合着用セメント歯科における種類と選択基準

合着用セメントは歯科治療で欠かせない材料ですが、種類や使い分けを誤ると補綴物の脱離や歯周炎のリスクが高まります。あなたの医院では適切な選択ができていますか?

合着用セメント歯科における基本知識と選択

インプラント周囲炎の81%はセメント取り残しが原因です。


この記事の3つのポイント
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合着用セメントの基本分類

グラスアイオノマーセメント、リン酸亜鉛セメント、レジン強化型など特性別の使い分け

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セメント残留による重大リスク

インプラント周囲炎の81%がセメント取り残しに起因する臨床データの詳細

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適切な選択と操作のポイント

補綴物の材質・臨床状況に応じた最適なセメント選択の実践ガイド


合着用セメントの定義と接着性セメントとの違い


歯科臨床において、補綴物を歯に固定する方法には「合着」と「接着」という2つの概念が存在します。


これらは似て非なるものです。


合着用セメントは、機械的嵌合によって補綴物を維持する材料です。歯質と補綴物の間の微細な凹凸にセメントが入り込み硬化することで固定されます。対して接着性レジンセメントは、分子間レベルで化学的に結合し維持力を発揮します。つまり合着が「はめ込んで固定する」方法なら、接着は「素材同士を融合させる」というイメージです。


臨床現場では、合着用セメントの方が操作性に優れています。防湿などの条件が厳密でなくても一定の維持力が得られるため、唾液のコントロールが難しい症例でも比較的安心して使用できます。一方で接着性セメントは、条件が確立されていない場合、接着力が著しく低下するリスクがあります。


ただし維持力という点では接着性セメントの方が優れています。どちらを選択すべきかは、補綴物の材質や臨床環境、患者の口腔内状況を総合的に判断する必要があります。


合着用セメントの主要な種類と特性比較

合着用セメントには、歴史的に使用されてきたリン酸亜鉛セメントから、現代の主流であるグラスアイオノマーセメント、さらにレジン強化型グラスアイオノマーセメント(RMGIC)まで、複数の種類が存在します。


リン酸亜鉛セメントは1960年代から歯科用セメントのスタンダードとして長期に渡り使用されてきた材料です。液は燐酸水溶液、粉は酸化亜鉛が主な組成で、優れた強度と耐久性を持ちます。しかし硬化時に発熱反応があり、練和時にガラス練板で熱を逃がす必要があります。また歯質への接着性はほとんど持っていません。


グラスアイオノマーセメントは、世界中で最もよく使われる合着用セメントです。フッ素徐放性があり、歯質に対して化学的に接着する特性を持ちます。練和時の反応熱はほとんど出ないため、ガラス練板を使う必要がありません。操作性に優れ、金属冠や陶材焼付鋳造冠の合着に適しています。


レジン強化型グラスアイオノマーセメント(RMGIC)は、従来のグラスアイオノマーセメントの物性を改良したタイプです。圧縮強度を高めるためにレジン成分が含まれていますが、装着様式は合着に分類されます。ペーストタイプで色が違うため練和状態が確認しやすく、光照射によるタックキュアで余剰セメントの除去が容易という特徴があります。


被膜厚さという点では、現代のセメントの多くが約5μmという薄さを実現しています。これは東京ドーム5個分の面積に対して、わずか髪の毛1本程度の厚みということです。この薄さが補綴物のセット後の咬合調整を最小限にする鍵となります。


GC歯科材料ハンドブック:セメントの種類と特性の詳細データ


合着用セメントの適応症例と使い分けの実際

合着用セメントの選択は、補綴物の材質によって大きく異なります。金属冠やメタルボンドなど従来型の補綴物には、グラスアイオノマーセメントやレジン強化型グラスアイオノマーセメントが第一選択となります。


金属系修復物の場合、支台歯と修復物の両方にプライマー処理が不要です。


これが臨床の大きなメリットです。


時間短縮につながります。ただし、ジルコニア冠やCAD/CAM冠など、より維持力を求めるケースでは、後述する接着性レジンセメントの使用も検討されます。


インプラント上部構造の固定では、セメント合着方式を選択する場合があります。


しかしここで重要なリスクが浮上します。


テキサス大学サンアントニオ校の研究によると、インプラント周囲炎の臨床症状を示す症例の約81%で残留セメントが確認されました。一方、炎症のないインプラントからは残留セメントが検出されませんでした。


この数字は驚くべきものです。10本のインプラントにセメント合着を行えば、8本以上で将来的に周囲炎のリスクを抱えることになる計算です。インプラント1本の再治療費用は数十万円に及ぶため、この選択は医院の収益とレピュテーションに直結します。


余剰セメントの取り残しを防ぐには、合着時の確実な除去操作が必須です。レジン強化型グラスアイオノマーセメントのように、光照射で仮硬化させて一塊で除去できるタイプを選択することで、リスクを大幅に低減できます。フロスを通して隣接面の確認を行い、エキスプローラーで歯肉縁下のセメントを丁寧に掻き出すという基本操作が、トラブル回避の鍵です。


日本歯周病学会誌:インプラント周囲炎とセメント残留の関連性に関する論文


合着用セメントの操作性と硬化特性を理解する

合着用セメントの臨床的成功は、適切な操作時間と硬化時間の管理にかかっています。練和から合着、硬化に至るまでの時間的余裕を把握することで、確実な装着が可能になります。


一般的なグラスアイオノマーセメントの操作余裕時間は約2分から2分30秒です。


これはキッチンタイマー1個分の時間帯です。


練和開始からこの時間内に、補綴物への充填、セット、圧接、余剰セメントの一次除去までを完了させる必要があります。


レジン強化型グラスアイオノマーセメントの場合、光照射によるタックキュア(仮硬化)が可能です。各方向から約3秒ずつ光照射することで、適度な硬さになります。この状態で余剰セメントを一塊として除去できるため、取り残しのリスクが大幅に減少します。完全硬化までは適度な柔らかさを維持するため、歯肉縁下の細かい部分も確実に除去できます。


硬化時間は37℃の口腔内環境で測定され、多くの製品が5分から7分程度で初期硬化します。ただし環境温度や湿度によって多少の変動があることを理解しておく必要があります。冬場の診療室では硬化が若干遅れる傾向があります。


練和時間も重要です。標準練和時間は60秒ですが、粉剤が3滴を超える場合は90秒必要です。練和が不十分な場合や粉剤量が過多の場合、硬化が早まり操作余裕時間が短くなるトラブルが発生します。


つまり練和は丁寧に基本を守るということです。


合着用セメント選択における独自の視点:訴訟リスクと在庫管理の最適化

歯科医療従事者が見落としがちな視点として、セメント選択が医院経営に与える影響があります。特に訴訟リスクと在庫コストの問題は、日常臨床では意識されにくい部分です。


北米を中心とした訴訟社会では、補綴物の脱落や二次齲蝕による患者トラブルが訴訟に発展するケースが少なくありません。そうした地域で長年にわたり高い販売実績を持つ製品は、それだけ信頼度が高いという間接的証明になります。実際、グラスアイオノマーセメントやレジン強化型グラスアイオノマーセメントは、こうした厳しい市場環境でも使用され続けています。


訴訟リスクを考慮すると、適切なセメント選択は医院の防御策になります。たとえばインプラント上部構造にセメント合着を選択する場合、残留セメントによる周囲炎のリスクを患者に説明し、同意を得ておくことが重要です。81%という高い確率でリスクが存在する以上、インフォームドコンセントは必須でしょう。


在庫管理の観点では、セメントの種類増加は経費上昇とスタッフの負担増加に直結します。複数のセメントを使い分けることは理想的ですが、開封後の使用期限管理、各製品の操作法の習熟、在庫切れのリスクなど、実務的な課題が山積みです。


この課題に対する解決策として、ほぼ全ての修復材料に使用できるユニバーサルタイプの接着性レジンセメントと、操作性に優れたレジン強化型グラスアイオノマーセメントの2種類に絞り込むという選択肢があります。前者は防湿が確保できる症例に、後者は唾液コントロールが難しい症例やメタル修復物に使用するという明確な基準を設けることで、スタッフの混乱を防げます。


さらに費用対効果の視点も重要です。グラスアイオノマーセメント12点、レジン添加型グラスアイオノマーセメント14点という保険点数設定を考えると、使用セメントの選択は診療報酬にも影響します。点数が高いから良いというわけではなく、症例に適した選択が結果的に患者満足度と再治療リスクの低減につながり、長期的な医院評価を高めます。


セメント器具の選択も見逃せません。先端が細いセメントスパチュラを使用することで、前歯部の小さい冠や狭い隣接面にもセメントを確実に充填できます。こうした器具への投資は、操作の確実性を高め、結果的にトラブルを減らす効果があります。器具選びという細部へのこだわりが、臨床クオリティの差を生みます。


歯科用セメントの種類まとめ:仮着・合着セメントの詳細な特徴と使い分け




サンホーム工業 流し込みセメント 1.3kg