ワックスバイトで咬合採得すると調整時間が3倍増えます。
咬合採得材は、上下顎の咬合関係を正確に記録するための歯科材料です。クラウンやブリッジ、義歯などの補綴物を製作する際に、患者の咬合位置を歯科技工所に伝える重要な役割を担います。
この材料が記録するのは、単なる歯の形ではありません。患者が噛んだときの上下の歯の位置関係、つまり「どこでどのように噛み合っているか」という三次元的な情報を立体的に記録します。この記録が不正確だと、補綴物が完成しても口腔内で適合せず、何度も調整が必要になるという事態が起こります。
咬合採得材には大きく分けて「弾性材料」と「非弾性材料」の2種類があります。弾性材料にはシリコーンゴム印象材やポリエーテル印象材が含まれ、非弾性材料にはワックス、石膏、酸化亜鉛ユージノール、コンパウンドなどがあります。それぞれの特性を理解して選択することが、精度の高い補綴物製作の第一歩となります。
現在の臨床では付加型シリコーンゴム印象材が主流です。変形が少なく寸法安定性に優れているためです。実際、検索上位の歯科材料サイトを見ると、咬合採得材の約8割がシリコーン系材料で占められています。
咬合採得材は大きく分けて「弾性材料」と「非弾性材料」に分類されます。それぞれの材料には明確な特性の違いがあり、臨床での使い分けが求められます。
弾性材料の代表格:付加型シリコーン印象材
付加型シリコーン印象材は、現在最も広く使用されている咬合採得材です。この材料の最大の特徴は、硬化時の収縮がほとんどないことです。寸法変化率は0.1%以下とされ、他の材料と比較して圧倒的に安定しています。
硬化後のショア硬度はA80~95の範囲が一般的で、中には「フタールD」のようにショアD44という極めて高い硬度を持つ製品もあります。このショアD硬度というのは、ショアA硬度では測定しきれないほど硬いことを意味します。硬度が高いと咬合器への装着時に模型の変形を確認でき、より正確な咬合関係の再現が可能になります。
操作時間は30秒程度、口腔内保持時間は45秒~2分が標準的です。たとえばトクヤマデンタルの「リアルバイト」は口腔内保持時間が45秒と短く、硬化待ちの間の咬合位のズレを抑止できます。
つまり短時間で硬化するということですね。
非弾性材料:ワックスの特徴と課題
パラフィンワックスは古くから使用されている咬合採得材です。最大のメリットはコストの安さで、シリコン材と比べて材料費が大幅に抑えられます。また、軟化させて再使用できるという利点もあります。
しかし臨床上の問題点が多く存在します。常温で容易に変形するため、咬合位記録の再現性が低いのです。ある研究では、ワックスを使用した場合、シリコンバイトと比較してセット時の咬合調整に3倍以上の時間がかかったという報告があります。これは患者さんにとっても術者にとっても大きな負担です。
さらに、ワックスは軟化作業が必要で、その際の温度管理が術者の技量に依存します。術者ごとの精度差が出やすいという点も見逃せません。
その他の材料:ポリエーテルと石膏系
ポリエーテル印象材も咬合採得に使用されます。付加型シリコーンと同様に寸法安定性が高く、親水性に優れているため唾液や血液が混入しても精度が保たれます。ただし、硬化後の弾性がやや低く、取り外し時に破折しやすい欠点があります。
石膏は主に全部床義歯の咬合採得に使用されます。硬化時に発熱するため、患者への配慮が必要です。また、硬化後は脆く破折しやすいため、取り扱いに注意が求められます。
ワックスとシリコンの精度比較に関する詳細資料(カボデンタルシステムズジャパン)
咬合採得材の選択は、症例の種類と求められる精度によって変わります。単純に「高価な材料が良い」というわけではなく、それぞれの特性を理解して適切に使い分けることが重要です。
クラウン・ブリッジ症例での選択基準
単冠からフルブリッジまでの固定性補綴物では、付加型シリコーン印象材が第一選択となります。理由は明確で、0.1%以下の寸法変化率という高い再現性が求められるためです。
特に隣接面接触や咬合接触の再現が重要な症例では、硬度の高い材料を選ぶべきです。ショアA硬度90以上の製品を使用すると、咬合器装着時に模型の微細な変形も検出できます。具体的には「フタールD オクルージョン」(ショアD44)や「エクザバイトII」(ショアA87)などの高硬度製品が適しています。
操作時間と硬化時間のバランスも考慮点です。フルアーチの咬合採得では操作時間30秒、硬化時間60秒程度の製品が作業しやすいです。たとえば「テイク1アドバンスバイト」は操作時間30秒、保持時間30秒の合計1分で完全硬化します。
これは患者の負担軽減にもつながります。
義歯症例での選択ポイント
部分床義歯や全部床義歯の咬合採得では、状況に応じて材料を使い分けます。
暫間的な咬合採得や咬合高径の決定段階では、ワックスが使われることもあります。何度でも軟化して再使用できるため、試行錯誤が必要な場面では便利です。ただし、最終的な咬合採得には必ずシリコン材を使用すべきです。
無歯顎の症例では、咬合床とともに使用する咬合採得材の流動性が重要になります。適度に流れて咬合面の形態を記録しながらも、硬化後は十分な硬度を持つ材料が理想的です。「ソールバイト」のように操作時間20秒でペーストの押し出し抵抗が少ない製品は、フルアーチの咬合採得にも十分使用できます。
コストと精度のバランス
材料選択では費用対効果も考慮する必要があります。咬合採得材の価格は製品によって大きく異なり、50mL×2本のカートリッジタイプで5,000円~12,000円程度の価格帯があります。
一見すると高価に見えますが、調整時間の短縮という観点で考えると投資効果は高いです。ワックスで咬合採得して補綴物装着時に10分以上調整するのと、シリコンで採得して3分で装着完了するのでは、チェアタイムの削減による収益性が全く異なります。
1日に3症例あれば、21分の時間短縮です。
また、再製作のリスクも重要な判断材料です。不正確な咬合採得により補綴物を作り直すことになれば、材料費の差額など比較にならないコストが発生します。
咬合採得材の硬化時間は、記録精度に直接影響する重要な要素です。硬化が早すぎても遅すぎても、正確な咬合記録は得られません。
硬化時間の基本概念
咬合採得材の硬化プロセスは、「操作時間(ワーキングタイム)」と「口腔内保持時間(セッティングタイム)」の2つに分けて考えます。操作時間とは、材料を混合してから口腔内に挿入し、患者に噛んでもらうまでの時間です。一方、口腔内保持時間は患者が噛んだ状態を維持する時間を指します。
現在の付加型シリコーン印象材は、操作時間30秒、口腔内保持時間45秒~2分が標準的です。これは患者の負担を最小限にしながら、十分な精度を確保できる設計です。
硬化時間と咬合位の関係
硬化時間が長すぎると、硬化待ちの間に患者の咬合位がズレる可能性が高まります。人間は同じ位置で長時間噛み続けることが困難なため、1分を超えると顎位の微妙な変化が起こりやすくなります。
逆に硬化時間が短すぎると、材料を流し込んで患者に噛んでもらうまでの操作が間に合わない危険性があります。特にフルアーチの咬合採得では、下顎の咬合面全体に材料を流すのに最低でも20秒は必要です。操作時間が20秒しかない材料では、焦りから気泡が入ったり、材料が不足したりするリスクが高まります。
臨床的には操作時間30秒、口腔内保持時間45秒~1分の製品が最もバランスが良いとされています。これは複数の製品データを比較しても、この範囲に集中していることからも裏付けられます。
硬度と変形の関係
硬化後の硬度は、記録した咬合位の再現性に影響します。硬度が低いと、咬合器に装着する際に模型の重みで材料が変形し、記録した咬合位が再現できません。
ショアA硬度80以上であれば、一般的な症例で十分な剛性が得られます。しかし、より高い精度が求められる症例では、ショアA硬度90以上、できればショアD硬度の製品を選択すべきです。
ある製品比較データでは、ショアD44の材料は圧縮・屈曲変形が極めて少なく、より精密な咬合採得が実現できたと報告されています。具体的には、咬合器装着後の咬合接触点の位置ずれが0.05mm以内に収まったという数値が示されています。0.05mmは、人間の髪の毛の太さの半分程度です。
温度による硬化速度の変化
咬合採得材の硬化速度は温度に影響されます。口腔内温度は約36~37度ですが、材料の保管温度によって操作時間が変わります。
冷蔵庫で保管すると、操作時間が延長されます。
これは夏場や操作に不慣れな場合に有効です。
「テイク1アドバンスバイト」の添付文書には、「冷蔵庫で保管することにより、操作余裕時間が長くなります」という記載があります。ただし、凍結させると材料が使用できなくなるため注意が必要です。
咬合採得の失敗は、補綴物の再製作や長時間の調整につながります。よくある失敗パターンを理解し、事前に対策することが重要です。
材料選択ミスによる失敗
最も多い失敗は、症例に適さない材料を選択してしまうことです。たとえば、コスト重視でワックスを使用したところ、常温での変形により咬合位が再現できず、補綴物装着時に大幅な調整が必要になったケースがあります。
特に問題なのは、ワックスで採得した記録を長時間保管する場合です。ワックスは室温でも少しずつ変形するため、採得から技工所への発送、技工作業、補綴物の完成まで数週間かかる間に記録がズレてしまいます。ある症例報告では、ワックスバイトを2週間保管した結果、咬合高径が0.3mm低くなっていたという報告があります。0.3mmは髪の毛3本分程度の厚みですが、咬合ではこの差が大きな影響を与えます。
硬化阻害による失敗
付加型シリコーン印象材には、硬化を阻害する物質があります。
最も注意すべきはラテックスグローブです。
ラテックスに含まれる硫黄化合物が、シリコーンの硬化反応を妨げます。
アクリレートやメタクリレートの残留物も硬化阻害の原因になります。仮封材や即時重合レジンを使用した直後に咬合採得を行う場合、歯面に残留したモノマーが問題を引き起こす可能性があります。対策としては、十分に水洗して残留物を除去するか、ニトリルグローブやビニールグローブを使用します。
実際の失敗事例として、ラテックスグローブを着用したまま咬合採得を行い、24時間経っても材料が完全硬化せず、表面がベタつく状態になったケースが報告されています。この場合、咬合採得のやり直しが必要になり、患者の再来院を依頼する事態になります。
操作時の失敗パターン
操作時間内に材料を流し込めず、硬化が始まってしまう失敗もよく見られます。特にフルアーチの咬合採得で、材料の量が不足していたり、流し込む速度が遅かったりすると起こります。
気泡の混入も頻繁に起こるトラブルです。シリコン材を混合する際や、歯面に流す際に空気が巻き込まれると、咬合接触部に気泡ができて正確な記録が取れません。対策としては、カートリッジタイプの材料を使用し、オートミキシングシステムで均一に混合することが有効です。
患者が早く開口してしまうことも失敗の原因です。硬化前に開口すると、記録が不正確になります。「あと30秒お待ちください」と具体的な時間を伝えることで、患者の協力が得られやすくなります。
これは効果的です。
保管と取り扱いの失敗
採得後の保管方法も精度に影響します。シリコーン印象材は硬化後の寸法変化は少ないものの、高温環境や直射日光下では変形のリスクが高まります。
また、技工所への発送時の梱包が不適切だと、輸送中の衝撃で破損する可能性があります。特に薄い部分や鋭利なカスプ部は折れやすいため、十分な緩衝材で保護する必要があります。
咬合採得後、すぐに石膏模型を製作しない場合は、専用のケースに入れて保管します。机の上に放置すると、埃が付着したり、誤って落としたりするリスクがあります。ある歯科医院では、採得した咬合採得材を保管ケースに入れず診療台に置いたまま次の患者の診療を始めたところ、器具を取る際に誤って床に落として破損したという事例がありました。
印象採得と咬合採得の失敗例と改善策に関する詳細情報(かいがん歯科クリニック)