VF(嚥下造影検査)は「医科だけの検査」と思い込んでいると、歯科で算定できる摂食機能療法の点数を丸ごと取り逃がします。
嚥下造影検査(VF:videofluorography)とは、バリウムなどの造影剤を含む食品を実際に飲み込んでもらいながら、X線透視下でその動態を動画記録する検査です。口腔期から食道期にかけての嚥下運動全体を可視化できるため、嚥下障害の診断・治療方針決定において極めて信頼性の高い評価方法とされています。
嚥下という行為は、口唇・舌・軟口蓋・咽頭・喉頭・食道が協調して行う複雑な運動です。VFではこのすべての段階を横から(側面像)、または正面から(正面像)連続して観察できます。特に「誤嚥しているかどうか」「誤嚥のタイミング」「どの食形態なら安全か」を客観的に評価できる点が、他の嚥下評価ツールと大きく異なります。
歯科従事者にとってVFは、直接実施する検査ではない場合でも、検査結果を読み解く力が不可欠です。なぜなら、VFや嚥下内視鏡検査(VE)の結果を根拠として、歯科での摂食機能療法(H001)を算定する仕組みになっているからです。VF結果の有無が、歯科での保険算定に直結します。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会は「嚥下造影(VF)」または「嚥下造影検査」、英語では「videofluoroscopic examination of swallowing(VF/VFS/VFSS)」と呼ぶことを学会標準として定めています。「ビデオ嚥下造影」「嚥下透視検査」など施設によって呼称がまちまちですが、診療報酬上の区分は統一されています。つまりVFという略称が示す検査は1種類です。
検査の主な目的は2つあります。ひとつは「症状と病態の関係を明らかにするための診断的検査」で、形態的・機能的異常や誤嚥の有無を特定します。もうひとつは「食物形態・体位・摂食方法の調整を通じて治療に反映させる治療的検査」です。嚥下機能の評価を起点に、その後のリハビリプランを立案するためのデータ収集という意味合いも強くあります。
参考:日本摂食嚥下リハビリテーション学会による嚥下造影の標準的検査法(詳細版)はこちら。VFの検査目的・観察項目・診療報酬算定の基本を網羅しています。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会:嚥下造影の検査法(詳細版)2014年版
VFを1回実施したとき、算定できる点数は「嚥下造影(E003-7)240点」の1項目だけではありません。これを誤解したまま請求している施設が少なくないのが実情です。正確には、以下の複数区分を組み合わせて請求します。
| 区分番号 | 診療行為名称 | 点数 |
|---|---|---|
| E000 | 透視診断 | 110点 |
| E001-3 | 写真診断(造影剤使用撮影) | 72点 |
| E002-3 | 撮影(造影剤使用撮影)アナログ | 144点 |
| E002-3 | 撮影(造影剤使用撮影)デジタル | 154点 |
| E003-7 | 造影剤注入手技(嚥下造影) | 240点 |
| ― | 電子画像管理加算(デジタル保存時) | 66点 |
| ― | 画像診断管理加算1(施設基準届出時) | 70点 |
デジタル撮影・電子画像管理・画像診断管理加算まですべて算定すると、1回のVFで最大合計712点(7,120円)が算定可能です。これを「嚥下造影240点のみ」と思い込んで請求していると、毎回472点(4,720円)を取り逃がす計算になります。取り逃がしが続けば、年間ベースで相当な損失につながります。
透視診断(E000:110点)は、X線透視装置を使って動態を確認したことに対する点数です。「ビデオに録画しているから写真診断は不要」と判断してしまうケースがありますが、透視診断と写真診断(撮影)は別概念です。透視中にフレームを静止画として切り出した記録がある場合は、造影剤使用撮影(E002)と写真診断(E001-3)も合わせて算定できます。
電子画像管理加算(66点)は、デジタル装置でX線画像を電子的に管理・保存している場合に加算できます。フィルムを使わずにコンピュータ管理している現代の多くの施設では、この加算を忘れずに請求することが重要です。
造影剤の費用は、別途薬剤料として請求します。硫酸バリウム懸濁液やビジパーク®などを使用した場合、その薬剤点数を加算できます。点数は薬剤の種類と使用量によって異なるため、使用した造影剤のレセプト処理を忘れないようにしましょう。
参考:令和6年度診療報酬改定に基づく嚥下機能関連の全点数一覧(医科・歯科・介護)はこちら。
orarize.com:令和6年度診療報酬改定(摂食嚥下関連)点数表
歯科でVF結果を活用する最大の目的は、摂食機能療法(H001)の算定です。ここでの誤解が最も多いポイントです。
摂食機能療法(H001)の算定対象となる「摂食機能障害者」の定義には、次の2パターンがあります。
- 発達遅滞、顎切除・舌切除の手術、脳卒中等による後遺症により摂食機能に障害があるもの
- **内視鏡下嚥下機能検査(VE)または嚥下造影(VF)によって他覚的に嚥下機能の低下が確認できるものであって、医学的に摂食機能療法の有効性が期待できるもの**
つまり、VFまたはVEの実施記録があることが、歯科での摂食機能療法算定の根拠として機能するのです。VFが「医科だけの話」ではないことがここでわかります。歯科医師もVF結果を受け取り、それを診療録に記録することで、患者への摂食指導・嚥下訓練の保険算定につなげられます。
点数は以下の通りです。
| 区分 | 内容 | 点数 |
|---|---|---|
| H001-1 | 30分以上の場合 | 185点 |
| H001-2 | 30分未満の場合(脳卒中発症14日以内) | 130点 |
| 加算イ | 摂食嚥下機能回復体制加算1(週1回) | 210点 |
| 加算ロ | 摂食嚥下機能回復体制加算2(週1回) | 190点 |
| 加算ハ | 摂食嚥下機能回復体制加算3(週1回) | 120点 |
「30分以上の場合」は月4回に限り算定できます。ただし、治療開始日から3か月以内は1日につき算定可能で、月4回の制限がありません。開始初月に毎日実施した場合は、その分だけ算定できます。これは見逃しやすい優遇措置です。
治療開始から3か月を超えた場合は、摂食機能療法と歯科口腔リハビリテーション料1(2・3に限る)を合わせて月6回まで算定できます。3か月経過後もゼロにはならないので、継続ケアの観点で重要です。
算定にあたっては、次の診療録記載が必須です。
- 個々の患者の症状に対応した「診療計画書」の作成
- 各回の「訓練開始時刻・終了時刻」と「訓練内容の要点」の記載
- 摂食機能療法を算定する場合は、レセプト摘要欄に「疾患名」と「治療開始日」を記載
この3つがそろっていないと、個別指導で指摘を受けます。「診療録に開始・終了時刻が記載されていない」「計画書がない」という理由での算定不認定は、歯科個別指導における頻出指摘事項です。
摂食嚥下機能回復体制加算(加算1〜3)は、VFやVEを組み込んだ多職種連携体制を評価するもので、算定できれば大きな収益増につながります。ただし、施設基準を満たしたうえで地方厚生局への届出が必要です。
加算1・2の施設基準(主要部分)は以下の通りです。
加算1と加算2の最大の違いは「経口摂取回復率35%以上」の要件の有無です。加算1はこの実績要件が求められますが、加算2は不要です。この点を知らずに加算1だけを目指してしまうと、基準未達で届出が通らないケースがあります。
重要な疑義解釈があります。「月1回以上のVFまたはVE実施」は、自院での実施だけでなく、**連携する別の保険医療機関での実施も含まれます**(令和4年3月31日 保医発0304第1号)。VF設備を自院に持っていなくても、連携先の病院でVFを実施した記録があれば加算算定の要件を満たせます。設備がないからと諦める必要はありません。
加算3は療養病棟入院料1・2を算定する病棟が対象です。加算1・2とは施設基準が異なり、「中心静脈栄養から経口摂取へ回復した患者が年2名以上」という実績要件が設けられています。同一医療機関で加算3と加算1・2を同時に届け出ることは不可能です。施設単位で選択が必要です。
摂食嚥下機能回復体制加算を算定する場合は、年に1回、算定患者の摂食嚥下支援計画書作成時・直近の嚥下機能評価・実績を地方厚生局長に報告することも義務付けられています。報告漏れは施設基準の不備とみなされることがあります。
参考:摂食嚥下機能回復体制加算の施設基準と算定要件(令和4年度改定版)の詳細はこちら。
PT-OT-ST.NET:H004 摂食機能療法(令和4年度診療報酬改定情報)
VFと並んでよく耳にするのがVE(嚥下内視鏡検査:D298-2 720点)です。歯科で摂食機能療法を算定する際、根拠となる検査はVFとVEのどちらでも構いません。ただし、両者の特徴を理解しておくと、医科との連携時に会話がスムーズになります。
VEとVFを比較すると次の通りです。
| 比較項目 | VF(嚥下造影) | VE(嚥下内視鏡) |
|---|---|---|
| 点数 | 合計約576〜712点 | 720点(単独) |
| 放射線被曝 | あり | なし |
| 観察範囲 | 口腔期〜食道期の全期 | 主に咽頭・喉頭 |
| ベッドサイド実施 | 不可(透視装置が必要) | 可能 |
| 嚥下の瞬間(ホワイトアウト) | 確認可能 | 確認不可 |
VFは被曝を伴いますが、嚥下の瞬間も動態として記録できる点が最大の強みです。一方、VEはベッドサイドでも実施でき被曝がない分、繰り返し評価する場面に向いています。VEの点数(720点)はVFの造影剤注入手技240点の3倍であり、単独点数として高く設定されています。
歯科から医科への連携を考えるとき、「患者がVF対応の施設に行けるかどうか」が重要です。搬送困難な在宅患者や療養施設の患者には、ベッドサイドで実施できるVEが現実的な選択になります。いずれにせよ、VFまたはVEのどちらかの実施記録があれば、歯科での摂食機能療法算定の根拠として使えます。条件は同等です。
歯科の独自の視点として見落とされがちなのは、「口腔期(咀嚼・食塊形成・舌運動)」の評価です。VFの観察項目には、口唇の動き・下顎の動き・舌運動・舌軟口蓋閉鎖などの口腔期評価が明確に含まれています。この部分は歯科的専門性が直接活きる領域です。VF画像を見てどこに問題があるかを歯科医師・歯科衛生士が判断し、PAP(舌接触補助床)や義歯調整・口腔機能訓練につなげることができます。口腔機能低下症(B000-4-3)など歯科固有の管理料とVFを組み合わせた実践は、今後の歯科医療において大きな可能性を秘めています。
VFに関連する算定で実際に指摘を受けやすいケースをまとめます。知っておくだけでリスクを大幅に下げられます。
**❶ 摂食機能療法の診療録記載が不十分**
最も多い指摘です。「訓練を行ったが開始・終了時刻の記載がない」「計画書が作成されていない」「疾患名と治療開始日がレセプトに未記載」は算定否認につながります。記録はその場で行うことが原則です。
**❷ 算定月4回制限を超えた請求**
治療開始から3か月を超えた患者に対し、摂食機能療法を月5回以上算定しているケースがあります。3か月以内は制限なしですが、3か月超は月4回(後にH001-2との合算で月6回)が上限です。開始日の管理が必要です。
**❸ VF・VE実施記録がないまま摂食機能療法を算定**
VFまたはVEで嚥下機能の低下が確認されていることが算定根拠です。「本人が食べにくそうにしているから」「視診でむせが多い」だけでは不十分です。スクリーニング検査(反復唾液嚥下テストや水飲みテストなど)は、VFやVEの代替にはなりません。VFやVEによる他覚的評価記録が必須です。
**❹ 療養型病棟での算定の混乱**
療養型病棟(療養病棟入院料1・2算定病棟)では、嚥下造影(E003-7:240点)は入院基本料に包括されず別途算定できます。ただし、透視診断(E000)や撮影(E002)が包括対象になるケースもあるため、自施設の入院料区分に応じた確認が必要です。包括かどうか判断が難しい場合は、地方厚生局に問い合わせることをおすすめします。
**❺ 摂食嚥下機能回復体制加算の週1回制限**
摂食嚥下機能回復体制加算は、摂食機能療法の所定点数に「週1回」を上限として加算します。「月4回まで算定できる摂食機能療法のすべてに加算できる」と誤解しているケースがありますが、週1回が上限です。月に最大4〜5回の摂食機能療法を実施していても、加算は週1回分のみです。
これらのミスをまとめると「記録・回数・根拠の3点が崩れると算定が崩れる」と整理できます。個別指導での指摘項目に、これら3要素が必ず登場します。日常の記録習慣と月次チェックを組み合わせることが最も効果的な対策です。
参考:歯科の摂食機能療法における算定留意事項と個別指導での指摘事項はこちら。
歯科 弁護士.com:歯科の摂食機能療法の算定留意事項
十分な情報が集まりました。記事を作成します。