虫歯を何度治療しても、また新しい虫歯が出る患者さんは二次性シェーグレン症候群かもしれません。
シェーグレン症候群(以下SjS)は、涙腺・唾液腺をはじめとする外分泌腺にリンパ球が浸潤し、腺組織を破壊することで乾燥症状が現れる自己免疫疾患です。関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病を合併しない「一次性(原発性)」と、これらの膠原病に合併する「二次性(続発性)」の2種類に分類されます。一次性が約6割、二次性が約4割という比率で報告されており、二次性は決して少数ではありません。
合併する膠原病として最も頻度が高いのは関節リウマチ(RA)で、RA患者の約10〜24%にSjSが合併するとされています。
| 合併する膠原病 | 国内推定患者数 | SjS合併割合 |
|---|---|---|
| 関節リウマチ(RA) | 約70万人 | 10〜24% |
| 全身性エリテマトーデス(SLE) | 4〜8万人 | 5〜11% |
| 強皮症(PSS) | 6,000人以上 | 3〜8% |
| 多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM) | 約3,000〜6,000人 | 約3% |
| 混合性結合組織病(MCTD) | 約9,000人 | 2〜3% |
たとえばRAの推定患者数は約70万人いるため、単純計算でその約10〜24%、つまり7万〜17万人規模がSjSを合併している計算になります。これは大変大きな数字です。
二次性SjSが注意を要する理由は、基礎疾患の症状に埋もれてしまい、口腔乾燥や虫歯多発がSjSによるものと認識されにくい点にあります。つまり二次性は見落とされやすいということですね。歯科医が関節リウマチや膠原病の既往を持つ患者の口腔内をみる際には、SjS合併の可能性を常に念頭においておくことが重要です。
▶ 続発性シェーグレン症候群の合併疾患と患者数(SS-info.net)
二次性SjSの中心的な症状は、一次性と同様に「口腔乾燥症(ドライマウス)」と「ドライアイ」です。唾液腺組織にリンパ球が浸潤し腺房細胞が破壊されることで、唾液の分泌量が著しく低下します。
唾液が減ることで引き起こされる問題は一つではありません。
- 虫歯の多発:唾液には抗菌ペプチド・IgA・ラクトフェリンなどの免疫物質が含まれており、水で代替しても同等の口腔内感染抑制効果は得られません。
- 嚥下・発声困難:乾燥物が飲み込めない、長時間話していると声が枯れるなど日常生活への支障が大きい。
- 味覚異常・口腔灼熱感:味がわかりにくくなったり、舌がヒリヒリする感覚が続く。
- カンジダ症・口角炎:口腔内の自浄作用低下により真菌感染が起きやすい。
歯科的なケアなしに放置すると、短期間のうちに大半の歯が処置歯になります。そしてその処置歯がまた二次う蝕になり、繰り返すたびに歯を失っていくという悪循環に入ります。SjS患者に対して虫歯治療だけを漫然と繰り返しても患者さんの口腔機能は守れません。
口腔乾燥の自覚症状が強い患者さんのセルフチェックポイントとして、以下が参考になります。
- 🥛 食事中に水分が手放せない
- 💬 長く話すと声がかれる
- 🌙 夜間に口渇で目が覚め、水を飲みに起きる
- 🍞 パンや乾燥したものが食べにくい
- 😷 口臭が気になるようになった
これらが複数当てはまるなら、口腔乾燥症とSjSの可能性を考えるべきです。特に関節リウマチの既往がある患者さんでこれらの症状が出ていれば、二次性SjSの強い疑いをもって対応を検討してください。
▶ 難病情報センター:シェーグレン症候群(指定難病53)の症状と治療
口腔乾燥やドライアイに目が行きがちですが、実際にはSjSの症状はそれだけではありません。腺外症状と呼ばれる全身症状が現れることがあり、歯科従事者もこれを把握しておく必要があります。
腺外症状が出現する頻度は一次性SjSの患者の約3割とされていますが、二次性では基礎疾患の症状に重なる形で出現するため、より複雑な臨床像になります。代表的な腺外症状を整理すると以下のとおりです。
- 関節炎・関節痛(30〜60%):移動性・多発性の関節炎で、RAとの鑑別が難しい場合がある。
- 皮膚症状(9〜20%):環状紅斑、紫斑、日光過敏など。
- 呼吸器症状(約16%):間質性肺炎、乾性咳嗽。
- 腎障害(約25%):尿所見異常、間質性腎炎、低カリウム血症による四肢脱力。
- 神経障害(10〜20%):末梢神経障害、感覚失調性ニューロパチー。
- 甲状腺機能障害(約25%):慢性甲状腺炎の合併。
- 血液疾患:貧血、白血球減少、血小板減少(約30〜60%に貧血を認める)。
特に注意が必要なのはリンパ腫リスクです。悪性リンパ腫の発生頻度は健常者の44倍、SjS患者の約5%に発症するという報告があります(順天堂大学膠原病リウマチ内科)。これは数字として非常に重いデータです。
二次性SjSで腺外症状を持つ患者さんはステロイドや免疫抑制剤を服用していることが多く、歯科での観血処置・外科手術を行う際は他科との情報共有と全身状態の把握が不可欠です。免疫抑制状態にある患者さんに観血処置を行えば、術後感染リスクが通常より高まります。他科との連携が条件です。
▶ 順天堂大学医院:シェーグレン症候群の腺外症状と悪性リンパ腫リスク44倍のデータ
歯科は、二次性SjSを早期に発見できる最前線の場です。口腔乾燥を伴う多発性虫歯で来院するケースが多いため、歯科医師・歯科衛生士がSjSの可能性を頭に置いて問診・診察を行うことが、診断の遅れを防ぐ直接的な手段になります。
歯科で行えるスクリーニング的な検査と確認事項は以下のとおりです。
🧪 ガムテスト(唾液分泌量測定)
ガムを10分間噛み続け、唾液の分泌量を測定します。正常値は10分間で10mL以上とされており、10mL以下は唾液分泌低下の目安です。シェーグレン症候群の診断基準にも組み込まれており、歯科での実施が十分に可能です。
🧪 サクソンテスト(Saxon test)
乾燥したガーゼを2分間一定のリズムで噛み、ガーゼに吸収された唾液の重量を測定します。正常は2g以上の増加で、2g以下は分泌低下とみなします。ガムテストよりも簡便に実施でき、来院中に完了できます。
🩸 抗SS-A/SS-B抗体の確認
確定診断に関わる自己抗体です。歯科単独で血液検査を出すことは限られますが、リウマチ・内科からの紹介患者や、他科から情報を得られる場合には積極的に確認しましょう。抗SS-A抗体は一次性SjSの約50〜70%で陽性になります。
口腔内の診察では、舌の乾燥・亀裂・発赤、口角炎、カンジダ性の白苔、耳下腺の腫脹などが複数みられる場合はSjSの疑いを高める所見です。こうした所見を見かけたら、リウマチ科・内科への紹介を積極的に検討しましょう。つまり歯科単独で完結しようとしないことが大切です。
▶ キッセイ薬品工業:シェーグレン症候群が疑われたら(診断基準と検査方法の解説)
二次性SjSに根治療法はありません。したがって歯科の役割は、口腔乾燥による被害を最小限に抑えながら、患者さんのQOL(生活の質)を維持することにあります。漫然とした虫歯治療の繰り返しではなく、病態に応じたケア戦略の立て直しが求められます。
💊 薬物療法のサポート
唾液分泌促進薬として、コリン作動薬のセビメリン塩酸塩水和物(エボザック®・サリグレン®)やピロカルピン塩酸塩(サラジェン®)が用いられます。約60%の患者に有効とされますが、消化器症状・発汗などの副作用が約30%に出ます。患者さんが副作用で服薬を中断していないか、歯科受診時にも確認しておきましょう。
🫧 口腔内保湿・人工唾液の活用
人工唾液(サリベート®)や口腔保湿ジェルを活用し、口腔内の乾燥状態を和らげます。うがいや飲水も効果的ですが、唾液のように免疫物質を含まないため、感染抑制効果には限界があります。保湿剤はただの水分補給ではないということですね。
🪥 口腔ケア指導の内容を変える
通常の虫歯予防と異なり、SjS患者さんには以下のような特別な対応が必要です。
- フッ素濃度の高い歯磨き剤(1,450ppm)の使用推奨
- キシリトール配合ガムによる唾液分泌刺激
- 抗真菌薬の使用検討(カンジダ感染予防)
- 乾燥食品・アルコール・香辛料を控えるよう栄養指導
- 夜間の口腔保湿対策(就寝前のジェル塗布など)
🏥 他科との連携体制
腺外症状を持つ患者や、ステロイド・免疫抑制剤を使用中の患者に対しては、観血処置の前に必ず主治医へ照会します。特に抗凝固薬・免疫抑制薬の服用状況は確認が必須です。歯周外科・抜歯・インプラントなどを検討する場合は他科との事前相談が原則となります。
▶ 難病情報センター:シェーグレン症候群の口腔乾燥治療ガイドライン(唾液分泌促進薬・人工唾液の適応)