口腔機能精密検査記録用紙の書き方と診療録添付の要点

口腔機能精密検査の記録用紙は正しく書かないと保険算定が取り消されるリスクがあることをご存じですか?7項目の検査基準値から診療録への添付方法まで、現場で即使える知識を解説します。

口腔機能精密検査・記録用紙の書き方と正しい活用方法

記録用紙に検査値を書いても、診療録に添付していないだけで算定が丸ごと取り消されます。


この記事でわかること
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記録用紙の役割と構造

7つの下位症状を一枚に集約する記録用紙の基本構成と、なぜ診療録添付が必須なのかを解説します。

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7項目の検査基準値まとめ

舌圧30kPa未満・グルコース100mg/dL未満など、各検査のカットオフ値と判定ポイントを整理します。

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算定トラブルを防ぐ記載ルール

個別指導で実際に指摘された記録不備のパターンと、返戻・取り消しを防ぐための具体的な対策を紹介します。


口腔機能精密検査の記録用紙とは何か・その法的位置づけ

口腔機能精密検査の記録用紙は、口腔機能低下症の診断に必要な7つの下位症状の検査結果を一枚にまとめるための専用書式です。日本歯科医学会が令和6年3月に改訂した「口腔機能低下症に関する基本的な考え方」では、検査結果を①診療録に直接記載する、②記録用紙(別添2)に記載して診療録に添付する、③管理計画書等に記載して写しを診療録に添付する、のいずれかの方法で保存することが義務づけられています。


重要なのは「どの形式でも診療録との紐付けが必須」という点です。記録用紙を作成したとしても、診療録に添付されていなければ算定要件を満たさないと判断されます。これは単なる書類整備の問題ではなく、保険請求の根拠に直結します。


厚生労働省が公表している令和7年度版「保険診療確認事項リスト(歯科)」にも、「診療録又は診療録に添付した記録の記載に不備のある例が認められたので、適切に記載すること」という指摘項目が明記されています。記録用紙は「作って終わり」ではありません。


記録用紙には患者氏名・ふりがな・生年月日・患者番号・計測日のほか、各検査項目の該当基準・検査値・該当チェック欄が設けられています。最終行には「該当項目数」と、担当歯科医師・歯科衛生士の署名欄があります。診断の責任の所在を示すためにも、この署名欄を空欄にしないことが基本です。


日本歯科医学会「口腔機能低下症に関する基本的な考え方(令和6年3月版)」:記録用紙の位置づけや診療録添付のルールが記載されています


口腔機能精密検査の記録用紙に書く7項目の基準値一覧

記録用紙の中核となるのが7つの下位症状の検査結果です。それぞれに判定のためのカットオフ値(該当基準)があり、正確に把握していないと誤記入や診断ミスにつながります。


まず①口腔衛生状態不良は、舌苔付着度(TCI)を用いる場合は50%以上、口腔細菌定量検査を用いる場合は1mLあたり3.162×10⁶ CFU/mL以上が該当基準です。TCI法は9分割した舌表面の各エリアをスコア0〜2で評価し、合計9点以上が陽性となります。視診で完結できる検査のため、機器がなくても対応可能です。これは導入しやすいですね。


次に②口腔乾燥は、口腔水分計(ムーカス等)で27.0未満、またはサクソンテストで2分間2g以下の重量増加が基準です。サクソンテストはガーゼ1枚(7.5cm四方・12枚重ね)を噛んでもらい、前後重量を比較します。ガーゼ1枚の目安はハガキ約半分の大きさです。


咬合力低下は、デンタルプレスケールⅡ(圧力フィルタあり)で350N未満、フィルタなしで500N未満が陽性です。機器がない場合は残存歯数20本未満(残根・動揺度3を除く)で代替できます。20本という数字は、一般的に「8020運動」で目標とされる本数と同じなので覚えやすい値です。


④舌口唇運動機能低下は、オーラルディアドコキネシス(ODK)によります。/pa/・/ta/・/ka/それぞれを5秒間で発音させ、1秒あたり6回未満のいずれかがあれば該当です。5秒間で30回が正常の目安と覚えておくとスムーズです。


⑤低舌圧は、JMS舌圧測定器(TPM-01またはTPM-02)で30kPa未満が基準です。健常な50代の平均が約40kPaであることを踏まえると、30kPaは「明らかな低下」と判断できます。⑥咀嚼機能低下は、グルコセンサー(GS-ⅡまたはGS-ⅡN)で100mg/dL未満、または咀嚼能率スコア法でスコア0・1・2が該当です。⑦嚥下機能低下は、EAT-10で合計3点以上、または聖隷式嚥下質問紙でAの項目が1つ以上ある場合です。


以上の7項目を記録用紙に正確に転記し、該当項目数が3以上で「口腔機能低下症」と診断します。3項目以上が診断条件です。


ジーシー「口腔機能低下症の診断・保険算定・検査・訓練方法」:各検査の算定点数・組み合わせルール・管理月のイメージが詳しく掲載されています


口腔機能精密検査の記録用紙ダウンロード先と各書式の違い

記録用紙は複数の機関や企業が独自フォーマットを公開しており、どれを使うか迷う現場も少なくありません。主な入手先と各書式の特徴を整理しておきます。


日本老年歯科医学会版(Wordファイル、.docx)は診療報酬改定に対応したオリジナル版で、内容をカスタマイズできるのが強みです。学会の公式委員会が作成しているため、最もエビデンスの裏付けがある書式といえます。ただし古いバージョンのままダウンロードしているケースがあるため、取得時にバージョンを必ず確認してください。令和6年度改定に対応しているかが判断のポイントです。


ジーシー版(PDF)は2024年7月1日更新版があり、咀嚼能率スコア法の記載欄が追加されるなど最新の診断基準に対応しています。記録用紙に加え「結果記録兼トレーニング指導用紙」も無料配布されており、検査から指導までワンストップで管理できる点が便利です。これは使えそうです。


ヨシダ版(PDF)は、記入例が付いた状態で提供されており、初めて検査を導入する医院にとって実際の記載方法のイメージがつかみやすい構成になっています。検査値の記入欄が大きめに設計されており、紙面が見やすいという現場の声もあります。


日本歯科医師会別添2版は、保険診療確認事項リスト等で「別添2」として参照されている公的な書式です。ほどがや歯科8020ネット等でも公開されており、個別指導の場面でも広く認知されています。


なお、Excel形式の書式(dental-document.com等)はログインが必要な場合があります。ただし書式の形式(PDFかExcelかWordか)は問われません。どの書式を選ぶにせよ、記載内容の完全性と診療録への添付が要件の本質です。


記録用紙の記載ミス・不備が算定取り消しにつながる実際のパターン

保険個別指導において、口腔機能関連の記録不備はどのような形で指摘されるのでしょうか?厚生局が公表する指摘事例から、現場で起きやすい問題を具体的に見ていきます。


最も多い指摘は「記録が診療録に添付されていない」ケースです。記録用紙を院内で保管していても、診療録(カルテ)に挟まっていなければ、指導当日に「添付なし」と判断されます。ファイルや棚で別管理していると見落とされやすいため、カルテに直接挟み込むか、電子カルテならスキャンデータで紐付けることが必要です。


次に多いのが「画一的な記載」です。毎回同じ検査値が並んでいたり、日付だけ変えてコピーしたような記録は、「患者の実態を反映していない」として指摘対象になります。患者ごとの変化を反映した記録であることが前提です。


さらに「署名欄の未記載」も見落とされやすいポイントです。記録用紙の最下部にある歯科医師・歯科衛生士の署名欄が空欄のまま算定しているケースが、複数の地方厚生局の指摘事例で確認されています。痛いですね。


厚生労働省の「保険診療確認事項リスト(歯科)令和7年度版」では、「口腔機能低下症の診断には7項目の口腔機能精密検査を可能な限り行うこと」「診療録または診療録に添付した記録の記載に不備のある例が認められた」という確認項目が明示されています。返戻・減点・算定取り消しを避けるためにも、記録用紙の管理は検査業務と同等の優先度で取り組む必要があります。


なお、やむを得ず実施できない検査項目がある場合(誤嚥リスク等でグミゼリーを用いる咀嚼検査が実施困難な場合など)も、その理由を診療録に記載した上で残りの実施可能な項目のうち3項目以上該当であれば診断は成立します。省略理由の記載が条件です。


厚生労働省「保険診療確認事項リスト(歯科)令和7年度改訂版」:個別指導で実際に確認される口腔機能関連の記録要件が記載されています


【独自視点】記録用紙を「再診時の会話ツール」として使うと管理継続率が上がる理由

記録用紙はあくまで保険請求のための書類、という捉え方をしている医院も多いのが現状です。しかし活用の視点を変えると、記録用紙はそのまま患者への説明・動機づけツールとしても機能します。


口腔機能管理において最も難しいのは、患者に継続してトレーニングを続けてもらうことです。舌圧30kPaという数値を患者に伝えても、それが何を意味するか伝わりにくいという問題があります。ここで記録用紙の「検査値欄」を経時的に見せることが有効です。初回が24kPaだったものが3か月後に28kPaに上がっていれば、患者は「やってみた効果が出た」と実感できます。数字の変化は、言葉よりも説得力があります。


実際に、ジーシーが公表しているNAVI事例では「メインテナンスの対象患者の9割に口腔機能検査を定期的に実施し、6か月ごとの検査ではSPTの1時間にプラス30分の枠で予約」している歯科医院が紹介されています。この取り組みでは、検査結果の経時変化を患者と共有することで管理の継続率を高めている点が特徴的です。


記録用紙に残った数値は、前回値との比較を一目で示せる「成長の記録」として機能します。患者に写しを渡す運用も可能で、実際に管理計画書の写しを患者に交付するのと同様の考え方です。ジーシーの「結果記録兼トレーニング指導用紙」は、検査結果と次回に行うべきトレーニングが一枚に収まっており、この用途に特化した設計になっています。口腔機能管理の継続には、数値の可視化が鍵です。


記録の適切な保管と同時に、この「患者への見せ方」という視点を持つことで、記録用紙は書類管理の手間を超えた臨床的な価値を生み出します。


日本老年歯科医学会「口腔機能精密検査記録用紙(Word形式)」:現場でそのまま使えるオリジナル書式のダウンロード先です