フードテストでスコア4点が出ると「問題なし」で終わらせがちですが、実はそこからさらに2回追加して最悪スコアを記録しないと、誤嚥リスクを見逃す可能性があります。
フードテスト(Food Test:FT)は、実際に食物を嚥下させることで口腔期から咽頭期にかけての機能を評価するスクリーニング検査です。RSST(反復唾液嚥下テスト)や改訂水飲みテスト(MWST)が主に咽頭期の誤嚥リスクを見るのに対し、フードテストは口腔内での食塊形成能や咽頭への送り込みも同時に評価できる点が特徴です。
標準的な方法として、ティースプーン1杯(約4g)のプリンを患者の舌背前部に置き、嚥下を指示します。嚥下後は必ず口腔内を観察し、残留の有無・残留位置・残留量を確認します。あわせて、むせの有無・呼吸変化・湿性嗄声(のどのゴロゴロ感)・追加嚥下の要否なども観察の対象です。これが基本の流れです。
評価は下表のとおり1〜5点の5段階で行います。
| スコア | 判定内容 |
|:---:|:---|
| 1点 | 嚥下なし、またはむせる・呼吸切迫あり |
| 2点 | 嚥下あり、呼吸切迫(不顕性誤嚥の疑い) |
| 3点 | 嚥下あり、呼吸良好だがむせるまたは湿性嗄声あり |
| 4点 | 嚥下あり、呼吸良好、むせなし |
| 5点 | 4点の基準を満たし、追加嚥下が30秒以内に2回可能 |
スコア3点以下は嚥下障害の疑いありと判定されます。スコア4点以上が問題ないように思えますが、ここに重要な落とし穴があります。
スコア4点以上でも、テストを最大でさらに2回繰り返し、最も悪いスコアを最終評価として記録することが必須です。 つまり合計最大3回実施し、そのうちの最悪値をスコアとします。1回目に4点が出たとしても、2〜3回目に3点が出れば最終スコアは3点になります。これが原則です。
なぜ繰り返すのでしょうか? 嚥下機能には疲労性があり、1回目の嚥下は比較的うまくいっても、2〜3回と重ねるうちに咽頭残留が増えたり、むせが出やすくなる患者が少なくないからです。実際の食事では1口だけで終わることはなく、複数回の連続嚥下がともなうため、繰り返し評価のほうが臨床実態に近い情報が得られます。意外ですね。
なお、プリンに代えて粥や液状食品を使う「段階的フードテスト」に発展させることもできます。プリン→粥(米粒あり)→液状食品と負荷を上げていくことで、食物形態の選定に直結する情報が得られます。これは使えそうです。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会「摂食嚥下障害の評価2019」(PDF):フードテストの実施方法・評価基準の公式版。各スクリーニング検査の詳細な解説と根拠文献が掲載されています。
歯科臨床では複数のスクリーニング検査を組み合わせることで、評価の精度を高めることができます。RSST・MWST・フードテストはそれぞれ評価できる「嚥下の期」が異なるため、それぞれの特性を理解したうえで使い分けることが重要です。
RSST(反復唾液嚥下テスト)は、30秒間に唾液嚥下が何回できるかで主に咽頭期の嚥下反射を評価します。3回未満が異常の目安です。装置不要で最も安全な方法ですが、ドライマウス(口腔乾燥)の患者では唾液が出にくいために正確な評価が困難になります。認知機能が低下している患者では指示への従命が得にくい場面もあります。
改訂水飲みテスト(MWST)は3mLの冷水を用い、咽頭期の誤嚥リスクを評価します。スコアが3点以下は問題ありと判定します。水は凝集性がないため食塊形成の影響を受けにくく、純粋に嚥下反射と呼吸機能を評価しやすいという利点があります。
フードテストはこれに加えて、準備期(食塊形成)・口腔期(咽頭への送り込み)も含めた評価が可能という点が他のテストとの大きな違いです。特に「プリンは食べられているのに、粥はむせる」「口腔内に食渣が残る」といった口腔機能低下に起因する問題を検出しやすいのが特徴です。
3つのテストを組み合わせることが推奨されています。
| 検査名 | 主な評価対象 | 使用物 | 安全性 |
|:---:|:---:|:---:|:---:|
| RSST | 嚥下反射(咽頭期) | 唾液のみ | 高い |
| MWST | 咽頭期(誤嚥リスク) | 冷水3mL | 比較的高い |
| フードテスト | 準備期・口腔期・咽頭期 | プリン約4g | やや注意要 |
ただし、フードテストには検出しにくい状態もあります。それが「不顕性誤嚥(silent aspiration)」です。不顕性誤嚥とは、誤嚥してもむせが起こらない状態を指します。フードテストの評価項目には「むせの有無」が含まれるため、むせない不顕性誤嚥の場合にスコアが見かけ上高く出る可能性があります。不顕性誤嚥を見逃さないためには、クエン酸を用いた咳テストや頸部聴診法の併用が有効です。これが条件です。
スクリーニングで異常が疑われた場合は、嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下造影検査(VF)などの精密検査につなげることが必要です。VEは持ち運び可能で在宅でも実施できる一方、VFは嚥下全体の動態を動画で確認できるゴールドスタンダードとされています。使い分けの基準は施設ごとの環境にもよりますが、どちらへつなぐかを事前に確認しておくと連携がスムーズになります。
長寿科学振興財団「摂食・嚥下障害の評価」:RSST・MWST・フードテスト・頸部聴診法の手順と評価基準を、高齢者への実際の臨床対応を踏まえてまとめた参考資料です。
フードテストの評価結果は、実施条件によって大きく変わります。同じ患者でも、姿勢・口腔衛生状態・覚醒レベル・評価のタイミングによってスコアが変わることがあるため、標準化された条件で実施することが精度向上の鍵です。
姿勢の確認が最優先です。 食事姿勢が不安定な状態では咽頭への食塊の送り込みに支障が生じ、評価結果が実力よりも低く出ることがあります。車椅子乗車であれば背もたれの角度、ベッド上であれば頭部挙上角度(多くの場合30〜45度程度)を確認し、評価記録には必ず実施時の体位を明記する必要があります。体位の記載は省略されがちですが、次回の評価と比較するうえでも重要な情報です。
口腔衛生状態の確認も欠かせません。口腔内に多量の食渣や痰、プラークが残存している状態でフードテストを実施すると、「スコア低下の原因が嚥下機能の低下なのか、それとも口腔内の不潔なのか」が判別しにくくなります。口腔ケアを実施してから評価に臨むことで、より正確に嚥下機能そのものを評価できます。口腔ケア後が基本です。
覚醒レベルも評価精度に直結します。食後や服薬後に傾眠傾向が出やすい患者では、覚醒が低い状態で評価しても嚥下機能の真の状態を把握できません。一般的に食前や覚醒が良好な時間帯を選んで評価することが推奨されています。
また、嚥下障害が重度と疑われる場合には、フードテストの実施自体が誤嚥・窒息リスクとなります。その場合はまずRSSTやMWSTで安全性を確認してからフードテストに進むか、精密検査(VE・VF)へ移行する判断が必要です。誤嚥リスクが高い患者への強行は禁物です。
以下に、実施前の確認チェックポイントをまとめます。
- ✅ 覚醒レベルが十分で指示に従命できるか
- ✅ 全身状態が安定しているか(発熱・呼吸状態の悪化がないか)
- ✅ 口腔内の清潔が保たれているか(口腔ケア実施後か)
- ✅ 適切な姿勢・体位が確保されているか
- ✅ 重度嚥下障害の強い疑いがないか
これらを確認したうえで実施することで、フードテストの評価精度が高まり、患者の食支援に役立つ信頼性の高いデータが得られます。
嚥下食の基礎知識「摂食・嚥下難易度レベルの判定方法」:フードテストの判定基準フローチャートを含む、嚥下機能スクリーニングの実践的解説。食物形態の選定手順も確認できます。
フードテストを実施したあとは、そのスコアを食形態の選定や訓練方針に結びつけることが求められます。スコアを記録して終わりにならないよう、結果をどう臨床に活かすかが重要です。これが最終ゴールです。
スコア4〜5点は「障害なし」と判定されますが、これは「何も対応不要」を意味するわけではありません。5点が続いていても、体調変化・服薬変更・入院などによって嚥下機能が急激に低下することがあります。定期的な再評価と継続的な観察が必要です。
スコア3点は嚥下障害の疑いありとなります。この段階では食形態の見直しが検討されます。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食学会分類2013」が食形態の選定に広く使われています。コード0〜4の段階に分類されており、スクリーニング結果と照合しながら適切なコードを選定します。たとえば口腔期に問題があり食塊形成が不十分な場合はコード0(ゼリー状)から始めることになります。
スコア1〜2点は精密検査への移行を優先します。VEやVFによる精密評価を経て、経口摂取の可否・嚥下訓練の内容・補完栄養の必要性などを多職種で検討します。一人での判断は危険です。
また、スコアにかかわらず口腔ケアの質を高めることが誤嚥性肺炎の予防に直結します。誤嚥性肺炎は、誤嚥そのものよりも口腔内の細菌数が多い状態で誤嚥が起こることで発症リスクが高まります。高齢者の肺炎による死亡の3〜5割が誤嚥性肺炎とされており(栃木県摂食嚥下指導マニュアル)、歯科従事者による継続的な口腔管理が命を守る手段になります。
スコアの解釈に迷う場面では、言語聴覚士(ST)・管理栄養士・看護師・リハビリ職種との情報共有が大きな助けになります。施設内に摂食嚥下チームがある場合はカンファレンスへの積極的な参加が推奨されます。スコアの変化を経時的に記録することで、嚥下機能の改善・悪化傾向を追うことができ、より適切な食支援につながります。
栃木県歯科医師会「摂食嚥下指導マニュアル改訂版」(PDF):フードテストを含むスクリーニング検査の手順と、食事介助・嚥下訓練の方法を現場向けにまとめた実践的マニュアルです。
フードテストの評価において、歯科従事者が他の職種と異なる視点で貢献できる領域があります。それは、嚥下機能に先立つ「口腔機能」の状態を同時に評価できるという点です。
嚥下の5期(先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期)のうち、歯科が直接関与できるのは主に準備期と口腔期です。フードテストのスコアが低い場合、「嚥下反射そのものの問題」なのか、「食塊形成が不十分なための咽頭残留・誤嚥」なのかを区別することが、適切な介入につながります。
たとえば、義歯の不適合・残存歯の欠損・舌圧の低下がある場合、食塊をうまく形成できず、バラバラな状態で食物が咽頭に送り込まれます。これが咽頭残留や誤嚥の原因になっているケースは少なくありません。舌圧が30kPa未満(JMS舌圧測定器による正常値の目安)に低下している患者では、食塊形成能が有意に低下するとされています。厳しいところですね。
フードテストでスコア3点が出た患者に、義歯調整や舌機能訓練を組み合わせることで、スコアが4〜5点へ改善したという事例も臨床では見られます。こうした「口腔機能の改善が嚥下機能全体の回復に寄与する」という視点は、歯科ならではの強みです。
また、フードテストで使用するプリンの物性にも注意が必要です。「ティースプーン1杯・約4g」という量は標準条件として定められています。これより多い量を使ったり、物性が大きく異なる食品に替えたりすると、評価結果の比較が困難になります。次回の評価との経時比較を行うためにも、使用する食品・量・物性を毎回そろえることが重要です。記録の統一が条件です。
口腔機能低下症(OFD:Oral Frailty Disorder)との関連も見逃せません。口腔機能低下症では、咀嚼機能・舌口唇運動機能・嚥下機能の複数項目に低下が見られるため、フードテストのスコア低下と連動しやすい傾向があります。18歳以上を対象とした保険診療では、口腔機能精密検査(OHAT、舌圧検査、咬合力検査など)とフードテストを組み合わせた評価が有効です。
口腔機能の評価と嚥下スクリーニングを一体的に行える立場にあるのが、歯科医師・歯科衛生士です。フードテストを単なる「嚥下の検査」と捉えず、口腔機能全体を見渡す評価の一つとして位置づけることで、その臨床的価値はさらに高まります。
日本老年歯科医学会「摂食・嚥下リハビリテーションにおける診断支援」(PDF):フードテストが準備期・口腔期の評価に有効とされる根拠と、舌機能評価との関連を論じた学術資料です。