きざみ食はコード3やコード4に該当しないケースがあり、患者に提供し続けると誤嚥性肺炎リスクが高まります。
歯科情報
日本摂食嚥下リハビリテーション学会が2021年に改訂・公表した「嚥下調整食分類2021(学会分類2021)」は、病院・施設・在宅医療にかかわるすべての職種が共通言語として使えるよう整備された分類です。それ以前は「ミキサー食」「ペースト食」「やわらか食」など施設ごとに名称がバラバラで、退院時や施設間の連携で混乱が生じることが頻繁にありました。つまり、コード体系は「施設をまたぐ共通言語」として機能しています。
食事の分類はコード0からコード4の5段階です。さらにコード0と1にはゼリー状(j)ととろみ状(t)の細分類があり、コード2は均質な2-1と不均質な2-2に分かれます。最終的に7種類のコードが存在します。以下に各段階の概要を示します。
| コード | 名称 | 形態の特徴 | 必要な咀嚼能力 |
|---|---|---|---|
| 0j | 嚥下訓練食品0j | 均質・なめらか・離水が少ないゼリー | 若干の送り込み能力 |
| 0t | 嚥下訓練食品0t | 均質・付着性低い・とろみ水 | 若干の送り込み能力 |
| 1j | 嚥下調整食1j | 均質・ゼリー・プリン・ムース状 | 若干の食塊保持と送り込み能力 |
| 2-1 | 嚥下調整食2-1 | 均質・なめらか・ピューレ/ペースト状 | 下顎と舌の運動による食塊形成・保持能力 |
| 2-2 | 嚥下調整食2-2 | 不均質なペースト・やわらかい粒を含む | 同上 |
| 3 | 嚥下調整食3 | 押しつぶしが容易・ムース状・まとまりやすい | 舌と口蓋間の押しつぶし能力以上 |
| 4 | 嚥下調整食4 | 箸やスプーンで切れるやわらかさ・ばらけにくい | 上下の歯槽堤間の押しつぶし能力以上 |
コード番号が低いほど嚥下機能への負荷が小さいですが、「コード番号=重症度の一方向的な改善過程」とは必ずしも一致しないことが公式文書でも明記されています。個々の患者の疾患・病態に応じた選択が原則です。
また、コード4以降には学会分類の対象外となる「一口大」「粗きざみ」などの食形態があります。コード4までに該当しない食形態は、学会分類の管理外として扱われることを覚えておく必要があります。
歯科従事者にとってこの分類が重要なのは、咀嚼機能の評価とコード選定が密接に連動するからです。「上下の歯槽堤間で押しつぶせるか」「舌と口蓋間で押しつぶせるか」といった評価は、まさに歯科の専門的視点が活かせる部分です。
参考:学会分類2021の公式全文(日本摂食嚥下リハビリテーション学会)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021 | JSDR公式
「食べ物を細かく刻めば飲み込みやすくなる」という考えは、現場で根強く残っています。しかし実際には、きざみ食は嚥下機能が低下した患者には適さない食形態です。これが基本です。
なぜそうなるのか、口腔内の動きから確認しましょう。食べ物を安全に飲み込むには、口の中で食材を唾液と混ぜながら「ひとつのまとまり(食塊)」に成形する過程が必要です。これを食塊形成といいます。ところがきざみ食の場合、細かくバラバラになった食材は口の中で散らばりやすく、舌を大きく動かして集め直さなければなりません。
筋力が低下した高齢患者にとって、この「集め直す作業」は想像以上に負担が大きいのです。途中で疲れ、まとまりきっていない状態でゴクンと飲み込もうとすれば、細かな粒子が気管に流れ込む「誤嚥」が起きやすくなります。誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
学会分類2021でも、コード3やコード4に関しては「十分にやわらかいものを刻んだり、ほぐしたりして食べやすくしたものは該当しうるが、かたい食材をただ刻んであんをかけただけではコード3に該当しないことがある」と明確に記されています。つまりきざみ食はその調理方法と食材のやわらかさによってコードが変わる、という点が重要です。
具体的な条件を整理すると次のようになります。
さらに見落とされがちな問題があります。きざみ食は食材の表面積が大きくなるため、調理後に細菌が繁殖しやすい状態になります。包丁やまな板を介した二次汚染のリスクも増加します。加熱後に再加熱をせずに提供するケースが多いため、時間が経てば経つほど衛生リスクは高まる一方です。これは食中毒リスクとも直結します。
また、食材を刻むとカサが増えることで見た目の量が多くなり、患者の摂取量が減少するケースもあります。食欲低下も招きます。嚥下機能の低下と低栄養は密接に関係しており、この悪循環が患者の全身状態を悪化させる原因になりえます。
患者や家族から「刻んでいるから大丈夫」という言葉が出たとき、歯科従事者としてきちんと正しい情報を伝えられるかどうかが問われます。
参考:きざみ食による誤嚥の危険性(公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット)
きざみ食による誤嚥の危険性 | 健康長寿ネット
歯科従事者が嚥下調整食のコード選定に関与する場面は、在宅訪問歯科、回復期病棟での口腔機能管理、施設での訪問歯科衛生指導など多岐にわたります。各コードの選定には、咀嚼能力のアセスメントが欠かせません。
コード3以上が対象となる患者では「舌と口蓋間で押しつぶす能力」があるかどうかが分岐点になります。コード4に進むには「上下の歯槽堤間で押しつぶす能力」が必要です。この評価は口腔診察の中でも行える部分があり、歯科医師・歯科衛生士が積極的に情報共有できる領域です。
評価のポイントを以下に整理します。
特に義歯の適合が不良な患者は、見た目の咀嚼能力よりも実際の食塊形成能力が低いことが多く注意が必要です。義歯を使っていても「舌で押しつぶせる食形態」でないと安全に食べられない患者は珍しくありません。
また、コードと一致した食種が1食の中ですべて統一されている必要はないという点も重要な知識です。コード3が基本であっても、1食の中にコード1jのゼリーが含まれることは一般的です。個別の料理ごとにコードを評価する柔軟な対応が求められます。
歯科衛生士が患者や家族に指導をする際には、「何コードの食事か」を伝えるだけでなく、「なぜこのコードなのか」を咀嚼能力と食塊形成の観点から説明できると、在宅での誤った食形態の自己判断を防ぎやすくなります。コードがわかれば市販の介護食品との対応も確認しやすくなります。
市販の介護食品にはユニバーサルデザインフード(UDF)区分や学会分類コードが表記されているものが増えており、適切な製品を選ぶ際の参考になります。患者の家族には「パッケージのコード表記を確認する習慣」を伝えるだけでも、誤嚥リスクの軽減につながります。
2026年(令和8年)度の診療報酬改定において、嚥下調整食が入院時食事療養費の特別食加算の対象として新たに評価されることになりました。これは現場にとって大きな転換です。
従来、嚥下困難食は腎臓食・肝臓食・糖尿食などの「治療食」と同様の調理負担があるにもかかわらず、特別食加算(76円/食)の対象外でした。一般食と同じ扱いで、施設側が費用をほぼ自己負担に近い形で対応していたのです。それが改定されます。
改定後の算定要件のポイントをまとめます。
この変更は歯科従事者にとって直接的な収入増加をもたらすものではありませんが、嚥下調整食の質的基準が「医療として評価される行為」として明確に位置づけられた意味は大きいです。
特に重要なのは、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」に準拠した食事提供が求められるという点です。つまり学会分類コードを正確に理解し、適切な食形態を選定・指導できる専門家の役割がますます重要になります。歯科衛生士がチームの一員として食形態の判断に携わることが、今後の多職種連携の中でより求められる場面が増えるでしょう。
院内での嚥下調整食体制がまだ整備されていない施設では、この機会に学会分類2021に基づいたコード設定の見直しを行うことが推奨されます。言語聴覚士(ST)や管理栄養士と連携し、口腔機能の評価情報を食形態選定に活かす仕組みをつくることが次のステップです。
参考:令和8年度診療報酬改定における嚥下調整食の新評価(栄養NEWS ONLINE)
【令和8年度診療報酬改定】嚥下調整食の特別食加算への追加 | 栄養NEWS ONLINE
実際の現場では、長年きざみ食を提供してきた患者や家族がいます。「今まで問題なかった」という言葉に押されてしまうことは少なくありません。しかし、問題なく見えていただけで、誤嚥が起きていても気づかれない「不顕性誤嚥」が背景にある可能性があります。これは見えないリスクです。
不顕性誤嚥とは、咳き込みやむせなどの明確なサインがなく、気管に食物が流れ込む現象です。高齢者では嚥下反射の低下により、誤嚥しても反射が起きにくくなります。きざみ食のバラバラした粒子は、このような不顕性誤嚥を起こしやすい食形態の代表例として知られています。
歯科従事者が訪問先でできる観察ポイントを挙げます。
このような徴候が見られた場合は、STや主治医への情報共有が必要です。口腔内に残渣が多い状況は誤嚥性肺炎リスクを直接高めるため、食後の口腔ケアが特に重要になります。きざみ食後の口腔内は、細かい食物粒子が歯間・義歯・粘膜の凹凸に残りやすく、通常より丁寧なブラッシングと粘膜清拭が求められます。
患者や家族への指導では、「きざみ食は食べやすいわけではない」という事実を、先に紹介した食塊形成の視点でわかりやすく伝えることが大切です。「口の中でまとまりにくいから気管に入りやすい」という説明は、多くの患者家族に理解されやすいフレーズです。
コード3やコード4への移行を提案する際には、市販のムース状食品・やわらか食品と学会分類コードを照らし合わせながら「今日から試せる具体的な食品」を1〜2品提示することが、家族の行動変容につながりやすいです。抽象的な説明だけで終わらないことが条件です。
また、食形態の変更は必ず医師・ST・管理栄養士を含む多職種で判断することが原則です。歯科衛生士が「こういう状態が観察された」という客観的情報を提供し、チームでコードの変更を検討する流れが理想です。
最後に、日々の臨床で起こりやすい誤解を整理しておきます。知っているようで意外に見落とされている部分です。
誤解① 「あんかけにすれば、きざみ食はコード3になる」
これは完全な誤りです。学会分類2021の公式文書には「かたい食材を刻んであんをかけただけではコード3に該当しないことがある」と明記されています。食材そのものが舌や歯槽堤で押しつぶせる程度のやわらかさでなければ、あんをかけてもコード3の要件を満たしません。食材の「やわらかさ」が先、あんかけは補助的な手段という順序が原則です。
誤解② 「コードは数字が大きいほど安全」
コードの数字が大きいほど普通食に近い形態ですが、「安全」ではありません。コード4は「誤嚥や窒息のリスクがある嚥下機能・咀嚼機能の軽度低下がある人を想定」したものです。機能に合っていないコード4を提供することは、コード2を適切に提供するより危険になりえます。患者の状態に対応したコードが安全なのです。
誤解③ 「コード表は施設名や食種名で読み替えられる」
各施設の「軟菜食」「やわらか食」「きざみとろみ食」などの食種名は、必ずしも学会分類コードと一致しません。施設間での連携や退院後の在宅サポートでは、コード番号を使った共通言語での伝達が求められます。食種名だけで連携情報を作成してしまうと、受け入れ側で誤った食形態が提供されるリスクがあります。退院サマリーや連携情報には学会分類コードを必ず記載することが推奨されます。
これら3つの誤解は、いずれも患者の誤嚥リスクに直結します。「名称」や「見た目」ではなく「物性と機能の対応」で食形態を判断する習慣が、安全な食支援の土台になります。
2026年度の診療報酬改定によって、嚥下調整食は医療として正式に評価される時代に入りました。歯科従事者が口腔機能評価の専門性を活かし、コードに基づいた正確な食形態の判断と指導を担うことは、多職種チームの中での役割として今後さらに重要性を増してきます。
参考:嚥下食の基礎知識「きざみ食のリスク」(嚥下食ドットコム)
嚥下食の基礎知識 第4回 リスクが大きい「きざみ食」 | 嚥下食ドットコム