薬事承認された医療機器を歯科で正しく使う方法

歯科医院で使用する医療機器には薬事承認が必要ですが、その基準や手続きを正確に理解している歯科従事者はどれくらいいるでしょうか?

薬事承認と医療機器:歯科従事者が知るべき基礎と実務

薬事承認を受けていない機器を「試しに」使っただけで、医療機関に行政処分が下った事例があります。


この記事の3ポイント要約
⚖️
薬事承認は「販売」だけの話ではない

医療機器の薬事承認(医薬品医療機器等法に基づく承認・認証・届出)は、製造販売業者だけでなく、使用する医療機関側にも管理義務が生じます。歯科医院が承認外の機器を使用した場合、行政指導や業務停止処分のリスクがあります。

🦷
クラス分類で義務の重さが変わる

医療機器はリスクに応じてクラスⅠ〜Ⅳに分類され、クラスが上がるほど承認・認証の手続きが厳格になります。歯科で頻繁に使うユニットやレーザー機器がどのクラスに該当するかを把握していないと、知らぬ間に法令違反になることがあります。

📋
承認番号の確認が日常業務のリスク管理になる

PMDA(医薬品医療機器総合機構)のデータベースで承認番号を確認する習慣を持つことが、歯科医院のコンプライアンスを守る最も現実的な第一歩です。数分で検索できるため、新規機器導入時の確認フローに組み込むことを推奨します。

歯科情報


薬事承認・医療機器の法的位置づけと歯科への影響

医薬品医療機器等法(薬機法)は、医療機器の製造から販売、そして使用に至るまでを包括的に規制する法律です。歯科従事者にとって日常的に触れる機器——歯科用ユニット、口腔内カメラ、レーザー治療器、CAD/CAMシステムなど——はすべてこの法律の対象となります。


「薬事承認」という言葉を聞くと、製薬企業や医療機器メーカーが申請するもの、という印象を持つ方が多いかもしれません。しかし実際には、医療機関側にも「承認を受けた機器を、承認された用途で使用する」義務があります。これが原則です。


承認外使用(適応外使用)については、薬機法第23条の2の5などに規定があり、承認の範囲を超えた使用は原則として禁止されています。使用者である歯科医師歯科衛生士が「知らなかった」という事情は、行政上の処分において免責事由にはなりません。


知識として持っておくことが防御になります。


具体的に何が問題になるかを整理しましょう。たとえば、海外から個人輸入したホワイトニング機器を院内で使用した場合、その機器が日本国内で医療機器として薬事承認を受けていなければ、未承認医療機器の使用として問題になります。過去には厚生労働省が複数の歯科医院に対して改善指導を行った事例も報告されています。


参考として、薬機法の医療機器に関する規定の全文は以下で確認できます。


医療機器の製造販売承認・認証制度の詳細(厚生労働省医薬・生活衛生局)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/medical_device/index.html


医療機器のクラス分類と歯科で使われる機器の具体例

薬機法における医療機器は、人体へのリスクの大きさに応じて4つのクラスに分類されています。このクラス分類は、承認・認証・届出のどの手続きが必要かを決定する基準であり、歯科従事者が機器を選定・導入する際に必ず把握しておくべき情報です。


クラス分類の概要は以下の通りです。


クラス リスクレベル 必要な手続き 歯科関連機器の例
クラスⅠ 低リスク 届出(製造販売業者) 歯科用ミラーピンセット
クラスⅡ 中程度のリスク 第三者認証または大臣認証 歯科用ユニット、根管治療用器具、歯科用X線装置(一部)
クラスⅢ 高リスク 大臣承認 インプラント体(一部)、骨再生誘導材
クラスⅣ 非常に高いリスク 大臣承認(優先審査あり) 心臓ペースメーカー(歯科での直接使用は少ないが関連知識として重要)


歯科で頻繁に使用されるデジタル印象システム(口腔内スキャナー)やCAD/CAM冠の加工機は、多くがクラスⅡに分類されます。クラスⅡの機器は、第三者認証機関(登録認証機関)による認証を受けた上で市場に出回っています。


クラスⅡが基本です。


しかし、ここで見落とされやすいポイントがあります。同じ「口腔内スキャナー」であっても、診断補助目的か補綴物製作目的かによって薬事上の分類が変わる場合があります。機器の名称だけで判断するのではなく、承認・認証番号と使用目的の記載内容を必ず確認することが必要です。


また、2014年の薬機法施行後、医療機器の認証・承認制度は「薬事法」から「医薬品医療機器等法」へと移行し、規制の枠組みが整理されました。それ以前に取得された承認・認証番号も有効ですが、経過措置期間が終了している機器については改めて確認が必要です。注意が必要な点ですね。


PMDAの医療機器承認・認証情報データベース(検索可能)。
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiSearch/


薬事承認を受けた医療機器の「承認番号」確認方法と実務フロー

承認番号の確認は、数分で完了します。


PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が提供する「医療機器承認・認証情報データベース」を使えば、機器の名称、製造販売業者名、承認番号のいずれかを入力するだけで、その機器が正規に承認・認証を受けているかどうかをオンライン上で確認できます。


歯科医院が新しい機器を導入する際の確認フローとして、以下の手順が推奨されます。


  • 📦 導入前:メーカーまたは販売代理店から承認番号・認証番号を記載した書類(添付文書や認証書の写し)を必ず入手する
  • 🔍 確認作業:PMDAのデータベースで番号と機器名・使用目的の一致を確認する
  • 📁 記録保管:承認番号、添付文書、納品書などを一冊のファイルにまとめて保管する
  • 🔄 定期見直し:年1回程度、保有機器リストと承認情報の突合を行う


記録の保管が条件です。


特に注意が必要なのは、「認証番号が変更された」ケースです。製造販売業者が一部仕様変更を行った際に、認証番号が更新されることがあります。古い番号のまま記録していると、いざ監査が入った際に「承認外機器の使用」と判断されるリスクがあります。


歯科医院に対する立入検査は、都道府県の薬務担当部署が実施します。検査の頻度は施設の種別やリスク評価によって異なりますが、無作為抽出での検査も行われているため、「うちは小さな診療所だから大丈夫」という考えは持つべきではありません。


添付文書の最新版はPMDAの「添付文書等情報検索」からダウンロードできます。印刷して院内に掲示するか、デジタルで管理するかはどちらでも問題ありませんが、スタッフ全員がアクセスできる状態にしておくことが重要です。


PMDA添付文書等情報検索ページ。
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/


薬事承認と医療機器の「未承認使用」が引き起こす法的・経済的リスク

薬機法違反のうち、未承認医療機器の販売・授与等については、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人に対しては1億円以下の罰金)という厳しい罰則が設けられています。これは製造販売業者に対する罰則ですが、使用者側も行政指導や業務改善命令の対象となり得ます。


300万円という数字は、設備投資の計画を一気に狂わせる額です。


実際の行政処分事例として、厚生労働省および各都道府県は「医薬品等行政処分情報」を公表しています。2018年〜2024年の期間においても、歯科関連の医療機器に関わる処分事例が複数報告されており、その多くは「承認を受けていない機器の使用・保管」「添付文書に記載されていない用途での使用」に起因しています。


経済的なリスクとしては、以下の3点が特に重要です。


  • 💸 行政処分による診療報酬の返還:保険診療において未承認機器を使用していた場合、過去にさかのぼって診療報酬の返還を求められる可能性があります。期間が長いほど返還額は増大します。
  • 🚫 業務停止処分による収益損失:業務停止期間中は診療収入がゼロになります。仮に2週間の業務停止となれば、年間売上の約4%が消失する計算になります。
  • 📉 信用失墜による患者離れ:行政処分の情報は公表されます。地域の患者に情報が広まれば、処分後の患者数回復には相当の時間がかかります。


これらはすべて、承認番号の確認という数分の作業で回避できるリスクです。厳しいところですね。


なお、医療機器の不具合や健康被害が発生した場合は、薬機法第75条の2に基づき製造販売業者への報告義務が生じるほか、医療機関側にも「医療事故調査・支援センター」への報告が求められる場合があります。未承認機器による事故は、この義務を果たしていても法的保護が受けられないケースがあることを覚えておきましょう。


厚生労働省の医薬品・医療機器等の行政処分情報(公開リスト)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubutsuranyou/other/gyouseisyobun.html


歯科特有の視点:インプラント・CAD/CAMと薬事承認の落とし穴

歯科の医療機器の中でも、特に薬事承認に関する誤解やグレーゾーンが生じやすいのが「インプラント体・上部構造」と「CAD/CAM関連システム」です。これらは近年の歯科診療で急速に普及した一方、承認制度の理解が追いついていない現場も少なくありません。


まずインプラントについてです。インプラント体(フィクスチャー)の多くはクラスⅢ以上に分類され、大臣承認が必要です。国内で流通しているインプラントシステムの主要ブランドは承認を取得していますが、問題となるのは「同一ブランドの後発品・互換品」です。たとえば、承認を受けたインプラントのアバットメントと互換性があるとして販売されている別メーカーの部品が、独自に承認を取得しているかどうかは、部品単位で確認が必要です。


部品ごとの確認が原則です。


CAD/CAMシステムについては、スキャナー本体、CADソフトウェア、CAM機器(ミリングマシン)、そして使用するブランクディスク(素材)がそれぞれ個別に薬事承認・認証を受けている必要があります。「システム一式で導入したから大丈夫」と思っていても、ブランクを別メーカーのものに変更した時点で、承認された組み合わせから外れる可能性があります。


特に注意したいのは、2022年に保険適用が拡大されたCAD/CAM冠の素材です。保険適用のためには、薬事承認に加えて「保険医療材料としての収載」が必要であり、薬事承認を持っていても保険収載されていない素材を使用した場合は、混合診療の問題が発生します。


保険収載と薬事承認は別の話です。


これは意外に思われるかもしれませんが、薬事承認を受けた材料であっても、保険診療で使用するには別途「保険医療材料等の使用に係る通知・告示」で定められた材料に限られます。この2つの制度の違いを理解しておかないと、院内での素材選定が知らぬ間に保険請求の不適切事例になる可能性があります。


対策として、新たな材料を導入する前に日本歯科医師会や日本歯科商工協会(JDTA)が発行する承認・収載情報のリストを参照することが有効です。また、地域の歯科医師会が定期的に開催する薬事関連の講習会も、最新情報を得るための実践的な手段です。


日本歯科商工協会(JDTA)の薬事・承認情報関連ページ。
https://www.jdta.or.jp/


歯科現場で生じる薬事承認の疑問点は、PMDA相談窓口(対面・メール相談)に問い合わせることで、公式見解を得ることができます。相談は無料で、記録として残すことで万一の際の証跡にもなります。これは使えそうです。


PMDA医療機器相談窓口の案内ページ。
https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/devices/0001.html