丁寧にブラッシングしている患者でも、銀歯を入れたら5年以内に73%の確率で再発する。
二次う蝕(Secondary Caries)とは、過去に修復処置を行った部位の辺縁(マージン)や隣接部に新たに発生するう蝕のことです。「治療済みの歯は安全」と患者に伝えてしまいがちですが、それは現場の大きな落とし穴になります。
スウェーデン・イエテボリ大学のアクセルソン博士が行った30年間の追跡研究では、成人が経験するむし歯のうち実に80%が二次う蝕であったと報告されています。初発う蝕よりも、むしろ修復歯の再発リスクのほうが臨床的問題として圧倒的に大きいということです。
二次う蝕のメカニズムの核心は、マージンギャップの形成にあります。修復物は装着直後から咬合力・温度変化・経年劣化によって微細なギャップを生じ始めます。このギャップ内にプラークが侵入し、清掃器具が届かない嫌気的環境でう蝕原性細菌が繁殖するのです。臨床研究では、マージンギャップが90μmを超えると二次う蝕の発生率が約2.4倍に上昇するという報告もあります。
それだけではありません。北海道大学の山口泰彦先生の研究によると、修復物のマージンがエナメル質に設定されている場合と象牙質に設定されている場合を比較したとき、象牙質マージンではエナメル質マージンの4倍の頻度で二次う蝕が発生していることが明らかになっています。エナメル質という天然の防御壁が失われた部位は、それだけ感染リスクが高い。これが基本です。
リスク因子は大きく3つに整理できます。
- 宿主因子:唾液分泌量の低下、唾液緩衝能の低さ、既往の修復歴の多さ
- 細菌因子:ミュータンス連鎖球菌(Streptococcus mutans)やラクトバチルス属の高い菌叢
- 修復因子:修復物の辺縁適合性、使用材料の種類、修復範囲(エナメル質か象牙質か)
つまり患者側と術者側の両方に要因があるということですね。どちらか一方だけを対策しても、二次う蝕の連鎖は断ち切れません。歯科従事者として両軸から予防を考えることが、長期的な歯の保存につながります。
参考:歯科医療従事者向けのう蝕発生メカニズムと修復処置に関する解説(dental-plaza.com)
う蝕治療と修復処置 ~接着が教えてくれた最も大切なこと~ | Dental Tribune Japan
修復材料の選択は、二次う蝕の予防において直接的な影響を与えます。「保険が通るから銀歯で」という判断が、長期的には患者の歯を失うリスクを高める場合があることを、数字で理解しておく必要があります。
北海道大学・森田学教授(当時岡山大学)らの研究では、保険診療の銀歯(金銀パラジウム合金)を装着した歯は、5年以内に73%の確率で二次う蝕が再発するという結果が報告されています。銀歯の再発率が10年で30〜60%という複数のデータも存在し、長期使用には大きなリスクが伴います。これは重大な事実です。
銀歯が二次う蝕を起こしやすい理由は主に2点あります。まず金属は熱膨張係数が歯質と大きく異なるため、温度変化によってマージンに繰り返しストレスがかかりギャップが生じやすいこと。次に金属表面はプラークが付着しやすく、磨き残しが出やすいことです。
では他の材料はどうでしょうか?各材料の特性を整理します。
| 修復材料 | 二次う蝕リスク | 平均寿命の目安 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 金銀パラジウム(銀歯) | 🔴 高い | 5〜7年 | 熱膨張によるギャップ形成 |
| コンポジットレジン | 🟡 中程度 | 5〜8年 | 吸水性・変色あり |
| グラスアイオノマー(GIC) | 🟢 比較的低い | 3〜5年(単独) | フッ素徐放性あり・強度は低め |
| セラミック(e-max等) | 🟢 低い | 10〜15年以上 | 適合精度が高く隙間が生じにくい |
グラスアイオノマーセメント(GIC)のフッ素徐放性は注目に値します。GICは硬化後も継続的にフッ素イオンを周囲の歯質に放出し、脱灰を抑制する効果があります。これは「フッ素リザーバー効果」とも呼ばれ、特にカリエスリスクが高い患者や小児の修復後管理において有効な選択肢です。これは使えそうです。
ただし重要なのは、「材料を替えれば解決」という単純な話ではないという点です。適合精度の低い修復物ならセラミックでもギャップは生じます。材料選択は正確な修復技術と、患者のカリエスリスク評価のセットで機能するものです。
患者へのインフォームドコンセントの場面では、「治療した歯がまた虫歯になるリスク」を材料の特性と合わせて伝えることが、患者自身のセルフケア意識を高める鍵になります。
参考:保険治療材料と二次う蝕リスクに関する歯科臨床解説
院長の豆知識:2次虫歯について | HAL歯科
二次う蝕を予防するうえで、ブラッシング指導だけでは不十分なことがあります。重要なのは患者個人のカリエスリスクを可視化し、そのリスクに応じた管理プログラムを設計することです。
カリエスリスクアセスメント(CRA)は、う蝕の発症リスクを個別に評価するための体系的な方法です。日本歯科保存学会が編集した「う蝕予防管理テキストブック」でも、認定歯科衛生士がこのCRAを中心業務として担うことが明示されています。
実際に評価する項目は以下の通りです。
- 🧫 唾液検査:唾液分泌量・緩衝能・ミュータンス連鎖球菌数・ラクトバチルス数を測定
- 📊 口腔内診査:既存の修復物の数・辺縁適合状態・プラーク付着量(PCR)
- 🍬 食生活調査:糖分摂取頻度・間食回数・酸性飲料の摂取習慣
- 💊 全身状態・服薬歴:口腔乾燥を引き起こす薬剤(抗ヒスタミン薬など)の有無
- 🦷 既往歴:過去1〜3年のう蝕発生数・修復回数
唾液検査は「リスクを評価して終わり」ではありません。検査結果をもとに、なぜ二次う蝕が繰り返されるのかを患者と一緒に考えるプロセスが、行動変容の入り口になります。例えばミュータンス連鎖球菌が多い患者には、フッ化物洗口の強化とキシリトール摂取を具体的に勧めることができます。
ここで重要なのが、ハイリスク患者へのX線撮影頻度の最適化です。カリエスリスクが高い患者に対しては、咬翼法X線写真を6〜12か月ごとに撮影することが推奨されています。これにより、視診だけでは発見できないマージン部の初期二次う蝕を早期に検出できます。一方でローリスク患者では18〜24か月ごとで問題ありません。全患者に同じ頻度でX線を使うのは非効率であるどころか、過剰被曝のリスクも伴います。X線頻度はリスクに応じて変えるのが原則です。
CRAの実践において、歯科衛生士が担う役割は非常に大きいです。日本歯科保存学会と日本歯科衛生士会が共同で設立した「う蝕予防管理認定歯科衛生士制度」は、まさにこの領域に特化した専門資格で、臨床での実践力を証明するものになっています。
参考:歯科保存学会編 う蝕予防管理テキストブック(カリエスリスクアセスメントの詳細解説)
歯科衛生士のう蝕予防管理テキストブック | 日本歯科保存学会(PDF)
フッ化物の応用は、二次う蝕予防における科学的根拠の最も厚い介入の一つです。ただし、「フッ素を塗っておけば大丈夫」という認識は少し粗すぎます。目的・濃度・使用頻度を患者のリスクに合わせて設計することが必要です。
セルフケアで最も基本になるのは、1,450ppmフッ化物配合歯磨き粉の使用です。2017年のWHO・FDI勧告でも高濃度フッ化物歯磨き粉が強く推奨されており、日本でも2017年から市販品の上限が900ppmから1,450ppmに引き上げられました。修復歯周囲のエナメル質・象牙質を保護するには、就寝前のブラッシングで高濃度フッ化物を使用し、うがいを最小限にしてフッ素を歯面に残す「低量すすぎ法」が有効です。
プロフェッショナルケアでは、以下の選択肢を患者のリスクに応じて使い分けます。
- 💊 フッ化物歯面塗布(2〜4%NaF溶液または9,000ppmジェル):年2〜4回、ハイリスク患者に
- 🌊 フッ化物洗口(0.05〜0.2%NaF):毎日または週1回のセルフケアとして
- 🦷 フッ素徐放性修復材料の選択(GICやコンポマー):修復と予防を同時に行うアプローチ
特に見逃されがちなのが、既存修復物の辺縁部に対する集中的なプラークコントロール指導です。銀歯や古いコンポジットレジン修復物のマージンは段差が生じやすく、普通の歯ブラシでは十分に清掃できないことがほとんどです。歯間ブラシやデンタルフロスをマージン部に意識的に当てる指導が不可欠で、指導に模型や口腔内カメラを活用すると患者の理解度が大きく上がります。
また、口腔乾燥症(ドライマウス)がある患者は、唾液による緩衝・再石灰化能が著しく低下するため、二次う蝕リスクが格段に高まります。これは条件です。服薬による口腔乾燥(抗ヒスタミン薬・利尿薬・向精神薬など)を把握し、保湿ジェルや人工唾液の使用、水分摂取の促進をセットで指導することが重要です。
この段階のプロフェッショナルケアを体系的に患者に提供していくには、FDI(国際歯科連盟)が作成した「う蝕予防とマネジメント チェアサイドガイド」が実践的なツールとして役立ちます。日本語版PDFが公開されており、初期病変の評価から介入方法まで一覧で確認できます。
参考:FDIが作成した、チェアサイドで活用できるう蝕予防マネジメントの総合ガイド(日本語版)
FDI う蝕予防とマネジメント チェアサイドガイド(日本語版PDF)
二次う蝕の予防策として修復材料や患者指導が語られることは多いですが、「何ヶ月おきにリコールするか」という設計そのものが予防効果を大きく左右するという視点は、案外見過ごされています。これは独自視点であり、かつ非常に実践的です。
修復後のメインテナンス間隔を一律「3か月ごと」に設定している歯科医院は多いですが、エビデンスに基づけば、リコール間隔はカリエスリスクに応じて異なります。ローリスク患者に対して過剰なリコールを設定すると、患者の通院負担が増えてキャンセル率が上がり、結果として必要なタイミングでの検診が受けられなくなるという逆効果が起きることもあります。
リスク別のリコール間隔の目安は以下の通りです。
| リスク分類 | 推奨リコール間隔 | 咬翼X線の頻度 |
|---|---|---|
| 🟢 ローリスク | 12〜24か月 | 24か月ごと |
| 🟡 ミディアムリスク | 6〜12か月 | 12〜18か月ごと |
| 🔴 ハイリスク | 3〜6か月 | 6か月ごと |
ハイリスク患者を正確に見極めるポイントは、「過去3年間に2本以上の新規う蝕が発生しているかどうか」です。これを一つの基準にすると、個別化したメインテナンス設計が組みやすくなります。
さらに、修復後のメインテナンスで見逃してはならないのが、修復物の辺縁適合性の定期的な評価です。探針による辺縁のチェックだけでなく、咬翼法X線撮影でマージン部の透過像を確認することが、初期段階での二次う蝕の発見につながります。視診だけに頼るとC1程度の病変は見落とされやすく、次回来院時には象牙質深くまで進行しているケースも珍しくありません。
このメインテナンスの質を高めるためのプロトコルとして、ICCMS™(International Caries Classification and Management System)の活用が国際的に広がっています。ICCMSはICDASをベースにしたう蝕マネジメントシステムで、病変のステージと活動性を4分類し、それぞれに対する介入レベルを明確にしています。削るか・削らないか・経過観察かの判断根拠として、チームで共有できる言語を提供してくれます。
修復後に「しばらく問題なければOK」という感覚で診ていると、二次う蝕の早期発見機会を逃します。「修復した歯こそ、より積極的に管理する」という発想の転換が、患者の歯の寿命を延ばす最も確実なアプローチです。結論はこれだけ覚えておけばOKです。
参考:ICCMS(国際う蝕分類マネジメントシステム)の医療従事者向けクイックリファレンス(日本語版)
ICCMS™ クイックリファレンスガイド 医療従事者・教育関係者向け(PDF)

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