口腔ケアを誤った順序で行うと、嚥下反射が抑制されて誤嚥リスクが3倍以上になることがあります。
嚥下は「5期モデル」(先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期)で理解されますが、歯科が特に深く関わるのは口腔期です。 口腔期の神経支配は、主として第5脳神経(三叉神経)、第7脳神経(顔面神経)、第12脳神経(舌下神経)が担っています。 swallow-web(http://www.swallow-web.com/engesyogai/approach2.html)
三叉神経は咀嚼筋群(側頭筋・咬筋・内側翼突筋・外側翼突筋)を支配し、下顎の下制・挙上・臼磨運動をコントロールします。 三叉神経の刺激は嚥下運動を「促通」しますが、この神経刺激だけでは嚥下を単独で誘発することはできません。 意外ですね。 nds.dent.niigata-u.ac(https://nds.dent.niigata-u.ac.jp/journal/291/r291_yamada.pdf)
顔面神経は舌の味覚・舌ざわりの感覚と口唇閉鎖を担っています。 口唇閉鎖は咽頭期においても誤嚥防止に直結するため、顔面神経麻痺がある患者では口腔期から嚥下全体に影響が出ます。 つまり顔面神経麻痺は嚥下全域への波及リスクがあるということですね。 nichiiko.co(https://www.nichiiko.co.jp/medicine/swallow/swallow30.php)
舌下神経はオトガイ舌筋・舌骨舌筋など「舌を動かす筋肉」を支配し、食塊形成と咽頭への送り込みを実行します。 舌下神経の障害は食塊コントロール能力の低下に直結し、咽頭に食塊が分散するため誤嚥の原因となります。 歯科補綴治療や義歯調整の際に舌の可動性を評価することが、嚥下機能スクリーニングの第一歩です。 rinku-hohoemi(https://www.rinku-hohoemi.com/content/734/)
| 脳神経 | 番号 | 主な支配・機能 | 障害時のリスク |
|---|---|---|---|
| 三叉神経 | 第5 | 咀嚼筋支配・口腔内感覚 | 咀嚼不全・食塊形成不良 |
| 顔面神経 | 第7 | 口唇閉鎖・味覚・唾液分泌 | 口唇開大・誤嚥リスク増大 |
| 舌下神経 | 第12 | 舌の運動(食塊送り込み) | 咽頭への食塊分散・誤嚥 |
咽頭期の嚥下反射は「すべてのフェーズの中で最も精密な神経制御」が求められるフェーズです。 嚥下反射を実際に「誘発」する主役は、舌咽神経と迷走神経です。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/learning/3406/)
嚥下反射を惹起する末梢領域は咽頭・喉頭領域であり、この部位は舌咽神経と迷走神経が支配しています。 迷走神経の枝である上喉頭神経(SLN)は、嚥下を誘発する受容器を直接支配する主要な感覚神経であり、ここへの刺激が嚥下反射の引き金となります。 上喉頭神経が重要です。 nds.dent.niigata-u.ac(https://nds.dent.niigata-u.ac.jp/journal/422/422_01.pdf)
さらに重要な事実があります。舌咽神経の感覚枝を選択的に刺激すれば、上喉頭神経刺激がなくても嚥下を誘発できることが新潟大学の研究で確認されています。 これは歯科臨床における咽頭後壁への器具接触が意図せず嚥下反射を誘発しうることを示しています。 これは使えそうです。 nds.dent.niigata-u.ac(https://nds.dent.niigata-u.ac.jp/journal/291/r291_yamada.pdf)
咽頭反射(嘔吐反射)との違いも整理が必要です。咽頭反射は舌咽神経と迷走神経が求心路を担いますが、口腔前方部への刺激では三叉神経が関与します。 歯科治療中に患者が「オエッ」となる場面では、三叉神経領域への器具接触が誘因になっている可能性があります。 medical-term.nurse-senka(https://medical-term.nurse-senka.jp/terms/2186)
嚥下反射の中枢制御を語るとき、「延髄のCPG(Central Pattern Generator:パターン形成器)」は避けて通れません。 CPGが核心です。
嚥下の神経機構は、延髄を中心とした嚥下反射(下位の嚥下神経機構)と、それを上位から支える大脳皮質の神経機構に分けられます。 CPGは主に孤束核の細胞群・延髄網様体細胞・疑核などの運動神経細胞で構成されており、咽頭期のステレオタイプな協調運動を自動的に出力します。 これを「all-or-none(全か無か)の法則」と表現する研究者もいます。 ncnp.go(https://www.ncnp.go.jp/mental-health/docs/nimh51_53-58.pdf)
さらに、大脳皮質からの皮質延髄投射はCPGの「閾値調節」を担っており、末梢知覚入力による嚥下の起こりやすさを上位中枢がコントロールしています。 これが脳卒中後患者や認知症患者で嚥下反射誘発が著しく遅延・消失する神経学的根拠です。 閾値の調節が原則です。 gerodontology(https://www.gerodontology.jp/publishing/file/journal_extra/vol35_e75.pdf)
嚥下CPGの活性化には孤束核への収束が鍵を握るため、舌咽神経・迷走神経・三叉神経のすべての感覚入力が孤束核に集まり、ここでパターン出力が疑核などの運動核に送られます。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-23592532/23592532seika.pdf)
参考:嚥下の神経機序と延髄CPGについての詳細な解説(国立精神・神経医療研究センター)
嚥下の神経機序とfMRIによる脳機能局在(国立精神・神経医療研究センター)
CPGの実体は「核の集合体」であり、それを理解することが臨床推論の精度を上げます。 核の理解が条件です。
上喉頭神経や舌咽神経からの感覚情報は、脳幹内の「孤束(孤束核)」と「三叉神経脊髄路」の2つの系に伝えられます。 このうち孤束・孤束核が「嚥下反射を誘発する」系として機能します。 孤束核が中心的な役割を担うということですね。 nds.dent.niigata-u.ac(https://nds.dent.niigata-u.ac.jp/journal/291/r291_yamada.pdf)
三叉神経脊髄路は「嚥下を直接誘発」はしないものの、感覚情報を孤束核に収束させ、嚥下反射の閾値低下(つまり反射の起こりやすさ)に寄与します。 歯科処置中に三叉神経領域を長時間刺激することが嚥下関連筋の促通に繋がる可能性は、臨床的な関心事です。 nds.dent.niigata-u.ac(https://nds.dent.niigata-u.ac.jp/journal/291/r291_yamada.pdf)
以下のPDF資料は神経疾患と嚥下の関係を臨床的に整理しており、歯科チームでの勉強会資料としても活用できます。
神経支配の知識を「誤嚥を防ぐ臨床判断」に落とし込むことが、歯科従事者に求められる最終的なゴールです。 知識を臨床に繋げることが原則です。
歯科外来での実践的なスクリーニングとして「反復唾液嚥下テスト(RSST)」があります。30秒間に3回以上の嚥下ができない場合は嚥下反射誘発能の低下を疑います。 RSSTは特別な機器なしに歯科チェア上で実施できるため、定期検診のたびに記録することで経年変化を追うことができます。 これは使えそうです。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/learning/3406/)
また、口腔乾燥(ドライマウス)は嚥下誘発に必要な咽頭粘膜への感覚刺激を著しく低下させます。唾液は嚥下受容器の感度を保つ「媒体」として機能しており、唾液分泌低下は上喉頭神経の受容器への刺激伝達を妨げます。 口腔内の湿潤環境を維持することは、嚥下反射の神経支配を正常に保つための基礎条件です。 jsnt.gr(https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/enge.pdf)
口腔ケアの実施前に少量の水分を口腔内に含ませて咽頭を湿潤させることで、口腔ケア中の嚥下反射誘発リスクを下げる手法が嚥下リハの現場でも取られています。 口腔ケアの手順が重要です。 swallow-web(http://www.swallow-web.com/engesyogai/approach2.html)
以下は摂食嚥下と脳神経の関係を臨床評価に直結させた形で解説したスライドです。歯科医院の院内研修資料として活用価値があります。
摂食嚥下障害を脳神経学的にどのように評価するか(日本老年歯科医学会)