人工骨だけを使えば骨造成はいつでも成功するわけではありません。
骨伝導能(Osteoconduction)とは、骨芽細胞が骨を形成するための足場(スキャフォールド)を提供する能力のことです。すでにある骨組織の表面に沿って、新しい骨が増殖・伸展していく性質と理解するとわかりやすいでしょう。
この能力のポイントは、「骨を作る細胞(骨芽細胞)を自ら呼んでくる力はないが、その細胞が来たときに住み着きやすい構造を用意する」という点にあります。骨伝導能が高い材料は多孔質(ポーラス)な構造を持っており、その微細な孔のなかに血管や細胞が侵入して骨形成が進みます。つまり足場です。
インプラント治療との関連で言えば、骨伝導能を持つ骨補填材を使用することで、既存の歯槽骨の周囲から徐々に新しい骨が材料内に侵入し、インプラントをしっかり固定できる骨量が確保されていきます。多孔質な構造が大切です。
代表的な骨伝導能を持つ材料には、以下のものがあります。
これら3種の材料はいずれも骨伝導能を持ちますが、骨誘導能は基本的には持っていません。骨伝導能だけが条件です。したがって、これらの材料は母床骨(もとの骨)に隣接している欠損部位での使用が前提となり、骨に接した部分からしか骨再生は進みません。
参考:骨補填材の種類と骨伝導能・骨誘導能の詳細解説
インプラントの骨補填材とは?骨補填材の種類や骨造成など | インプラントサプリ
骨誘導能(Osteoinduction)とは、未分化間葉系細胞を骨芽細胞へと分化させ、骨の形成を「積極的に誘導・促進する能力」のことです。骨伝導能が「受け身の足場提供」であるのに対し、骨誘導能は「骨を作る細胞を集めて指揮する能動的な働き」だと言えます。
この違いを料理に例えると、骨伝導能は「調理台(スペース)の提供」、骨誘導能は「腕利きのシェフを呼んでくること」に相当します。どちらかが欠けても、美味しい料理(=骨形成)は完成しにくいのです。
骨誘導能の鍵となるタンパク質がBMP(骨形態形成タンパク質:Bone Morphogenetic Protein)です。1960年代にUCLAのUrist博士が脱灰した骨から取り出したタンパクを皮下・筋肉内に埋入すると骨組織が誘導されることを発見し、この活性物質をBMPと命名しました。BMPは未分化な間葉系幹細胞を骨芽細胞へと分化させる、強力な骨誘導シグナルです。
骨誘導能を持つ材料の代表は以下の通りです。
注目すべき点として、FGF・TGF-β・IGF-1・PDGFなどの成長因子は、骨から離れた皮下や筋肉の中では骨誘導能を示さないことがわかっています。これらの成長因子が骨に接している部分で使用されることで初めて骨の増加作用を発揮します。つまり場所が重要です。
骨誘導能と骨伝導能の違いを表にまとめると次のようになります。
| 能力 | 英語名 | 主な働き | 代表材料 |
|---|---|---|---|
| 骨形成能 | Osteogenesis | 材料中の細胞が直接骨を形成する | 自家骨のみ |
| 骨誘導能 | Osteoinduction | 未分化細胞を骨芽細胞に分化・誘導する | 自家骨・DFDBA |
| 骨伝導能 | Osteoconduction | 骨形成の足場を提供する | HA・β-TCP・Bio-Oss・他家骨・人工骨 |
参考:骨誘導能を持つ材料とBMPのメカニズムについて
骨を作るインプラント治療|GBR法・ベニアグラフト・骨移植など | インプラント外科
骨補填材を選ぶ際に重要なのは、「どの能力を持っているか」を正確に把握することです。それぞれの材料は持っている能力の組み合わせが異なるため、欠損の状況や術式に応じた選択が治療成績を左右します。
自家骨は唯一の3能力保有材料です。骨形成能・骨誘導能・骨伝導能のすべてを兼ね備え、現在でも「移植材のゴールドスタンダード」とされています。欠損窩の埋入時に削り取られた骨片を自家骨として再利用する(削除骨の活用)手法も広く行われており、侵襲を最小限に抑えながら自家骨の恩恵を受ける方法として評価されています。ただし採骨量には限界があります。
他家骨(同種骨)は骨誘導能と骨伝導能の2つを持ちます。代表的なものとして、骨を凍結乾燥処理した「FDBA(凍結乾燥同種骨)」と脱灰処理を加えた「DFDBA(脱灰凍結乾燥同種骨)」があります。DFDBAはBMPなどのタンパク質を活かせる処理が施されているため、特に骨誘導能の発揮が期待されます。HIV等の感染リスクについては、30年以上の血清学的スクリーニングやBSEのDNA検査など複数の安全対策が講じられています。
人工骨は主に骨伝導能を持ちます。HA(ハイドロキシアパタイト)とβ-TCP(β-リン酸三カルシウム)が代表的で、それぞれに異なる特性があります。HAは吸収されにくく長期にわたる足場を提供しますが、β-TCPは体内で吸収されて自分の骨に置き換わるリモデリングが進む点が強みです。近年ではHAとβ-TCPを60:40や30:70で混合したHA/β-TCP複合材も登場しており、両方の利点を活かす設計がなされています。これは使えます。
異種骨(Bio-Oss等)も骨伝導能を持ち、吸収が緩やかなため長期間の骨容積維持に向いています。牛由来の多孔質構造が細胞の足場として優れた機能を発揮し、100以上の大学での研究実績があります。吸収されにくいという特性が感染リスクと関連することもあるため、使用時は歯科医師との十分な相談が必要です。
骨形成能・骨誘導能・骨伝導能の3つをセットで考えることが基本です。たとえば骨に隣接した小さな欠損なら骨伝導能だけでも骨再生は期待できますが、孤立した大きな欠損では骨誘導能を持つ材料(自家骨やDFDBA)を組み合わせることで骨形成が促進されます。
参考:骨補填材の選び方と各材料の特性
骨造成に使用する骨補てん剤 | 新谷悟の歯科口腔外科塾
骨造成術の成否は、使用する骨補填材が持つ「骨誘導能・骨伝導能・骨形成能」の組み合わせと術式の相性によって大きく変わります。
GBR法(Guided Bone Regeneration:骨誘導再生法)は、インプラント埋入前後に骨補填材を充填し、メンブレン(人工膜)で覆って骨形成を誘導する方法です。骨伝導能を持つ材料を母床骨に隣接する欠損部に充填し、骨芽細胞が侵入しやすい環境を整えます。このとき線維芽細胞など骨形成に関係しない細胞の侵入を膜で防ぐことが重要で、骨形成能を持つ細胞だけが材料内に定着できるように制御します。通常のインプラント治療が3〜6ヶ月で安定するのに対し、GBR法を併用する場合は6ヶ月〜1年の待機期間が必要です。時間がかかります。
サイナスリフト法(上顎洞底挙上術)では、上顎洞底と歯槽骨の間に作ったスペースに骨補填材を充填します。骨高が3〜4mm以上残っている場合はソケットリフト法、1〜4mmほどしかない場合はサイナスリフト法と術式が変わります。特にサイナスリフト法では多くの骨補填材量が必要になるため、骨伝導能を持ちつつ生体内で安定した長期維持ができる材料(Bio-OssやHAなど)が多く用いられます。
臨床で興味深いのは、「骨誘導能は骨に隣接した環境でのみ発揮される」という事実です。FGF・TGF-β・PDGFなどの成長因子は、骨から離れた皮下組織の中では骨誘導能を示さず、骨に接している部分でのみ骨増加作用を発揮します。これはつまり、「骨誘導能は環境依存型の能力」であることを意味します。意外な性質です。
この観点から見ると、骨補填材の配置(母床骨との接触面積)がいかに重要かが理解できます。骨誘導能のある材料でも、周囲の骨から完全に孤立した状態に置かれれば、そのパフォーマンスは大きく落ちます。骨補填材を使うなら配置が条件です。
また、近年注目されているPRP(多血小板血漿)は、患者自身の血液から血小板を濃縮・ゲル化したものです。FGF・TGF-β・PDGFなどの成長因子を放出することで治癒促進が期待されており、骨補填材に混合して使用されることがあります。単独では骨造成スペースを確保できないため、自家骨やリン酸カルシウム系骨補填材との併用が前提となります。補助的な役割が正しい理解です。
参考:骨造成術の術式と骨補填材の選択基準
「骨の量が少ないのでインプラントはできない」と言われた経験がある方もいるかもしれません。しかし、骨伝導能・骨誘導能を持つ骨補填材と適切な骨造成術を組み合わせることで、多くのケースでインプラント治療が可能になります。インプラントの幅は最低約6mm、高さは最低10mm程度の骨量が必要とされていますが、現代の骨造成技術はその条件を満たすための選択肢を豊富に持っています。
骨形成能・骨誘導能・骨伝導能の3つのファクターを正しく理解することは、患者側にとっても大きなメリットがあります。主治医から骨補填材の説明を受けた際に、「この材料はどの能力を持っているのか」「足場だけで大丈夫か、骨芽細胞を誘導する材料も必要か」という視点で確認することができれば、自分の治療をより主体的に理解できます。知ることで安心できます。
骨周囲に隣接した小規模な欠損には骨伝導能を持つ材料(Bio-OssやHA)で十分なケースがほとんどですが、骨に囲まれていない孤立した大規模欠損では、骨誘導能を持つ自家骨やDFDBAとの併用が効果的です。欠損の状況次第が原則です。
また、歯を失ってから長期間放置した場合、インプラント予定部位の歯槽骨が吸収されて骨量不足になるケースが多く見られます。歯を抜いた後は噛む刺激が歯槽骨に伝わらなくなり、骨吸収が進みやすくなるためです。そのまま1年以上放置すると、骨造成が必要になる可能性が高まります。早めの相談がリスクを下げます。
骨造成を伴うインプラント治療の期間については、術式によって大きく異なります。GBR法では6〜12ヶ月、サイナスリフト法(2段階法)では骨造成完了後にさらにインプラント埋入から最終補綴まで半年程度かかるため、治療全体で1年以上になることも珍しくありません。スケジュールを事前に確認することが重要です。
骨伝導能と骨誘導能の違いを理解した上で主治医と相談することで、自分の口腔状態に合った骨補填材と術式の選択について、より納得のいく判断ができるようになるでしょう。骨造成の知識は、インプラントを検討するすべての人にとって有益な基礎知識です。
参考:骨補填材と骨造成の詳細解説
インプラントについて知ろう その42 骨移植材の能力 | よしなか歯科クリニック