吸水すると0.2%膨張するため即日石膏注入が必須です。
ポリエーテル印象材は、ポリエーテル系ポリマーを主成分とした弾性ゴム印象材の一種です。歯科補綴治療において精密な印象採得を目的として開発された材料で、付加重合反応(開環重合反応)によって硬化します。この硬化機構の特徴は、縮合反応のように副産物を生成しないため、硬化後の寸法変化が極めて少ない点にあります。
つまり重合反応が安定です。
ポリエーテル印象材の組成は、基材ペーストと硬化ペーストの2成分から構成されています。基材ペーストにはポリエーテルポリマーと充填剤が含まれ、硬化ペーストには芳香族スルフォン酸エステルなどの硬化剤が配合されています。これらを均一に練和することで、開環重合反応が進行し、数分で硬化が完了します。硬化時間は製品によって異なりますが、一般的に練和時間が45秒、操作余裕時間が2分30秒程度に設定されているものが多く見られます。
GCの歯科材料ハンドブックには、各種印象材の組成や硬化機構について詳しい解説が掲載されています
材料の弾性と復元力は、精密印象採得において重要な要素となります。ポリエーテル印象材は優れた弾性を持ちながらも、硬化後の硬さが他のゴム質印象材と比較して高いという特徴があります。この硬さは弾性ひずみが小さいことを意味し、印象撤去時に変形しにくい反面、アンダーカット部位からの撤去には注意が必要となります。
硬いので扱いに注意が必要です。
ポリエーテル印象材の最大の特徴は、素材そのものが持つ優れた親水性にあります。シリコーン印象材の多くは疎水性であるため、親水性を付与するためにコーティング処理が必要ですが、ポリエーテル印象材は材料の分子構造自体が親水性を持っています。この特性により、唾液や血液などで湿潤した口腔内環境でも、支台歯周辺に材料が良くなじみ、細部にわたって正確な印象を採得することが可能となります。
湿った状態でも精度が保てます。
親水性の高さは、辺縁形成部や歯肉溝内部など、常に湿潤している部位での印象採得において特に有利に働きます。従来の疎水性印象材では、これらの部位を完全に乾燥させる必要がありましたが、ポリエーテル印象材を使用することで、過度な乾燥操作を省略できます。その結果、歯肉への刺激を最小限に抑えながら、精密な印象を得ることができるのです。
寸法精度の面では、ポリエーテル印象材は硬化後の寸法安定性に優れています。付加重合反応で硬化するため、硬化時の収縮がほとんどなく、印象採得直後から高い精度を維持します。しかし注意すべき点として、ポリエーテル印象材は吸水性を持つという特性があります。水分を吸収すると約0.2%の膨張を起こすため、印象採得後は速やかに石膏を注入する必要があります。特に湿度の高い環境での長期保管は寸法変化の原因となるため、避けるべきです。
これは知らないと精度が落ちます。
ポリエーテル印象材は、その特性から特定の臨床状況において優れた性能を発揮します。主な適応症としては、単独冠やブリッジなどの固定性補綴装置の精密印象採得が挙げられます。特に支台歯の辺縁形成が歯肉縁下に及ぶケースや、湿潤環境でのコントロールが難しい症例において、その親水性が大きな利点となります。
また、咬合採得にもポリエーテル印象材は適しています。適度な流動性を持ちながら硬化後は十分な硬さを確保できるため、咬合圧による変形が少なく、正確な咬合関係の記録が可能です。実際に「ラミテック」などのポリエーテル咬合採得材は、この目的のために開発された製品として広く使用されています。
一方で、ポリエーテル印象材が不向きとされる症例も存在します。大きなアンダーカットを伴う多数歯欠損症例や、動揺歯を含む全顎印象では、硬化後の硬さが印象撤去時の問題を引き起こす可能性があります。こうした症例では、より柔軟性のあるシリコーン印象材の使用が推奨されます。
ポリエーテルゴム印象材の臨床応用について、症例別の適応判断基準が詳しく解説されています
部分床義歯の印象採得においても、ポリエーテル印象材の使用は慎重に検討する必要があります。義歯床下粘膜の印象では、材料の硬さが粘膜への圧迫を強め、機能時の適合性に影響を与える可能性があるためです。このような症例では、より流動性が高く軟らかい印象材を選択することが望ましいでしょう。
症例に応じた選択が重要です。
ポリエーテル印象材とシリコーン印象材は、いずれも精密印象採得に使用される弾性ゴム印象材ですが、それぞれ異なる特性を持っています。
まず親水性の違いが大きなポイントです。
ポリエーテル印象材は素材自体が親水性を持つのに対し、多くのシリコーン印象材は疎水性であり、親水性を付与するためには界面活性剤の添加や表面処理が必要となります。
シリコーン印象材の利点は、その優れた撤去性と弾性回復性にあります。硬化後もポリエーテル印象材よりも柔軟性があるため、アンダーカット部位からの撤去が容易で、印象撤去時の変形も少なくなります。この特性は、隣在歯の傾斜や動揺歯を含む症例において特に有利です。また、シリコーン印象材は疎水性のため、吸水による寸法変化が起こりにくく、印象採得後の保管安定性に優れています。
一方、コストの面ではポリエーテル印象材の方がやや高価な傾向にあります。3M社のインプレガムペンタソフトなどの代表的なポリエーテル印象材は、高品質な精密印象を実現しますが、材料費はシリコーン印象材と比較して約1.2〜1.5倍程度になることがあります。
硬化時間にも違いが見られます。ポリエーテル印象材は一般的に2〜3分で硬化するのに対し、シリコーン印象材は製品によって3〜6分と幅があります。短い硬化時間は患者の負担軽減につながりますが、操作時間が限られるため、術者の技術と経験が求められます。
ポリエーテル印象材を臨床で適切に使用するためには、保管方法と取り扱い時の注意点を理解しておくことが不可欠です。まず未使用の印象材の保管については、高温多湿を避け、直射日光の当たらない冷暗所での保管が推奨されます。理想的な保管温度は15〜25℃程度で、冷蔵庫での保管は避けるべきです。低温環境では材料の粘度が上昇し、練和や注入が困難になる可能性があるためです。
練和後の材料については、適切な操作余裕時間内に印象採得を完了させる必要があります。室温が高い夏季などは硬化が早まる傾向にあるため、環境温度にも配慮が必要です。逆に冬季の低温環境では硬化が遅れることがあるため、ファストセットタイプの製品を選択するなど、季節に応じた対応が求められます。
印象採得後の処理が最も重要な注意点となります。前述の通り、ポリエーテル印象材は吸水により膨張する特性を持つため、印象採得後は可能な限り速やかに石膏を注入する必要があります。やむを得ず保管が必要な場合でも、1時間以内に石膏注入を完了させることが望ましいとされています。長時間の保管が避けられない場合は、湿度をコントロールした専用の保管容器を使用し、乾燥と過度な湿潤の両方を防ぐ工夫が必要です。
1時間以内の石膏注入が理想です。
消毒処理についても注意が必要です。印象体は口腔内から採得したものであるため、技工所への送付前に適切な消毒が求められます。ポリエーテル印象材の消毒には、0.1〜1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液に15〜30分間浸漬する方法、または2〜3.5%グルタラール溶液に30〜60分間浸漬する方法が推奨されています。ただし、長時間の浸漬は寸法変化を招く可能性があるため、指定された時間を守ることが重要です。
日本補綴歯科学会の感染対策指針には、印象体の消毒方法について詳細なガイドラインが示されています
印象撤去時の注意点として、ポリエーテル印象材は硬化後の硬さが高いため、無理な撤去は支台歯や隣在歯を損傷するリスクがあります。特にアンダーカットが大きい症例では、印象採得前にブロックアウトを行うか、より柔軟な印象材の選択を検討すべきです。撤去時は印象トレーを把持し、一方向にゆっくりと力を加えることで、変形を最小限に抑えながら安全に撤去することができます。
これらの注意点を守ることで、ポリエーテル印象材の優れた特性を最大限に活かし、高精度な補綴装置の製作が可能となります。