舌がんは口腔がんの中でも最も多く、全口腔がんの約60%を占めています。男女比は約3:2と男性に多く見られ、発症年齢は60代に多いとされていますが、20〜30代の若年層でも発症することがあるため注意が必要です。
舌がんは早期発見・早期治療が非常に重要な疾患です。早期であれば5年生存率は90%以上と高く、完治が十分に期待できます。しかし、発見が遅れると急速に進行し、リンパ節への転移をきたすケースもあります。
歯科医院での定期検診は、舌がんをはじめとする口腔がんの早期発見に大きく貢献します。特に、2週間以上治らない口内炎や、口内炎の周囲に硬いできものが触れる場合は、速やかに歯科医院や耳鼻咽喉科を受診することが推奨されています。
舌がんの初期症状は非常に見逃しやすいことが特徴です。多くの場合、初期の舌がんは痛みを伴わないため、患者自身が気づかないことも少なくありません。初期症状としては以下のようなものが挙げられます。
特に注意すべきは、舌がんは舌の先端や中央部にできることはまれで、多くは側面に生じるという点です。この部位は自分で鏡を使って確認しづらい場所であるため、定期的な歯科検診が重要になります。
舌がんが進行すると、周囲が固くなり(硬結)、潰瘍(えぐれた感じ)になったり、外側に膨らんできて持続する痛みや出血を生じるようになります。また、舌が硬くなって可動域が制限されたり、味覚障害や舌の動かしにくさを感じることもあります。
これらの症状が見られる場合、特に2週間以上治らない口内炎がある場合は、すぐに歯科医院を受診することをお勧めします。
舌がんの明確な原因は現在のところ解明されていませんが、いくつかのリスク要因が指摘されています。特に歯科的な観点から重要なリスク要因には以下のようなものがあります。
特に注目すべきは、歯並びの悪さが舌がんのリスクを高める可能性があるという点です。歯並びがV字型になっていたり、奥歯が内側に傾いていると、舌が常に歯に当たり、慢性的な刺激を受けることになります。また、舌に歯の圧痕がついている場合も、舌と歯が強く接触している証拠であり、舌がんのリスクが高まる可能性があります。
このような歯科的な問題を抱えている場合は、歯列矯正や適切な補綴処置によって改善することが舌がん予防につながります。
歯科医院では、舌がんの早期発見のために以下のような検査を行います。
1. 視診と触診
歯科医師が口腔内に光を当てながら舌を直接観察し、がんが疑われる部分の大きさや形、粘膜の異常などを確認します。また、舌だけでなく、虫歯やインプラントの状態についても同時にチェックします。
触診では、歯科医師が口腔内に直接触れ、がんがある部位の大きさや硬さを調べます。また、首のリンパ節に腫れがないかも確認します。
2. 超音波(エコー)検査
視診や触診で異常が認められた場合、超音波検査を行うことがあります。これにより、舌がんの深さや広がり、頸部リンパ節への転移を確認することができます。
3. 細胞診・組織診
病変の一部を採取し、顕微鏡で詳しく観察する検査です。ブラシや綿棒などで舌の表面をこすって細胞をとる「細胞診」と、鉗子などの器械で組織の一部を採取する「組織診」があります。
4. 画像診断
必要に応じて、CT検査やMRI検査、PET-CT検査などの画像診断を行います。これにより、がんの大きさや位置、他の部位への転移の有無を確認することができます。
歯科医院での定期検診は、これらの検査を通じて舌がんの早期発見につながります。日本歯科医師会や口腔外科学会が主導して、さまざまな地域で口腔がん検診が行われていますので、積極的に受診することをお勧めします。
舌がんの治療は、手術療法、放射線療法、化学療法の3つの柱からなっています。患者の年齢、全身状態や社会状況などを考慮したうえで、がんの進行状況や組織系に応じて治療法が選択されます。
1. 手術療法
舌がんの治療の基本は手術療法です。がんの大きさや進行度に応じて、舌部分切除、舌可動部半側切除、舌可動部(亜)全摘手術、舌半側切除術、舌(亜)全摘出術などが行われます。また、リンパ節転移が疑われる場合は、頸部郭清術(リンパ節郭清)も併せて行われます。
舌の切除量が多い場合は、再建手術も行われます。これは、手術後の顔貌の変化や摂食嚥下機能の低下、発音や会話の障害をできるだけ最小限にとどめるために重要です。
2. 放射線療法
早期の舌がんでは、組織内照射が行われることもあります。また、術後の再発や転移リスクが高い症例での補助治療や、切除不能病変に対しても放射線治療が行われます。
3. 薬物療法
進行がんや再発・転移リスクが高い症例に対しては、化学療法が行われることがあります。近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤なども使用されるようになってきました。
歯科医師の役割
舌がんの治療において、歯科医師は以下のような重要な役割を担っています。
特に注目すべきは、歯科医師と医師の連携の重要性です。厚生労働省の「歯科口腔外科に関する検討会」では、口腔がんの治療に当たっては、歯科医師単独ではなく、適切に医師と連携をとる必要があるとされています。特に悪性腫瘍の治療や全身管理を要する患者の治療においては、多職種連携が不可欠です。
舌がんを予防するためには、リスク要因を減らし、定期的な歯科検診を受けることが重要です。歯科的なアプローチとしては以下のようなものが挙げられます。
1. 口腔内環境の改善
2. 機械的刺激の除去
3. 生活習慣の改善
4. 定期的な口腔がん検診
特に重要なのは定期的な歯科検診です。舌がんは早期発見・早期治療が可能ながんであり、定期的な歯科検診によって早期に発見することができます。また、歯科医院では口腔がん検診も行われていますので、積極的に受診することをお勧めします。
さらに、自己検診も重要です。鏡を使って定期的に舌を含む口腔内をチェックし、異常を感じたら早めに歯科医院を受診しましょう。特に、2週間以上治らない口内炎や、口内炎の周囲に硬いできものが触れる場合は、速やかに医療機関を受診することが推奨されています。
舌がんのリスク要因の一つとして、不良な歯並びによる慢性的な機械的刺激が挙げられます。特に以下のような歯並びは、舌がんのリスクを高める可能性があります。
1. V字型の歯並び
本来、歯並びはU字型の滑らかなカーブが理想的です。V字型になると歯列弓が狭くなり、舌が歯に当たりやすくなります。これにより、舌に慢性的な刺激が加わり、舌がんのリスクが高まる可能性があります。
2. 内側に傾いた奥歯
通常、歯は垂直に生えていますが、奥歯が内側に傾いていると、舌が常に歯に接触し、慢性的な刺激を受けることになります。これも舌がんのリスクを高める要因となります。
3. 不良な噛み合わせ
正常な噛み合わせでは、上顎の歯が下顎の歯よりも2〜3ミリ外側に位置しています。この噛み合わせがずれていると、舌を噛みやすくなり、舌に慢性的な刺激を与える可能性があります。
4. 舌に歯の圧痕がついている
舌に歯型の痕がついている場合、舌と歯が強く接触している証拠です。これは舌がんのリスクを高める可能性があります。
このような歯並びの問題を抱えている場合、歯列矯正が舌がん予防に有効です。歯列矯正は単に見た目を整えるだけでなく、舌への慢性的な刺激を減らし、舌がんのリスクを低減する効果が期待できます。
実際に、内側に傾いた奥歯を矯正することで、舌を置くスペースが広くなり、慢性的な刺激がなくなったという症例も報告されています。舌がん予防のために矯正治療を受ける患者も増えているようです。
歯列矯正は長期的な治療になりますが、舌がん予防という観点からも検討する価値があります。特に、舌に歯の圧痕がついている、同じ場所に口内炎ができやすいといった症状がある場合は、歯科医院に相談してみることをお勧めします。
歯並びと舌がんの関係性についての詳細情報
舌がんは早期発見・早期治療が可能ながんです。定期的な歯科検診と適切な口腔ケア、そして必要に応じた歯列矯正によって、舌がんのリスクを低減し、健康な口腔環境を維持しましょう。