水分を加えれば加えるほど、ミキサー食の栄養価は1/3以下になることがあります。
歯科情報
ミキサー食とは、咀嚼機能(噛む力)や嚥下機能(飲み込む力)が低下した患者さんに対して、調理済みの食事をミキサーで攪拌しペースト状・ポタージュ状にした食事形態です。歯科従事者の皆さんが患者さんへ食形態のアドバイスをする場面では、この定義を明確に押さえておく必要があります。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会が策定した「嚥下調整食分類2021」では、ミキサー食は主にコード2-1(均質なペースト・ミキサー食)およびコード2-2(不均質なペースト・ミキサー食)に分類されます。コード2は「スプーンですくって食べられる状態で、べたつかずまとまりやすいもの」と定義されており、噛む力は不要ですが、口の中に入れたものを広げずに喉へ送り込める程度の嚥下機能を持つ方が対象です。
コード2-1とコード2-2の大きな違いは、食材の均質性にあります。コード2-1はヨーグルト状や絹ごし豆腐のような均一な状態のもの、コード2-2は粒感が多少残るミキサー食やペースト食です。患者さんの嚥下評価の結果と照らし合わせながら、どちらのコードに対応した食形態を指導するかを判断することが、歯科衛生士や歯科医師としての専門的な貢献につながります。
つまり「ミキサー食」は一括りではなく、段階があるということです。
⬇️ 日本摂食嚥下リハビリテーション学会による学会分類2021の詳細はこちら。コード別の物性基準が一覧で確認できます。
また、学会分類2021では「コード0(嚥下訓練食)」からスタートし、コード1、コード2、コード3、コード4(軟食)という段階があります。ミキサー食のコード2は訓練食の次に位置するため、嚥下機能がある程度保たれている方向けとも言えます。歯科従事者として口腔機能の状態と照らし合わせ、段階的に食形態を変えていく視点を持つことが大切です。
| コード | 食形態の目安 | 対象の嚥下機能 |
|---|---|---|
| コード0j | 嚥下訓練用ゼリー | 訓練初期・ほとんど機能なし |
| コード1j | 均質ゼリー・プリン状 | 嚥下機能が極めて低い |
| コード2-1 | 均質なミキサー食・ペースト状 | 噛む力なし・嚥下は可 |
| コード2-2 | 不均質なミキサー食 | わずかな粒感に対応できる |
| コード3 | 舌でつぶせる軟食 | 舌圧がある程度ある |
食材の選び方は、ミキサー食の安全性と品質を大きく左右します。これが基本です。
ミキサー食に適した食材は、でんぷん質が多くミキサーにかけたときになめらかになりやすいものです。代表的なものとして、かぼちゃ・じゃがいも・さつまいもなどのいも類、豆腐・卵・白身魚などたんぱく質が豊富で水分を含みやすい食材、ほうれん草などの葉物野菜の穂先(繊維の少ない部位)、シチューや肉じゃがといった汁気のある煮物料理が挙げられます。
一方で、ミキサーに不向きな食材も明確に存在します。ごぼう・れんこん・セロリといった繊維質の多い根菜類は、ミキサーにかけても繊維が残りやすく、口の中でまとまらずに誤嚥のリスクが上がります。しいたけ・しめじなどのきのこ類やこんにゃくは弾力があり粉砕しにくく、皮付きのぶどうやトマトは皮の繊維が残ります。これらは事前に取り除くか、代替食材に変えるといった下処理が必要です。
下処理のコツとして、まず食材はよく加熱して芯まで柔らかくしてからミキサーにかけることが大前提です。固い部分が残ったままでは均一なペースト状になりません。ミキサーに入れる前に食材を1〜2cm程度の小さなサイズにカットしておくと、攪拌が均一になりやすいです。汁気のない食材には、同量のだし汁や煮汁を加えてからかけるのが基本ルールです(食材:だし汁 = 1:1が目安)。
なめらかさが不十分な場合は、2回攪拌すると格段に仕上がりが変わります。1回目のミキサーで大まかにペーストにし、裏ごし器やストレーナーで濾したあと、2回目の攪拌で仕上げる方法は、特に嚥下機能が低い方(コード2-1相当)向けの食形態に有効です。
意外なポイントとして、脂肪分を加えると舌触りが滑らかになりやすいという性質があります。バターや生クリーム、マヨネーズをひとさじ加えるだけで、なめらかさが向上します。これは後述する栄養密度アップにも一石二鳥の方法です。
⬇️ 城山病院による「ペースト食の作り方」。食材とだし汁の具体的な割合と2回攪拌の手順が参考になります。
ミキサー食を作る際、多くの方が「片栗粉でとろみをつければOK」と考えがちです。しかし、この認識は誤嚥リスクを高める要因になります。
片栗粉のとろみは、口腔内に分泌される唾液アミラーゼという酵素によって分解されます。口の中でとろみが消えてサラサラの液体状に近づいてしまうため、飲み込む力が弱い患者さんにとっては誤嚥の危険性が高まります。さらに片栗粉のとろみは温度が下がるとゆるくなる性質もあり、食事中に徐々にとろみが弱まるという問題もあります。
これが原則です。
一方、市販のとろみ調整食品(キサンタンガム系など)は、唾液中の酵素では分解されにくく、温度が変わってもとろみが安定して維持されます。歯科従事者が在宅患者さんや施設職員にアドバイスする際は、「片栗粉でなくとろみ調整食品を使うこと」をしっかり伝えることが重要です。
とろみ調整食品の種類は、大きく3タイプに分けられます。
| タイプ | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| デキストリン系 | 素早く溶けやすく、ダマになりにくい。透明感がある。 | 一定量を超えると甘みが出ることがある |
| 増粘多糖類系(キサンタンガム等) | 少量で安定したとろみが出る。唾液で分解されにくい。 | 溶けるまで少し時間がかかる場合がある |
| 片栗粉 | 家庭にあるもので手軽。 | 唾液酵素で分解される・温度低下でゆるむ・嚥下用には不向き |
とろみの調整量も重要なポイントです。増粘剤は通常1%前後が目安とされており、0.5〜1.5%の範囲で患者さんの嚥下状態に合わせて微調整します。多すぎると口の中や咽頭にべたつきが増して残留し、食後に遅発性の誤嚥を引き起こすリスクがあります。少なすぎれば水分が散らばって誤嚥しやすくなります。どちらに振れても危険という点を覚えておけばOKです。
とろみ調整食品を使う際の実践的なコツとして、「先にとろみ剤を入れてから液体を加える」または「液体を激しくかき混ぜながらとろみ剤を加える」と、ダマになりにくくなります。メーカーによって固まるまでの時間が異なるため、製品ごとの使用説明書を必ず確認することも忘れずに伝えましょう。
⬇️ フードケア社によるとろみ調整食品と片栗粉の違いの詳細説明。唾液で溶ける仕組みが分かりやすく解説されています。
株式会社フードケア|「とろみ調整食品」と「片栗粉」の違いとは?
歯科従事者として見落としがちなのが、ミキサー食特有の栄養密度の低下問題です。
株式会社フードケアのデータによれば、100gのおかずにだし汁を2倍量(200g)追加してミキサーにかけた場合、カロリーは元の272kcalから約95kcalへ、たんぱく質は13.9gから約4.7gへ低下します。これは元の約1/3以下に相当する数値です。この数値は、同じ量の食事を毎日続けていても、必要なカロリーとたんぱく質の大半を摂れていない可能性を意味しています。
痛いですね。
水分を加えることで食材がかさ増しされる反面、食べられる量には限界があります。そのため、限られた量の中でいかに栄養価を確保するかが、ミキサー食の調理における最重要課題です。
栄養密度を落とさないための具体的な対策は以下の通りです。
在宅患者さんを担当する歯科衛生士であれば、訪問時に食事の様子を確認したり、家族や介護者に「加水量」の見直しを提案したりすることが、低栄養予防に直結する実践的なアドバイスになります。管理栄養士や言語聴覚士との多職種連携の場でも、この視点を持っておくと有益な議論ができます。
⬇️ フードケア社による加水量の違いと栄養価変化の詳細データ。数字で栄養低下の実態が把握できます。
株式会社フードケア|食べる量を増やさずに栄養価の低減を防ぐ3つの方法
ミキサー食はペースト状のため、口腔内に残渣(ざんさ)が残りやすいという特徴があります。これは歯科従事者として特に注目すべき点です。
残渣が口腔内に留まると、細菌の温床になります。唾液の嚥下機能が低下している患者さんは就寝中も含めて微量の残渣や唾液を誤嚥することがあり、口腔内細菌を含んだまま誤嚥することで誤嚥性肺炎が引き起こされます。研究では、適切な口腔ケアによって誤嚥性肺炎の発症率・死亡率が有意に低下することが確認されています。
食後の口腔ケアは必須です。
ミキサー食を食べた後の口腔ケアのポイントは以下の通りです。
口腔ケアは、単なる衛生管理にとどまらず、摂食嚥下リハビリテーションの入口でもあります。歯科衛生士が在宅や施設で訪問口腔ケアを行う際に、ミキサー食の形態と口腔内の状態を関連づけて評価・指導できることは、他職種にはない専門的な強みです。
義歯の適合状態を整えることで咀嚼機能が向上し、より上位の食形態(コード3以上)への移行につながるケースもあります。ミキサー食はゴールではなく、機能回復を目指すための一段階です。そのことを患者さんや家族に伝えることも、歯科従事者の大切な役割といえます。
⬇️ 大阪国際がんセンターによる「誤嚥性肺炎を防ぐ摂食・嚥下ケアと口腔ケア」の実践ガイド。
大阪国際がんセンター|誤嚥性肺炎を防ぐ摂食・嚥下ケアと口腔ケア(PDF)
ミキサー食の大きな課題のひとつが、「見た目の問題」です。これは見落とされがちなポイントですね。
すべての料理をひとつのミキサーにかけてしまうと、食材の色が混じり合って茶色や灰色のペーストになってしまいます。何を食べているのか視覚的に分からない状態では、食欲の低下を招きやすく、摂取量が減ることで低栄養のリスクが高まります。実際に、見た目が悪いことで食事量が3〜4割程度低下することもあるとされています。
食欲を支えることも、広い意味での口腔ケアの一部です。
一品ずつ別々にミキサーにかけることが、最も有効な対策です。主食(粥ペースト)・主菜(魚や肉のペースト)・副菜(野菜ペースト)をそれぞれ別の容器で攪拌し、仕切りのある皿や白い器に色よく盛り付けることで、視覚的に料理の種類が伝わります。
さらに近年では、ゲル化剤を使って元の食材の形に成形する「ムース食・再形成食」の技術が普及しています。人参のペーストを人参型のシリコンモールドで固める、さばの味噌煮のペーストをさば型に成形するといった取り組みは、施設での採用事例も増えており、患者さんの「食べる意欲」を大きく引き出す効果があります。
在宅での実践が難しい場合は、市販の介護食(レトルトタイプのミキサー食・ムース食)を活用することも選択肢のひとつです。各メーカーが嚥下調整食分類のコードを明記した製品を販売しており、在宅患者さんの家族の調理負担を大幅に減らすことができます。
⬇️ 中野ドリームが公開するミキサーゲルを使ったおうちでできる介護食レシピ集(PDF)。再形成食の実践例が多数掲載されています。
中野ドリーム|新しくなったミキサーゲルのかいご食レシピ(PDF)