プラットフォームスイッチングを採用しても、軟組織が薄いと骨吸収が止まらないことがあります。
プラットフォームスイッチングは、偶然のミスから生まれた技術です。
インプラントはフィクスチャー(人工歯根)・アバットメント(連結支台)・上部構造(人工歯)の3パーツで構成されており、フィクスチャーとアバットメントが接合する部分を「プラットフォーム」と呼びます。従来の設計ではこの2つの直径が同じか近似しているのが一般的でした。
ところが、ある研究者が誤って直径の小さいアバットメントをフィクスチャーに装着してしまいました。数年後にX線で確認したところ、正規サイズのインプラントでは骨吸収が進んでいたのに対し、「間違えた」インプラントには骨吸収がほとんど生じていなかったのです。この偶然の発見がプラットフォームスイッチングの起源です。
その後、Lazzara と Porter が2006年に国際誌でこの概念を正式に発表し、世界中の歯科インプラント界に広まりました。つまり、現在のインプラント治療における重要な設計哲学のひとつが、「ミス」によって誕生したわけです。意外ですね。
現在では、ストローマン・ノーベルバイオケア・アストラテック・京セラ(FINESIA)など多くの主要メーカーが自社システムにプラットフォームスイッチング設計を採用しています。構造を正確に理解することが、臨床での使いこなしに直結します。
フィクスチャーとアバットメントの接合部には、避けられない微小な隙間(マイクロギャップ)が存在します。ここは細菌が定着しやすく、炎症性因子が周囲骨に拡散して骨吸収を引き起こしやすい部位です。これが骨が減っていく根本原因のひとつです。
従来型では、このマイクロギャップが骨縁のすぐそばに位置するため、炎症が直接骨に波及しやすい状況でした。従来型インプラントでは、埋入後数年で周囲骨が約1〜2mm吸収されるというデータが多くの論文で示されています(イメージとしては、A4用紙の厚さ約0.1mmを10〜20枚分)。
プラットフォームスイッチングでは、アバットメントの直径をフィクスチャーより意図的に細くすることで、接合部(マイクロギャップ)が骨縁から内側に離れます。これにより炎症性因子の拡散範囲が骨から遠ざかり、骨への刺激が大幅に軽減されます。つまり、炎症を骨縁から「引き離す」構造です。
もうひとつの重要な効果が、軟組織スペースの確保です。アバットメントとフィクスチャーの段差部分にくびれが生じることで、歯肉が乗っかるスペースが生まれます。このスペースに歯肉が入り込むことで歯肉の厚みが増し、血流量も増加します。結果として、粘膜の細菌抵抗力が高まります。
日本口腔インプラント学会誌に掲載されたQUIRYNENらのメタ分析では、直径差が0.4mm以上の場合に統計学的に有意な骨吸収抑制効果が確認されています。つまり、「どのくらいずらすか」という量も重要な条件です。
プラットフォームスイッチングは万能ではありません。効果を発揮するには、守るべき条件があります。
まず埋入深度についてです。プラットフォームスイッチングは、フィクスチャーのプラットフォームを骨縁と同じかわずかに骨縁下に位置させることで効果を発揮します。骨縁上に出てしまうと段差が骨から遠すぎてメカニズムが成立しなくなります。歯肉縁を基準とするならば、プラットフォームを歯肉縁から約4mm根尖側に位置させることが審美性維持の目安とされています(日本補綴歯科学会 日高 2012年)。
次に、軟組織の厚みも見落とせない要素です。研究によれば、粘膜が薄い症例ではプラットフォームスイッチングによる骨吸収抑制効果が限定的になる可能性が示唆されています。歯肉の厚みが1.5mm未満の薄いバイオタイプでは、インプラント周囲の骨吸収が起こりやすいという報告もあります(FOR.org・軟組織の状態ガイドライン)。薄い歯肉の患者には、結合組織移植などの軟組織増大術と組み合わせることで長期安定性が期待できます。
また、隣接部の骨量についても基準があります。インプラントと天然歯の隣接間距離は1.5mm以上、インプラント同士では3mm以上の骨が必要とされており、これを下回ると歯間乳頭や隣接骨の吸収が進みやすくなります。骨量が十分に確保できていることが条件です。
前歯審美領域では特に注意が必要です。日本人の上顎前歯は唇側骨壁が非常に薄く、その多くがbundle bone(束状骨)で構成されるため、抜歯後に急速に吸収されやすい特性があります。プラットフォームスイッチングを採用しても、骨量や軟組織量が足りないままでは審美的結果は得られません。これが基本です。
日本補綴歯科学会誌(2012):審美的インプラント修復におけるプロトコル(埋入位置・軟組織管理の具体的基準を解説)
構造のメリットは大きい一方で、デメリットも存在します。
✅ 主なメリット
⚠️ 主なデメリット・注意点
「プラットフォームスイッチングを選べば大丈夫」という思い込みは危険です。適応を誤ると、骨吸収が進行して後に大掛かりな骨造成が必要になるリスクもあります。これはデメリットが大きいですね。
| 比較項目 | 従来型インプラント | プラットフォームスイッチング |
|---|---|---|
| 骨吸収量(術後1年) | 約1.0mm前後 | 約0.3〜0.5mm |
| 歯肉退縮リスク | 高め | 低め(軟組織条件が整う場合) |
| インプラント周囲炎リスク | 相対的に高め | 相対的に低め |
| パーツ互換性 | 広い | メーカー・サイズ指定が必要 |
| コスト | 標準 | やや高め |
プラットフォームスイッチングは「入れたら終わり」ではありません。長期成功のためには、術後管理と多職種連携が欠かせません。
インプラント周囲炎の罹患率は患者ベースで19〜56%、インプラント単位では10〜43%とも報告されており(ROOS-JANSÅKER ら)、その最大の原因はプラークによる細菌感染です。構造でリスクを下げつつも、プラークコントロールが不十分では台無しになります。
歯科衛生士が押さえておくべきポイントがあります。
また、どのメーカーのインプラントが埋入されているかをカルテで正確に把握し、アバットメントのサイズや設計情報を記録しておくことが、将来の補綴交換やトラブル対応の際に大きく役立ちます。情報の記録は必須です。
プラットフォームスイッチングを採用したインプラントでも、術後のメンテナンスが適切でなければ周囲炎が進行します。「設計でリスクを下げ、メンテナンスでリスクをゼロに近づける」という考え方が、長期成功の原則です。
日本口腔インプラント学会:口腔インプラント治療指針2024(インプラント周囲炎の診断基準・管理方針の最新ガイドライン)