶液中のグルコース濃度を「グルコセンサーGS-ⅡN」などのグルコース分析装置で測定し、100mg/dL未満であれば咀嚼機能低下と判定します。
グルコース溶出量の正常値は、咀嚼機能に問題のない方でおよそ200〜250mg/dLとされています。臼歯部を複数失った患者では100mg/dL以下まで低下するケースも珍しくありません。これは数字で見ると半分以下という大きな開きです。
機器がない場合の代替法として「咀嚼能率スコア法」もあります。グミゼリーを30回咀嚼させた後に吐き出させ、粉砕片の崩れ具合を視覚的な資料(スコア0・1・2)と照合して評価します。スコアが2以下の場合に咀嚼機能低下と判定されます。つまり測定機器がなくても実施できます。
ただし保険算定できる「咀嚼能力検査1」は、グルコース分析装置を用いた定量的測定が前提です。スコア法は机上での活用や患者説明には役立つものの、算定根拠の検査としては取り扱いが異なる点に注意が必要です。検査の費用はすべて所定点数140点に含まれ、別途算定することはできません。
参考:咀嚼能力検査の診療報酬点数と算定要件(令和6年度)
D011−2 咀嚼能力検査 | 歯科診療報酬点数表(shirobon.net)
咀嚼機能低下はあくまで「口腔機能低下症」の7つの診断項目のうちの1つです。この7項目とは、①口腔衛生状態不良、②口腔乾燥、③咬合力低下、④舌口唇運動機能低下、⑤低舌圧、⑥咀嚼機能低下、⑦嚥下機能低下です。3項目以上に該当したとき、口腔機能低下症と診断されます。
それぞれの判定基準も整理しておくと臨床の流れがつかみやすくなります。たとえば口腔衛生状態不良はTCI(Tongue Coating Index)が9点以上、口腔乾燥は口腔水分計の測定値27.0未満またはガーゼ法で2g以下、咬合力低下は感圧フィルムで200N未満または残存歯20本未満、舌口唇運動機能低下(パタカ法)は1秒あたり6回未満、低舌圧は30kPa未満です。嚥下機能低下はEAT-10などのスクリーニング問診票で評価します。
意外に見落とされがちなのが、7項目のうち3つは視診・問診だけで代替できる点です。口腔衛生状態不良(舌の視診)・咬合力低下(残存歯数カウント)・嚥下機能低下(問診票)は特別な機器がなくても評価できます。つまり機器を何もそろえていない状態でも、条件次第で口腔機能低下症の診断は始められます。
費用面から考えると、まず舌圧測定器1台だけ用意するところから始める歯科医院も少なくありません。全項目を一度に整備しなくてもよい、というのが原則です。機器の優先順位を整理してから少しずつ体制を整えていくのが現実的な進め方といえます。
参考:日本老年歯科医学会による口腔機能低下症 保険診療における検査と診断の手引き
口腔機能低下症 保険診療における検査と診断(日本老年歯科医学会PDF)
保険算定において特に注意が必要なのは、算定可能なタイミングと条件の組み合わせです。結論は「3か月に1回が限度」が原則です。
咀嚼能力検査1を算定した月から起算して3か月以内は、再算定できません。これはいかなる理由があっても同じです。また、同じ月に「有床義歯咀嚼機能検査(D011)」を算定した場合は別途算定できないルールもあります。さらに咬合圧検査1(D011-3)とは、3か月以内であればどちらかしか算定できません。同月に両者を算定しようとするとレセプトで査定が返ってくる可能性が高くなります。厳しいところです。
診断後に算定するには追加条件があります。口腔機能低下症の「診断後」患者については、歯科疾患管理料・口腔機能管理料・歯科特定疾患療養管理料・歯科疾患在宅療養管理料・在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料のいずれかを算定して継続的な管理を行っていることが前提条件となります。診断を出しただけでは次回の検査算定ができない点を正確に押さえておく必要があります。
算定パターンをひとつ示しておくと、舌圧検査(140点)と咀嚼能力検査1(140点)を初回月にまとめて実施し、そこに口腔機能管理料(60点)、歯科口腔リハビリテーション料3×2(50点×2)、歯科衛生実地指導料1+口腔機能指導加算(12点)を加えると、初回月は532点の算定となります。口腔管理体制強化加算(50点)を届出している診療所では582点になります。
施設基準の届出を完了していないと算定自体が行えない点も要確認です。地方厚生局への届出書を提出しておくことが算定の前提条件です。
参考:令和6年度診療報酬改定 口腔機能低下症・口腔機能発達不全症に関する算定整理
令和6年度診療報酬改定 口腔機能低下症に係る算定整理(fordynet PDF)
咀嚼機能低下を「噛みにくくなっただけ」と軽視するのは大きな誤りです。これは患者の全身状態に直結するリスク因子として複数の研究で示されています。
JAGESコホート研究をはじめとする疫学データでは、咀嚼困難・むせ・口腔乾燥を有する高齢者は悪性新生物・循環器疾患・神経系の疾患・呼吸器疾患を原因とする死亡リスクが有意に高いことが明らかになっています。広島大学の研究では、主観的な咀嚼能力や咀嚼習慣が不良な65〜84歳の高齢者は身体機能が低下しやすい傾向も判明しています(2024年12月発表)。
栄養面では、咀嚼機能が低下すると食物繊維・タンパク質・ビタミンの摂取量が減り、その代わりに糖質(炭水化物)に偏った食事になりやすいことが知られています。筋肉量の低下(サルコペニア)→フレイル→要介護という「負のスパイラル」に直結する可能性があります。これは歯科だけで解決できる話ではなく、多職種との連携が求められる問題でもあります。
口腔機能低下症の複数の下位症状が重複すると、全身的フレイルのリスクがより高まることも示されています。つまり咀嚼機能低下単体だけを見るのではなく、7項目すべてを定期的にモニタリングし続ける体制が重要です。データで示せる状態評価は、患者への説明・動機づけの場面でも大きな武器になります。
参考:国立長寿医療研究センターによる高齢者口腔機能と全身状態の関連レポート
高齢者の口腔機能改善と全身健康の関係(国立長寿医療研究センター PDF)
口腔機能低下症と診断された後は、管理・訓練のフローを院内で整備しておくことが収益・患者QOLの両面で重要です。2024年の診療報酬改定では、歯科衛生士が口腔機能管理に関わる教育・指導を行うことに加算が設けられており、チームアプローチの推進が明確になりました。
管理の算定は「口腔機能管理料(60点、毎月算定可)」が中心です。加えて「歯科口腔リハビリテーション料3(50点、月2回)」、「歯科衛生実地指導料+口腔機能指導加算(12点)」を組み合わせることで、継続的な管理収益を安定させることができます。口管強(口腔管理体制強化加算)の届出がある診療所では月50点の加算も上乗せされます。
訓練の内容は患者の状態に合わせて設定します。低舌圧には「ペコぱんだ」などの舌トレーニング器具を使ったトレーニングが有効です。口腔乾燥に対しては唾液腺マッサージ、嚥下機能低下には嚥下おでこ体操などが代表的な指導メニューです。また、咀嚼機能の回復を目的とする義歯の新製・調整は治療の核となる場合もあります。
ユニークな情報として、東京歯科大学・久保歯科医院が発表した事例では「カラオケ」が口腔機能管理の補助訓練として注目されています。発音・発声を伴うカラオケが舌口唇運動機能の維持に寄与する可能性を示しており、患者にとって継続しやすい訓練の選択肢として興味深い視点です。患者が無理なく続けられる訓練を提案することが、長期的な管理の成功につながります。
参考:GCが公開する口腔機能低下症の診断・保険算定・検査・訓練方法(実務向け)
口腔機能低下症の診断・保険算定・検査・訓練方法(株式会社ジーシー)