サージカルステントを使えば必ずフラップレス手術ができると思っていませんか?実は骨量不足の症例では、ステント使用でも切開が必要になるケースが7割以上あります。
歯科情報
サージカルステントとは、インプラント手術前に撮影したCTデータをもとに、補綴物の装着を考慮した適正な位置にフィクスチャーを埋入するためのガイド装置です。透明なアクリルレジン製のマウスピースに似た形状をしており、手術中に口腔内へ固定して使用します。
単なる「位置の目安」と思われがちですが、実際には多岐にわたる機能を持っています。これが原則です。
具体的に、サージカルステントには以下の5つの機能があります。
これらを一度の装置で確認できる点が、サージカルステントの最大の価値です。つまり補綴主導のインプラント治療の実現が目的です。
日本歯周病学会の評議員・専門医を対象とした調査(2010年)では、インプラント外科処置でガイドステントを使用すると回答した歯科医師は73%でした。残り27%は症例によって使用しないケースがあるということで、決して全症例に必須の器具ではありません。
参考:日本歯周病学会会員のインプラント治療に関するアンケート調査報告(使用率73%のデータを確認できます)
日本歯周病学会 インプラント治療アンケート調査報告(PDF)
サージカルステントはオーダーメイドで作製されます。歯科医師と歯科技工士が密に連携し、患者ひとりひとりの口腔内に合わせた設計が必要です。
作製の基本的な流れは以下の通りです。
試適での適合確認が最も重要です。試適で浮きがある状態のまま手術を行うと、設定した埋入位置がすべてずれてしまうため、取り返しのつかない結果につながります。
ちなみに、隣在歯部分はアンダーカットになる領域を含めないように、頬側面および舌側面の歯冠長の約1/3だけをカバーする形状にする必要があります。アンダーカットを含めてしまうと着脱ができなくなるため注意が必要です。
参考:サージカルステントの作製手順について詳しく解説されています
「サージカルステント」と「サージカルガイド」は混同されやすいですが、精度・製作方法・費用・適応の点で明確な違いがあります。
| 比較項目 | サージカルステント | サージカルガイド |
|---|---|---|
| 精度 | 参考レベル(手技依存) | CT+3Dシミュレーションによる高精度 |
| 製作方法 | 手作業(歯科技工士による) | CAD/CAM・3Dプリンタによるデジタル製作 |
| 費用(目安) | 比較的低コスト | 5万〜12万円程度(追加費用) |
| フラップレス対応 | 条件付き | 適応症例で対応可能 |
| 埋入誤差(報告値) | 開始点平均1.26mm・角度5.42度 | 平均0.4mm程度まで低減可能 |
誤差の数値を見ると、差が大きいように感じられるかもしれません。しかし実際の臨床では、骨質の状態がCT画像上の所見と一致しないケースも多く、「ガイドを使えば絶対安全」とは言い切れないのが現実です。
サージカルガイドにも限界はあります。口腔内スキャンデータと骨情報(CT)を重ね合わせる際のマッチング誤差が生じる場合があり、このズレが最終的に神経・上顎洞との距離に影響することがあります。また、専用スリーブはドリルの根本方向を規定しますが、先端の傾きまでは完全制御できない構造的な制約もあります。
使い分けの基準としては、骨状態が良好で解剖学的リスクが低い単純症例はサージカルステントで対応でき、審美領域や複数本同時埋入・骨量に余裕がない症例ではデジタルサージカルガイドの使用が推奨されます。症例ごとの判断が原則です。
参考:サージカルガイドの利点と見落とされがちなリスクについて解説されています
サージカルステントを使用した代表的な術式が「フラップレス手術」です。これは歯肉をメスで大きく切開せず、ピンポイントで穿孔してインプラントを埋入する低侵襲な方法です。
フラップレス手術の主なメリットは次の通りです。
しかし、フラップレス手術はすべての症例に使えるわけではありません。厚生労働省の「歯科インプラント治療指針」でも、フラップレス手術の適用には「CTの情報から作製されるサージカルステントが必要」とされており、同時に「外科の原則から外れるため偶発症のリスクがある」とも明記されています。
参考:フラップレス手術の適応について厚生労働省の見解が示されています
フラップレス手術が適応となるのは、主に以下の条件がそろった症例に限られます。骨量・骨質が十分であること(インプラント周囲に最低1〜2mm以上の骨が確保できること)、CTで骨の状態が明確に把握できること、隣在歯・神経・血管との距離が安全マージンを保てること——この3点が揃う場合が基本です。
骨隆起がある場合や、骨造成が必要なケースでは、サージカルステントを使用していてもフラップ手術を選択しなければならないことがあります。これは厳しいところですね。サージカルステントを使うからフラップレスができる、という発想ではなく、CT診断で適応症例を厳選した上でサージカルステントを活用するという順番が重要です。
手術の直前に必ず口腔内で試適し、ステントの浮きがないことを3点以上で確認する習慣を徹底することが、安全なフラップレス手術の前提条件です。
サージカルステントの話は「手術精度の向上」で終わりがちですが、実はインプラントの長期予後にも関係する要素を含んでいます。これは見落とされやすい視点です。
補綴主導型の埋入設計ができていない場合、上部構造(被せ物)の軸方向が歯槽骨の骨軸とずれることがあります。このとき咬合力が斜め方向にかかり続けることで、インプラント周囲骨に過剰な側方力が加わります。骨吸収を引き起こす一因となり、長期的なインプラント周囲炎リスクを高める可能性があります。
つまり、サージカルステントは手術当日の安全性だけでなく、5年・10年先の骨保存にも影響するということですね。
実際、インプラント体の生着率は97%程度とされていますが、長期的な骨吸収やインプラント周囲炎による脱落リスクは別に存在します。正確な埋入位置・方向の設計が、補綴物の咬合力分散に直結するため、サージカルステントによる事前計画の質は予後にも直接関係します。
また、上部構造の固定方式(セメント固定かスクリュー固定か)によって、サージカルステント上の穿孔位置の設計も変わります。前歯部でスクリュー固定を行う場合は基底結節部位が理想的な埋入軸位置となり、セメント固定では切端部が基準となります。これを間違えると後から修正が効かないため、治療計画の段階で補綴担当者と術者が十分に情報を共有しておくことが不可欠です。これが条件です。
さらに、現在はデジタルワークフローの進歩により、口腔内スキャナーとCBCT画像を統合した3Dシミュレーション上でサージカルステントを設計し、3Dプリンタで出力するケースも増えています。このデジタルステントは従来のアクリルレジン手作業のものより再現精度が高く、補綴→埋入→最終補綴装着までのチェーンをデジタルで一貫管理できる点で、長期予後の質の均一化にも貢献しています。
参考:CTとデジタル技術を活用したガイドサージェリーの概要が示されています