上顎の海綿骨が多い部位では、インプラントの成功率が下顎より約2〜4%低く、D4骨質に至っては86.5%まで落ちます。
骨は一見すると単純な硬組織に見えますが、実際には外層と内層で全く異なる構造を持つ複合組織です。まず基本を整理しておきましょう。
骨の外側を包む層が「皮質骨(ひしつこつ)」で、「緻密骨(ちみつこつ)」とも呼ばれます。骨の断面で見たとき、シェルのように骨全体を覆う硬くて密な層です。組織学的には骨単位(ハバース系)が規則的に並んだ緻密な構造をしており、強度が非常に高いのが特徴です。全身の骨量のうち約80%は皮質骨が占めています。
一方、骨の内側を満たすのが「海綿骨(かいめんこつ)」で、「骨梁(こつりょう)」と呼ばれる細い骨の柱が格子状に連なるスポンジのような構造を持ちます。骨梁の間の空洞には豊富な血管と骨髄が存在し、造血機能や栄養供給の場となっています。残りの約20%が海綿骨です。
これが基本です。
歯科臨床でこの違いが重要になるのは、硬さ・代謝速度・血流量がまったく異なるからです。顎骨も例外ではなく、外側を皮質骨、内側を海綿骨が構成しています。インプラント体を埋入する際、ドリルで穿孔する部位にどちらの骨が多いかで、手術のアプローチが根本的に変わります。
| 項目 | 皮質骨(緻密骨) | 海綿骨(骨梁骨) |
|---|---|---|
| 構造 | 密で均一な層板構造 | 格子状の骨梁+空洞 |
| 硬さ | 非常に硬い | 柔らかい〜やや硬い |
| 全身骨量比 | 約80% | 約20% |
| 代謝速度 | 基準(1倍) | 約5〜8倍速い |
| 血流・栄養 | 少ない | 豊富 |
| 主な機能 | 力学的支持・保護 | 代謝・造血・カルシウム貯蔵 |
顎骨では、外側の皮質骨が咀嚼力に対するガード役を担い、内側の海綿骨が骨のリモデリングや栄養代謝を主に担当します。つまり役割分担が明確です。
参考:皮質骨・海綿骨の基本構造と機能について
骨はどのような構造になっているの? – 看護roo!(カンゴルー)
「海綿骨の代謝速度は皮質骨の約8倍」という数値は、単なる教科書的な知識ではありません。これが臨床の現場に直結する場面があります。
海綿骨は表面積が非常に大きいため、骨芽細胞と破骨細胞が関与するリモデリングが活発に行われます。骨梁のネットワーク全体がリモデリングの舞台になるため、皮質骨とは比較にならないほどターンオーバーが速いのです。これはメリットとデメリットの両面があります。
メリットとしては、インプラント埋入後のオッセオインテグレーション(骨結合)が起こりやすいこと。海綿骨の豊富な血流と活発な代謝が、インプラント体周囲への骨形成を促します。
デメリットはこちらです。骨粗鬆症の影響を真っ先に受けるのが海綿骨です。閉経後の女性では、エストロゲン低下に伴い破骨細胞の活性が高まります。代謝が速い海綿骨は最も早く骨量を失います。これは椎体(背骨)や顎骨の奥歯付近に影響として現れやすく、インプラント前評価で見落とせないポイントです。
骨粗鬆症の影響が先に出るのは海綿骨です。
閉経後骨粗鬆症では「タイプⅠ」として海綿骨主体の部位(脊椎など)で先に骨折リスクが上昇し、その後皮質骨にも影響が及ぶとされています。歯科では特に上顎臼歯部が海綿骨の割合が高く、閉経後の女性患者におけるインプラント計画には慎重な骨質評価が求められます。
また、骨粗鬆症治療薬(ビスホスホネート製剤など)を服用中の患者さんでは、海綿骨のリモデリングが薬剤によって抑制されています。経口製剤で5年以上、静注製剤で3年以上の場合は薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)のリスクが上昇するため、必ずお薬手帳で確認する必要があります。抜歯やインプラント手術など骨露出を伴う処置の前後で、医科との連携が必須です。
参考:骨粗鬆症・海綿骨の代謝速度に関する学術情報
骨密度検査 資料PDF(岩井医療財団)
インプラント臨床で世界的に使われる骨質評価の基準が、Lekholm & Zarb(1985年)による4段階分類です。この分類は、皮質骨と海綿骨の比率と密度の組み合わせによって骨質を定義しています。
| 分類 | 皮質骨の厚さ | 海綿骨の密度 | 代表部位 | インプラントへの影響 |
|---|---|---|---|---|
| ⬛ D1(タイプ1) | 非常に厚い | ほぼ存在しない | 下顎前歯部 | 硬すぎて過熱リスク・骨壊死の懸念あり |
| 🟩 D2(タイプ2) | 厚い | 高密度 | 下顎前歯〜臼歯部 | 最も理想的。成功率96〜98% |
| 🟨 D3(タイプ3) | やや薄い | やや低密度 | 上顎前歯〜臼歯部 |
初期固定に工夫が必要。成功率90 |