スクリュー固定と骨折治療の基本と臨床の注意点

顎骨骨折におけるスクリュー固定の種類・適応・合併症リスクを歯科医従事者向けに解説。骨折線上の歯の扱い方や術後管理のポイントも知っていますか?

スクリュー固定による骨折治療の適応と臨床ポイント

骨折線上の歯は「抜くのが当然」と思っていませんか?実はガイドラインでは、感染率に有意差がないとして「抜歯しないことを弱く推奨」しています。


この記事でわかること
🔩
スクリュー・プレート固定の種類と選び方

チタン製・吸収性・ロッキングプレートの特徴と、顎骨骨折への適応の違いを整理します。

⚠️
骨折線上の歯・感染リスクの考え方

ガイドラインが示す「抜歯すべきかどうか」の根拠と、術後感染予防のポイントを解説します。

🦷
術後管理・プレート除去のタイミング

チタンプレートの除去が必要な時期と、除去しない場合のリスクについて臨床的な視点で解説します。


スクリュー固定の種類と顎骨骨折への適応


顎骨骨折の手術的治療において、スクリュー固定(内固定)は今日の標準的アプローチのひとつです。使用する器具は主に「チタン製ミニプレート+スクリュー」ですが、その構造や固定原理を正確に理解しておくことが臨床の質に直結します。


スクリューの種類は大きく分けて、皮質骨スクリュー(コルチカルスクリュー)と海綿骨スクリュー(キャンセラスボーンスクリュー)の2種類があります。皮質骨スクリューはピッチ(ねじ山の間隔)が細かく引き抜き強度が高いため、下顎骨の緻密骨に対して用いられます。一方、海綿骨スクリューはピッチが粗く柔らかい骨への食いつきに優れており、上顎骨や海綿骨部位に適しています。


プレートとスクリューの組み合わせとしては、従来型のミニプレートとロッキングプレートの2種類が主に使われます。ロッキングプレートはスクリューのヘッドがプレートのホールにロックされる構造で、骨とプレートの間に隙間があっても安定した固定が得られます。これが条件です。しかし、日本口腔外科学会の診療ガイドライン(2015年改訂版)では「チタン製プレートまたはチタン製ロッキングプレートのどちらを使用してもよい(推奨度なし/エビデンスの質:非常に低い2D)」と記されており、現時点でいずれかが明確に優位であるというエビデンスはありません。意外ですね。


プレートの種類 固定機序 主な適応 特徴
ミニプレート(従来型) スクリューが骨皮質を把持 下顎角・体部骨折 薄型・口腔内アプローチしやすい
ロッキングプレート スクリューヘッドがプレートに固定 粉砕骨折・骨粗鬆症骨 緩み防止・骨血流を保ちやすい
吸収性プレート 骨癒合後に体内吸収される 小児・再手術が難しい症例 除去手術不要・固定強度はやや劣る


顎角部骨折については「ミニプレート1枚(口腔内アプローチ)」と「ミニプレート2枚(経頬的アプローチ)」を比較した研究もありますが、ガイドラインでは「2枚固定を行わないことを弱く推奨(2D)」とされています。1枚法のほうが侵襲が小さく、顔面皮膚の切開を避けられる点が評価されています。これは使えそうです。


なお、スクリューは材質もポイントです。チタン合金製は骨との生体適合性が高く、MRI検査にも干渉が少ないため長期留置に適しています。ステンレス鋼は剛性が高い反面、骨との一体化(オッセオインテグレーション)が進みすぎると除去時に困難を伴うことがあります。


参考:日本口腔外科学会・日本口腔顎顔面外傷学会「口腔顎顔面外傷 診療ガイドライン 2015年改訂版」
口腔顎顔面外傷 診療ガイドライン 2015年改訂版(日本口腔外科学会)


骨折線上の歯の抜歯とスクリュー固定後の感染リスク

下顎角骨折では、骨折線上に第三大臼歯(親知らず)が存在するケースが多く、「この歯は感染予防のために抜歯すべきか」という判断に迷う場面が臨床では頻繁に生じます。


結論は明確です。「下顎角骨折線上の歯は術後感染予防を目的として抜歯しないことを弱く推奨する」というのが、現行の診療ガイドラインの立場です。抜歯群と非抜歯群を比較した研究では、全体の感染率に有意差はなかったことが報告されています。これが基本です。


ただし、条件があります。注意しなければならないのは、「口腔内アプローチで整復固定した場合は、口腔外アプローチより感染率が高かった」という報告も同時に示されている点です。術式の選択が感染リスクに影響する可能性があるため、骨折線上の歯の有無だけでなく、アプローチの方向も含めた総合判断が必要です。


また、「すでに感染している歯が存在する場合はこのCQの対象外」とも明記されています。慢性根尖病巣や深い齲蝕がある歯については、感染源となるリスクが高いため、個別に判断する必要があります。これは必須です。


スクリュー固定後の感染合併症の発症率については、下顎角骨折の研究(1プレート法 vs 2プレート法の比較)で、全体として23〜34%の術後合併症発生率が報告されたデータもあります(1プレート固定法34.6%、2プレート固定法26.8%)。合併症の内容には咬合不整・感染・麻痺・プレート除去・顎間固定の追加などが含まれており、感染だけではありません。こうしたデータは、治療方針のリスク説明を行う際にも根拠として使えます。


骨折部の感染が実際に起こった場合は、抗菌薬投与だけでは不十分で、スクリューの緩みや脱落を招きやすくなります。感染が重症化するとスクリューの抜去と再固定が必要となる場合もあり、患者への説明とフォローアップ体制が臨床上の鍵です。


  • 🦠 感染リスクが高い状況:骨折線上に感染歯が存在する場合、口腔内汚染が高度な場合
  • 🔍 感染の早期サインに注意:発熱・腫脹・排膿・スクリューのぐらつき
  • 🩺 対応:早期に抗菌薬投与と創部のデブリードマン、状況によっては内固定材の除去を検討


参考:下顎骨骨折の骨折線上の歯と感染の関係を解説した臨床ブログ
下顎角骨折線上の歯と術後感染の関係(アクアデンタルクリニック)


骨折後のスクリュー固定とチタンプレートの除去タイミング

「スクリューやプレートは骨癒合後に必ず除去しなければならない」と考えている歯科従事者は少なくないかもしれません。しかし実際には、チタン製内固定材の除去は必須ではなく、状況によって判断が分かれます。これがポイントです。


一般に骨が仮骨により癒合するまでの期間は、下顎骨で4〜6週間程度が目安です。その後、骨性癒合が完成するのは術後6か月〜1年程度とされており、チタンプレートの除去はこの時期以降に行われます。手稲渓仁会病院などでは「通常、骨性癒合が終了する手術後6ヵ月〜1年を経過したところで除去する」との方針が示されています。


では、なぜ除去しないケースもあるのでしょうか?チタンは生体適合性が高く、長期間体内に留置しても組織への悪影響が少ないため、「不快感や合併症がなく、日常生活に支障がなければ除去しなくてよい」という考え方があります。実際、診療ガイドラインでも「プレート除去を希望しない場合は、チタン製プレートを除去しない選択肢もある」と明記されています。


一方で、チタンを入れたままにすることのリスクもあります。


  • ⚡ スクリューの緩みや破折が起きた場合は安定した固定が得られなくなる
  • 🦠 スクリュー周囲に感染が生じた場合は除去が必要になる
  • 📷 MRI撮影時のアーチファクトが周辺組織の評価を妨げることがある
  • 🔄 後日インプラント治療を行う際に、スクリューが埋入の障害になる場合がある(除去が必要になることも)


特にインプラント治療との絡みは見落とされがちな視点です。下顎骨骨折後の症例でインプラント埋入を検討した際に、以前のプレート固定に使用したスクリューが障害となり、先にスクリューを除去しなければならなかったという症例報告も存在します。骨折の治療後に将来のインプラント計画がある患者では、あらかじめ除去の必要性を念頭に置いた説明と計画が求められます。


また、小児症例では発育中の骨の成長に伴いプレートが骨に埋没(骨内埋没)するリスクがあるため、成長期のうちに除去しておくことが推奨されます。厳しいところですね。


参考:顎骨骨折後のプレートとスクリュー除去のタイミングを詳しく解説
下顎骨を骨折したら口腔外科へ|受けられる治療や術後のリハビリ(口腔外科Doc)


スクリュー固定後の骨癒合と術後管理の実際

スクリューとプレートで骨折部を固定した後の骨癒合は、「整復後すぐに完成する」と思われることがありますが、実際には段階的なプロセスをたどります。骨癒合のステップを理解した上で術後管理を行うことが、合併症回避と患者指導の質を高めます。


骨折後の癒合は大まかに次の段階で進みます。炎症期(受傷後〜2週)→仮骨形成期(2〜6週)→骨化・リモデリング期(6週〜数か月)という流れです。プレートとスクリューが果たす役割は「骨が安定した環境で癒合できるよう支持すること」であり、骨折を直接くっつけるものではありません。つまり骨は自力で治るということですね。


顎間固定については、観血的整復固定術(プレート+スクリュー固定)を実施した後でも、「術後の顎間固定を行うことを弱く推奨する(2D)」というのがガイドラインの見解です。ただし、同じガイドラインの注記には「術後の顎間固定の有無で差は認めなかった」とも記されており、実際は術者の経験や骨折のタイプ・安定性によって判断が異なります。


プレート使用時の顎間固定期間は約2週間程度とされており、プレートを使わない保存療法では約3〜4週間の固定が必要とされています。顎間固定中の患者は食事が流動食に制限されるため、栄養管理と口腔内の清潔維持への支援も欠かせません。


術後のフォローアップでは以下の点を定期的に確認します。


  • 🦷 咬合の正確な回復(術前と同じ咬合が再現されているか)
  • 📐 開口量の回復(正常開口は40mm前後が目標)
  • 🔬 X線・CTによる骨癒合の確認(仮骨の形成、スクリューの位置変化の有無)
  • 🧫 感染の早期発見(排膿・局所の熱感・スクリューの動揺)


術後の骨癒合率については、チタン固定と吸収性固定を比較した研究(2026年1月に報告)で「術後3か月時点での骨癒合率はチタン群96.7%、吸収性群93.3%」と両群でほぼ同等であったことが示されています。吸収性プレートは手術時間が有意に延長する傾向があったものの、感染率については両群で有意差がありませんでした。


なお、術後感染が生じた場合、スクリューが緩んだまま放置することは骨折の転位(再ズレ)を招く可能性があります。感染の初期段階で積極的に介入することが、最終的な骨癒合率の維持と再手術回避につながります。


参考:下顎骨骨折治療の吸収性固定とチタン固定を比較した最新研究
下顎骨骨折治療における吸収性固定システムとチタン固定の比較(CareNet Academia)


歯科矯正用アンカースクリューと骨折治療スクリューの違い—見落とされやすい混同リスク

歯科領域では「スクリュー」という言葉が、顎骨骨折の内固定器具と、歯科矯正アンカースクリュー(TAD:Temporary Anchorage Device)の2種類に対して使われています。両者は外見が似ていますが、適応・設計・使用目的が大きく異なります。この違いを正確に把握しておくことは、特に口腔外科と矯正歯科を横断して診療にかかわる従事者にとって重要です。


まず設計が異なります。骨折固定用のミニスクリューは直径が1.5〜2.5mm程度で、ミニプレートとともに骨折部を強固に固定するために設計されています。一方、矯正用アンカースクリューは直径1.2〜2.0mm、長さ6〜12mm程度と小型で、歯槽骨や顎骨に一時的に植立して矯正力の支点(アンカー)として機能します。矯正治療終了後に抜去することが前提です。


また使用目的も異なります。骨折固定スクリューは「骨折部の安定と骨癒合の補助」が目的であるのに対し、アンカースクリューは「矯正装置を介した歯の移動に安定した支点を提供すること」が目的です。


混同してはいけない理由は実用上のリスクにあります。骨折固定に用いる機器を矯正用として流用したり、その逆のことをしたりすると、固定強度の不足や骨損傷のリスクが生じます。実際、日本矯正歯科学会は「骨接合用品を矯正用アンカースクリューとして流用することは設計目的が異なる」として注意を促しており、専用のアンカースクリューガイドラインを作成・公開しています(第二版)。これが原則です。


アンカースクリューは歯根と歯根の間に植立されることが多いため、植立位置や角度を誤ると歯根を損傷するリスクがあります。臼歯頬側歯槽部への植立では6mm長径が最も安全とされており、位置の判定にはパノラマX線写真やデンタルX線写真の活用が推奨されています。


比較項目 骨折固定用スクリュー 矯正用アンカースクリュー
直径 1.5〜2.5mm 1.2〜2.0mm
使用期間 骨癒合まで(6か月〜1年、長期留置あり) 矯正治療中のみ(数か月〜2年程度)
使用目的 骨折部の固定・安定 矯正力の支点提供
プレートとの組み合わせ あり(ミニプレートと併用) なし(単独植立)
抜去タイミング 骨癒合後に適宜(または留置) 矯正治療終了後に必ず抜去


参考:矯正用アンカースクリューの適正使用を定めた公式ガイドライン
歯科矯正用アンカースクリューガイドライン 第二版(日本矯正歯科学会)




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