ラテックスグローブで触れると硬化不全になります
付加重合型シリコーン印象材は、ビニルポリシロキサンと水酸化ポリシロキサンが塩化白金酸触媒によって付加重合反応を起こし、架橋構造を形成して硬化する印象材です。この化学反応の最大の特徴は、硬化時に副生成物をほとんど生成しないという点にあります。縮合型シリコーン印象材が硬化時にアルコールを放出し、その揮発により約0.3~0.5%の収縮を起こすのに対し、付加重合型では重合収縮が0.1%以下と極めて少ないのが特徴です。
この寸法安定性の高さは、補綴物の適合精度に直結します。クラウンやブリッジなどの固定性補綴物では、マージン部の再現精度がミクロン単位で要求されるため、印象材の寸法変化は致命的な問題となります。付加重合型シリコーン印象材は、各種弾性印象材の中で永久ひずみと寸法変化が最小であり、精密印象材として最も信頼性が高いと評価されています。
つまり精度重視の症例に最適です。
また、付加重合型シリコーン印象材は硬化後の寸法安定性にも優れています。印象採得後、適切に保管すれば数日から2週間程度まで寸法変化がほとんど生じません。これにより、印象採得から石膏注入までの時間に柔軟性を持たせることができ、診療スケジュールの調整が容易になります。ただし、長期保管する場合は温度変化や湿度の影響を受けないよう、密閉容器に入れて室温で保管することが推奨されます。
付加重合型シリコーン印象材の硬化反応は、白金触媒によって進行するため、触媒活性を阻害する物質との接触に非常に敏感です。最も注意が必要なのがラテックスグローブです。ラテックスに含まれる硫黄化合物が白金触媒と反応し、硬化遅延や硬化不全を引き起こします。驚くべきことに、直接的な接触だけでなく、ラテックスグローブで支台歯に触れた後に印象を採るという間接的な接触でも硬化阻害が発生することが報告されています。
この硬化阻害のリスクは臨床で大きな問題となります。
硬化不良を起こした印象材は表面が粘着性を帯び、石膏模型に面あれが生じます。その結果、補綴物の適合不良や再印象の必要性が生じ、患者の負担増加と診療効率の低下を招きます。ラテックスグローブを常用している場合、手に硫黄化合物が残留しているため、グローブを外して素手で操作しても硬化阻害が起こる可能性があります。対策としては、印象材を扱う際には必ずポリエチレン製またはニトリル製のグローブを使用し、パテタイプの練和前には石鹸で十分に手を洗浄することが重要です。
その他の硬化阻害物質としては、縮合型シリコーン印象材のキャタリスト、ポリサルファイド印象材、ユージノール系材料(仮封材や根管充填材)、未硬化の常温重合レジン、局所表面麻酔剤のスプレータイプ、ハンドクリーム、水分やグリセリンなどが挙げられます。特にユージノール系材料は歯科臨床で頻繁に使用されるため、印象採得前に支台歯表面を十分に清掃し、ユージノール成分を完全に除去する必要があります。
ユージノール除去が不十分だとトラブルが起きます。
硬化阻害を防ぐための実践的な対策として、印象採得前のプロトコルを確立することが効果的です。支台歯の清掃にはフッ化物を含まない研磨ペーストを使用し、水洗・乾燥を徹底します。また、診療室内で使用する手袋の種類を統一し、印象採得を行うスタッフ全員が硬化阻害のリスクを理解することが重要です。万が一硬化不良が発生した場合は、原因物質を特定して完全に除去してから再印象を行う必要があります。
従来のシリコーン印象材は疎水性であり、歯肉溝からの滲出液や唾液などの水分により印象精度が低下するという欠点がありました。現在主流となっている親水性付加重合型シリコーン印象材は、この問題を解決するために開発された材料です。親水性界面活性剤を配合することで、硬化前の印象材が水分と速やかに馴染み、湿潤した歯肉縁下やマージン部にも流れ込んで細部を鮮明に再現できるようになりました。
製品によっては、練和直後のぬれ接触角が9度という超親水性を実現したものもあります。これは水滴を滴下すると瞬時に広がって薄膜を形成するレベルの親水性であり、歯肉溝内の湿潤環境下でも印象材が確実に入り込むことを意味します。従来の疎水性印象材では水分に弾かれてマージン部の印象が不鮮明になることが多かったのに対し、親水性印象材では滲出液の影響を受けにくく、精密な印象採得が可能になります。
親水性が印象精度を大きく向上させます。
流動性の面では、付加重合型シリコーン印象材は粘度の異なる複数のタイプが用意されており、印象法や症例に応じて使い分けることができます。最も流動性が高いのはインジェクションタイプ(またはウォッシュタイプ、エクストラウォッシュタイプ)で、支台歯やマージン部に直接注入して細部を再現します。中程度の粘度を持つレギュラータイプやモノフェイズタイプはトレーマテリアルとして使用され、高粘度のパテタイプやヘビーボディタイプは一次印象や個人トレーの製作に用いられます。
これらを組み合わせた二段階印象法(パテ・ウォッシュ法)は、付加重合型シリコーン印象材の精度を最大限に引き出す印象採得法として広く普及しています。まずパテタイプで概形印象を採得し、十分なリリーフスペース(通常0.5mm程度)を確保した後、インジェクションタイプを用いて精密印象を行います。この方法により、トレーマテリアルの厚みが均一になり、硬化収縮による歪みが最小限に抑えられます。
症例に応じた材料選択が成功の鍵です。
また、親水性付加重合型シリコーン印象材は石膏に対するヌレ性(濡れ性)にも優れています。印象面と石膏泥が良好に接触するため、気泡の混入が少なく、表面再現性の高い模型が得られます。これは補綴物製作において、技工操作の精度向上に直結する重要な特性です。
付加重合型シリコーン印象材の硬化時間は、製品や室温によって異なりますが、一般的に口腔内保持時間は2~4分程度です。操作余裕時間(ワーキングタイム)は1~2分程度確保されており、この間に練和、トレーへの盛り上げ、口腔内への挿入を完了する必要があります。硬化反応は温度の影響を強く受けるため、室温が高い夏季には硬化が早まり、低温の冬季には遅くなります。
これが基本の時間管理です。
付加重合型シリコーン印象材の硬化特性として重要なのは、縮合型よりも温度の影響を受けやすいという点です。室温が10度上昇すると、硬化時間は約半分に短縮されます。逆に低温環境では硬化が著しく遅延するため、冬季や空調の効いた診療室では印象材を室温に戻してから使用することが推奨されます。急速に硬化時間を延長したい場合は、使用前に印象材を冷蔵庫で冷やすという方法が有効ですが、極端な低温は練和性を悪化させる可能性があるため注意が必要です。
硬化のシャープさも付加重合型シリコーン印象材の特徴です。縮合型やポリエーテル印象材と比較して、硬化の進行が急激であり、ゴム状弾性体に変化する時間が短いのが特徴です。このシャープな硬化により、口腔内保持中の顎位変化による歪みが最小限に抑えられ、精度の高い印象採得が可能になります。特に咬合採得用のシリコーン印象材では、口腔内保持時間を30秒~45秒まで短縮した製品も開発されており、患者の負担軽減にも貢献しています。
患者への配慮と精度を両立できます。
操作時間の管理において注意すべきは、カートリッジタイプとチューブタイプでの練和方法の違いです。カートリッジタイプは自動練和器やディスペンサーを使用するため、ベースとキャタリストが均一に混合され、気泡の混入が少ないという利点があります。一方、チューブタイプは手練和が必要であり、練和の均一性が術者の技術に依存します。不十分な練和は硬化ムラや未硬化部分の原因となるため、30秒以上かけて十分に練和することが重要です。
付加重合型シリコーン印象材を使用する際、トレーとの接着を確保するためにトレーアドヒーシブ(接着剤)の使用が必須です。アドヒーシブの種類はトレーの材質によって異なり、レジン製個人トレーには専用のレジントレー用アドヒーシブを、金属製トレーには金属トレー用アドヒーシブを使用する必要があります。アドヒーシブの塗布は薄く均一に行い、完全に乾燥させてから印象材を盛り上げます。不十分な乾燥や塗りムラは、印象材のトレーからの剥離原因となり、印象精度を著しく低下させます。
トレー接着の失敗は印象やり直しにつながります。
アドヒーシブの塗布後、乾燥時間として最低でも5分以上を確保することが推奨されます。急いでいる場合でも、ドライヤーなどで強制乾燥させると溶剤が完全に揮発する前に表面だけが乾燥し、内部に溶剤が残留して接着不良の原因となるため注意が必要です。確実な接着を得るためには、自然乾燥で十分に時間をかけることが最も安全な方法です。
石膏注入のタイミングは、使用した印象材のタイプによって異なります。インジェクションタイプやレギュラータイプのみを使用した印象では、印象採得後30分以上経過してから石膏を注入することができます。しかし、パテタイプを使用し、印象面にパテが露出している場合は注意が必要です。パテタイプの硬化反応では微量の水素ガスが発生し、この水素ガスが石膏模型表面に気泡を形成して面あれの原因となります。
パテ使用時は60分以上待つ必要があります。
この水素ガス発生の問題を回避するためには、パテタイプ使用時は印象採得後60分以上、できれば90分程度経過してから石膏を注入することが推奨されます。一部の文献では、完全重合を待つために24時間以上経過してから注入することを推奨する意見もあります。ただし、付加重合型シリコーン印象材の優れた寸法安定性により、適切に保管すれば2週間以内であればいつでも石膏注入が可能です。診療スケジュールに応じて、印象と石膏注入のタイミングを柔軟に調整できるのも、この材料の大きな利点といえます。
印象採得後の消毒も臨床では重要な手順です。流水下で十分に洗浄した後、0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液に30分浸漬、または2%グルタラール溶液に30分浸漬することで、B型肝炎ウイルスを含む病原体を不活化できます。消毒処理による印象材の寸法変化は最小限であり、適切に行えば印象精度への影響はほとんどありません。感染対策と精度確保を両立させるため、消毒プロトコルを確立しておくことが重要です。
付加重合型シリコーン印象材の臨床応用範囲は非常に広く、単独歯のクラウン印象から全顎的な補綴症例、インプラント印象、義歯印象まで多岐にわたります。症例の特性に応じて適切な印象材タイプと印象法を選択することが、高精度な印象採得の鍵となります。単独歯や少数歯のクラウン・ブリッジ症例では、パテ・ウォッシュ法による二段階印象が標準的な方法として広く採用されています。
インプラント症例では、通常の歯牙印象よりも高い寸法精度が要求されます。インプラント体と上部構造の適合不良は、スクリュー緩みや破折、周囲組織のトラブルに直結するためです。このため、インプラント専用に開発された高硬度の付加重合型シリコーン印象材が使用されます。これらの印象材は、インプレッションコーピングと模型との位置関係を正確に再現できるよう、通常の印象材よりも硬めに設計されており、印象撤去時の変形を最小限に抑えています。
インプラント専用材が精度を保証します。
無歯顎印象においても、付加重合型シリコーン印象材の応用が増えています。従来はアルジネート印象材が主流でしたが、寸法安定性の低さが問題となっていました。高弾性付加型シリコーン印象材は、わずかな印象圧で流動性を発揮する無歯顎専用タイプが開発されており、粘膜面の微細な形態を忠実に再現できます。さらに、辺縁形成用のボーダータイプと組み合わせることで、ボーダーモールディング法による精密な義歯床印象が可能になります。
咬合採得用途では、従来の咬合床やワックスに代わって、付加重合型シリコーン咬合採得材が使用されます。高い硬度を持ちながら適度な弾性を備えているため、トリミングが容易で、咬合位の記録が正確に行えます。口腔内保持時間が30秒~45秒と短い製品も登場しており、患者の負担を大幅に軽減できます。透明タイプの咬合採得材では、咬合状態を目視で確認しながら採得できるため、咬合調整の精度も向上します。
用途別に最適な製品を選べます。
高弾性タイプの付加重合型シリコーン印象材は、訪問診療や口腔内撤去が困難な症例で特に有用です。通常の印象材の2倍以上の弾性を持つため、アンダーカットの大きい症例でも印象材の破断リスクが低く、口腔内からの撤去や石膏模型からの分離が容易に行えます。また、動揺歯がある症例でも、撤去時の力が小さく抑えられるため、歯の脱落リスクを軽減できます。これらの特性により、全身状態が不安定な高齢者や有病者への印象採得においても、安全性と精度を両立させることが可能になります。
ジーシー歯科材料ハンドブック「印象材」
印象材の種類と特性、操作法について詳しく解説されており、付加重合型シリコーン印象材の基礎知識と臨床応用の参考資料として有用です。
OralStudio歯科辞書「付加型シリコンゴム印象材」
付加型シリコンゴム印象材の化学的性質、物性、臨床的特徴について専門的な解説があり、理解を深めるための参考情報源となります。

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