「動画で説明するだけで患者のプラーク除去率が約40%も向上することがあります。」
歯科衛生士によるブラッシング指導(TBI:Tooth Brushing Instruction)において、タフトブラシの使い方を「動画」で伝えることの効果は、口頭説明とは比較になりません。ライオンの調査(2014年、n=150)によると、歯科医師・歯科衛生士の約9割がタフトブラシを患者全員またはみがき残しのある患者にすすめていることが明らかになっています。これほど推奨率が高い補助清掃用具にもかかわらず、患者が自宅で正しく使えているケースは決して多くありません。
その原因の一つが、「診察室での口頭説明のみで終わってしまう指導」です。タフトブラシはペングリップでの持ち方、毛先を当てる角度、小刻みな振動の幅など、文字や言葉だけでは伝わりにくい「動きの要素」が多い用具です。使い方が正確に再現されなければ、せっかくのケアグッズも効果半減どころか、歯茎を傷つけるリスクに変わってしまいます。
動画指導は違います。患者は自宅で何度でも繰り返し確認できます。
口頭説明のみの場合、患者が診察室を出た後に覚えているポイントは全体の約20〜30%程度と言われています。これに対して動画を組み合わせると、視覚・聴覚の両方で情報が入るため記憶定着率が大幅に上がります。実際に多くの歯科医院が自院のYouTubeチャンネルやInstagramリールでタフトブラシの使い方動画を公開し、診察後に「この動画を帰ってから見てください」と案内することで、次回来院時のプラーク除去率の改善を実感しています。これは使えそうです。
参考:歯科医師・歯科衛生士の約9割がタフトブラシを患者に推奨しているというライオンの調査データや、タフトブラシの概要・使用部位が解説されています。
動画でタフトブラシの使い方を伝えるときに、最初に取り上げるべき内容が「持ち方」です。ペングリップとは、鉛筆を持つときのように親指・人差し指・中指の3本で軽く握る方法で、これがタフトブラシ指導の出発点になります。なぜこの持ち方がそれほど重要なのでしょうか?
理由は「力のコントロール」にあります。手のひら全体で握るパームグリップでは、どうしても余分な力が入ってしまい、毛先が歯茎に押しつけられます。タフトブラシの毛束は密集しており、通常の歯ブラシよりも毛先一点に集中する圧力が高いため、強い力はそのまま歯茎への刺激につながります。適切な筆圧は100〜150g程度とされています。これはシャープペンシルで紙に軽く文字を書くときの圧力に相当します。
動画での解説では、ペングリップの形を正面・側面・真上の3アングルから撮影するのがベストです。
患者さんに見せる際のポイントとして、「毛先が少しだけ広がる程度が正解」という目安を動画内に入れると、視覚的に力加減が伝わりやすくなります。指先がリラックスしているか、毛先が歯面から跳ね返されていないか、口を少し開いたときに自然な角度でブラシが入っているかを映像で確認させることが大切です。
一方、パームグリップについては「NG例」として動画に入れることをおすすめします。何がいけないのかを映像で比較することで、患者は正しい持ち方の意義をより深く理解します。ペングリップが条件です。
タフトブラシの使い方動画で多くの人が見落としがちなのが、「磨く部位によって毛先の当て方と動かし方が変わる」という事実です。タフトブラシ一本で全部位を同じ動作で磨こうとすると、効果が得られないだけでなく、特定の部位を磨きすぎて歯茎が傷つく原因になります。部位ごとに分けて動画を作成または説明すると、患者の理解度が格段に上がります。
まず、歯と歯茎の境目(歯周ポケット付近)については、毛先を歯面に対して約45度の角度でそっと当てることが基本です。歯周病治療中または歯肉炎のある患者には特にこの角度が重要で、毛先を歯周ポケット入口に優しく滑り込ませるイメージで小刻みに振動させます。大きく動かすと逆効果です。
奥歯の裏側・最奥部は、ブラシのネックをやや斜めにして、遠心方向に毛先を向けるようにすると届きやすくなります。上の奥歯の頬側面は特に死角になりやすいため、鏡を使って視認しながら磨くよう動画内でも強調すべきポイントです。🪞
矯正装置(ブラケット・ワイヤー)の周辺では、ワイヤーの上下から毛先を角度を変えて押し込むようにして磨きます。クルクルと小円を描くように動かすことで、ブラケット周辺に蓄積したプラークを効率的に除去できます。矯正中の患者は特にこの部位が汚れやすく、1日1回以上のタフトブラシ使用が推奨されます。
歯並びが乱れている叢生部は、毛先を上下に小さく動かし、歯の側面に沿わせるように使います。横方向に大きくスライドするのはNGです。インプラント周辺については、インプラント体と歯肉の境目(インプラント周囲溝)に45〜60度の角度で毛先をそっと入れ、プラークをかき出すのが正しい使い方です。
ライオン社が矯正治療中のブラッシングケアについて、タフトブラシを使った具体的な方法を解説しています。患者指導用のリファレンスとして活用できます。
歯科従事者が患者向けに動画コンテンツを制作する場合、「正しい使い方」だけでなく「やってはいけないNG行動」を明示することで、事故防止と患者の理解度向上の両方に貢献できます。これは必須です。以下の5つは動画内で必ず取り上げるべき内容です。
| NG行動 | 起こりうる問題 |
| --- | --- |
| ① 強い力でゴシゴシと磨く | 歯肉退縮、知覚過敏、楔状欠損 |
| ② 歯ブラシの代わりに全体磨きに使う | 磨き残し多数、プラーク除去率の著しい低下 |
| ③ 1ヶ所に長時間とどまって磨く | エナメル質の摩耗、歯茎の摩耗 |
| ④ 毛先が広がっても交換しない | プラーク除去率が最大63%低下(参考:中川歯科クリニック資料より) |
| ⑤ 歯科医師・歯科衛生士の指導なしで独自に使い始める | 誤った方法の定着、症状の悪化リスク |
特に注意が必要なのは①と④です。「しっかり磨いてください」という指導が、患者にとっては「力を入れて丁寧にこすること」と誤解されやすい点です。タフトブラシは毛束が密集してコシが強いため、通常の歯ブラシと同じ圧力をかけると、歯肉に対して何倍もの圧力が集中してかかります。繰り返し強い刺激が加わると、歯茎が下がって歯根が露出し、知覚過敏の症状を引き起こすリスクがあります。痛いですね。
④については、毛先が2mm以上開いたブラシは、プラーク除去率が最大63%低下するというデータがあります。2mmの広がりというのは、ちょうど爪楊枝1本分の幅程度です。それだけで清掃効果が半分以下になってしまうため、1ヶ月を目安に交換するよう患者に伝えることが大切です。動画の中に「こんな状態になったら交換サイン」として毛先の比較を入れると非常に分かりやすいです。
参考:タフトブラシ使用時のNG行動と注意事項が詳しく解説されています。患者への指導資料としても参考になります。
タフトブラシの使用時にやってはいけないこと|鶴見・川崎の歯医者
既存のタフトブラシ指導動画を活用することと、自院で制作することのどちらが患者コンプライアンスを高めるか、という問いに対して、現場では「自院スタッフが登場する動画のほうが患者の行動変容につながりやすい」という声が多く聞かれます。これは意外ですね。
理由はシンプルです。患者にとって「見知らぬプロが手元だけ映っている動画」よりも、「いつも担当してくれている衛生士さんが説明している動画」のほうが、内容が自分ごとに感じられ、実践への動機づけになりやすいからです。特に高齢の患者や通院歴が長い患者ほど、この傾向が強いとされています。
動画の長さについては、1分30秒〜2分以内に収めることが効果的です。スマートフォンでの視聴を前提に、縦型(9:16)の動画フォーマットで制作するとInstagramリールやショート動画として配信しやすくなります。📱
既製の動画コンテンツを活用する場合の選定ポイントは以下の3点です。
- 🔍 制作・監修者の権威性:歯科医師や歯科衛生士が監修しているか確認する。ライオン・クリニカシリーズ(YouTube: ライオン公式)や、日本歯科医師会の公開コンテンツは信頼性が高い。
- ⏱️ 動画の長さ:患者が最後まで視聴できる1〜2分以内のものを優先する。長すぎると途中離脱が増え、最も重要な「持ち方」や「力加減」が伝わらなくなる。
- 📐 部位別分類がされているか:「矯正中」「インプラント」「歯周病治療中」など患者の状況に合わせた動画を選べると、ピンポイントで必要な情報だけを届けられる。
自院でYouTubeチャンネルを運営している場合、タフトブラシの使い方動画は「矯正中の患者向け」「インプラント術後ケア向け」「一般の方向け仕上げ磨き」などをシリーズ化することで検索からの流入増加も期待できます。動画の概要欄に歯科医院名・所在地・予約リンクを入れると、新規患者の集患にもつながります。これは使えそうです。
参考:タフトブラシの使い方をライオン公式YouTube動画(ライオン歯科衛生研究所監修)で確認できます。患者に紹介するURLとしても使えます。
タフトブラシの使い方/Lidea(YouTube・ライオン公式)