フォーンズ法を「子ども向けの簡単な磨き方」だと思っているあなた、実は成人の叢生(そうせい)患者に誤って指導すると、歯頸部に60%以上のプラークが残ったまま帰宅させるリスクがあります。
フォーンズ法は、1934年にアメリカの歯科医師Alfred C. Fonesが発表したブラッシング法で、別名「描円法(circular method)」とも呼ばれています。上下の歯を軽く噛み合わせた状態で歯ブラシの毛先を歯面に対して直角(90度)に当て、臼歯部から前歯部へ向けて大きな円を描くように動かすのが基本動作です。
唇頬側面(くちびる側・ほほ側)では、上下顎の歯を同時に大きく円を描く「描円運動」を行います。舌側面(舌が当たる側)については、歯ブラシの毛先を歯面に当てて前後方向に動かす水平法を適用します。つまり、フォーンズ法は全面を同じ動きで磨くわけではない点が重要です。
操作が比較的シンプルで、大きな動作のため習得しやすいという特徴があります。これが特定の患者層に向いている最大の理由です。
適応対象としてとくに推奨されるのは以下の患者層です。
一方、歯科医師国家試験(第115回 D54問題)では「叢生の児童に適する」という選択肢は不正解とされています。叢生(歯が重なって生えている状態)の患者に対しては、円を描く大きな動作では毛先が歯面に届きにくく、プラーク除去が不十分になりやすいからです。この点は現場でも見落とされやすいので注意が必要です。
参考:フォーンズ法の出題内容と正解を確認できる歯科医師国家試験過去問(第115回D54)
https://www.shika-kokushi.com/past-question/115d-054/
フォーンズ法を指導する際に、多くの歯科従事者が見落としがちなのが「歯間部清掃」の問題です。これが、指導後にプラークスコアが改善しない患者さんへの対応として重要な視点になります。
歯ブラシのみによる歯間部のプラーク除去率は、一般的に40〜60%程度にとどまるとされています(大阪大学歯学部附属病院の情報より)。フォーンズ法は円を描く大きな動作が特徴のため、歯と歯の接触面(隣接面)への毛先の届きが他のブラッシング法と比べても限定的です。歯間部は弱点です。
つまり、フォーンズ法のみで口腔衛生が完結する、とは言えないということです。
デンタルフロスや歯間ブラシを併用することで、歯間部のプラーク除去率は80〜95%にまで向上するという報告があります(ライオン歯科衛生研究所のデータより)。フォーンズ法を指導する場面では、必ず補助清掃用具との併用をセットで説明することが現場での実践ポイントになります。
また、フォーンズ法はバス法と比較して歯頸部(歯と歯ぐきの境目)の清掃に向いていないという特徴もあります。歯科医師国家試験でも「バス法と比較して歯頸部の清掃に適する」という選択肢は不正解とされています。歯周ポケットが存在する歯周炎患者や、歯頸部に汚れが溜まりやすい患者には、バス法を優先するのが原則です。
歯間部清掃の補助用具を選ぶ際の目安:
参考:歯間部プラークコントロールの根拠とデータが掲載されたライオン歯科衛生研究所のページ
歯科指導の現場では、患者の口腔内の状態によってブラッシング法を使い分けることが求められます。フォーンズ法の特性をより深く理解するために、代表的な4つの方法と比較してみましょう。
| ブラッシング法 | 毛先の当て方 | 主な動作 | 適応 | 短所 |
|---|---|---|---|---|
| フォーンズ法 | 歯面に直角(90°) | 大きな円を描く | 小児・正常咬合の患者 | 歯間部・歯頸部の清掃が不十分になりやすい |
| スクラビング法 | 歯面に直角(90°) | 小刻みに横方向へ | 咬合面・一般成人の基本磨き | 広い範囲を一度に磨けない |
| バス法 | 歯肉溝に45°で挿入 | 毛先を小刻みに加圧振動 | 歯周炎患者・成人の歯頸部清掃 | 操作が難しく、力加減を誤ると歯肉を傷つける |
| ローリング法 | 毛の脇腹を歯肉に当てる | 歯冠方向へ回転させる | 歯肉マッサージが必要な患者 | 歯と歯ぐきの境目が磨き残しになりやすい |
この比較表からわかる通り、フォーンズ法の「大きな円を描く」という動作は習得が容易で短時間での広域清掃に向いていますが、歯周ポケット管理が必要な患者にはバス法のほうが適しています。これが基本です。
ブラッシング法の指導では、患者の年齢・手指の巧緻性・歯周組織の状態・歯列の状況の4点を確認したうえで選択することが前提となります。成人患者に対してもフォーンズ法を指導することはあります。ただし、その場合は「フッ化物配合歯磨剤のフッ素を歯面に広く塗り広げる目的」での使用に限定するなど、目的を明確にした説明が大切です。
参考:各ブラッシング法の手技と適応を詳しく解説した日本歯周病学会の情報ページ
https://periobook.perio.jp/prevent-knowledge/107/
フォーンズ法は操作が簡単な反面、注意が必要な落とし穴があります。それが「ブラッシング圧の過剰」と「硬い歯ブラシの使用」です。
適切なブラッシング圧は150〜200g程度とされています。これは「鉛筆で文字を書く程度の力」に相当します。ちょうど名刺1枚を親指と人差し指で軽くつまむ力をイメージするとわかりやすいでしょう。
フォーンズ法のように大きく円を描く動作では、ついつい力が入りやすいという側面があります。毛先が広がった硬い歯ブラシで強いブラッシング圧をかけ続けると、歯肉が傷ついたり、歯肉退縮(歯ぐきが下がること)や歯頸部の楔状欠損(歯がV字形に削れること)を引き起こすリスクがあります。強すぎる磨き方は要注意です。
歯ブラシ選択のポイントも指導時に必ず伝えるべき内容です。フォーンズ法では基本的に軟毛から中等度の硬さのナイロン毛ブラシが推奨されます。とくに歯肉の炎症が強い時期や、ブラッシング圧のコントロールが不安定な患者には軟毛を選ぶべきです。
また、歯ブラシの毛先が広がると清掃効率が大きく低下します。目安としては1〜2ヶ月での交換を指導することが大切です。毛先が開いた状態では、設計通りの動きをしても歯面へのフィット感が失われ、プラーク除去率が大幅に落ちるからです。
指導現場でのチェックリスト:
歯肉退縮や楔状欠損が起きると、象牙質知覚過敏(歯がしみる症状)や審美的な問題が生じます。特にフォーンズ法を長期間継続している患者さんには、定期的なブラッシング圧の確認と歯ブラシの状態チェックを行うことが、後々のトラブル予防につながります。
参考:オーバーブラッシングのリスクと正しいブラッシング方法の解説
https://y-dental-ortho.com/blog/brushing-too-hard/
歯科の現場では、どのブラッシング法を教えるかに注目が集まりがちです。しかし、実際の患者さんのプラークスコアが改善しない大きな要因の一つは、「正しい方法を知っていても実行が継続されないこと」にあります。フォーンズ法を指導した後の継続率と効果を高めるために、見落とされやすい2つの実践的視点を紹介します。
1つ目は「磨く順番の設計」です。
フォーンズ法では磨く順番を決めることで、磨き残しが大幅に減ります。たとえば「右奥歯の外側→前歯外側→左奥歯の外側→左奥歯の内側→前歯内側→右奥歯の内側→咬合面」というルートを固定化するだけで、どの部位に抜けが出るかが明確になります。これは使えそうです。
フォーンズ法の描円運動は「どこでもできる」動作だからこそ、順番を決めないと磨きやすい箇所ばかり時間をかけ、磨きにくい奥歯の内側などを見落とす「ながら磨き現象」が起きやすくなります。患者指導の際には、「どこから始めてどこで終わるか」を一緒に決めてあげると継続性が向上します。
2つ目は「患者自身が効果を実感できる仕掛け」です。
プラークコントロールのモチベーションを維持するうえで有効なのが、染め出し剤(プラーク染色剤)を使った自己確認です。フォーンズ法の指導後に染め出しを行い、磨き残しが残った部位を患者自身が鏡で確認することで、指導内容が抽象的な知識ではなく「自分事」として定着します。
プラークスコアが30%以下になると歯周病・虫歯リスクが格段に減少し、10%以下は非常に良好とされています。数値の変化を患者さんと一緒に追うことで、ブラッシング継続のモチベーションが生まれやすくなります。こうした工夫が、フォーンズ法指導の本当の完成形と言えます。
フォーンズ法単体の技術指導だけでなく、「その後の実行と継続」までを設計することが、歯科衛生士・歯科医師としての指導の質を大きく変えるポイントです。結論は「手技の伝達と実行支援の両輪」が不可欠です。
参考:プラークスコアの目標値とプラークコントロールのアプローチについて
https://oralrevive.com/program/plaquescore