承継申請を後回しにすると、医療機器の販売が即日停止になることがあります。
歯科情報
「製造販売承認の承継」という言葉を初めて聞いた歯科従事者の方も少なくありません。これは、医療機器や医薬品の製造販売承認を取得している事業者が、合併・分割・相続・譲渡などによって事業主体が変わる際に、その承認を新しい主体へ引き継ぐための法的手続きです。
根拠となるのは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」です。具体的には薬機法第23条の2の17(医療機器の製造販売承認の承継)が該当します。承継とは「新たに承認を取り直す」のではなく、「既存の承認番号を引き継ぐ」行為であるため、一見すると単純な手続きに見えます。しかし実際には、添付書類の準備、審査期間、行政との折衝など、相応の時間と労力がかかります。
歯科の現場では、クリニックが扱う医療機器(歯科用レーザー、CAD/CAMシステム、デジタルX線装置など)の製造販売業者が合併・再編するケースが増えています。これは直接的に歯科医院の機器管理に影響することがあります。つまり他人事ではないということです。
特に近年は、大手医療機器メーカーによる中小歯科機器メーカーの買収・吸収合併が増加しており、気づかないうちに取引先の製造販売業者が変わっているケースもあります。その場合、承継手続きが正しく行われているかどうかは、歯科医院として確認すべき重要事項のひとつです。承認が無効になっていた場合、その機器を使い続けることが薬機法違反に該当するリスクがあります。
承継が必要な主な場面は次のとおりです。
つまり「事業主体が変わる」すべての場面が対象です。歯科医院の立場からは直接申請する機会は少ないものの、取引先の製造販売業者の変更時には、承継手続きの完了を確認することが求められます。
承継手続きには、大きく分けて「事前準備」「申請書類の作成・提出」「審査期間」「承認取得後の対応」という4段階があります。段階ごとに必要な作業を把握しておくことが、スムーズな手続きの第一歩です。
第1段階:事前準備(承継事由発生前〜発生直後)
まず、承継が発生する事由(合併・分割・相続・譲渡)が確定したタイミングで、自社が保有している製造販売承認品目の一覧を整理します。品目数が多い企業では、この棚卸し作業だけで数週間かかることもあります。これは覚悟が必要です。
次に、承継先(新たな承認保有者となる法人・個人)が製造販売業の許可を保有しているかを確認します。承継先が許可を持っていない場合、承継申請と並行して製造販売業許可の新規申請や変更手続きも必要になります。
第2段階:申請書類の作成・提出
申請先は、品目の種類・クラス分類によって異なります。
歯科用機器で多く使われるのはクラスⅡ〜Ⅲ相当の機器です。デジタルX線装置やインプラント関連機器はクラスⅢに該当するものもあるため、注意が必要です。
主な必要書類(共通)は以下のとおりです。
必要書類の構成は承継原因ごとに異なります。相続の場合は戸籍謄本や遺産分割協議書が加わり、会社分割の場合は分割計画書または分割契約書が必要です。書類に抜けがあると補正を求められ、審査期間が延びます。書類の完成度が手続き全体のスピードを左右します。
第3段階:審査期間
申請後の標準審査期間は、品目の種類や審査機関の混雑状況によって異なります。一般的には数週間〜3ヶ月程度とされていますが、記載内容に不備がある場合は補正対応のため6ヶ月以上かかるケースもあります。審査期間中は、承継前の承認保有者の名義で業務を継続するための「経過措置」について、あらかじめ担当機関に確認しておくことが重要です。
第4段階:承認取得後の対応
承認が下りたら、承認書の記載内容を必ず確認します。承継後の製品表示(添付文書・外装・製品本体のラベルなど)も承認書の記載に合わせて変更が必要なケースがあります。承認書取得で終わりではありません。変更後の表示対応まで含めて「承継手続き完了」と考えるのが原則です。
参考情報として、PMDAの手続き案内ページが詳細な申請要領を掲載しています。申請様式のダウンロードや最新の審査状況の確認にご活用ください。
PMDA(医薬品医療機器総合機構):医療機器の申請・審査に関する情報ページ
歯科医療機器に特有の書類対応について、もう少し深く見ていきましょう。歯科用機器は、その用途や材料の多様性から、承継申請時に注意が必要な品目が多く含まれています。
まず、歯科で頻繁に使われる「歯科用インプラント」や「歯科用CAD/CAMシステム」は、薬機法上の高度管理医療機器(クラスⅢ)に分類されるものが多く、PMDAを通じた承認申請が必要です。これは一般的な医療機器よりも審査が厳格で、技術資料や品質管理体制に関する書類の準備が求められます。
クラスⅢ品目の承継においては、以下の点が特に重要です。
なお、「歯科用合金」や「歯科用セメント」などの材料類は、医療機器ではなく「医薬部外品」または「医療機器」のいずれかに分類される場合があり、根拠法令・申請先が変わることがあります。承継する品目ごとに分類を確認することが必要条件です。
歯科材料・機器を扱う製造販売業者の実務担当者の方は、一般社団法人 日本歯科商工協会(JDTA)や日本医療機器産業連合会(JFMDA)が公開している実務ガイドラインも参考になります。これらの業界団体は、会員向けに承継手続きに関する相談窓口を設けているケースもあります。手続きで不明点が生じたときに相談できる先を事前に確認しておくと安心です。
日本医療機器産業連合会(JFMDA):医療機器業界の法規制・手続きに関する情報を発信する業界団体
また、承継申請に先立ち、「医療機器承認番号」を正確に把握しておくことが作業の基本です。承認番号が不明な場合は、PMDAの「医療機器・体外診断用医薬品情報提供システム(JMDN)」や厚生労働省の承認情報データベースで確認できます。承認番号の確認から始めましょう。
PMDA 医薬品・医療機器等の承認情報検索ページ:承認番号・承認内容の確認に活用できます
この章は特に重要です。承継手続きを適切に行わなかった場合の法的リスクについて、歯科従事者の視点から整理します。
薬機法は製造販売承認の承継について、承継後「遅滞なく」届け出または申請することを求めています。「遅滞なく」とは法律上の表現であり、合理的な期間内(一般的に1〜2ヶ月以内と解釈されることが多い)に手続きを完了させることを意味します。「そのうちやればいい」という認識は危険です。
承継手続きを怠った、あるいは未承認の状態のまま製造販売を継続した場合、以下のようなリスクが生じます。
罰金3億円は大企業でも相当な打撃です。刑事罰は法人だけでなく、実際に違反行為を行った代表者・担当者個人にも適用される両罰規定が存在します。個人への影響も無視できません。
歯科医院側の立場で言えば、使用している機器の承認が承継手続きの不備によって失効していた場合、そのまま患者に使い続けることも問題になり得ます。「メーカーの責任だから関係ない」とは言い切れない場面もあります。特にインプラント手術など侵襲性の高い処置に用いる機器については、承認状態の確認を定期的に行うことを推奨します。
厚生労働省が公開している薬機法の逐条解説や行政通知も、法的解釈の一次情報として参照できます。
厚生労働省:薬機法に関する法令・通知の一覧ページ(医薬品・医療機器の承認・許可関連)
ここまで読んで「自院の取引先は大丈夫だろうか?」と感じた方もいるでしょう。実際に問題が起きてから対処するのでは遅い場面もあります。ここでは、歯科医院の管理者・経営者が日常業務の中でできる確認事項を整理します。
① 使用中の医療機器の承認番号を把握する
現在クリニックで使用しているすべての医療機器について、製品名・製造販売業者名・承認番号を一覧化しましょう。承認番号はPMDAのデータベースで有効性を確認できます。手間がかかりますが一度やれば資産になります。承認番号の一覧管理は、薬機法対応だけでなく定期点検や保険請求の根拠資料としても役立ちます。
② 取引先メーカーの組織変更情報を定期的に確認する
M&Aや組織再編が多い医療機器業界では、知らないうちに担当メーカーが変わっていることがあります。取引先から送られてくる会社案内・お知らせ・納品書に記載された会社名が変わっていないか、年に一度は確認することを推奨します。会社名が変わったら承継手続きの完了確認が条件です。
③ 承認書の写しを保管・更新する
機器導入時に取引先から承認書(または承認書の写し)を受領し、クリニック内で保管しておくことが望ましいです。製造販売業者が変わった際には、新しい承認書の写しを再度取得しましょう。これは監査・立入検査の際にも有用な資料となります。
④ 高度管理医療機器の保守点検記録と合わせて管理する
高度管理医療機器(クラスⅢ・Ⅳ)については、医療機器安全管理責任者の設置と保守点検の実施記録が義務付けられています。この記録管理と承認番号の管理を一元化すると、行政検査や監査の際に対応しやすくなります。管理の一元化はそれだけで時間の節約になります。
⑤ 不明点は早期に都道府県の薬務担当窓口へ相談する
承継手続きに関する疑問が生じた場合、最終的な判断は都道府県の薬務担当部署(薬事課など)またはPMDAに確認することが最も確実です。インターネット上の情報は法改正に追いついていない場合があります。一次情報に当たることが基本です。
なお、手続きの全体像を把握するためには、厚生労働省の「医療機器の承継に関する質疑応答集(Q&A)」が公開されており、実務上の疑問点を解消するのに役立ちます。法改正が続く分野なので、最新のQ&Aを参照することが重要です。
厚生労働省:医薬品・医療機器の許可・承認に関する手続き情報まとめページ(各種Q&Aへのリンクを含む)
製造販売承認の承継手続きは、一見すると製造販売業者側の問題のように見えます。しかし使用者である歯科医院にとっても、使用中の機器の承認状態を把握しておく責任があります。知っているかどうかが、トラブル発生時の対応スピードと法的リスクの大きさを左右します。情報を持っていることが、最大の自己防衛です。

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