ラバーダム未使用の根管充填は成功率が50%以下になる
根管充填を行う前には、適切な診断と根管内の状態確認が不可欠です。レントゲン撮影やCT検査を用いて、根管の本数、形態、湾曲度、根尖病変の有無を詳細に把握します。特にCT検査では三次元的に根管の走行を確認でき、従来の二次元レントゲンでは発見できなかった副根管や樋状根の存在も明らかにできます。
診断段階でマイクロスコープを使用すると、根管口の位置や石灰化の程度を肉眼の最大20倍に拡大して観察できます。
これは治療計画を立てる上で極めて重要です。
根管内の感染状況や、以前の治療で残存している古い充填材の有無も確認が必要です。
診断後はラバーダム防湿を行います。日本でのラバーダム使用率はわずか5.4%という報告がありますが、欧米では80〜90%の歯科医師が使用しています。ラバーダム防湿を行うことで根管治療の成功率は90%まで高まるというデータがある一方、使用しない場合は50%以下に低下します。つまり、ラバーダム防湿の有無が治療成績を大きく左右するということですね。
根管形成が完了した後は、次亜塩素酸ナトリウムやEDTA(エチレンジアミン四酢酸)などの薬液で徹底的に洗浄を行います。洗浄後はペーパーポイントを使用して根管内を完全に乾燥させます。わずかな湿気が残っていても、充填材の接着性や封鎖性が低下する可能性があるためです。根管内が完全に乾燥していることを確認してから、次の充填ステップに進みます。
側方加圧充填法は、日本の歯科医院で最も広く採用されている根管充填術式です。この方法では、ガッタパーチャポイントという棒状の充填材とシーラー(根管充填用接着剤)を組み合わせて使用します。まず、根管の長さと太さに合わせた主根管充填材(マスターポイント)を選択し、根管内に試適して適合を確認します。
マスターポイントの選択後、シーラーを根管壁に塗布します。シーラーにはユージノール系、レジン系、水酸化カルシウム系などがありますが、それぞれ硬化時間や封鎖性が異なります。シーラーを塗布したら、マスターポイントを根尖までゆっくりと挿入します。
次にスプレッダーという先端が尖った器具を、マスターポイントの側方から根管内に挿入します。スプレッダーで側方に圧力をかけることで、マスターポイントと根管壁の間に隙間を作ります。この隙間に副ガッタパーチャポイント(アクセサリーポイント)を挿入し、再度スプレッダーで加圧します。この操作を繰り返すことで、根管内を緊密に充填していきます。
側方加圧充填法のメリットは、歯根が長い症例でも確実に充填できる点です。前歯部や犬歯など、根管が比較的単純で長い形態の歯に適しています。ただし、複雑な形態の根管や根尖が大きく開いている症例では、隙間が残りやすいという欠点もあります。充填後は余剰のガッタパーチャをヒートキャリアーで焼き切り、根管口を仮封します。最終的にレントゲン撮影で充填状態を確認することが必須です。
垂直加圧充填法は、熱可塑性を利用してガッタパーチャを軟化させ、根尖方向に垂直に加圧していく術式です。アメリカの歯内療法専門医の約半数がこの方法を選択しており、複雑な根管形態に対して高い封鎖性を実現できます。側方加圧と比較して技術的難易度は高いですが、根管の隅々まで充填材を行き渡らせることが可能です。
垂直加圧充填法では、まずマスターポイントを根管内に挿入した後、ヒートプラガーという加熱器具を使用してガッタパーチャを焼き切ります。ガッタパーチャが軟化した状態で、プラガーを用いて垂直方向に圧力をかけます。熱を加えることでガッタパーチャは半固体状になり、根管の細かい分岐や側枝にまで流れ込みます。
さらに、根管の中央部から根尖部まで段階的に充填を進めていきます。冷却されたガッタパーチャは収縮するため、その特性を考慮しながら適切な圧力をかけ続けることが重要です。根尖部の封鎖が完了したら、根管の中央部から根管口にかけても同様に垂直加圧を繰り返し、根管全体を緊密に充填します。
垂直加圧充填法の適応症例は、樋状根や根尖が開大している歯、再根管治療で側方加圧では不十分と判断された症例などです。特に下顎大臼歯の近心根のような複雑な形態では、垂直加圧の優位性が発揮されます。ただし、加熱温度の管理や加圧力のコントロールには熟練を要するため、術者の技術習得期間が必要な点が注意点です。充填後は必ずレントゲンとCTで三次元的な充填状態を確認します。
この術式を適切に実行するためには、専用の器具セットの準備が欠かせません。システムBやエレメンツオブチューレーションなどの専用機器を使用すると、温度管理が自動化され、より確実な充填が可能になります。
根管充填材料の選択は、治療成績に直接影響する重要な要素です。保険診療で最も一般的に使用されるのは、ガッタパーチャポイントとシーラーの組み合わせです。ガッタパーチャは天然ゴムに似た材質で、約20%のガッタパーチャと約70%の酸化亜鉛で構成されています。生体親和性が高く、長期間安定して根管内に留まる性質があります。
シーラーには複数の種類があります。酸化亜鉛ユージノール系シーラーは従来から使用されており、抗菌作用があります。レジン系シーラーは接着性に優れ、歯質との密着度が高いのが特徴です。水酸化カルシウム系シーラーは殺菌効果と硬組織形成促進作用がありますが、溶解性がやや高いという欠点もあります。
近年注目されているのが、MTAセメントやバイオセラミックシーラーです。MTAセメントは強アルカリ性(pH12程度)で、持続的な抗菌作用と硬組織誘導能を持ちます。硬化時にわずかに膨張するため、根管と密着しやすく、封鎖性が極めて高いです。根尖孔が大きく開いている症例や、穿孔(根管壁に穴が開いた状態)の封鎖にも有効です。
バイオセラミックシーラーは水酸化カルシウムや酸化ジルコニウムを主成分とし、レジン成分を含まないため変色しにくい特性があります。Bio-Cシーラーなどの製品は、根管内の湿潤環境下でも硬化するため、完全乾燥が困難な症例でも使用可能です。
治癒率90%以上との報告も多数あります。
ただし、MTAセメントやバイオセラミック材料は2024年現在も保険適用外です。自費診療での使用となるため、患者への説明とインフォームドコンセントが必要です。治療費の目安として、MTA根管充填は1歯あたり5万円から10万円程度が相場とされています。材料の封鎖性と抗菌性の高さを考えると、難症例や再治療症例では積極的な選択肢となります。
根管充填が完了した後の品質確認は、治療成功の最終チェックポイントです。まず根管口レベルでマイクロスコープを用いて、充填材の充填度や気泡の有無を直接目視で確認します。拡大視野下では、わずか0.1mm程度の隙間も発見できるため、再充填の必要性を即座に判断できます。
次にデンタルレントゲン撮影を行い、根尖までの充填状態を二次元的に評価します。理想的な充填は、根尖から0.5〜2mm手前まで緊密に充填されている状態です。根尖を超えて充填材が突出している場合(オーバーフィリング)や、根尖手前で充填が不足している場合(アンダーフィリング)は、いずれも治療成績に悪影響を及ぼします。
さらに精密な評価が必要な症例では、CT撮影を実施します。CTでは根管の頬舌的な充填状態や、副根管への充填状況まで三次元的に確認できます。特に複雑な形態を持つ大臼歯や、根尖病変が大きい症例では、CT評価が予後予測に不可欠です。充填直後だけでなく、3ヶ月後、6ヶ月後、1年後と定期的にCT撮影を行い、根尖病変の縮小を確認することが推奨されます。
実は治療後の経過観察を怠ると、無症状でも根尖病変が進行しているケースがあります。患者が痛みを感じていなくても、レントゲン上で黒い影(透過像)が拡大していれば、再治療が必要です。このような見逃しを防ぐために、デジタル画像管理システムを導入し、過去の画像と現在の画像を並べて比較することが有効です。
独自の品質管理として、当院では全ての根管治療症例に対して治療前・治療中・治療後の3回のCT撮影を標準プロトコルとしています。これにより客観的なデータに基づいた治療評価が可能となり、患者への説明責任も果たせます。また、治療データベースを構築し、術式別・材料別の成功率を分析することで、継続的な治療技術の改善につなげています。
データに基づく品質管理が重要です。
根管充填後の仮封も重要なステップです。仮封材の選択を誤ると、唾液や細菌が根管内に侵入し、せっかくの充填が無駄になります。グラスアイオノマーセメントやレジン系仮封材を用いて、少なくとも3mm以上の厚みで確実に封鎖します。最終補綴物が装着されるまでの期間、根管の無菌状態を維持することが治療成功の鍵となります。