スクリューが折れても、折れた部分を除去せず長さ1.4mm以上のスクリューに置換するだけで機能上の問題が生じないことが研究で示されています。
アバットメントスクリュー破折は、インプラント補綴後のトラブルの中では緩みほど頻繁ではありませんが、一定の割合で発生する合併症です。鶴見大学歯学部附属病院インプラント科が2022年4月から2023年3月の1年間に実施したトラブル横断調査によると、対象期間中に確認されたアバットメント・補綴用スクリューの破折は4症例でした。同じ期間にスクリューの緩みは22症例、インプラント周囲炎が29症例と報告されており、破折は緩みの約5分の1程度の頻度といえます。
少ない件数ですね。しかしそれだけに、発生時の対応に不慣れな術者が多いのも事実です。
発生頻度が低いからこそ、破折に直面したときのプロトコルを事前に整理しておくことが、臨床上の損失(再埋入・患者クレーム・治療費負担)を防ぐ最短ルートになります。また、Jung ら(2012年)の報告では、インプラント単独冠における補綴後5年間のスクリュー緩み発生率は8.8%と示されており、緩みが繰り返されてから破折へ進行する症例が少なくないことも把握しておく必要があります。
| トラブル種別 | 症例数(1年間/鶴見大調査) |
|---|---|
| インプラント周囲炎 | 29 |
| アバットメント・スクリューの緩み | 22 |
| アクセスホールレジンの脱離・破損 | 17 |
| 上部構造の前装材料の破折 | 13 |
| アバットメント・スクリューの破折 | 4 |
補綴後トラブル全体のうち破折が占める割合は決して大きくはないものの、対処を誤るとインプラント体の内腔を傷つけてインプラント体ごと撤去・再埋入が必要になるという深刻な事態に発展しかねません。発生頻度が低いからこそ、緩みの延長線上にある破折のリスクを常に視野に入れて治療計画を立てることが重要です。
参考:鶴見大学歯学部附属病院による補綴後トラブル実態調査(2022〜2023年)を含む論文。破折原因の分類表や緩み対策の最新エビデンスが収録されています。
インプラント補綴後のトラブルと対策(日本補綴歯科学会誌2025)
アバットメントスクリュー破折の原因は「装着時」と「機能後」の2段階に分けて整理すると、臨床現場での予防策が立てやすくなります。
装着時の原因として特に多いのが、過大な力でのねじ込みです。メーカー推奨トルクを超えた力がかかると、スクリューの降伏点を超えて微細な変形が生じ、破折への起点となります。次に、アバットメントスクリューの挿入方向のミスがあります。スクリューがインプラント体の長軸に対してわずかでも傾いた状態でねじ込まれると、局所的な応力集中が起きて破折リスクが高まります。さらに、不適合な上部構造(パッシブフィットでない補綴物)を装着した場合、スクリューには締結時から余分なひずみが加わった状態になります。つまり装着直後からすでにダメージが蓄積しているということです。
機能後の原因は複数あります。不適合な上部構造によるマイクロムーブメントが代表的で、マイクロリーケジとともにスクリューへの繰り返し荷重をもたらします。補綴設計不良によるオーバーロード、経時的な咬合変化による荷重ベクトルの変化、そして金属疲労も重要な因子です。歯ぎしりや食いしばりといったブラキシズムが存在する症例では、通常の咬合力を上回る持続的な過重が加わり続けるため、疲労破壊が起きやすくなります。
これが基本です。加えて、インプラント内部への荷重方向や大きさを客観的に評価する確立した方法が現在も存在しないという点も、破折リスクの見落としを招く要因になっています。
参考:アバットメントスクリュー破折の原因分類(表2)・緩み原因分類(表3)が詳細に記載されています。
インプラント補綴後のトラブルと対策(日本補綴歯科学会誌2025)
破折したアバットメントスクリューがインプラント体内腔に残存した場合、除去は段階的なアプローチで行います。破折直後であれば、スクリュー頭部を失った残存片には締結時の張力がかかっていないため、反時計方向への回転で取り出せることが多いとされています。
第一段階として、探針など先端の鋭利なインスツルメントを用いて、破折断面の端に引っ掛けながら反時計方向に回転させる方法があります。第二段階は、超音波スケーラーの歯肉縁下除石用細いチップを使用する方法です。スクリューの断面の中心部から少しずらした位置にチップを当て、反時計方向の振動でスクリューを回転させます。水を出しながら行い、発熱とインプラント内腔への接触を避けることが最重要です。第三段階として、メーカー純正または汎用の除去キットを使用する方法があります。専用リムーバークローをリムーバーガイドに挿入し、反時計方向に回して破折部を緩めた後にピンセットで取り出します。
⚠️ 内腔を傷つけるとバリが発生し、除去が著しく困難になります。破折断面以外に器具を当てないことが原則です。
直径わずか2mm足らずの内腔での操作になります。拡大鏡(ルーペ)やマイクロスコープの使用が非常に有効で、除去の成功率を大きく左右します。いずれの方法でも内腔を傷つけてしまった場合、またはどうしても除去できない場合は、インプラント体の撤去が必要になることもあります。実際に専門的なインプラント治療を行う歯科医師であっても、最終的にインプラント体の除去・再埋入を選択するケースがあることは認識しておく必要があります。
| 除去ステップ | 使用器具 | 主なポイント |
|---|---|---|
| ステップ1 | 探針・鋭利なインスツルメント | 断面端に引っ掛け反時計方向に回転 |
| ステップ2 | 超音波スケーラー(細チップ) | 断面中心を少しずらして当て、十分に注水しながら使用 |
| ステップ3 | 専用スクリュー除去キット | リムーバークローで逆回転、ピンセットで取り出し |
除去後は必ず新しいアバットメントスクリューを試適し、スムーズにねじ込めること、そして適正トルクで締め込めることを確認してから最終補綴に進みます。
参考:京セラメディカル社による破折スクリュー除去の具体的な3ステップと注意事項が記載されています。
破折したアバットメントスクリューの除去方法(京セラメディカル TIPSシート)
破折を未然に防ぐためには、適正なトルク管理が最も基本的かつ効果的な対策です。インプラントメーカーごとに推奨トルク値は異なり、例えばストローマン社製アバットメントでは25Ncm前後、ノーベルバイオケア社製では30〜35Ncmが標準的とされています。自動車のホイールナット締め付けトルクが一般的に約90〜110Ncmであることを考えると、歯科インプラントのスクリューは非常に繊細な締め付け管理が要求される領域といえます。
締め直しには特に重要なエビデンスがあります。Weissらの報告(2000年)によると、アバットメントスクリューを一度締め付けた後、5分後に再度締め直すと緩みが小さくなることが示されています。これはプリロード(締結軸力)の安定化を促す効果があるためで、「5分後に1回締め直す」という簡単な手順が緩みを防ぎ、疲労破折のリスクを下げることにつながります。これは使えそうです。
トルクレンチ自体の精度維持も見落としがちなポイントです。校正は6〜12ヶ月に1回が推奨されており、未校正のトルクレンチを使用すると、設定値どおりのトルクがかかっていない可能性があります。スクリューを締めた感覚だけに頼るのはダメ、というのが臨床上の落とし穴でもあります。
参考:インプラントメーカーごとの推奨トルク値一覧表と、トルクレンチ校正の推奨頻度について詳しく解説されています。
インプラントにおけるトルクレンチの使い方と適正トルク値(海岸歯科室)
アバットメントスクリュー破折に関して、臨床家の間では「長いスクリューのほうが安全」という認識が持たれがちです。しかしこの常識は、研究データによって覆されています。
Kim ら(2012年、JOMI)の研究では、アバットメントスクリューの長さとピーク歪み・破折歪みの間に有意な関係は認められず、長いアバットメントスクリューを使用することの力学的優位性がないことが示されました。さらに驚くべきことに、研究で使用した最も短いアバットメントスクリュー(長さ1.4mm、爪の白い部分の幅程度の長さ)の破折荷重は、成人男性の最大咬合力の目安とされる約51.6kgfを上回っていました。
つまり「長さ1.4mm以上であれば、長さの違いが破折荷重に大きく影響しない」という結論です。
この知見は、破折したスクリューを除去できなかった場合の対応にも直結します。従来は破折片が残ったままでは次のスクリューが使えないと考えるのが一般的でしたが、この研究は「残存断片を除去せず、より短い(長さ1.4mm以上の)スクリューに置換しても問題とならない可能性がある」という新しい臨床判断の根拠を提供しています。
もっとも、この知見をそのまま全症例に適用することには慎重である必要があります。短いスクリューに関する生体力学的検討はまだ十分とは言えず、インプラントメーカーごとの設計・素材の違いも考慮する必要があります。ただし、除去操作によってインプラント体内腔を傷つけるリスクと、短いスクリューへの置換リスクを天秤にかけた臨床判断が現実的な場面もあります。どちらのリスクが患者に対してより低いかを、インプラントメーカーに相談しながら判断するアプローチが求められます。
加えて、「スクリューの緩みは破折の前兆」という視点も独自の予防的観点として重要です。緩みが繰り返されるケースでは、不適合な上部構造・ブラキシズム・咬合変化といった根本原因がそのまま残っていることを意味します。緩みのたびに締め直すだけで原因精査をしないことが、結果として疲労破折を招くリスクにつながります。緩みが2回以上繰り返される場合は、ベリフィケーションジグによる位置確認や上部構造の再製作を検討することが推奨されます。
参考:アバットメントスクリューの長さと破折荷重に関する研究(Kim BJ et al., JOMI vol.27 No.4, 2012)の解説が掲載されています。
アバットメントスクリューの破折対処法(堀インプラントクリニック)