歯周基本治療の流れと再評価・SPTへの正しい移行手順

歯周基本治療の正しい流れを、検査・診断から口腔衛生指導・SRP・再評価・SPTまで歯科医従事者向けに詳しく解説。抗菌薬投与のタイミングや喫煙患者への対応など、現場で押さえておくべきポイントとは?

歯周基本治療の流れと再評価・SPTへの正しい移行手順

SRPを終えた患者に抗菌薬軟膏を先に投与すると、ガイドライン違反で保険査定を受けるリスクがあります。


📋 この記事でわかること(3ポイント要約)
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歯周基本治療は「検査→診断→TBI→スケーリング→SRP→再評価」の順が原則

治療ステップの順序を崩すと、治療効果の評価が正確にできないだけでなく、保険算定上のトラブルにもつながります。正しい流れを把握することが歯科従事者の基本です。

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抗菌薬軟膏(ミノサイクリン等)は「歯周基本治療後に改善がみられない部位」にのみ投与可

日本歯周病学会のガイドラインでは、抗菌薬局所投与は歯周基本治療後の不改善部位への補助的使用と明記。SRPと並行して先行使用することはガイドライン外となります。

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再評価でポケット4mm以上が残存した場合は外科治療または再SRPを検討

再評価は「歯周基本治療の完了時点」に行います。BOP(プロービング時出血)の有無と残存ポケット深さを軸に、SPTへの移行か歯周外科治療への進行かを判断することが重要です。


歯周基本治療の流れ①:医療面接・歯周病検査・診断


歯周基本治療のすべては、正確な情報収集から始まります。来院した患者に対してまず行うのが「医療面接」です。主訴の確認はもちろん、全身疾患・アレルギー・服薬情報・喫煙習慣・ストレスなどの環境リスク因子も丁寧に把握します。とくに糖尿病や骨粗鬆症などの全身疾患は歯周病の進行と密接に関わるため、必要に応じて医科との連携を視野に入れる必要があります。


歯周病検査では、プロービングデプス(PD)・クリニカルアタッチメントレベル(CAL)・プロービング時出血(BOP)・歯の動揺度・プラーク付着状況を全歯にわたり記録します。保険算定上、歯周精密検査(P検)の要件は「4点以上のプロービング」「BOPの記録」「プラークチャート記録」「デンタルX線10〜14枚法またはパノラマ撮影」となっており、これらを揃えることが前提です。エックス線は歯槽骨の吸収程度・根分岐部病変歯石の沈着状況を読影するための重要な情報源です。


つまり「見てわかる炎症」だけで診断するのは不十分です。


診断は、日本歯周病学会の2006年分類だけでなく、2018年のAAP/EFP新分類(ステージⅠ〜Ⅳ・グレードA〜C)も念頭に置くことが推奨されています。ステージとグレードの両軸で病態を把握することで、治療計画の優先順位が明確になります。歯周病の重症度・複雑度・進行リスクを統合的に評価する習慣が、現代の歯周臨床では求められています。



日本歯周病学会が公開しているガイドライン関連資料(歯周基本治療の進め方とポイント)。検査の保険算定要件や新分類の詳細も確認できます。
歯周基本治療 -進め方とポイント-(日本歯周病学会・PDF)


歯周基本治療の流れ②:口腔衛生指導(TBI)とプラークコントロールの確立

歯周基本治療のなかで、もっとも先行して、かつ継続的に行うべき項目がプラークコントロールの確立です。これが甘いまま次のステップへ進んでも、SRPで歯石を除去した直後から細菌が再定着し、治療効果が半減してしまいます。「まずブラッシング、それからスケーリング」という順序は、単なる慣例ではなくエビデンスに基づく原則です。


口腔衛生指導(TBI)では、患者それぞれの口腔状態に合わせたブラッシング方法を個別に指導します。プラーク染色剤を使って「磨けていない部位」を患者自身に視覚的に認識させることが、モチベーション向上に直結します。初診時のプラークコントロールレコード(PCR)の値を記録しておくことで、治療後の比較ができ、患者への成果提示にもなります。


意外ですね。最初のTBIが治療全体の成否を左右します。


歯間ブラシや舌側など、患者が自己流で「磨いているつもり」になっている部位ほど汚れが残っています。日本臨床歯周病学会の解説によれば、多くのセルフケア不十分者は「磨き方が悪い」のではなく「毛先を正しい位置に当てられていない」という根本的な課題を抱えています。歯科衛生士がマンツーマンで指導し、正しい当て方を身体で覚えてもらうことが優先です。


プラークコントロール状況が安定してきたところで、縁上スケーリング(歯肉縁上の歯石除去)へと進みます。縁上の汚れが残っていると、縁下のSRPをしても再汚染のサイクルが断ち切れません。段階を踏んだ順序が基本です。



日本臨床歯周病学会によるセルフケアとプロフェッショナルケアの解説ページ。ブラッシング指導のポイントも詳しく紹介されています。
歯周病の治療方法(日本臨床歯周病学会)


歯周基本治療の流れ③:スケーリング・SRPの適切な進め方

縁上スケーリングでプラーク・歯石の初期的な除去を行った後、歯周ポケットが深い部位に対してスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を実施します。SRPは歯肉縁下歯石の除去と根面の平滑化を目的とした処置であり、縁上スケーリングとは明確に区別されます。縁上歯石は比較的柔らかく白っぽいのに対し、縁下歯石は血液成分を取り込んで硬く黒褐色になるため、除去難易度も大きく異なります。


SRPは口腔全体が対象の場合、通常4〜6回の来院に分けて行います。1回の処置で4〜7歯程度を30〜60分かけて処置するのが標準的なペースです。超音波スケーラーと手用キュレットスプーンを組み合わせることで、歯根の形態を触診しながら確実な除去が可能になります。手用器具による縁下操作は歯科衛生士の技術力が直結する領域であり、継続的なスキルアップが欠かせません。


SRPは技術と根気が求められる処置です。


ここで一点、現場で誤解されやすいことがあります。抗菌薬軟膏(2%塩酸ミノサイクリン等)の歯周ポケット内局所投与は、「SRPと同時に、または先行して行うもの」と捉えている方がいますが、これは誤りです。日本歯周病学会「歯周病患者における抗菌療法の診療ガイドライン」では、「歯周基本治療後に改善がみられなかった歯周ポケット内への局所投与が有効」と明記されています。あくまで「基本治療後の不改善部位への補助的使用」が原則です。先行投与は保険審査上でも問題になりうるため、注意が必要です。


また、咬合性外傷を伴う症例では、炎症のコントロールを優先してSRPを進めるのが基本ですが、咀嚼障害や二次性咬合性外傷のリスクが大きい場合に限り、炎症除去より先に咬合調整や連結固定を行うことがあります。日本歯周病学会ガイドラインに記載されているこの例外規定も、実臨床では把握しておくべき知識です。



日本歯周病学会による抗菌療法ガイドライン。局所投与の適切なタイミングや投与対象の根拠が記載されています。
歯周病患者における抗菌療法の診療ガイドライン(日本歯周病学会・PDF)


歯周基本治療の流れ④:再評価検査の判断基準とSPT移行の見極め

歯周基本治療がひと通り完了したら、治療の成果を客観的に評価するための「再評価検査」を行います。これは初診時と同じ検査項目(PD・CAL・BOP・動揺度・PCRなど)を再計測し、改善状況を比較検討するプロセスです。「治療した気がする」という感覚的な判断ではなく、データによる評価こそが次のステップを正確に選択するための根拠になります。


再評価が基本です。


再評価の結果によって、治療方針は大きく3つに分かれます。




















再評価の結果 次のステップ
ポケット3mm以下・BOP陰性・炎症消退 SPT(歯周病安定期治療)またはメインテナンス移行
ポケット4mm以上が一部残存・BOP陽性部位あり 再SRPの実施、または歯周外科治療を検討
ポケット6mm以上・垂直性骨欠損・根分岐部病変2〜3度 歯周外科治療(フラップ手術歯周組織再生療法)の適応




歯周外科治療への進行には、「歯周基本治療で十分な効果が得られなかった場合」という前提が必須です。基本治療を省略または不十分なまま外科治療へ進んでしまうと、術後の維持期における再発リスクが高まります。外科治療の成功は基本治療の質に大きく依存していることを、チーム全体で共有しておくことが重要です。


再発のリスクを左右するもう一つの因子が喫煙です。神奈川県歯科医師会の資料によれば、1日10本以上の喫煙で歯周病リスクが5.4倍、10年以上の喫煙で4.3倍に上昇すると報告されています。喫煙患者では歯周基本治療後の治療反応性が低く、再評価時の改善も限定的になる傾向があります。禁煙支援を歯周基本治療の一環として組み込むことが、日本歯周病学会でも強く推奨されています。



歯周治療の各ステージと再評価時の移行基準について詳しい解説が掲載されています。
歯周病の治療方法(歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020・日本歯科医師会)


歯周基本治療の流れ⑤:独自視点|喫煙・全身疾患リスクが「治療順序の例外判断」に与える影響

多くの解説記事では、歯周基本治療の流れを「医療面接→検査→診断→TBI→スケーリング→SRP→再評価」という一本道として紹介しています。しかし実際の臨床では、患者の全身的背景や環境リスク因子によって、この順序に「例外的な判断」が生じるケースが存在します。この視点は教科書にはあまり記載されておらず、経験を積んだ歯科医・歯科衛生士が暗黙知として持っているものです。


たとえば、糖尿病のコントロールが不良な患者(HbA1c 8%以上の目安)の場合、SRPによる菌血症リスクが高まるため、医科との連携を先行させることが優先されます。治療開始前に内科主治医へ情報提供書を送付し、血糖コントロールの改善を確認してから縁下処置へ進む流れが、安全な歯周基本治療の実践につながります。これは検査の次に「連携確認」というステップが追加されるイメージです。


全身状態の把握が条件です。


また、急性歯周膿瘍を呈している患者では、通常の「検査→TBI→スケーリング」という順序が一部変更されます。急性症状の緩和(排膿・洗浄・応急的な抗菌薬投与)を最優先し、急性期が落ち着いてから正式な歯周精密検査および本格的なTBIを開始するのが原則です。急性炎症の最中に精密検査を行っても正確なプロービング値が得られず、TBIへの患者の集中力も低下します。いいことですね、この順序は患者の負担軽減にもなります。


さらに、骨粗鬆症治療薬(特にビスホスホネート製剤)を服用している患者では、SRPや外科処置に際してMRONJ(薬剤関連顎骨壊死)のリスクが生じます。服薬状況の把握と処方医への確認が治療着手前に必須であり、場合によっては休薬期間(「薬剤休暇」)の設定が必要になります。これらの対応を怠ると、患者に重大な健康被害をもたらすリスクがあります。


日常的に見落としやすい全身的リスク因子のチェックには、「歯周治療のガイドライン2022」の医療面接項目が有用です。初診時のルーティンチェックリストとして院内に共有しておくことを推奨します。



歯周病と全身疾患の関連性、ならびに医科との連携方法についての詳細解説が掲載されています。
歯周治療のガイドライン2022(日本歯周病学会・PDF)


歯周基本治療の流れ⑥:SPT・メインテナンスへの正しい移行と維持期の管理

再評価で歯周組織の安定が確認できたら、「歯周病安定期治療(SPT)」または「メインテナンス」への移行が次のゴールです。この二つは保険上の区分が異なり、混同することで算定ミスにつながるため正確に理解しておく必要があります。


SPTは「歯周炎が治癒に至らず、一部に炎症の残存や深いポケットが存在するが、全体として病状が安定している状態」に適用されます。一方、メインテナンスは歯肉炎または歯周炎が「治癒」と判断された後の定期的な予防管理です。再評価時に「完全な治癒」ではなく「安定」と判断される場合がほとんどであり、実臨床ではSPTへの移行が多くなります。


つまり「SPT」と「メインテナンス」は別物です。


SPTの実施間隔は、患者の口腔衛生状態・全身的リスク・再発リスクに応じて設定しますが、一般的には3〜4ヶ月に1回が標準とされています。定期的なプロビング・PCR測定・PMTC(専門的機械的歯面清掃)を組み合わせることで、再発の兆候を早期に察知できます。


メインテナンスを継続しブラッシングをしっかり行えた場合、歯周病の再発率は1.5%程度まで低下するという報告もあります(南町田歯科クリニック参考データ)。逆にメインテナンスを中断した患者では、数年以内に歯周ポケットが再悪化するリスクが高まります。長期にわたる患者との信頼関係が、歯周基本治療の最終的な成否を決めるといっても過言ではありません。


なお、SPT継続中の定期検査でポケット深さが4mm以上に再悪化した場合は、いったんSPTを中止し、必要に応じて歯周基本治療(再SRPやP処置)を再開します。維持期は「治療の終わり」ではなく「治療の継続」という認識を、患者だけでなくスタッフ全員が持つことが大切です。


維持期が最重要です。


SPT・P重防(歯周病重症化予防治療)の算定要件と移行フローを整理したい場合は、以下の資料が実務上の参考になります。
歯科のSPT(歯周病安定期治療)の算定要件は?流れや間隔(3tei.jp)


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