基礎床を薄く作ると残存歯の咬合を狂わせるリスクが2倍になります。
パーシャルデンチャーの咬合床製作において、基礎床の強度確保は最も重要なポイントです。全部床義歯と異なり、パーシャルでは残存歯が存在するため、基礎床が咬合関係に影響を与えないように十分な強度を持たせる必要があります。
基礎床は歯科印象用トレイレジンで製作することが推奨されます。通常のレジンと比較して、トレーレジンは硬化後の強度が高く、咬合採得中に変形したり破折したりするリスクを大幅に低減できます。松風トレイレジンⅡなどの製品は、操作時間が短く硬化時間も適切で、手につかない優れた操作性を持っています。
強度が不十分な基礎床を使用すると、咬合採得時に基礎床がたわんだり変形したりして、正確な顎間関係が記録できません。これは最終義歯の適合不良や咬合高径の誤りに直結します。
つまり、基礎床が基本です。
基礎床の厚みは、辺縁部で約2mm、中央部で1.5mm程度を確保することが望ましいとされています。これにより、咬合採得時の咬合圧に十分耐えられる強度が得られます。薄すぎる基礎床は破折のリスクが高く、厚すぎると残存歯との干渉や患者の違和感を招くため、適切なバランスが求められます。
基礎床製作時には、模型の表面と基礎床の内面にワックスが付着していないことを確認する必要があります。ワックスの付着は基礎床の適合を阻害し、口腔内での安定性を損ないます。また、基礎床を模型に装着して上下顎模型を咬合させた際に、がたつかず安定していることが必須条件です。
残存歯の咬合面レストシートを形成する際は、基礎床がレストに干渉しないよう注意深く調整します。レストは垂直的な力を支える重要な要素であり、基礎床との関係が不適切だと義歯全体の安定性が損なわれます。
私的解釈によるハルト式義歯製作法(西田歯科技工所)では、基礎床製作の必須条件として「ある程度の強度を有すること」が明記されており、トレーレジンの使用が推奨されています。この資料には基礎床製作の具体的な手順と注意点が詳しく解説されています。
咬合床の高さ設定は、最終義歯の機能性と審美性を左右する重要な工程です。パーシャルデンチャーでは残存歯が存在するため、全部床義歯とは異なる配慮が必要になります。
上顎前歯部の咬合堤の高さは、正中より遠心5mmを測定点として、身長に応じた基準値を設定します。身長170cm以上の方は22mm、160cm台の方は20mm、150cm台の方は18mmが目安となります。この基準値は日本人の解剖学的平均値に基づいており、リップサポートや審美性を考慮する上での出発点として有効です。
下顎の高さ設定も身長を参考にします。170cm以上の方は16mm、160cm台の方は14.5mm、150cm台の方は13.1mmを目安とします。どういうことでしょうか?これらの数値は、咬合高径の適切な設定を可能にし、患者の顔貌や発音機能との調和を図るための指標です。
臼歯部の咬合堤については、ハミュラーノッチより5mm下方を基準とします。重要なのは、ハミュラーノッチより近心へ15mm程度はワックスリムを設定しないことです。この領域にワックスを盛ると、咬合採得時にスキーゾーンに力が加わり、エラーの原因となります。これは多くの教科書には記載されていない重要なポイントです。
パラフィンワックスの使用では、軟化が不十分だと粘膜負担の偏りが生じ、残存歯や義歯床に過度な負担がかかります。ワックスは3枚重ねを2セット作り、合計6枚程度の厚さで一度低い位置まで咬合させ、上下のバランスを確認します。その後、同じ厚みのワックスを追加して採得する方法が、左右のバランスを合わせる上で有効です。
咬合床の辺縁形態と研磨面も重要です。顔貌やリップサポートが決まらなければ、咬合高径を正確に決定できません。前歯部では、インサイザル・パピラー(切歯乳頭)中点より前方8mmを上限としてアーチを決めます。男性は方形、女性は尖頭形として犬歯尖頭間距離を長くしないことが審美的です。
下顎ではスキーゾーンの前方位をマークしておくと、ワックスを乗せる後方限界が明確になります。スキーゾーンにワックスを乗せない配慮が、咬合採得の精度向上につながります。
結論はシンプルです。
和田精密歯研株式会社の咬合採得解説では、咬合床製作から咬合採得までの詳細な手順が写真付きで紹介されており、臨床での実践に役立つ情報が豊富に掲載されています。
パーシャルデンチャーの咬合床製作は、全部床義歯とは根本的に異なるアプローチが必要です。最大の違いは、残存歯の存在が咬合床の設計と製作方法に大きく影響することです。
全部床義歯では、咬合床の維持と支持が全て顎堤と義歯周囲軟組織に依存します。一方、パーシャルでは残存歯が咬合関係の基準となるため、咬合床が残存歯の咬合関係に影響を与えないように製作することが絶対条件です。
これは必須です。
咬合採得のタイミングも異なります。パーシャルでは、残存歯の咬合接触を維持しながら欠損部の咬合高径と水平的顎位を記録する必要があります。残存歯が少数の場合、特に咬合支持が4カ所以下になると、すれ違い咬合様の傾向が現れ、咬合採得が困難になるケースがあります。
基礎床の設計においても違いがあります。パーシャルでは、クラスプやレストなどの維持装置を考慮した基礎床の形態が求められます。レストシートに対応する部分は、基礎床が干渉しないよう削合する必要があり、この調整が不適切だと残存歯に過度な負担がかかります。
咬合堤の設置範囲も異なります。全部床では歯列全体に咬合堤を設置しますが、パーシャルでは欠損部のみに設置します。残存歯の咬合高径を基準として、欠損部の咬合堤の高さを調整することで、調和のとれた咬合平面を確立します。
残存歯数と咬合支持数による分類では、宮地の咬合三角が有用です。残存歯数が半数程度で咬合支持数が4カ所を切ると、第III エリアに分類され、義歯製作の難易度が上がります。しかし、上下顎均等欠損症例では、第IIIエリアでも安定した経過をたどる可能性が高いという臨床知見があります。
日本補綴歯科学会の論文では、欠損歯列の評価と個別性への配慮について詳しく解説されており、パーシャルデンチャー選択の判断基準が示されています。この資料は欠損歯列の難症例への対応を学ぶ上で貴重な情報源です。
力の問題の評価も重要です。旧義歯の観察、顎堤の吸収状態、テンポラリーデンチャーの反応から、患者の咬合力や咀嚼パターンを推測します。咬合力が弱い患者では、咬合面までレジンで築盛したシンプルな設計でも十分対応可能です。
咬合床製作における最も頻繁なトラブルは、基礎床の強度不足による変形や破折です。咬合採得中に基礎床が変形すると、記録された顎間関係が不正確になり、最終義歯の咬合不良につながります。
基礎床の強度不足を防ぐには、トレーレジンを適切な厚みで圧接することが重要です。模型への圧接時に気泡が混入すると、その部分が脆弱点となり破折の原因になります。レジン練和後、適度な軟化状態で均一に圧接し、硬化を待つ間に過度な力をかけないことが基本です。
ワックスリムの不適切な設定も頻繁な問題です。ワックスが過長だと、患者が閉口時に不快感を覚え、正確な咬合採得ができません。逆に過短だと、咬合高径が低くなり、顔貌や発音に悪影響を及ぼします。初回の口腔内試適時に、リムの長さを慎重に確認する必要があります。
残存歯への干渉は、パーシャル特有のトラブルです。基礎床や咬合堤が残存歯の咬合面に接触すると、残存歯の咬合関係が変化し、顎位のずれが生じます。口腔内装着前に、模型上で残存歯との関係を入念にチェックし、必要な削合を行います。
意外ですね。
咬合採得時のワックスの軟化不良も問題を引き起こします。軟化が不十分なワックスは、咬合圧で均一に変形せず、部分的に高い部分や低い部分が生じます。これにより、咬合高径の記録にばらつきが出て、再採得を余儀なくされます。ワックスは適温で均一に軟化させ、患者に閉口してもらう際は、ゆっくりと一定の速度で行うよう指示します。
顎堤の状態による問題もあります。残存歯に対向する顎堤が深くえぐられるように吸収している場合、力の問題が大きいことを示唆します。このような症例では、義歯の回転沈下傾向が強く、咬合床の適合も不安定になりがちです。印象採得の段階から、粘膜の被圧変位を考慮した方法を選択する必要があります。
すれ違い咬合傾向のある症例では、咬合採得自体が困難になることがあります。下顎位が定まらず、咬合床が安定しないため、何度採得しても同じ位置に再現できません。このような場合は、テンポラリーデンチャーで下顎位を誘導し、安定させてから最終的な咬合採得を行う段階的アプローチが有効です。
部分床義歯のトラブル&リカバリーでは、義歯装着後の問題への対処法が詳しく解説されており、咬合床製作時から予防できるトラブルについても学べます。
咬合床の管理も重要です。製作後、咬合採得までの間に咬合床が変形したり破損したりすることがあります。適切な保管方法(乾燥を避ける、過度な温度変化を避ける)を守り、咬合採得直前に再度適合状態を確認することが推奨されます。
臨床では、患者の個別性に応じた咬合床製作のアプローチが求められます。残存歯数、咬合支持域、患者の咬合力、歯周病の状態など、多様な要因を総合的に評価して製作方法を決定します。
上下顎均等欠損症例では、比較的予後が良好です。上下顎でバランスよく歯が残存している場合、咬合床の製作や咬合採得で悩むことは少なく、安定した義歯が製作できます。このタイプの症例では、基本的な手順に忠実に従えば、トラブルは最小限に抑えられます。
遊離端欠損が長い症例では、義歯の回転沈下を考慮した咬合床設計が必要です。特に上顎の片側に長い遊離端欠損がある場合、咬合採得時にその側が沈み込む傾向があります。咬合床の支持を強化し、咬合採得時に義歯床全体が均等に粘膜に接触するよう調整します。
少数残存歯症例では、残存歯の保存と義歯の安定性のバランスが重要です。有髄歯を支台歯として活用できる場合、歯根膜感覚により義歯の安定性が向上します。咬合床製作時から、残存歯に過度な負担をかけない設計を心がけ、義歯床による支持を十分に確保します。
歯周病を抱えた症例では、支台歯の予後を慎重に評価します。イニシャルプレパレーションの反応から「治りやすい歯周病」か「治りにくい歯周病」かを判断し、前者であれば積極的に支台歯として取り込み、後者では過度な期待を避けます。咬合床の設計段階で、将来的な歯の喪失を想定した拡張性のある設計を採用することも検討します。
咬合力の評価も製作方法に影響します。旧義歯の咬耗状態や破折歴、顎堤の吸収パターンから咬合力を推測します。咬合力が弱い患者では、咬合面までレジンで築盛したシンプルな設計が可能で、義歯床も小さく設定できます。逆に咬合力が強い患者では、金属床や補強構造を検討し、咬合床の段階から最終設計を見据えた製作を行います。
患者の審美的要求度も考慮します。前歯部のクラスプを気にしない患者では、シンプルで機能性を重視した設計が選択できます。審美性への要求が高い患者では、テレスコープやアタッチメントなどの審美的維持装置を検討し、咬合床製作時から最終設計を意識した準備を進めます。
年齢と将来予測も重要な要素です。60代後半以降の患者では、加齢に伴う咬合力の減少を見込んで、やや保守的な設計を選択することが多くなります。一方、50代以下の若い患者では、長期使用を前提とした耐久性の高い設計が求められます。
パーシャルデンチャーの臨床的意義では、適切な処置・術式の判断基準について詳しく解説されており、症例別のアプローチを学ぶ上で参考になります。
テンポラリーデンチャーからの情報も活用します。テンポラリー使用中の破折や適合状態の変化は、患者の咬合力や咀嚼パターン、義歯の動態を理解する貴重な情報源です。これらの情報を最終義歯の咬合床製作にフィードバックすることで、より精度の高い義歯が完成します。
経過観察の重要性も忘れてはいけません。パーシャルデンチャーは生体の変化に応じて調整が必要な補綴装置です。定期的なメインテナンスで顎堤の吸収、支台歯の状態、咬合面の咬耗を確認し、必要に応じて調整やリライニングを行います。咬合床製作時の記録は、将来の修理や再製作の際に貴重な参考資料となるため、詳細に保存しておくことが推奨されます。