舌癌のT1症例でもリンパ節転移が約1/3で起きて肺転移へ進む現実があります。
歯科情報
小線源療法(密封小線源治療・ブラキセラピー)とは、放射線を発する微細な線源をがんの病巣内またはその近傍に直接留置し、内部から集中的に放射線を照射する治療法です。外部照射と比較して、がん病巣への線量集中性が高く、周辺正常組織への影響が少ないことが最大の特長です。
口腔癌診療ガイドライン(2019年版)および頭頸部がん診療ガイドラインにおける、舌がんへの小線源療法の適応基準は以下のとおりです。
| 項目 | 基準内容 |
|---|---|
| 病期(TNM分類) | T1N0、early T2N0(T3N0も組織内照射が適応と記載されるガイドラインあり) |
| 腫瘍の厚さ | 10mm(1.0cm)以下が原則。はがきの厚さ約0.1mmの100倍を超えると原則適応外 |
| 刺入面数 | 1平面刺入で治療可能な症例 |
| リンパ節・遠隔転移 | 転移なし(N0)が原則 |
| 骨盤内放射線治療歴 | 原則なし(頭頸部の場合は照射野が重なる既往は注意) |
腫瘍の厚さ10mmという数字が一つの分水嶺です。これはボールペンのキャップの先端部分ほどの深さで、視覚だけでは正確に判断できないため、超音波検査やMRIによる精密な評価が不可欠となります。
つまり表在性の腫瘍が条件です。
T3症例であっても、腫瘍が表面に広がる「表在型」であれば、外部照射や化学療法でT1〜T2相当まで縮小させてから小線源療法を行う「集学的治療」の対象となることがあります。これは多くの歯科従事者が見落としやすい重要な点です。外部照射との組み合わせによって、当初は適応外とされたケースに活路が開ける場合があります。
原発巣制御率は約90%という数字が示すとおり、早期口腔がんへの小線源療法は手術療法と同等の局所制御率を持ちます。
参考:口腔癌診療ガイドラインにおける小線源治療の適応基準と原発巣制御率の詳細
日本癌治療学会 がん診療ガイドライン(口腔がん)
歯科従事者として小線源療法の適応を正確に理解するには、どのような線源が使われているかを知ることも重要です。舌がんをはじめとする口腔がんへの小線源療法では、主に以下の線源が用いられます。
線源の選択は施設や患者の状態によって異なります。これは使えそうです。
イリジウム針は組織内への刺入精度が高く、再刺入も可能なため病変部の形状に柔軟に対応できる一方、一定期間の入院(放射線管理区域での隔離)が必要です。金粒子は処置自体が局所麻酔で15分程度で済み、治療後の痛みもほとんどないとされているため、体力的負担の大きい患者に対してメリットがあります。
ただし、これらの低線量率(LDR)小線源治療を行える施設は全国で19施設程度(日本放射線腫瘍学会小線源治療部会調べ)と非常に限られており、施設によって使用できる線源の種類も異なります。施設が少ないという現実は、早期紹介の重要性に直結します。
参考:舌がんに対する密封小線源治療の線源と治療方法の解説
Doctorbook「切らない舌がんの治療法!密封小線源治療とは?」
適応基準を知るうえでは、「適応外となる条件」を正確に把握することがより実践的です。患者の紹介タイミングや情報共有の精度に直結するため、歯科従事者として特に注意が必要な項目を整理します。
以下の状況に該当する場合、小線源療法単独での適応は原則として否定されます。
腫瘍が表面から深く潜っている「内向型」は要注意です。
特に「腫瘍の厚さ」については、視診・触診のみでの評価には限界があります。東京医科歯科大学のデータでは、内向型のT3症例では局所コントロールが難しく、遠隔転移が起こりやすいことも報告されています。超音波検査やMRIによる深達度評価が適応判断のカギを握ります。
一方で、「過去に内視鏡手術(TUR)歴がある場合は一律に適応外」という認識は必ずしも正確ではありません。前立腺がんの文脈ではありますが、「切除した組織が少ない場合は治療可能」とされる事例があるように、詳細な状況評価が求められます。口腔がんの文脈でも、既往歴があっても専門施設での精査を経て適応となるケースがあります。適応外かどうかの最終判断は放射線治療科と口腔外科の合議によるものが原則です。
小線源療法において、歯科従事者の関与は非常に具体的かつ不可欠です。単なる「治療前の虫歯チェック」にとどまらず、副作用の発生率を大きく左右するほどの影響があります。
岡山大学病院放射線治療科では、頭頸部がんセンターの歯科医師・歯科技工士と連携してスペーサー(マウスピース)の作製を行っています。このスペーサーは、線源を刺入した舌と下顎骨との間に物理的な距離を確保するためのもので、顎骨への余分な放射線照射を防ぎます。
スペーサーが予防できるのは「下顎骨壊死」です。
第115回歯科医師国家試験でも「舌癌の小線源治療に用いられるスペーサーで予防できるのはどれか」という問題が出題されており、正解は下顎骨壊死(ORN:放射線性顎骨壊死)とされています。顎骨壊死は治療後の抜歯がきっかけで発症するケースもあることから、放射線治療歴の把握と歯科処置時の注意も歯科医師の重要な役割です。
また、放射線治療開始前から歯科医師・歯科衛生士による専門的な口腔ケアと指導を行うことで、治療中・治療後の口腔粘膜炎(口内炎)の重症化を予防できます。口腔粘膜炎は小線源療法後のほぼ全例に急性期に発現し、晩期まで持続するケースも約30%に達するとされています。これは痛いところです。
治療前の口腔衛生状態が良好であるほど、粘膜炎の程度が軽く、回復も早いことが知られています。国立がん研究センターは「治療終了後も口の中を清潔に保ち、担当歯科医に放射線治療歴があることを伝えるよう」推奨しており、開業歯科医レベルでも連携情報の受け取り役として機能することが求められています。
参考:密封小線源治療とスペーサーによる顎骨壊死予防の詳細
岡山大学病院 放射線治療科「早期の口唇がん、口腔がんに対する密封小線源治療」
参考:がん治療における歯科・口腔管理の役割
がん情報サービス「頭頸部放射線療法、化学放射線療法の患者への口腔健康管理」(PDF)
現実として、口腔がんへの低線量率(LDR)小線源治療を行える施設は全国に限られています。日本放射線腫瘍学会小線源治療部会によれば、頭頸部領域の小線源治療を行っている施設は全国で19施設前後にとどまります。一般的な密封小線源治療(舌がん・口腔がん)となるとさらに限定され、実質的に東京医科歯科大学病院・国立がん研究センター中央病院をはじめとする数施設が症例の大半を引き受けている状況です。
施設が少ない理由は明確です。
低線量率小線源治療には専用の放射線管理区域・鉛遮蔽のある特殊ベッドが必要で、術者の被曝リスクも伴います。さらに診療報酬が低く、施設運営の採算性が見込みにくいため、病院の改修・新築のたびに対応施設が減少しています。線源の供給自体も細くなっており、「絶滅しつつある治療」という表現を用いる放射線腫瘍医もいます。
この状況で歯科従事者に求められることは、「適切な患者を、適切なタイミングで、対応可能な施設へ紹介すること」に集約されます。口腔内に白斑や潰瘍を発見した際に、病変の大きさ・硬さ・深達度の感触を記録しておき、放射線治療科や口腔外科への紹介状に具体的な所見を記載する習慣が、患者の治療選択肢を広げる直接的な行動となります。
紹介先の施設をメモしておけばOKです。
以下は、口腔がんへの小線源療法を実施している代表的な施設です(掲載時点の情報をご確認ください)。
なお、患者が切除手術を強く希望しない場合や高齢・合併症のため手術困難な場合も、小線源療法の適応検討対象となる重要な候補です。「手術一択」と思い込まずに、専門施設への相談を促すことが、歯科従事者としての知識の活かし方につながります。
参考:舌がんへの小線源治療の施設と治療実績(東京医科歯科大学)
Clinical Cloud「舌がんに対する密封小線源治療について」
参考:舌がんの小線源治療の現状と施設減少の背景
市民のためのがん治療の会「絶滅する低線量率小線源治療」