アバットメントの歯科用途と種類・素材を徹底解説

アバットメントの歯科における用途・種類・素材選択を歯科従事者向けに解説。インターナル・エクスターナル連結の違いや、アバットメント高さが骨吸収に与える影響など、臨床に直結する知識を深められますか?

アバットメントの歯科における用途と種類・素材を正しく理解する

アバットメント高さが1mmだと、3mmより骨吸収が約7倍も大きく出ます。


🦷 この記事のポイント
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アバットメントの基本的な用途

インプラント体(フィクスチャー)と上部構造(クラウン・ブリッジ)をつなぐ「中継パーツ」。噛み合わせ・傾き・高さの調整という5つの役割を持つ。

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種類と連結機構の選び方

既製品・カスタム・ヒーリング・角度付きの4タイプ。連結機構(エクスターナル・インターナル・テーパー)の違いが骨レベルや補綴の安定性に直結する。

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見落としがちな臨床上の注意点

アバットメント高さ・締め付けトルク・素材選択の3点が予後を大きく左右する。特に高さ1mmと3mmでは骨吸収量に約7倍の差が生じることが報告されている。


アバットメントの歯科における基本的な用途と5つの役割


アバットメント(abutment)とは、インプラント体フィクスチャー)と上部構造(クラウンブリッジなど)をつなぐ中継コンポーネントです。ブリッジの支台歯に相当するパーツとイメージすると分かりやすく、インプラント治療において上部構造がどれだけ機能するかは、このアバットメントの選択次第で大きく左右されます。


アバットメントには、臨床上重要な役割が5つあります。




























役割 内容
①連結・固定 インプラント体と上部構造を中継し一体化させる
②咬合調整 人工歯の高さを変えて適切な咬合関係を実現する
③傾き補正 埋入角度のズレを補正し、歯冠軸を理想的な方向に誘導する
④インプラント体の保護 咬合力のクッション的役割を担い、フィクスチャーへの過負荷を軽減する
⑤審美性の確保 チタン色のインプラント体を隠し、クラウンの色調への影響を抑制する


この5つが連動して機能することで、天然歯に近い形態・機能・審美性が実現します。つまり上部構造が「見た目通り」に機能するかどうかは、アバットメントの設計に依存しているとも言えます。


特に③の傾き補正機能は、見落とされやすい重要な用途です。顎骨の骨量が十分でない場合、フィクスチャーを理想的な垂直方向に埋入できないケースがあります。そのような症例で「角度付きアバットメント」を用いることで、インプラント体が傾いていても歯冠軸を補正し、機能的・審美的に問題のない上部構造を装着することが可能になります。これが条件です。


アバットメントの歯科用途別の種類|ヒーリング・既製品・カスタムの使い分け

アバットメントは大きく4つのタイプに分類できます。それぞれ用途が異なるため、臨床フェーズに応じた使い分けが必要です。


🔹 ヒーリングアバットメント(治癒用)


インプラント埋入後の軟組織の形態誘導を主目的とした一時的なパーツです。インプラント体を骨に埋め込んだ直後の歯肉は不安定であり、ヒーリングアバットメントを装着することで将来のクラウン装着に備えた理想的な歯肉形態(エマージェンスプロファイル)を整えます。治癒促進と細菌侵入の防止も兼ねており、2回法の二次手術時には欠かせない存在です。


🔹 既製アバットメント(ストックアバットメント)


メーカーが量産した規格品で、最もよく使用されます。ストレートタイプ・角度付きタイプ・プラットフォームスイッチング対応タイプなど、症例に応じて選択できるラインナップが揃っています。コストと製作期間を最小化できる点が最大のメリットです。


🔹 カスタムアバットメント


既製品では対応が難しい症例に使用します。CAD/CAMで個別設計するため、エマージェンスプロファイルや辺縁位置を理想的にコントロールできます。審美領域の前歯部補綴や、骨吸収が著しく歯列の不整合がある症例で特に有効です。これは使えそうです。


🔹 角度付きアバットメント


フィクスチャーの埋入角度と歯冠軸のズレを補正するパーツです。ストローマン社製品ではストレート・17°・30°の3種類が用意されており、補正できる軸角度の幅が広い設計になっています。インプラントが完全な垂直埋入でない場合、角度付きアバットメントが歯列との整合性を担保します。



  • 📌 ヒーリングアバットメント:軟組織形態の誘導・保護(一時使用)

  • 📌 既製品アバットメント:標準的な補綴症例で広く使用

  • 📌 カスタムアバットメント:審美領域・複雑症例に使用

  • 📌 角度付きアバットメント:埋入角度の補正が必要な症例に使用


以上が種類別の基本的な用途区分です。ただし各メーカーでコネクション形状や対応規格が異なるため、メーカーを跨いだ互換使用は原則として行いません。


アバットメントの素材別の特徴と歯科用途への適合性

アバットメントの素材は、臨床成績に直結する選択要素です。現在歯科臨床で主に使用される素材は4種類あります。それぞれの特性を正確に把握して症例に合わせた選択をすることが基本です。


🦷 チタン(純チタン)


生体親和性が非常に高く、化学的安定性に優れた素材です。金属アレルギーのリスクが低く、骨との結合も良好。強度面では後述のチタン合金に劣る部分がありますが、アバットメントとフィクスチャーが同系素材になるため、界面でのひずみが生じにくいという利点があります。フィクスチャーが純チタン製の場合、アバットメントも純チタンで統一することが推奨されています。


🦷 チタン合金(Ti-6Al-4V等)


チタンにアルミニウムやバナジウムを加えた合金で、純チタンより機械的強度が高く、アバットメントの主流素材です。骨・軟組織との親和性は高く、側方力への耐性も優れています。ただしアルミニウム・バナジウムを含む分、金属アレルギーの可能性がわずかに高まる点には注意が必要です。


🦷 ジルコニア(酸化ジルコニウム)


白色系の審美素材で、前歯部補綴において特に有用です。歯肉が退縮してもチタンのような金属色透過が起きにくく、審美的なリスクを長期的に低減できます。強度はチタンに匹敵するレベルですが、破折リスクは相対的に高く、臼歯部など強い咬合力がかかる部位への使用には慎重な検討が求められます。


🦷 金合金


生体親和性・加工性に優れた素材で、インプラント体との馴染みがよいとされます。ただしチタン系・ジルコニア系と比較すると長期的なインプラント周囲炎リスクがやや高いとされ、近年の臨床では使用頻度が減少傾向にあります。







































素材 強度 審美性 生体親和性 主な用途部位
純チタン 普通 フィクスチャーと素材統一が必要な症例
チタン合金 高い 臼歯部・全顎修復など強度重視症例
ジルコニア 高い 前歯部など審美重視症例
金合金 普通 加工性重視・特定症例(使用頻度は減少傾向)


素材選択は審美性・強度・費用・患者の金属アレルギー歴を総合的に判断することが原則です。


アバットメントの連結機構の違いと歯科臨床上の用途比較

アバットメントの連結機構は、長期的な骨レベルの安定性・スクリュー緩みの頻度・印象精度に大きく影響します。連結方式は主に3種類あり、それぞれ異なる臨床特性を持ちます。


🔗 エクスターナルジョイント(外部連結)


アバットメントがフィクスチャーの外側で嵌合するタイプです。上部構造の製作が比較的容易で着脱の自由度が高く、多数歯欠損のインプラント症例で活用されることが多い方式です。しかしアバットメントスクリューが緩みやすく、側方力への耐性がインターナルに比べて低いという弱点があります。マイクロリーケージによる感染リスクも指摘されており、単独歯補綴では使用頻度が下がっています。


🔗 インターナルジョイント(内部連結)


アバットメントがフィクスチャーの内腔に嵌合するタイプです。嵌合接触面積が大きいため、側方力による応力集中が分散され、スクリュー緩みが起こりにくい構造です。単独歯や少数歯のインプラント補綴で標準的に用いられており、現在の主流方式と言えます。回転防止機構が内腔に設けられているため、補綴の位置再現性も高い特徴があります。


🔗 テーパージョイント(モースコーンタイプ)


インターナルジョイントの中でも、フィクスチャー上部にテーパー形状を付与した方式です。アバットメントをねじ込むとくさび効果で固定力が増し、スクリューへの依存度が低くなります。緩みに対する耐性が最も高く、マイクロリーケージも抑制されやすい方式です。単独歯・少数歯を中心に使用されます。


厳しいところですね、スクリュー緩みの問題。メーカー各社の添付文書では、最終補綴時のアバットメントスクリュー締め付けトルクは35 Ncm前後(ストローマン:35 Ncm、ノーベルバイオケア:35 Ncm、プラトン:25〜30 Ncm)が推奨されており、このトルク管理を誤ると緩みや破折につながります。トルクレンチによる数値管理が条件です。


連結機構の比較を下表にまとめます。

























連結方式 緩みにくさ 側方耐性 主な適応
エクスターナル 多数歯欠損・フルブリッジ
インターナル 単独歯・少数歯欠損
テーパー 単独歯・審美領域


アバットメント高さの選択が骨吸収に与える影響|見落とせない臨床的知見

ここは検索上位記事では触れられていない独自の視点です。アバットメントの「高さ(トランスミュコーサル部の長さ)」が、インプラント周囲骨の吸収量に影響を与えることが、近年の臨床研究で明らかになっています。


2021年にJournal of Clinical Periodontologyに掲載されたRCT(無作為化比較試験)では、高さ1mmのアバットメントと高さ3mmのアバットメントを用いた患者を比較した結果、以下の顕著な差が確認されました。



  • 🔴 高さ1mmのアバットメント:近心骨吸収0.17mm、遠心0.21mm

  • 🟢 高さ3mmのアバットメント:近心骨吸収0.03mm、遠心0.03mm


数字だけ見ると小さく感じるかもしれませんが、骨吸収量の差は近遠心ともに約7倍です。インプラントが数十年単位で機能することを考えると、この差は長期的なクレスタルボーンの維持に大きく影響します。


これが基本です。インプラント周囲炎の発症リスクを下げるためにも、適切な粘膜貫通部の高さを持つアバットメントを選択する意識が、臨床家には求められます。


さらに同研究では「歯肉の厚さ(粘膜の厚み)が骨吸収量と直接相関しない」という結果も得られており、「粘膜が厚ければ骨は守られる」という従来の思い込みを否定する知見として注目されています。意外ですね。


アバットメント高さの選択基準としては、以下の3点が目安です。



  • ⭕ 粘膜の厚みを正確に計測し、それに合わせた貫通部高さを選ぶ

  • ⭕ 審美領域では軟組織プロファイル形成を優先し、高さを確保する

  • ⭕ 短いアバットメントを「節約目的」で使うことはリスクにつながる


アバットメント高さの選定は、見た目に直接関係しないため後回しにされがちです。しかし骨レベルの長期安定という観点では、素材や連結方式と同等かそれ以上に重要な判断基準になり得ます。


インプラントの周囲骨評価についての研究論文は、以下の日本口腔インプラント学会誌でも多数報告されています。


参考文献(アバットメント高さと骨吸収の関係を示した臨床研究が収録されています)。
日本口腔インプラント学会 学術用語集 第5版(PDF)


アバットメント装着時のトルク管理や骨レベル評価に関する詳細な臨床情報については、以下も参考になります。




歯科技工 審美インプラント技工におけるアバットメント形態を考える -カスタムアバットメントの優位性と歯科用CAD/CAMシステムの活用について 2018年11月号 46巻11号[雑誌]