3回クリアした患者でも、34%は誤嚥リスクを見落としている可能性があります。
反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test:RSST)は、藤島一郎氏らによって考案された嚥下機能スクリーニングです。1996年にリハビリテーション医学の専門誌に発表された研究では、健常若年者30名・健常高齢者30名を対象に30秒間の空嚥下回数が計測されました。その結果、若年者の平均空嚥下回数は7.4回、高齢者は5.9回という数値が得られています。
基準値の「3回」は、この研究で得られた高齢者群の積算嚥下時間の上限から算出されたものです。言い換えると「3回未満=30秒以内に十分な嚥下運動が行えていない」という判断軸がここで生まれました。
この数字を具体的にイメージすると、健康な高齢者でも平均約6回こなせるわけですから、3回はおよそ健常者の半分以下の水準です。逆にいうと、3回というカットオフ値は「はっきりとした機能低下を拾い上げるための保守的な基準」として設計されています。これが原則です。
なお、嚥下回数のカウントルールも重要で、「喉頭隆起(のどぼとけ)と舌骨が検者の指の腹を乗り越えて前上方に移動し、その後に下降した時点を1回」とするのが正式な判定基準です。喉頭がぴくぴくと小さく動いているだけでは1回とカウントしてはいけません。この判定の厳密さが、データの信頼性を支えています。
日本リハビリテーション医学会誌 Vol.37 No.6(RSSTexの原著論文要旨)
上の参考リンクでは、RSSTが考案された原著論文の要旨を確認できます。若年者・高齢者それぞれの嚥下回数データや、カットオフ値設定の根拠が記載されています。
RSSTの手順は次のとおりです。
口腔乾燥が強い患者には、1ml程度の水を舌背に垂らしてから開始するか、人工唾液で口腔内を湿潤させてからテストします。この前処置を行わないと、口腔乾燥が原因で嚥下回数が実態より少なく出てしまいます。乾燥があれば必須の対応です。
カウントミスが起きやすいのは「喉頭の不完全な動き」を1回と数えてしまうケースです。喉頭挙上が不完全で、指の腹を十分に乗り越えないまま途中で下降した場合は、嚥下回数に含めません。正常な嚥下では喉頭隆起が約2横指分(3〜4cm程度)持ち上がります。指の関節1つ分ほどの幅が動くイメージです。
また、認知機能の低下した患者や口頭指示への従命が困難な患者には、RSSTを適用できません。これはテストの重要な限界の一つです。「指示に従えない患者は検査不能」として他のスクリーニング方法を選択してください。
J-APPA(日本摂食嚥下・栄養学会関連)反復唾液嚥下テスト(RSST)の詳細手順ページ
上のリンクでは、RSSTの具体的な手技の手順と注意事項が整理されています。施設内マニュアル作成の参考にしてください。
RSSTexの精度について、感度0.98・特異度0.66という数値が報告されています(熊本大学ほか複数の文献)。感度98%は非常に高く「嚥下障害のある人を見逃しにくい」という長所を意味します。スクリーニングとして優秀ですね。
しかしここが見落とされがちなポイントです。特異度が66%ということは、実際には嚥下障害のない健常者であっても、3割以上が「陽性(3回未満)」と判定されてしまう可能性があります。つまり、3回未満の患者のなかに、実際には問題のない人が相当数含まれているということです。
具体的に考えてみましょう。高齢者が口腔乾燥の状態で受け、コンディションが悪い日に2回しかできなかった場合、その結果をそのまま「嚥下障害あり」と記録してしまうのは危険です。一方で3回クリアしたとしても、不顕性誤嚥(むせが出ない誤嚥)は感度・特異度の外の問題であり、RSSTだけでは検出できません。
RSSTexは「嚥下障害を見逃さない(感度が高い)」ことを目的に設計された検査です。スクリーニングとして使うのが大原則です。「クリアしたから安心」ではなく「クリアしなかったら次のステップへ」という使い方が正しい活用法です。
以下のように、スクリーニングの流れを整理しておきましょう。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会「摂食嚥下障害の評価2019」(PDF)
上のリンクは学会公式の評価マニュアルです。RSSTexの位置づけや、MWSTとの組み合わせ使用に関する記載を確認できます。
加齢とともに嚥下機能が低下することは周知の事実ですが、その内訳まで把握しているかどうかで評価の精度が変わります。RSSTexの考案時の研究では、若年者(平均年齢32.3歳)の平均空嚥下回数が7.4回なのに対し、健常高齢者(平均年齢72.4歳)では5.9回と有意に少ない結果が出ています。
この差は主に加齢に伴う解剖学的変化や中枢・末梢神経系機能の低下によるものとされており、口腔乾燥だけが原因ではないことが明らかにされています。つまり、高齢者が「若者ほど多く飲み込めない」のは正常範囲内のことです。
ただし、喉頭の位置も加齢で変化します。高齢者では喉頭が低位になる傾向があり、これが喉頭挙上距離の短縮につながります。触診で「あまり動いていない」と感じても、高齢者では解剖学的な正常変異として起こり得ることを念頭に置いてください。これは意外ですね。
歯科医療者として特に注意したいのは、**口腔乾燥(ドライマウス)を合併している患者の評価**です。唾液分泌が低下していると、テスト前に口腔が十分に湿っていないため嚥下回数が本来より少なく計測されます。抗コリン薬・利尿薬・抗ヒスタミン薬などを服用している高齢患者では服薬内容を事前に確認し、必要であれば1mlの水や人工唾液を用いてテストを実施しましょう。
| 年齢層 | 平均空嚥下回数(30秒) | カットオフ値 |
|---|---|---|
| 若年者(約32歳) | 7.4回 | 2回以下=障害の疑い |
| 高齢者(約72歳) | 5.9回 |
日本老年歯科医学会「要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン2017」(PDF)
このリンクでは、RSSTexの方法と評価基準が老年歯科医学のガイドラインとしてまとめられています。施設ケアにおける標準手順の参照資料として活用できます。
RSSTで3回未満の結果が出た場合、歯科での次のアクションを明確にしておくことが重要です。単に「要経過観察」で終わらせてしまうと、患者の誤嚥リスクが放置されます。結論はこうです。「3回未満 → 即、次のステップへ進む」のが正しい対応です。
歯科での対応フローとしては次のように整理できます。
口腔機能訓練との連携については、日本老年歯科医学会の研究で「RSST3回未満またはガムテスト3ml以下の患者に開口訓練、舌圧30kPa未満またはガムテスト3ml以下の患者に舌圧訓練」という訓練適応基準が示されています。数値で入口が決まっているのは歯科にとって使いやすい基準です。
パタカラ体操(口腔体操)は、食事前に1日3回を目安に実施することで、摂食嚥下に関わる筋群を効果的に活性化できます。「パ」は口唇・頬筋を鍛えて食べこぼし防止につながり、「タ・ラ」は舌筋の強化で食塊形成と咽頭への送り込みの改善が期待できます。RSSTexの結果が低くても、意欲的に訓練に取り組める患者には積極的に導入を提案しましょう。
また、舌圧測定器(ペコぱんだなど)を用いた舌圧訓練を継続することで、嚥下関連筋の筋力が向上し、RSSTの嚥下回数が改善する事例も報告されています。定期的なRSST再測定で変化を数値で示すことは、患者のモチベーション維持にも効果的です。これは使えそうです。
RSSTexは「取り組みの成果を確認するための指標」としても機能します。治療前後の変化を30秒3回という基準で比較することで、患者にも担当スタッフにも明確なゴールを示せます。
日本歯科医師会「オーラルフレイル改善プログラム Part6」(PDF)
このリンクでは、RSSTexを含む嚥下機能評価と口腔機能訓練(パタカラ体操・舌圧訓練など)の連携手順が詳しく解説されています。歯科衛生士が患者指導に活用できる内容です。
RSSTexは咽頭期のスクリーニングとして優れていますが、「唾液を使う」という特性上、食物を使った際の口腔期・咽頭期の複合的な機能は評価できません。一方でMWST(改訂水飲みテスト)は冷水3mlを使用し、嚥下の有無・むせ・湿性嗄声・呼吸状態を包括的に観察できます。
この2つを組み合わせることで、それぞれの弱点を補完できます。具体的には、下の表のように評価の精度が上がります。
| スクリーニング | 強み | 弱み |
|---|---|---|
| RSST | 感度98%・安全・誤嚥リスクなし | 特異度66%・不顕性誤嚥は検出不可 |
| MWST | 湿性嗄声・呼吸変化も評価可能 | 少量とはいえ誤嚥のリスクを伴う |
| フードテスト(FT) | 口腔期〜咽頭期を実食で評価 | 誤嚥リスクあり・判定が複雑 |
臨床現場での実際の運用として、歯科医院においては「まずRSST → 異常があればMWST → 必要ならVE/VFへ紹介」という段階的なスクリーニングフローを標準化することが推奨されます。このフローが条件です。
また、RSSTTexで「3回以上クリア」していても、食事の様子に不安がある場合(食事中のむせ、食後の声の変化、体重減少など)は、「臨床所見と組み合わせた評価」が必要です。スクリーニングの数値だけで判断を終えないことが、歯科領域における嚥下評価の高い質を担保することにつながります。
さらに、RSSTexでは評価できない「不顕性誤嚥」(むせが出ない誤嚥)は、高齢者に多く見られ、誤嚥性肺炎のリスクが特に高いとされています。主治医や言語聴覚士との連携で、SpO2モニタリングや嚥下内視鏡(VE)につなげることが、高リスク患者では重要です。
歯科はすべての患者が定期的に来院する場所です。毎回の来院時に短時間で実施できるRSSTexを習慣的に組み込み、経時的な変化を追うことで、患者の嚥下機能の変化をいち早くキャッチできる立場にあります。口腔機能管理の入口として、RSSTex基準値の正確な理解と正しい運用が、患者の全身状態を守ることにつながります。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会「摂食・嚥下障害の評価(簡易版)」(PDF)
このリンクでは、RSSTex・MWSTex・FTの各スクリーニング法が標準化された形で解説されています。各検査の位置づけと組み合わせ使用の考え方を確認できます。
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