開口訓練リハビリで嚥下機能を維持向上させる実践ガイド

開口訓練リハビリは摂食嚥下機能の改善に欠かせない手技ですが、顎関節症への適用判断や保険算定の落とし穴など、知らないと損する情報が多くあります。歯科従事者として正しく実践できていますか?

開口訓練リハビリで嚥下機能を維持・向上させる実践ガイド

顎関節症の患者に開口訓練を指示すると、症状が悪化するリスクがあります。


この記事の3つのポイント
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開口訓練の本質的な目的

舌骨上筋群を強化して食道入口部を開大させ、誤嚥リスクを低減する基礎訓練。4週間継続で舌骨挙上量・咽頭通過時間・食道入口部開大量が改善するとの報告あり。

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見落としがちな適用の禁忌と注意点

顎関節症・顎関節脱臼のある患者への適用は慎重を要し、自己開口訓練のみでは保険点数の算定が認められないケースも存在する。

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実践で使える訓練バリエーション

基本の開口保持法から負荷をかけた抵抗開口法、Shaker法との組み合わせまで、患者の状態に応じたプログラム選択のポイントを解説。


開口訓練リハビリの目的と対象患者の基本知識

開口訓練とは、最大限に口を開ける動作を反復・保持することで、舌骨上筋群(オトガイ舌骨筋顎舌骨筋顎二腹筋など)を直接的に強化する基礎訓練(間接訓練)です。嚥下の際に舌骨が十分に挙上されないと、食道入口部(上部食道括約筋:UES)が正常に開大せず、食塊が咽頭に残留して誤嚥の原因となります。この機能不全を改善することが、開口訓練の根本的な目的です。


日本摂食嚥下リハビリテーション学会の訓練法まとめ(2014版)でも、開口訓練は「舌骨上筋の筋力トレーニングを行うことで舌骨の挙上や食道入口部開大を改善する」と明確に位置づけられています。つまり開口訓練は「口を開ける練習」ではなく、嚥下の核心を支える筋肉を鍛える手技です。


主な対象は以下のような患者です。


- 脳血管疾患(脳卒中後遺症)による嚥下障害
- 加齢に伴う舌骨挙上不全・食道入口部開大不全を呈した高齢者
- 頭頸部癌術後による摂食嚥下障害
- 意思疎通が可能であること(指示に従えること)が原則の条件


意思疎通が取れることが条件です。重度の認知症や意識障害のある患者は、指示通りに最大開口を保持できないため、訓練の効果が得られにくく、別のアプローチを検討します。


研究面では、Wadaらによる報告で、嚥下障害患者に対して開口訓練を4週間継続させたところ、舌骨の上方挙上量・食塊の咽頭通過時間・食道入口部開大量の改善、咽頭残留量の減少という複数の指標で有意な改善が認められています。4週間継続が一つの目安です。


日本摂食嚥下リハビリテーション学会の訓練法まとめは、様々な訓練の標準的手順が網羅されており、臨床実践の参考として有用です。


日本摂食嚥下リハビリテーション学会 訓練法のまとめ(2014版)PDF


開口訓練リハビリの具体的な手順と実施頻度

標準的な開口訓練の実施方法は、座位または臥位で体幹を安定させた姿勢から始めます。姿勢の安定が前提です。体幹が不安定な状態では、舌骨上筋群に十分な負荷をかけられないうえ、誤嚥リスクが高まります。


具体的な手順は次のとおりです。


1. 座位または仰臥位で体幹を安定させる
2. 「大きく口を開けてください」と指示し、最大限の開口を行わせる(舌骨上筋群が強く収縮していることを意識させる)
3. その状態を10秒間保持する
4. 口を閉じて10秒間休憩する
5. これを5回で1セットとし、1日2セット実施する


「10秒保持・10秒休憩×5回、1日2セット」が基本です。


ただし、患者の体力・筋持久力によっては保持時間を5秒から開始し、段階的に延長していくことも有効です。「どのくらいの時間から始めるべきか?」と悩む場面もあるかもしれません。最初から10秒にこだわるよりも、継続できる強度から始めることが長期的な改善につながります。


📌 訓練時に指示する際のポイント:単に「口を大きく開けて」と言うだけでなく、「のどの奥が引っ張られる感覚を意識しながら」と声かけすると、舌骨上筋群の意識的な収縮を引き出しやすくなります。


また、訓練前には口腔内を清潔にしておくことが必要です。訓練中は唾液が増加することがあるため、誤嚥を防ぐ姿勢管理も同時に行いましょう。嚥下障害がある患者では、訓練中のむせにも注意が必要です。


なお、指を使った補助的な開口訓練(バイト・オープナーや木製スパーテルなどを用いる方法)は、顎関節症の開口障害に対して行われる場合と、摂食嚥下リハビリを目的に行う場合とでは、目的も対象疾患も異なります。この区別は保険算定の観点からも重要であり、後の章で詳しく解説します。


開口訓練リハビリと他の嚥下訓練との組み合わせ方

開口訓練は単独で行うよりも、他の基礎訓練と組み合わせることで相乗効果が期待できます。これは使えそうです。臨床で意識しておきたい代表的な組み合わせを以下に整理します。



























訓練名 主な目的 開口訓練との関係
嚥下体操 頸部・全身の嚥下筋のリラクゼーション 開口訓練の前準備として実施すると効果的
頭部挙上訓練(Shaker法) 舌骨挙上筋群・喉頭挙上筋群の強化 開口訓練と同じ舌骨上筋群を異なるアプローチで強化
舌抵抗訓練 舌筋力・口腔内圧の向上 口腔期機能との相補的な関係にある
口唇閉鎖訓練 口輪筋の筋力向上・食べこぼし防止 摂食準備期の機能改善として併用される


頭部挙上訓練(Shaker法)は特に注目すべき組み合わせです。仰臥位で足のつま先が見えるまで頭部だけを持ち上げる訓練で、開口訓練と同様に舌骨上筋群・喉頭挙上筋群を強化します。Shaker原法では「60秒間頭を持ち上げた後に60秒休憩、これを3回繰り返す→1秒ごとに頭を上下30回」という負荷の大きいプログラムですが、高齢者や体力が低下した患者では無理なく調整します。


ただし、頸椎症や高血圧症を有する患者には頭部挙上訓練の適用に注意が必要です。頸椎症患者は要注意です。開口訓練のほうが安全に実施しやすいケースも多く、患者の全身状態を確認した上でプログラムを組み立てることが重要です。


嚥下体操を食前の準備運動として位置づけ、開口訓練を1日2セット、週3~5回継続するプログラムが一般的な実践例です。患者・家族への自主訓練指導として渡す際は、「毎食前に嚥下体操→開口訓練5回×2セット」という形でルーティン化できるよう、簡潔なフロー図や指導用リーフレットを活用すると継続率が上がります。


健康長寿ネットには、基礎訓練から直接訓練まで分かりやすく整理されており、患者向け説明の補助資料としても活用できます。


嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)|健康長寿ネット


開口訓練リハビリの適用禁忌と見落としやすい注意点

開口訓練には明確な注意点があります。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の標準的手順では「顎関節症や顎関節脱臼のある患者には注意して行う、もしくは適用を控えるのが望ましい」と明記されています。これは非常に重要です。


摂食嚥下リハビリの文脈で開口訓練を行う場合でも、顎関節に問題がある患者では無理な最大開口が顎関節への負担を増大させ、痛みの悪化や関節円板の損傷リスクを高めます。特に以下の状態の患者は慎重な評価が必要です。


- 顎関節雑音(クリック音・クレピタス)がある患者
- 開口時に痛みや偏位が認められる患者
- 開口量が30mm以下の顎関節症患者
- 顎関節脱臼の既往がある患者


開口量の目安として、成人の正常な最大開口量は約40mmとされています。指3本分が縦に入る程度のイメージです。これに対して35mm程度でも日常生活で不自由を感じないため、患者本人が自覚していないことも多く、デンタルプラザの報告では「かくれ顎関節症」として問題提起されています。スケーリング時などに「なかなか口を開けてくれない患者」がいる場合、こうした潜在的な顎関節機能障害の可能性を念頭に置いた評価が求められます。


また、急性炎症期(顎関節・咀嚼筋の強い疼痛がある時期)には、開口訓練はいったん中止します。痛みを我慢させながら行う訓練は逆効果になる場合があります。


訓練中に「日常生活上で顎関節部の疼痛が増大する場合は中止する」という顎関節症初期治療診療ガイドラインの原則は、摂食嚥下リハビリの現場でも共通して適用されます。顎関節の状態確認は訓練開始前のルーティンにすることをお勧めします。


顎関節症初期治療診療ガイドライン2023改訂版(日本顎関節学会)


開口訓練リハビリにかかわる保険算定の落とし穴

歯科従事者として特に注意したいのが、開口訓練に関連する保険算定の取り扱いです。実は「指導に時間をかけても算定できないケースがある」ことを知らずに誤請求に至る例が、個別指導でも指摘されています。痛いところです。


まず整理しておくべき重要な原則があります。


顎関節症患者に対する自己開口訓練のみの場合、訓練に時間をかけても保険点数の算定はできません。


これは顎関節症初期治療診療ガイドライン2023改訂版でも明記されている内容です。つまり、顎関節症患者に開口訓練の指導をした場合、歯科口腔リハビリテーション料2(54点)を算定するためには、顎関節治療用装置(スプリント等)を装着していることが算定要件となります。装置の装着が条件です。


一方、口腔外科的な整形手術後や顎骨骨折の観血的手術後に生じた開口障害に対して、開口器等を使用して開口訓練を行った場合は、医科点数表の運動器リハビリテーション料に準じた算定が可能なケースがあります。こちらは適応が異なります。



























開口訓練の場面 算定の可否 注意点
顎関節症患者への自己開口訓練のみ ❌ 算定不可 装置なしでは歯科口腔リハ料2は算定不可
顎関節治療用装置装着中の患者への指導 ✅ 歯科口腔リハ料2(54点)月1回 装置は他院製作分でも可
摂食嚥下障害患者への開口訓練(基礎訓練) 摂食機能療法等に含む 診療録への訓練内容記載が必須
口腔外科手術後の開口障害に対する開口訓練 ✅ 条件により算定可 術後の開口障害であることの記録が必要


いずれの場合も、「指導・訓練内容等の要点を診療録(カルテ)に記載すること」が必須要件です。どれほど丁寧な指導を行っていても、記録のない訓練は保険上は「行っていない」とみなされます。記録なければ算定なしです。


開口訓練の指導を行った際は、開口量の測定値(例:最大開口量30mm)、実施した訓練内容(開口保持10秒×5回)、患者・家族への説明内容、次回評価の予定を簡潔にカルテに記載する習慣をつけておくと、個別指導の際にも対応できます。


歯科診療報酬点数表の歯科口腔リハビリテーション料の詳細は、最新の点数表を確認することをお勧めします。


第7部リハビリテーション|歯科診療報酬点数表(しろぼんねっと)