カルテ記載医師以外が行える場合と違法な事例

歯科医療従事者として知っておくべきカルテ記載のルール。医師以外が記載できる条件と、違反した場合のリスクを詳しく解説します。あなたの医院は適切に運用できていますか?

カルテ記載医師以外の者が行うと返還命令の対象

歯科衛生士がカルテを代筆すると50万円の罰金対象になる


この記事の3つのポイント
⚖️
歯科医師法による厳格な記載義務

カルテは原則として診療を担当した歯科医師本人が記載する義務があり、違反すると50万円以下の罰金が科される

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医師以外による記載の例外条件

緊急時に限り口述筆記が認められるが、医師が必ず内容確認と署名・記名押印を行う必要がある

⚠️
個別指導での指摘事項

歯科衛生士や事務員による記載が判明すると、診療報酬の返還命令や保険医療機関の指定取消につながる可能性がある


カルテ記載義務の法的根拠と歯科医師の責任

歯科医療においてカルテ(診療録)の記載は、歯科医師法第23条および療養担当規則第22条により、診療を担当した歯科医師本人が行うべき法的義務として明確に定められています。この規定は単なる推奨事項ではなく、違反した場合には50万円以下の罰金が科される可能性のある重要な義務です。


厚生労働省が公表している「保険診療確認事項リスト(歯科)」では、「保険医が実施した診療内容について、診療録が歯科医師以外の者(歯科衛生士、歯科助手、事務員)により記載されている例が認められたので、診療録は原則として診療を担当した保険医が記載すること」と明記されています。


つまり診療録は保険請求の根拠です。


診療録記載義務の違反は、個別指導や監査の対象となります。実際に厚生局の個別指導では、歯科医師以外による記載が頻繁に指摘事項として挙げられており、診療報酬の返還命令につながるケースも少なくありません。特に、日常的に歯科衛生士や事務員がカルテ入力を行っている医院では、知らず知らずのうちに違法状態が継続している可能性があります。


歯科医師法の規定では、診療をしたときは「遅滞なく」診療に関する事項を診療録に記載しなければなりません。忙しい診療に追われてカルテへの記載が後日になる例も見受けられますが、後日記憶を頼りに作成したり、メモしたものをまとめて記載したりすることも不適切とされています。診療の都度、その場で記載することが原則です。


近畿厚生局の「保険診療(歯科)の理解のために」には、診療録記載義務の詳細な解説と違反時の罰則が記載されています


カルテ記載を医師以外が行える唯一の例外的状況

歯科医師以外の者によるカルテ記載は原則として認められていませんが、例外的に認められる状況が一つだけ存在します。それは「やむを得ず口述筆記等を行う場合」です。ただし、この例外にも厳格な条件が設定されています。


口述筆記が認められるのは、歯科医師がカルテ入力できない緊急時の場合のみです。例えば、救急対応中で両手がふさがっている状況や、複数の患者が同時に来院して診療が立て込んでいる状況などが該当します。このような緊急時であっても、保険医自らが記載内容に誤りがないことを確認の上、署名または記名押印することが必須条件となります。


近畿厚生局が公開している個別指導の指摘事項では、「やむを得ず口述筆記等を行う場合には、保険医自らが記載内容に誤りがないことを確認のうえ、署名又は記名押印すること」と明記されています。つまり、単に口述するだけでは不十分で、必ず医師本人による確認と署名が必要ということですね。


複数の保険医が従事する保険医療機関においては、診療の責任の所在を明確にするために、診療を担当した保険医は診療録を記載した後、署名または記名押印することが求められます。電子カルテの場合でも同様に、代行入力に係る承認を速やかに実施する必要があります。承認の仕組みがない、または承認を実施していない場合は、直ちに是正が必要です。


なお、医科では「医師事務作業補助者」という職種が厚生労働省の研修を受けた後に、医師の指示のもとで電子カルテの代行入力を行うことが認められています。しかし、歯科においてはこの制度が明確に確立されておらず、基本的には歯科医師本人による記載が原則となっています。


歯科衛生士や事務員によるカルテ記載の法的リスク

歯科衛生士や歯科助手、事務員が日常的にカルテ記載を行っている医院は少なくありませんが、これは明確な法令違反です。しろぼんねっとの質問掲示板では、「カルテ入力は歯科医師の義務です。歯科医師以外に代筆でカルテ入力してもらう場合は歯科医師がカルテ入力出来ない緊急時の場合だけです。


完全に違法行為です」と明言されています。


この違法行為が発覚した場合のリスクは極めて深刻です。まず、歯科医師法第23条違反として50万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、療養担当規則第22条違反として、保険医療機関の指定取消や保険医登録の取消処分の対象となる可能性もあります。


法的リスクだけではありません。


個別指導や監査において、歯科医師以外の者による記載が判明した場合、診療報酬の返還命令が出される可能性が高くなります。厚生労働省の「保険診療確認事項リスト」では、この点が重点的にチェックされる項目として明記されており、実際に多くの歯科医院が指摘を受けています。返還額は数百万円から数千万円に及ぶケースもあり、経営に深刻な打撃を与えます。


さらに、歯科衛生士が行った処置であっても、処置や所見を歯科医師はカルテに記載する義務があります。歯科衛生士業務記録とは別に、歯科医師がカルテに記載しなければならないということですね。この点を誤解している医院も多く、「歯科衛生士が記録を作成しているから問題ない」と考えているケースがありますが、それでは不十分です。


診療録に傷病名を記載する行為も、診断行為に該当するため、歯科医師以外の職員が傷病名を診断しカルテ等に記載することは不適切です。東京都医師会のガイドラインでも、この点が明確に指摘されています。日常業務で何気なく行っている作業が、実は法令違反である可能性が高いことを認識する必要があります。


しろぼんねっとの質問掲示板では、歯科衛生士によるカルテ入力の違法性について具体的な解説が掲載されています


カルテ記載に関する個別指導での頻出指摘事項

厚生局が実施する個別指導において、カルテ記載に関する指摘は最も頻度の高い項目の一つです。近畿厚生局が公開している「個別指導(歯科)における主な指摘事項」を見ると、カルテ記載だけで10項目以上の具体的な指摘事項が列挙されています。


最も重大な指摘は「実際に診療を担当した保険医が、診療の都度、遅滞なく的確に記載すること」という基本原則の違反です。この指摘を受けた場合、過去に遡って診療報酬の返還が求められる可能性があります。返還の対象期間は、違反が始まった時点から発覚時点までとなり、場合によっては数年分に及ぶこともあります。


次に多いのが、「やむを得ず口述筆記等を行う場合には、保険医自らが記載内容に誤りがないことを確認のうえ、署名又は記名押印すること」という条件の不遵守です。口述筆記を行っているものの、医師による確認や署名がない、あるいは形式的な署名のみで実際には内容を確認していないケースが指摘されています。


内容確認は必須です。


電子カルテを使用している医院では、「診療を行った場合に遅滞なく診療録を印刷していなかった」という指摘も頻繁に見られます。電子カルテの場合でも、一定のタイミングで印刷して保存する必要があり、データのみの保存では不十分とされるケースがあります。また、「手書きで加筆する場合に、印字横の空欄に記載している例が認められた」という指摘もあり、適切な記載方法が求められています。


さらに、「複数の保険医が従事する保険医療機関においては、診療の責任の所在を明確にするために、診療を担当した保険医は診療録を記載した後、署名又は記名押印すること」という要件も重要です。複数の歯科医師が勤務する医院では、誰が診療を担当したのかを明確にする必要があります。電子カルテの場合、ログイン情報で確認できると考えがちですが、実際には署名または記名押印が必要とされています。


カルテ記載の適正化のための実務的対策

カルテ記載の違法状態を是正するには、まず現状の運用を正確に把握することが第一歩です。歯科医師以外の者が日常的にカルテ入力を行っている場合、その業務を直ちに歯科医師に移管する必要があります。ただし、現実的には診療の合間にすべての記載を完了することが困難な場合もあり、段階的な移行が必要になります。


効率的な記載方法として、音声入力システムの導入が有効です。最近の音声認識技術は精度が大幅に向上しており、診療中に口述した内容をリアルタイムでテキスト化することが可能になっています。ただし、音声入力で作成された記録であっても、最終的には歯科医師本人が内容を確認し、承認する必要があります。


確認作業は省略できません。


テンプレート機能を活用することも有効な対策の一つです。頻繁に行う処置や管理についてはあらかじめテンプレートを作成しておき、個別の症例に応じて必要な部分を修正する方法です。ただし、個別指導では「画一的な記載」が指摘事項となるため、テンプレートをそのまま使用するのではなく、必ず患者ごとの個別情報を追記する必要があります。


複数の歯科医師が勤務する医院では、カルテ記載のルールを明文化し、すべての歯科医師に周知徹底することが重要です。特に、「誰が診療を担当したのか」「誰がカルテを記載したのか」を明確にするため、診療の都度、署名または記名押印を行う運用を確立する必要があります。電子カルテの場合は、承認機能を活用し、代行入力があった場合でも必ず担当医が承認する仕組みを構築することが求められます。


万一、個別指導の通知を受けた場合に備えて、カルテ記載の適正化を進めると同時に、過去のカルテについても点検を行うことが推奨されます。明らかに歯科医師以外の者が記載したと判断されるカルテがある場合、遡って医師が内容を確認し、確認済みであることを示す署名や日付を追記することも検討すべきです。ただし、事後的な改ざんと見なされないよう、追記であることを明確にする必要があります。


日本歯科医師会の公式サイトでは、保険診療に関する最新の情報やガイドラインが公開されています