叢生の定義から治療法・費用まで歯科医向けガイド

叢生(そうせい)は日本人に最も多い不正咬合で、患者管理と診断精度が歯科医師の腕の見せ所です。軽度~重度による治療法の使い分けや、抜歯判断の基準、矯正装置の選択について知りたいスキルアップ派の歯科医師必読記事。

叢生 歯科医向けの診断と治療戦略

抜歯で歯を失う患者さんが増えているため、実は非抜歯で治せるケースも多いのです。


叢生診療の3つの重要ポイント
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日本人の44.3%が経験

不正咬合全体の中で最頻度の病態。厚労省統計に基づく確実なデータ

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難易度判定は4つの視点

重なり度合い・併発問題・骨格状態・抜歯要否で総合判断

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装置選択が治療成否を左右

軽度~中等度はマウスピース、重度はワイヤーが優位性を持つ


叢生とは?歯科医が把握すべき定義と臨床統計


叢生(そうせい)は、歯がデコボコに重なり合う状態を指す専門用語です。「乱ぐい歯」や「八重歯」も広義ではこのカテゴリーに含まれます。患者さんの口腔内で隣り合った歯が重なってしまったり、歯がまっすぐ生えない状態を呈しています。


歯科医師にとって重要な統計として、厚生労働省の「平成23年歯科疾患実態調査」によると、日本人の噛み合わせ異常(不正咬合)全体の約44.3%が叢生です。これは最も頻繁に遭遇する歯並びのトラブルであることを意味しており、診療所での患者割合が極めて高い病態です。


実は叢生の難易度は患者ごとに大きく異なります。一見ガタガタに見えても、治療計画次第では抜歯を避けられるケースも多数存在します。歯科医師の診断精度と治療戦略が、患者さんの人生の歯の本数を左右する重要な分岐点になるのです。


叢生 歯科医が診断時に評価する4つの難易度判定基準

叢生の治療難易度を正確に判定することは、患者さんへの説明やコンサルテーション、治療計画立案の第一段階です。実務では単に「ガタガタがひどい」という表面的な判断ではなく、次の4つの視点から立体的にケースを分析する必要があります。


①重なりの度合いは、歯がどの程度重なり合っているかを示します。前歯が少しねじれている程度の軽度から、歯が大きく外側や内側へズレている重度まで、スペクトラムがあります。


②他の不正咬合の併発も重要です。叢生単独で存在することもありますが、出っ歯(上顎前突)や受け口(下顎前突)、開咬を伴うケースは治療計画が複雑になります。


③骨格の問題の有無も判定に直結します。歯性の問題だけであれば比較的対応が容易ですが、骨格的に顎が狭い「骨格性」の症例では、拡大床やMSE(急速拡大装置)などの追加装置を検討する必要があります。


④抜歯の必要性は、利用可能なスペースと必要なスペースの計算から判断されます。抜歯が必要と判定すれば、どの歯を抜くか(一般的には第一小臼歯)も標準化されています。


叢生 軽度・中等度・重度の3段階分類と治療適応

軽度の叢生では、前歯がわずかにねじれていたり、ほんのわずかに重なっている状態です。見た目にも目立たず、患者さんが気にならないケースもあります。この段階では併発する問題がほとんど存在せず、骨格に異常がなく、抜歯もほぼ不要です。治療難易度は★☆☆で、マウスピース矯正だけで対応可能なことがほとんどです。軽度であれば6~12ヶ月で完了するケースが多く、患者さんの満足度も高いセグメントです。


中等度の叢生は、複数の歯がはっきり重なり、「八重歯が目立つ」「歯磨きがしづらい」といった自覚症状を伴います。この段階では歯列を整えるのに相応のスペース確保が必要になり、出っ歯など他の不正咬合を伴うこともあります。治療難易度は★★☆で、マウスピース矯正でも対応できることが多いですが、より精密な力のコントロールが必要な場合はワイヤー矯正へ切り替える判断も生じます。治療期間は1年半~2年半程度が目安で、患者さんのコンプライアンスが治療成否を大きく左右します。


重度の叢生では、歯が歯列から大きく外れたり、内側・外側に著しくズレている状態です。併発する不正咬合が多く、骨格的な問題を伴うことも少なくありません。治療難易度は★★★で、歯を並べるスペースが極端に不足するため、抜歯を伴う治療が多くなります。この段階ではワイヤー矯正が第一選択肢となることが多く、場合によってはアンカースクリュー(歯ぐきに埋め込む小型チタンネジ)や急速拡大装置(MSE)などの補助装置の併用も検討します。治療期間は3~4年と長くなり、患者さんの通院負担も大きくなります。


叢生 マウスピース矯正とワイヤー矯正の使い分け基準

現代の矯正治療の選択肢は「マウスピース型矯正装置(インビザラインなど)」と「ワイヤー矯正(マルチブラケット装置)」の2つが主流です。両者には得意な動きと不得意な動きがあり、歯科医師の診断で最適な装置を選択することが重要です。


マウスピース矯正の強みは、軽度~中等度の症例で歯列全体を側方や後方に拡大してスペースを作ることです。特に歯を傾ける動きや歯列幅を広げる動きが得意で、見た目が目立たず、患者さんの生活への制限が少ないという利点があります。ただし1日20~22時間以上の装着が必須で、自己管理能力が治療成否を大きく左右します。


ワイヤー矯正の強みは、歯を三次元的に精密にコントロールする能力です。特に歯の平行移動(歯体移動)や歯根の向きの調整まで、細かい制御が可能です。重度の叢生で抜歯後のスペースを効率的に使い、緊密な咬合を作る場合には、ワイヤー矯正のパワフルなコントロール能力が必須となります。


軽度叢生で抜歯が不要な場合はマウスピース矯正が第一選択肢です。一方、重度で抜歯を伴う場合、複雑な歯根の向きの調整が必要な場合はワイヤー矯正が優位性を持ちます。中等度の症例では、患者さんのライフスタイルや費用面の希望を考慮しながら、個別に選択することになります。


叢生 歯科医が患者説明に用いる治療期間と費用の相場

叢生の矯正治療を患者さんに提案する際、最も問い合わせが多いのが治療期間と費用です。これらは症例の難易度、選択した装置、患者さんのコンプライアンスによって大きく変動します。


治療期間の目安として、軽度のマウスピース矯正なら6~12ヶ月で完了することもあります。中等度であれば1年半~2年半程度が標準的です。重度でワイヤー矯正を選択した場合は3~4年かかることもあり、患者さんの長期的なモチベーション維持が課題になります。


費用相場は矯正方法によって異なります。部分矯正(前歯6本程度)の場合、ワイヤー矯正で30~60万円、マウスピース矯正で20~50万円が目安です。全体矯正では、ワイヤー矯正が80~130万円、マウスピース矯正が50~100万円程度です。ただし医院による差は大きく、また検査診断料や調整料、保定装置費用が別途かかる場合が多いため、患者さんへの事前説明では「総額いくらになるのか」を明確に提示することが重要です。


重度症例で抜歯を伴う場合、費用はさらに10~20万円程度上乗せになることが多いため、患者さんの経済的負担と治療による利益をバランスよく説明する必要があります。矯正治療の開始時期が遅れることで、さらに虫歯や歯周病のリスクが高まることも、患者教育の重要な要素です。


叢生 歯科医向けの臨床診断ポイントと見逃しやすい所見

叢生患者さんの初診時検査では、表面的なガタガタの程度だけでなく、より深い所見を読み取ることが歯科医師の腕の見せ所です。口腔内写真や模型、X線画像から、複合的に難易度を判定する必要があります。


オーバージェット(前歯の水平的な突出度)の測定は、出っ歯の程度を示します。一般的に4~5mm以内が正常範囲で、6mm以上であれば前突の改善も治療目標に含める必要があります。


オーバーバイト(前歯の垂直的な重なり)の測定も、咬合の状態を把握するために欠かせません。通常2~3mm程度が正常ですが、深咬合を伴う場合は追加的な配慮が必要です。また開咬(奥歯は噛んでいるが前歯が噛まない状態)を伴う叢生は、舌位置の異常や口呼吸との関連があり、矯正後の安定性も低下する傾向があります。


顎の大きさと歯の大きさのバランス評価も重要です。パノラマX線やセファロX線で顎の骨格的なサイズを把握し、どの程度のスペース不足があるかを推測します。このバランス評価が、「抜歯で対応すべき」か「非抜歯で対応可能か」の判断を分ける重要な指標になります。


歯根の向きと吸収の有無も確認します。既に長期間重なっていた歯は、歯根が短縮している場合があり、矯正による歯根吸収リスクも高まります。こうした患者さんへの説明では、「治療をしても完璧な状態を目指すのではなく、実用的なレベルまで改善する」という姿勢が重要です。


最後に叢生に伴う2次的な問題、つまり虫歯の多さ、歯肉炎や歯周病の有無、口腔衛生状態を評価します。叢生患者さんは往々にして歯磨きが困難で、既に歯周病が進行していることがあります。矯正開始前に、まず口腔衛生教育と基本的な歯周病治療を行うことが、矯正治療の成功率を大きく高めます。


クインテッセンス出版の叢生キーワード定義


叢生に関する歯科専門用語の詳細定義が掲載されており、診断や患者説明の際の参考になります。




実験医学 2020年11月 Vol.38 No.18 腸内細菌叢生態学〜数理科学にもとづく腸内デザインで層別化医療・ヘルスケアに挑む