舌骨上筋群を鍛えるだけでは、嚥下機能が改善しないケースが約6割あります。 note(https://note.com/hirokoni1201/n/na1889b99ab70)
嚥下の咽頭期において、舌骨上筋群が収縮すると舌骨が前上方に移動し、甲状舌骨筋が伸長されて収縮し、甲状軟骨(喉頭)が挙上されます。 その結果、食道入口部(上食道括約筋)が開大し、食塊が安全に食道へ移動できる経路が確保されます。 これが正常嚥下の基本メカニズムです。 swallow-web(http://www.swallow-web.com/n-engeriha/pdf/2017teirei1-1_mechanism.pdf)
| 筋名 | 起始 | 停止 | 主な作用 | 神経支配 |
|---|---|---|---|---|
| 顎舌骨筋 | 下顎骨(顎舌骨筋線) | 舌骨体 | 嚥下時に舌骨を前方に牽引 | 顎舌骨筋神経(三叉神経第3枝) |
| 顎二腹筋(前腹) | 下顎骨(二腹筋線) | 舌骨 | 舌骨挙上・下顎下制補助 | 顎舌骨筋神経(三叉神経第3枝) |
| 茎突舌骨筋 | 側頭骨(茎状突起) | 舌骨 | 舌骨挙上・下顎下制補助 | 顔面神経 |
| オトガイ舌骨筋 | 下顎骨(オトガイ棘) | 舌骨 | 舌骨前上方挙上・開口補助 | 舌下神経(C1経由) |
特筆すべきは、舌骨上筋群が「収縮に特化した速筋的な特性」を持つ点です。 舌骨下筋群と比べて筋紡錘が少なく、反射的に素早く反応するよう設計されています。 この特性は嚥下の素早い神経—筋連関を支える重要な構造的根拠となっています。 note(https://note.com/hirokoni1201/n/na1889b99ab70)
歯科臨床では、咬合の確保が舌骨上筋群のコントロールに直結するという視点が重要です。 下顎が安定しない状態では、舌骨上筋群が十分に収縮できず嚥下機能が低下するリスクがあります。 x(https://x.com/Ken_Inohara/status/1893981007466168410)
嚥下反射が誘発されると、舌骨上筋群の収縮が連鎖的に起こります。厳密には以下の順序です。 note(https://note.com/hirokoni1201/n/na1889b99ab70)
重要なのは「ステップ1」の条件です。 下顎が安定していなければ、舌骨上筋群の収縮は不完全になります。 これが、義歯不適合や咬合崩壊が嚥下機能に直結する理由です。歯科従事者が嚥下機能を語るとき、咬合の視点は外せません。 x(https://x.com/Ken_Inohara/status/1893981007466168410)
また、舌骨上筋群は開口筋としても機能します。 嚥下と開口という一見異なる2つの動作が、同一の筋群に依存しているのです。意外ですね。この解剖学的事実は、開口訓練が嚥下訓練として有効であることの理論的根拠になっています。 e-oral(https://e-oral.jp/library/library_rehabilitation/000014.html)
嚥下機能の改善には、舌骨上筋群単体ではなく、舌骨下筋群や後頭下筋群といった拮抗筋・安定筋との協調が欠かせません。 つまり「舌骨上筋群だけ鍛える」アプローチは不十分です。 note(https://note.com/riha_riha/n/nc2e82b136160)
東京医科歯科大学大学院の戸原玄教授らの研究によって、加齢による舌骨上筋群の変化が明確に示されました。 高齢者は若年者に比べて、オトガイ舌骨筋の筋輝度(筋内脂肪の指標)が有意に高く、筋質が低下していることが明らかになっています。 筋輝度の数値が高いほど筋内脂肪組織が多く、実際の収縮に使える筋組織が少ないということです。 1post(https://1post.jp/en/6209)
また別の研究では、加齢によって舌骨上筋群は明らかに萎縮する一方、舌(内舌筋)は大きくなる傾向があるという「逆転現象」が報告されています。 歯科臨床でよく見る「舌が大きくなった高齢者」は、実は嚥下関連筋が弱っているサインかもしれません。これは見逃せない所見です。 tmd.ac(https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20201124-1.pdf)
さらに、加齢に伴い喉頭が下垂することで、舌骨と喉頭の挙上量・前方移動量が低下し、挙上時間の延長が起きることも確認されています。 具体的には嚥下後に食塊が残留しやすくなり、誤嚥リスクが高まります。 高齢患者の嚥下機能評価では、この喉頭位置にも着目することが有益です。 fukushizaidan(https://www.fukushizaidan.jp/wp-content/docs/202book/03yobou_003.pdf)
参考資料:舌骨上筋群の加齢変化と嚥下関連筋の筋質に関する東京医科歯科大学の研究
嚥下関連筋の加齢変化と筋内脂肪組織:東京医科歯科大学の研究成果(1post.jp)
舌骨上筋群を鍛える方法として、最も実践しやすいのが「開口訓練(最大開口保持)」です。 方法はシンプルです。 e-oral(https://e-oral.jp/library/library_rehabilitation/995/)
このトレーニングは器具不要で、自宅でも実施できます。 歯科衛生士が患者に指導しやすいという点でも優れています。患者への定着率を高めるためには、「口を大きく開けるだけで嚥下筋が鍛えられる」という明確な説明が効果的です。 youtube(https://www.youtube.com/watch?v=8-05xLq2gOM)
別のアプローチとして、「頭部挙上運動(シャキア運動)」があります。 仰臥位で頭部だけを持ち上げて足先を見る動作を繰り返すことで、舌骨上筋群に強い負荷をかけられます。ただし、頸椎疾患のある患者には禁忌となるため、事前確認が条件です。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_8799)
舌の筋力強化(舌圧トレーニング)と組み合わせることで、舌骨上筋群のトレーニング効果をさらに高められます。 舌を口蓋に持続的に押し当てる等尺性運動では、最大舌圧の6割以上の負荷が推奨されています。 開口訓練+舌圧訓練の組み合わせが、嚥下機能改善の実践的なセットと言えます。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_8799)
舌骨挙上不全は「嚥下リハビリ専門職の問題」と捉えられがちです。しかし実は、歯科が直接対処できる原因が複数あります。これは見落とされやすい視点です。
最大の要因の一つが、咬合の崩壊です。 舌骨上筋群が適切に機能するためには「下顎の安定」が前提条件であり、歯の喪失や義歯の不適合が下顎の支持基盤を失わせると、舌骨上筋群の収縮タイミングが乱れます。 歯が抜けたままの高齢者に嚥下障害が多い理由は、単に歯がないことによる咀嚼問題だけではありません。 x(https://x.com/Ken_Inohara/status/1893981007466168410)
また、頭頸部のアライメント(姿勢)も舌骨挙上に大きな影響を与えます。 頭部前方位姿勢(前傾頭位)では、後頭下筋群の緊張が舌骨の動きを制限し、舌骨上筋群が十分に収縮できません。 車椅子や食事姿勢の評価は、歯科従事者にとっても重要な嚥下評価の一要素です。 note(https://note.com/riha_riha/n/nc2e82b136160)
さらに、舌骨下筋群に過緊張があると舌骨の挙上が物理的に阻害されます。 舌骨下筋群の過緊張は、首の前面筋(胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋など)の短縮から起こりやすく、長時間のうつむき姿勢(スマートフォン操作、書き作業)が原因となることもあります。歯科外来で「食べるとむせる」という訴えを聞いたとき、姿勢や義歯の問題を確認する習慣は、臨床の質を上げます。 note(https://note.com/hirokoni1201/n/na1889b99ab70)
参考資料:舌骨上筋群の機能解剖と臨床アプローチの詳細
舌骨上筋群の機能解剖からの治療アプローチ(note:理学療法士による詳解)
参考資料:摂食嚥下における舌・舌骨上筋群の評価とトレーニング
摂食嚥下における舌の役割と評価・トレーニング方法(e-oral.jp)