多根歯の根が分かれる場所では、症状が全くない時点で既に重篤な病変が進行していることがあります。
根分岐部病変とは、複数の根を持つ奥歯(大臼歯)の根と根の間に、歯周病による骨吸収と歯肉退縮が生じた状態です。上顎大臼歯は一般的に3根、下顎大臼歯は2根の構造を持ちますが、その分岐部分は解剖学的に複雑であるため、一度病変が発生するとプラークコントロールが困難になります。
根分岐部に発生する理由は、この領域の構造にあります。下顎大臼歯の分岐部底部には根間稜という隆起が高頻度に存在し、器具が到達しにくい環境です。さらに上顎では3本の根が複雑に配置されるため、スケーリング・ルートプレーニングの効果が限定的になります。
歯周病が進行して分岐部に侵襲すると、患者はほぼ無症状のまま病変が進行することがほとんどです。実際には初期から中等度(CLASS1からCLASS2)の段階では腫れや痛みが生じず、気付いた時点で既に相当進行している状態になっています。
この分類は水平方向の骨吸収の程度を基準とする方法です。歯の幅(歯冠幅径)を基準に分類し、プローベをプローブを水平に挿入した時の進入深さで判定します。
1度は、プローベが分岐部に入るものの、歯の幅の3分の1以内の浅い骨吸収です。
この段階でも患者に自覚症状はありません。
X線では骨吸収が見られない場合が多いため、診断には必ずファーケーションプローブを用いた水平的な検査が必須です。この段階での早期発見が歯の保存を大きく左右します。
2度は、プローベが歯の幅の3分の1以上奥に進入しますが、根分岐を完全に貫通していない段階です。骨が部分的に破壊されており、スケーリング・ルートプレーニングでの改善の余地があります。ただし、通常の器具では根分岐部の深部まで器具が到達しないため、外科的アプローチが必要になる場合も多いです。
3度は、プローベが分岐部を完全に貫通する最も進行した状態です。根間に存在する骨がほぼ完全に吸収されており、歯周組織再生療法か、あるいは歯根分割やヘミセクション等の切除療法を検討する段階になります。
Glickmanの分類は1953年に提唱された臨床的分類で、根分岐部がどの程度露出しているかを基準とします。この分類は外科治療の難易度判定に優れています。
1級では、根分岐部の歯根膜に炎症が限局し、肉眼的にもX線写真上でも歯槽骨の破壊が認められません。
つまり、病変は歯根膜内に限定されている状態です。
この段階での診断には、深い歯周ポケットの存在確認とファーケーションプローブの使用が重要です。
2級は、歯槽骨に部分的な破壊がみられるものの、プローベは分岐部にわずかにしか入りません。根分岐部はまだ歯肉に覆われたままで、臨床的に露出していない状態です。再生療法による骨再生の可能性が比較的高い段階です。
3級では、プローベが根分岐部を完全に貫通し、歯槽骨の破壊が著しいです。
しかし根分岐部はまだ歯肉下に存在します。
この段階では、トンネリングと呼ばれる特殊な治療(分岐部を意図的に露出させ清掃性を高める方法)が検討されます。
4級は最も進行した状態で、根分岐部が完全に露出し、患者が視認できる状態です。病変は非常に進行しており、歯を保存できる可能性は著しく低下します。
診断の正確性は、使用する検査器具と方法によって大きく変わります。通常の歯周プローブだけでは検出困難なため、複数の診査法を組み合わせることが重要です。
歯周ポケット検査は、分岐部に深いポケットが存在するかを確認する最初のステップです。しかし垂直的な深さを測定するだけでは、水平方向の骨吸収の程度が判明しません。この検査だけで判断すると、病変を見落とす可能性があります。
ファーケーションプローブの使用は、根分岐部の水平的な骨吸収を正確に測定する唯一の方法です。特殊な先端形状を持つこのプローブを、分岐部に水平に挿入して進入深さをmmで計測します。歯の幅の目盛りを基準に判定するため、定量的で再現性の高い診断が可能になります。このステップを省略すると、CLASS1やCLASS2の初期病変を見落とすリスクが高まります。
X線検査はデンタルX線で骨吸収の大まかな程度を確認できますが、根分岐部の複雑な立体構造を2次元で捉えるため、病変の全容を把握しにくいです。最近では、CBCT(3次元コーンビームCT)の活用により、根分岐部周囲の骨吸収の範囲、根間稜の位置、感染の広がりを立体的に評価できるようになりました。CBCTを使用することで見落としが大幅に減少し、治療計画の精度が向上します。
歯の動揺度と咬合状態の評価も重要です。強い咬合力が根分岐部への圧力を増加させ、病変の進行を加速させることがあります。
根分岐部病変は初期から中等度では患者の自覚症状がほぼゼロに近いため、医師側の検査精度に診断が大きく依存します。痛みや腫れといった自発症状を待っていては、既に相当進行した状態になってしまいます。
通常のプローブを用いた検査では、垂直的なポケット深さだけが評価されます。根分岐部は歯肉下の奥深くに存在するため、プローブが到達困難な領域です。特に下顎臼歯の舌側分岐部や上顎臼歯の近遠心分岐部は、解剖学的に器具が到達しにくく、プロービング検査の精度が落ちやすいです。
診断の遅れの臨床的影響は深刻です。メタ解析によると、根分岐部病変を有する歯は、病変がない歯と比べて約2倍の歯喪失リスクを持ちます。さらに進行度に応じてリスクが上昇するため、早期発見の重要性は計り知れません。CLASS1の段階で発見・治療できれば、歯の予後は大きく改善されます。
適切な器具と検査手順を備えていない診療所では、CLASS1やCLASS2の初期病変の大多数を見落とすことになります。これは患者の長期的な歯の保存に直結する問題です。
各分類段階は、推奨される治療法と強く関連しており、分類の正確な理解が治療計画を左右します。
CLASS1の場合、非外科的治療(スケーリング・ルートプレーニング)による改善が期待できます。定期的なプロフェッショナルクリーニングと患者のセルフケア強化で、病変の進行を抑制できる段階です。ただし、根分岐部の深部に到達した歯石を完全に除去することは難しく、定期的な経過観察が不可欠です。
CLASS2では、多くの場合に外科的治療が必要になります。歯周組織再生療法(成長因子であるリグロスやエムドゲイン、骨補填材などを使用)により、失われた骨の再生を促す治療が検討されます。ただし、根分岐部の複雑な解剖学的形態により、完全な骨再生は困難な場合が多く、CLASS2からCLASS1への改善を目標とすることが現実的です。
CLASS3では、根分岐部病変を完全閉鎖することはほぼ不可能です。治療選択肢として、トンネリング(分岐部を意図的に露出させ清掃性を高める方法)、ルートセパレーション(歯根を分割して2本の歯にする方法)、ヘミセクション(重度の1根を抜去する方法)、あるいは抜歯が検討されます。
参考資料:根分岐部病変の分類と治療法について、より詳しい情報は日本歯周病学会のガイドラインを参照してください。
プラークコントロールが困難な領域の治療戦略については、精密診査を基盤とした計画立案が成功の鍵です。
根分岐部病変の重症度分類と具体的な診査方法について(ひぐち歯科クリニック)
根分岐部病変の再生療法における新しいアプローチと長期予後については、以下のリソースが参考になります。