ハイドロキシアパタイト(HA)系の骨補填材を長年使い続けると、体内に材料が残存し感染源になることがある。
歯科情報
骨の無機成分は「ハイドロキシアパタイト」だという認識は、歯科従事者の間でも根強く残っています。しかし実際には、ヒトの骨を構成する無機成分は炭酸基を約7%含んだ炭酸アパタイトであり、ハイドロキシアパタイトとは別の物質です。これが基礎知識として押さえるべき出発点です。
炭酸アパタイトは化学式 Ca₁₀(PO₄)₆(CO₃)₂ で表されます。骨を構成するリン酸基の一部が炭酸基に置換された構造を持ち、これが骨リモデリングにおいて破骨細胞に吸収される際の鍵となっています。つまり炭酸アパタイトが骨に置換されるのは偶然ではなく、組成が生体の代謝サイクルと一致しているからです。
一方、ハイドロキシアパタイト(HA)焼結体は1970年代に発明された骨伝導性材料で長年使われてきましたが、生体内でほぼ吸収されません。体内に長期残存する性質があり、場合によっては感染源となるリスクが報告されています。徳島大学病院には実際に、HA系骨補填材が体内に残存し感染源となって上顎洞炎を発症した症例が報告されています。これは知らずに使い続けることによる損失です。
破骨細胞のpH環境を利用した吸収メカニズムも重要なポイントです。骨を吸収する際、破骨細胞は周辺をpH3〜5の弱酸性環境にします。炭酸アパタイトは生理的pH(7.4)では安定ですが、この弱酸性環境では溶解度がHAと比較して格段に高くなります。つまり、「骨リモデリングのタイミングでのみ吸収され、それ以外は安定を保つ」という自家骨に非常に近い挙動を示すわけです。
β-TCP(β型リン酸三カルシウム)と比べると、炭酸アパタイトの溶解度は生理環境下でははるかに低く安定しています。β-TCPは体内に入れた瞬間から溶解が始まり、溶解速度が炭酸アパタイトと比較して約600倍にもなるという実験データもあります。吸収速度が速すぎると骨形成が追いつかず、体積の減少や炎症反応のリスクがあります。これが、材料選択の際に見落としやすい落とし穴です。
| 骨補填材 | 骨への置換 | 吸収速度 | インプラント承認 | 医療機器クラス |
|---|---|---|---|---|
| 炭酸アパタイト(サイトランス®) | ✅ あり(完全置換) | 中程度(皮質骨と同等) | ✅ 国内初・承認済み | クラスⅣ |
| ハイドロキシアパタイト(HA) | ❌ ほぼなし | 極めて遅い(ほぼ残存) | ❌ なし(適応外使用扱い) | クラスⅢ |
| β-TCP | ⭕ あり(部分的) | 速い(HAの600倍) | ❌ 「インプラント適応を除く」の記載あり | クラスⅢ |
| バイオオス®(牛骨由来HA) | ❌ ほぼなし | 極めて遅い | ❌ 「GTR法のみ」に限定 | クラスⅢ |
炭酸アパタイトが骨リモデリングに乗って置換されるという特性は原則です。その他の骨補填材を比較する際のベースラインになります。
参考情報:J-Stage掲載の石川邦夫教授(九州大学)による炭酸アパタイトの詳細解説。骨組成・クラスⅣ承認の背景・骨伝導能の比較データを含む。
医療機器の承認クラスという観点から、炭酸アパタイトを正しく位置づけることが重要です。日本では医療機器はクラスⅠ〜Ⅳの4段階で区分されており、クラスⅣが最も安全基準の厳しいカテゴリです。炭酸アパタイト骨補填材は「骨に置換される=生体内で代謝される」という特性ゆえ、クラスⅣに位置づけられています。
これに対してHAはクラスⅢに区分されています。HA自体が骨に置換されないため、より低いリスク区分として扱われているわけです。ただし、これは「HAの方が安全」という意味ではなく、吸収されないことで長期残存リスクが生じるという別の問題があります。意外ですね。
炭酸アパタイトが薬事承認を受けるまでの経緯も見ておきましょう。2006年にJSTの育成研究としてスタートし、その後AMEDの委託開発へと進みました。ジーシー社との共同で臨床治験が2015年2月から始まり、九州大学・東京医科歯科大学・徳島大学の3施設で実施されました。2017年5月に治験を終了し、同年12月14日に薬事承認取得、2018年2月21日に「サイトランス® グラニュール」として発売されています。
PMDAとの交渉の中で注目すべきことがあります。PMDAからは「歯科では特にインプラント分野で薬事未承認品が多々使用されていますね」という指摘があったことが報告されています。これは現場で日常的に適応外使用が行われている実態を示しており、承認前の骨補填材をインプラント症例に使用することの法的・倫理的リスクを示唆しています。大学病院などでは倫理委員会の承認が必要であり、一般歯科医院での無届け使用は問題となりうる状況でした。これが条件です。
現在は2018年の薬事承認により、サイトランス® グラニュールはインプラントを前提とした骨造成術(サイナスリフトを含む)に正式に使用可能となっています。口腔外科・歯周外科全般の骨欠損補填にも適応されており、歯科領域での使用範囲が最も広い人工骨補填材です。
臨床エビデンスとして最も重要なのが、薬事承認に向けて実施されたサイナスリフトの多施設治験です。この治験結果をきちんと押さえておくことで、炭酸アパタイトの実力が具体的に見えてきます。
治験では、上顎臼歯部へのインプラント埋入を前提としたサイナスリフト症例が対象となりました。1回法(インプラント同時埋入)8名・9本、2回法(インプラント待時埋入)14名・18本の合計22名・27本が評価されています。結果は次のとおりです。
骨厚が3mmから7mm以上に増加した例も報告されており、インプラント埋入に必要な骨量を確保できています。骨の厚さ3mmはちょうど爪の幅ほどですが、7mm以上になることでインプラント体の安定固定が可能になります。これは使えそうです。
治験の条件として、メンブレンは一切使用せず、生理食塩水との混和のみで処置が行われました。これは非常に厳しい条件であり、そのような状況でも全症例成功という結果は材料の骨伝導能の高さを示しています。治験後に現場で使う際は、患者血液との混和が推奨されており、これによってさらに骨再生効果が高まることが期待されます。
動物試験でも重要な知見が得られています。ウサギ大腿骨への埋植実験では、術後2年の時点でHAが埋植時のまま残存していたのに対し、炭酸アパタイトは完全に骨へ置換されていました。ビーグル犬顎骨欠損モデルでは、炭酸アパタイトが埋植されたエリアでは歯槽頂部まで成熟骨が形成されており、HAと比較して圧倒的な骨形成量の差が確認されています。
骨伝導能の高さのメカニズムは現在も研究中ですが、有力な仮説があります。炭酸アパタイトを吸収した破骨細胞が「clastokines(クラストカイン)」と呼ばれる液性因子を放出し、骨芽細胞を活性化させるという細胞間情報伝達の経路です。HAは吸収されないため、この経路が機能しないことが骨形成能の差につながっていると考えられています。骨芽細胞の分化マーカー測定実験でも、炭酸アパタイト表面での骨髄細胞の分化スコアはHAを圧倒的に上回っています。
参考情報:炭酸アパタイトの吸収・骨伝導・クラスⅣ承認についての実用的な詳細(ジーシー公式資料)
新しい骨補填材・炭酸アパタイトの可能性(ジーシー公式座談会資料PDF)
実際に臨床で使用する際には、いくつかの注意点があります。まず、炭酸アパタイト骨補填材は「粉末状」での使用は禁忌です。2µm以下のナノサイズ粒子は、組成に関わらずマクロファージなどの細胞に貪食されて炎症を引き起こすことが報告されています。これが原則です。そのため、臨床で用いられる製品は必ず顆粒状(約0.5〜1.0mm程度)で提供されています。
次に、軟組織で確実に被覆できる部位に限定して使用することが求められます。細菌や毒素を吸着しやすいという特性があるため、歯肉で閉創できない露出した部位への使用は避けるべきとされています。この視点はHA系骨補填材との比較でも重要です。炭酸アパタイトは多孔体に向かう研究開発も進んでおり、将来的には骨形成がさらに加速する可能性があります。
ここで、現場の歯科医師が見落としがちな独自視点を挙げます。それは「骨置換速度の個人差」です。治験データを見ると全症例でインプラントは機能しているものの、炭酸アパタイトの吸収・置換速度には個人差があることが明記されています。顆粒が多く残存している症例も観察されており、必ずしも均一に吸収されるわけではないことに注意が必要です。
この個人差が生じる背景には、患者の骨代謝活性の違いがあります。骨粗鬆症患者や全身疾患を持つ患者では、骨リモデリングの活性自体が低下しているため、炭酸アパタイトの置換速度も遅くなる可能性があります。これは「炭酸アパタイトを使えば必ず速く骨になる」と単純に考えることへの注意喚起です。
また、炭酸アパタイトの吸収速度は、β-TCPより遅く、HAよりは速いというバランスにあります。これはちょうど皮質骨を移植した際と同等の速度とされており、現実的な骨形成のタイムラインを持っています。吸収性骨補填材では4〜6か月で骨置換が進む例が多く、サイトランス® グラニュールも同様のイメージで治療計画を組むことができます。これだけ覚えておけばOKです。
さらに、FGF-2(bFGF、リグロス®)との併用についても報告が蓄積されています。東京歯科大学からは、FGF-2製剤と炭酸アパタイトを組み合わせた歯周組織再生療法による1年経過症例が報告されており、重度の骨内欠損に対しても良好な再生が確認されています。ただし、FGF-2との混合はコンビネーションプロダクトとして別の薬事対応が必要となるため、単独使用の延長として安易に混合しないよう注意が必要です。
炭酸アパタイトの応用は、インプラント症例に留まりません。歯周外科における骨内欠損への応用も急速に広がっており、歯周病治療の領域でもその実力が評価されています。
歯周病によって生じた垂直性骨欠損(骨内欠損)は、一壁性・二壁性・三壁性に分類されますが、特に三壁性欠損では骨補填材による再生効果が高いことが知られています。炭酸アパタイトはこうした骨欠損部に填入することで、骨伝導能を発揮しながら自家骨様の組織再建を促します。
2020年代に入り、FGF-2製剤(リグロス®)との併用療法がトピックになっています。FGF-2は骨形成因子であり骨誘導能を持ちますが、単独では欠損部の空間維持が難しい場面があります。そこで炭酸アパタイトをスキャフォールド(足場)として使用しながらリグロス® を適用することで、骨誘導能と骨伝導能を掛け合わせた再生が期待されます。
Stage Ⅲ Grade Cの重度歯周炎(旧:重度慢性・侵襲性歯周炎)の下顎臼歯部骨内欠損に対し、FGF-2製剤と炭酸アパタイトを併用した再生療法の1年経過報告では、X線上で骨の有意な改善が確認されています。これは臨床的に注目すべき成果です。
ただし、FGF-2はリグロス® として歯周病に保険適用がありますが、炭酸アパタイトとの組み合わせは公式な推奨プロトコルとしては標準化されていない部分もあります。倫理的・薬事的な観点から各症例で慎重に判断する姿勢が求められます。なお、サイトランス® グラニュールはインプラント適応だけでなく歯周外科(ペリオ)症例にも保険外で広く使用されており、口腔外科・歯周外科全般にわたる骨欠損補填材として幅広い症例に対応できます。
参考情報:炭酸アパタイトの口腔外科・歯周外科への応用、現状と将来展望を俯瞰できる学術論文
炭酸アパタイト人工骨補填材(日本セラミックス協会2023年10月号PDF)
サイトランス® グラニュールの公式製品情報(適応・用法・特長の確認に使用)
Cytrans Granules 製品詳細 | ジーシーバイオマテリアル公式サイト

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