ポーセレンジャケットクラウンにビトレマーを使うと、破折リスクが上がります。
ビトレマーは、3M(現ソルベンタム)が製造・販売するグラスアイオノマー系レジンセメントの製品群です。正式分類は「歯科合着用グラスポリアルケノエート系レジンセメント」であり、管理医療機器として薬事承認を受けています(医療機器認証番号:20700BZY00468000)。
グラスアイオノマーセメントとレジンを組み合わせた「レジン添加型(レジン強化型)」であることが最大の特徴です。具体的には、グラスアイオノマーの酸塩基反応(フルオロアルミノシリケートガラスとポリカルボン酸の反応)と、HEMAを含むメタクリレートによる化学重合反応の2種類の硬化メカニズムによって硬化します。
従来の純粋なグラスアイオノマーセメントは機械的強度が低い点が弱点でしたが、ビトレマーはレジン強化によりその弱点が大幅に改善されています。象牙質やエナメル質との化学的な接着力も備えており、メーカーデータによれば従来型セメント(リン酸亜鉛セメントなど)と同等以上の保持力を示すとされています。
グラスアイオノマーならではの特性として「フッ素徐放性」も引き継いでいます。硬化後のセメントからフッ素イオンが継続的に放出されるため、マージン周囲の二次う蝕リスクを抑制できます。これは合着用セメントとしては非常に価値の高い性質です。
つまりビトレマーは、強度・接着性・フッ素徐放性・余剰除去の容易さを兼ね備えた合着用セメントということですね。
歯科材料の基礎知識については、以下の参考資料も役立ちます。グラスアイオノマー全般の特性と分類が詳しく解説されています。
グラスアイオノマーセメントの機能・分類・用途についての基礎解説。
グラスアイオノマーセメントの機能や種類について(新橋しか)
ビトレマーという名称は1つの製品ではなく、複数の製品シリーズを指します。用途によって選ぶべき製品が異なるため、まず各製品の役割を整理しておきましょう。
🔵 ビトレマー ルーティングセメント(粉・液タイプ)
最もスタンダードな合着用製品です。使用目的は「歯科用合着セメント」であり、メタルクラウン・インレー・アンレー・ブリッジ・ポストの合着などが主な適応症となっています。粉末(フルオロアルミノシリケートガラス・過硫酸塩等)と液(ポリカルボン酸・水・HEMA等)を練板紙上で練和して使います。
操作余裕時間は室温23℃で練和開始から約2分30秒。口腔内(37℃)にセットしてから3分以上経過し、余剰セメントがワックス状になった段階で探針等で除去します。X線造影性もあり(アルミニウム厚さ1mm相当以上)、補綴物セット後のレントゲン確認でも判別しやすいのは臨床上メリットが大きいです。
🔵 ビトレマー ペースト / ビトレマー 2ペースト
粉・液タイプの操作ムラをなくし、常に安定した練り上がりを実現するために開発されたペーストタイプです。専用クリッカーで2種のペーストを等量押し出し、20秒練和するだけで使用できます。最初の10秒はしっかり練り込み、次の10秒でなめらかなクリーム状に仕上げるのがポイントです。
ビトレマー 2ペーストはさらに進化しており、各面に5秒の光照射をするだけで余剰セメントを半硬化でき、その後探針でポロッと除去できます。従来は化学重合による硬化を約2分間待つ必要がありましたが、この製品により大幅な作業効率の向上が実現しました。多数歯セットやブリッジのセットにおいて特に重宝します。
🔵 ビトレマー R(充填・支台築造用)
合着用途ではなく、充填や支台築造に特化した製品です。光硬化・グラスアイオノマー反応・ダークキュア反応の3種類の硬化方式(トライキュア型)を採用しており、光が十分に届かない深部でも確実に硬化します。支台築造用ブルーシェードの粉末も用意されており、術後の確認がしやすくなっています。
製品ラインが明確に分かれているということですね。用途に合った製品を選ぶことが前提条件です。
ソルベンタム 2025年版製品カタログでビトレマーRの仕様・品番・価格を確認できます。
ソルベンタム歯科用製品総合カタログ 2025(Solventum)
ビトレマー ルーティングセメントには、明確な禁忌が存在します。添付文書(2023年11月改訂 第7版)に明記されている内容を、現場で特に重要な点に絞って解説します。
🔴 人体への過敏症リスク
本材およびアクリレート類に発疹・皮膚炎等の過敏症の既往歴がある患者への使用は禁忌です。また過硫酸塩に過敏な患者への使用も禁止されており、過敏な術者もアレルギー性の呼吸器症状を起こす可能性があるため使用を避ける必要があります。
🔴 ポーセレン・レジン系補綴物への使用は非推奨
添付文書に明記されているのに見落としがちな注意点として、ポーセレンインレー・アンレーおよびレジンインレー・アンレーへの使用は「審美的問題から推奨しない」とされています。セメントが白色のため透けて見える場合があります。さらに重要なのは、セット後にわずかにセメントが膨張する性質があるため、「メタルによる裏打ちのないポーセレンジャケットクラウンおよびレジンジャケットクラウン」には破折のリスクがあり使用しないこととされている点です。
オールセラミック系補綴物が普及した現代の臨床では、このリスクを意識しておくことが重要です。
🔴 ユージノール系製品との相互干渉
ユージノールを含む仮封材・仮着材が残存していると、ビトレマーの合着力が大きく低下します。仮封材の除去後は通法で水洗乾燥を行い、取り残しがないことを確認してから使用する必要があります。また保管場所もユージノール系製品と分離することが求められています。
🔴 酸化剤によるセメント硬化阻害
過酸化水素水(オキシドール)や次亜塩素酸ナトリウム(歯科用アンチホルミン)などの酸化剤は、セメントの硬化を妨げます。根管内の洗浄後などに酸化剤が残留している状態でビトレマーを使用すると、適切な硬化が得られない可能性があります。合着前には酸化剤を使用しないことが原則です。
これは使えそうな知識ですね。複数の注意事項が組み合わさる症例では特に意識が必要です。
ビトレマー ルーティングセメント添付文書(第7版・禁忌・使用方法等)の詳細。
ビトレマー ルーティング セメント 添付文書(PDF)
ビトレマーの性能を最大限に発揮するためには、操作手順の各ステップで正確な作業が求められます。以下に、粉・液タイプ(ルーティングセメント)を例に、操作上のポイントを具体的に整理します。
練和前の準備
標準粉液比は1.6対1(重量比)です。インレー1個には小(赤)スプーン1杯・液1滴、クラウンには大(白)スプーン1杯・液2滴が目安となります。計量前には粉末瓶を振ってふわふわの状態にしてから計量することが大切です。粉末は湿度に非常に敏感なため、使用後は即座にキャップを閉じることが鉄則です。
練和のポイント
プラスチック製スパチュラで行い、速やかに液を延ばし広げ、その上に粉末を持ってくるように強く練和します。操作余裕時間を長くしたい場合は、練板紙上の狭い範囲で練和して水分蒸発を最小化することと、液のボトルを事前に冷蔵庫で冷やしておくことが有効です。30秒以内に均一に練り上がる状態が理想です。
金属製スパチュラでの練和は注意が必要です。金属製スパチュラは練和性が高いため、操作余裕時間と硬化時間が短くなります。意図しない早期硬化を防ぐためにも、プラスチック製スパチュラの使用が推奨されます。
硬化を遅らせる・速める要素
| 硬化が速くなる条件 | 硬化が遅くなる条件 |
|---|---|
| 室温が高い | 室温が低い(液を冷蔵) |
| 粉末を多めにした | 粉末が少ない |
| 金属製スパチュラ使用 | プラスチック製スパチュラ使用 |
| 湿度が高い | 適正湿度環境 |
余剰セメント除去のタイミング
口腔内(37℃)にセットしてから3分以上経過し、余剰セメントがワックス状になったことを探針で確認してから除去します。内部は酸素が遮断されており温度も高いため、見かけ上柔らかくても内部は適切に硬化しています。一方、練板紙に残ったセメントは酸素に触れ温度も低いため、硬化が非常に遅くなります。これに惑わされて早めに除去を始めると、マージン部での密封不全につながるリスクがあります。
硬化途中にセット後の噛みしめを繰り返させると、セメントが破壊されて脱落の原因となります。そのままの力で噛み続けてもらう指示が必要です。
また、既製メタルポストおよび鋳造コアを切削する場合は、セット後10分間待つことが求められています。セット直後の切削は強度不足につながるため注意が必要です。
硬化時間と操作余裕時間の確認が条件です。
ビトレマーの大きな差別化ポイントのひとつは、他の合着用セメントにはない「フッ素徐放性」です。この性質が臨床においてどのような意義を持つかについて、詳しく掘り下げます。
フッ素徐放性とは、硬化後のセメントからフッ素イオンが継続的に放出される性質のことです。放出されたフッ素は周囲の歯質(エナメル質・象牙質)に取り込まれ、フルオロアパタイトを形成することで耐酸性を向上させ、二次う蝕の発生を抑制します。
重要な点として、ビトレマーのフッ素徐放はセメント装着後の初期だけでなく、長期にわたって継続します。さらにフッ素を含む製品(フッ素洗口液など)を口腔内で使用するたびに、セメントがフッ素を吸収・再放出する「リチャージ効果」があることも知られています。つまり、患者が自宅でフッ素配合歯磨剤やフッ素洗口液を使用することで、セメント周囲のフッ素濃度が継続的に高い水準に維持されるということです。
グラスアイオノマーセメントの性質として「水分による溶解性」も存在しますが、ビトレマーはレジン強化型であるため純粋なGICよりも耐溶解性が大幅に向上しています。この点が長期安定性において重要な優位性となっています。
臨床的に特に有用な場面として、次の症例が挙げられます。
- 二次う蝕リスクが高い患者(う蝕活動性が高い・砂糖摂取頻度が多い等)
- 高齢者の根面う蝕リスクが高いケース
- 防湿が難しい下顎臼歯部(唾液分泌量が多い患者など)
- インプラント上部構造のセメント合着(X線造影性があり余剰セメント確認がしやすい)
インプラント周囲炎のリスク管理という観点でも、ビトレマーは重要な位置を占めます。ビトレマーはX線造影性を有しているため、余剰セメントのレントゲンでの確認がしやすく、インプラント周囲組織にセメントを残留させにくいというメリットがあります。これは余剰セメントがインプラント周囲炎の原因となり得るという近年の臨床的課題と直結した優位性です。
いいことですね。患者の長期的な歯の健康に直接貢献できる点が評価されています。
グラスアイオノマーセメント全般のフッ素徐放性・臨床的意義・種類別比較は以下で詳しく確認できます。歯科医師・歯科衛生士ともに一読の価値があります。
臨床でよく直面する場面として、「この症例にビトレマーを使うべきか、それとも他のセメントを選ぶべきか」という判断があります。ビトレマー ルーティングセメントの位置づけを正確に把握するために、使い分けの考え方を整理します。
ビトレマーが特に向いている症例
ビトレマーはグラスアイオノマー系セメントとして、支台歯形成が適切で、通常の維持力で対応可能な幅広い症例に用いられます。特に前述のフッ素徐放性や余剰セメント除去の容易さから、日常の合着ルーティンに組み込みやすい製品です。添付文書には「幅広い症例に安心して使える」という表現がされており、実際に多くの臨床家がルーティン合着用として使用しています。
また、練板紙上のセメント除去も白色で視認しやすく、特に辺縁部・歯肉溝内のセメント残留を防ぎやすい点が評価されています。
保持力に不安がある症例ではリライエックスへの切り替えを
添付文書および製品カタログには「適合・保持に不安がある症例にはリライエックス ユニセム 2 オートミックス等を検討する」との記載があります。たとえば支台歯の軸面が短い症例、テーパーが大きすぎる症例、外れやすい形態の補綴物などでは、より強い接着力を持つレジンセメント系製品への変更が推奨されます。
つまり「ビトレマー=汎用」「リライエックス系=保持力重視の症例」という使い分けが基本です。
粉・液タイプとペーストタイプの選択
ペーストタイプはクリッカーで等量押し出すだけで練和できるため、術者・スタッフによる粉液比の誤差が生じません。高橋デンタルオフィスの臨床報告(歯界展望 Vol.109 No.5)によれば、接着強度はエナメル質・象牙質ともにペーストタイプの方が粉・液タイプよりもわずかに優れており、セメント被膜厚さも約15µmで粉・液タイプとほぼ同等かそれ以下とされています。
クリニックの規模や患者数によっては、毎回安定した性能を発揮できるペーストタイプへの移行が、長期的な品質管理の面でも合理的な選択です。
多数歯セット・ブリッジには2ペーストが有利
ビトレマー 2ペーストは、光照射(各面5秒)によって余剰セメントをその場で半硬化させ、取り除けるタイミングを術者がコントロールできます。特にブリッジや連続補綴物のセットでは、セメントが先に硬化してしまうリスクをコントロールしながら作業できる点が大きなメリットです。
アンテリアからポステリアまで効率よく補綴物を装着したいケースや、多忙な診療スタイルのクリニックでは、2ペーストの導入により1症例あたりのチェアタイムを大幅に短縮できます。
ビトレマー ルーティングセメントの詳細な製品情報・口コミ・評判はこちらで確認できます。
ビトレマー ルーティング セメント製品詳細(OralStudio)
また、歯科衛生士向けのセメント基礎知識として役立つ教材として以下が参考になります。
歯科衛生士として知っておきたい基礎知識(長瀬書店 サンプルPDF)