バス法歯磨きの正しいやり方と歯科衛生士によるTBI指導

バス法は歯周病ケアの定番ですが、正しく指導できていますか?45度の角度・ブラッシング圧・歯ブラシ選びなど、歯科従事者が患者指導で押さえるべきポイントを解説します。あなたのTBIは本当に正確でしょうか?

バス法歯磨きを正しく習得し患者指導に活かすポイント

バス法を丁寧に指導しているつもりでも、8割の患者は翌月には誤った磨き方に戻っている。


この記事の3つのポイント
🦷
バス法の科学的根拠

1954年にC.C. Bass博士が提唱。45度の角度と微振動が歯周ポケットのバイオフィルムを物理的に破壊する理由を解説します。

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TBI(ブラッシング指導)の実践ポイント

歯科衛生士が患者ごとにバス法を使い分ける判断基準と、指導効果を高めるための具体的なコツを紹介します。

⚠️
よくある指導ミスとその対策

「強く磨く=よく落ちる」という誤解や、発泡剤入り歯磨き粉との相性など、見落とされがちな落とし穴を解説します。


バス法の歴史と歯周病予防における科学的根拠


バス法(Bass Method)は、1954年にアメリカの医師Charles Cassidy Bass博士が歯科専門誌『Journal of the Louisiana State Medical Society』に発表した論文を起源としています。Bass博士は「歯周ポケット内の歯垢を歯ブラシの毛束で物理的に除去することこそが、歯周病予防の核心である」と主張しました。それ以来、歯周病学において最も信頼されるブラッシング法のひとつとして世界中に広まってきたのです。


日本歯周病学会もバス法を推奨するブラッシング法として公式に取り上げており、TBI(Tooth Brushing Instruction:歯磨き指導)の現場でも広く採用されています。歯科従事者にとって「バス法を知っている」のは当然でも、その根拠まで正確に理解したうえで患者に説明できているかどうかは別の話です。


歯周病の原因は、歯の表面に付着した「プラークバイオフィルム)」です。バイオフィルムとは細菌が分泌するネバネバした保護膜で包まれた菌の集合体であり、単純なうがいや大きなストロークのブラッシングでは破壊できません。健康な状態の歯周ポケットの深さは1〜3mm。この2mm程度の隙間(爪楊枝1本分の太さほど)にひそむプラークを除去するには、毛先を角度をつけて挿入し、微細な振動で物理的に破壊するしか方法がないのです。これがバス法の存在意義です。


つまりバス法が基本です。


ところで、日本では成人の約8割が歯周病または歯周病の予備軍であると厚生労働省の歯科疾患実態調査で報告されています。一方、歯科予防先進国のスウェーデンでは歯周病有病者は2割程度にとどまります。この差は、まさに正しいプラークコントロール(バス法を含むセルフケアと定期的なプロフェッショナルケア)が生活習慣として根付いているかどうかの違いです。歯科従事者が正確な知識をもってバス法を指導することは、この格差を縮める直接的な手段となります。


参考:日本歯周病学会による正しいブラッシング(バス法)の解説と手順
https://periobook.perio.jp/prevent-knowledge/107/


バス法の正しいやり方と見落とされがちな3つのゾーン

バス法の基本手順は、教科書どおりに言えばシンプルです。歯ブラシの毛先を歯と歯肉の境目(歯肉縁)に対して45度の角度で当て、毛先を歯肉溝(歯周ポケット)に軽く挿入しながら、1ヶ所につき10〜20回、幅1〜2mm程度の小刻みな振動を与えます。全顎を磨く際は上の奥歯の外側→内側→下の奥歯→前歯という一定の順番で行い、磨き残しを防ぎます。1回の磨き時間は5〜10分が目安です。


この手順を正確に実践するうえで、歯科従事者が患者へ伝えるべき最大のポイントは「力の加減」です。適切なブラッシング圧は100〜200g(ハガキを1枚手のひらに押しつけた程度の力)とされています。多くの患者は「しっかり磨かなければ」という意識から300g以上の力をかけてしまうため、毛先がつぶれて歯周ポケットに入らないどころか、歯肉退縮を引き起こす可能性があります。これは逆効果ですね。


🦷 バス法で磨き残しやすい「3つの魔のゾーン」


| ゾーン | 特徴 | 攻略のポイント |
|---|---|---|
| ①歯肉縁の根元(C.C.ゾーン) | 根元にわずかな窪みがあり通常のストロークでは届かない | 45度を保ち1歯につき20回微振動。隣の歯に移る際は少し重ねる |
| ②奥歯の裏側(舌側) | 最も歯石が蓄積しやすい部位。横方向への挿入が難しい | ブラシを縦にして「かかと」部分を境目に当て、カーブに沿わせる |
| ③歯と歯の間(隣接面) | 歯ブラシのみで100%除去は不可能 | バス法で結合を弱らせた直後にデンタルフロス歯間ブラシを使う |


歯科衛生士によるTBI(Tooth Brushing Instruction)では、患者自身が鏡を見ながら実際に磨いてもらい、磨き残しを染め出し液で可視化してから指導する流れが効果的です。「説明して終わり」ではなく、「自分の磨き癖を本人が見る」という体験を経ることで、行動変容につながりやすくなります。これが条件です。


なお、歯ブラシの選択もTBIの重要な要素です。バス法では毛先を歯周ポケットに挿入するため、「かため」の歯ブラシは歯肉を傷つけるリスクが高く不適切です。日本歯周病学会の公式サイトでも「軟毛から中等度の硬さ」が推奨されています。具体的には「やわらかめ」または「ふつう」を基本として、歯肉の炎症が強い時期は「やわらかめ」に切り替える判断が求められます。


参考:歯周病学基礎実習動画(日本歯周病学会監修)バス法によるブラッシング
https://www.youtube.com/watch?v=vIHA45XJgSM


バス法のTBI(ブラッシング指導)で患者に合わせた使い分けのコツ

バス法は「歯周病患者なら全員に使えば良い」というわけではありません。患者ごとの口腔内状態に応じて、バス法の使いどころを見極めることが歯科衛生士としての専門性の核心です。


まず前提として、TBIを行う前に問診と口腔内診査を丁寧に行うことが不可欠です。磨き方・磨く時間帯・使用している歯磨き剤・歯ブラシの種類・補助清掃道具の使用状況・喫煙の有無・間食の頻度など、生活習慣全体を把握したうえで指導内容をカスタマイズします。患者に合わせた指導が原則です。


🔎 ケース別・バス法の使い分け早見表


| ケース | バス法の推奨度 | 補足 |
|---|---|---|
| 歯周病・歯肉炎(中等度まで) | ◎ 積極的に推奨 | 歯肉溝・ポケット内のプラーク除去に最適 |
| くさび状欠損・知覚過敏あり | △ 圧力指導を優先 | 過度なブラッシング圧が悪化原因。ペングリップとやわらかめブラシを必ず指導 |
| 不正咬合叢生 | △ 部位ごとに切り替え | 重なり部分はワンタフトブラシとの併用を推奨 |
| 虫歯多発型(う蝕活動性高) | ◎ + フッ素利用を追加 | スクラビング法との組み合わせで歯面全体も清掃 |
| 高齢者・筋力低下あり | △ 電動歯ブラシも検討 | 正確な微振動が難しい場合は音波ブラシで代替 |


歯周病患者へのバス法指導で特に押さえておきたいのは、「出血があっても続けて構わない」という点を正確に伝えることです。多くの患者は出血を見て歯磨きをやめてしまいます。しかし出血はポケット内の炎症サインであり、プラークを継続的に除去することで数日〜1週間程度で炎症が治まり、出血も止まるケースがほとんどです。これは使えそうです。


ただし、2週間以上出血が続く場合や強い痛みがある場合は速やかに歯科医院での処置を優先させる判断が必要です。TBIはセルフケアの質を高める行為であり、治療行為の代替ではありません。この点を患者に明確に伝えることもプロの指導者として重要な役割です。


参考:現役歯科医師に聞くブラッシング指導(TBI)の流れと実践ポイント
https://d.dental-plaza.com/archives/4696


バス法と歯磨き粉・電動歯ブラシの相性を正しく理解する

バス法を指導する際に見落とされがちなのが、「使う道具との相性」です。とりわけ発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウム)を含む歯磨き粉との相性には注意が必要です。


発泡剤入りの歯磨き粉を使うと、ブラッシング開始から数十秒で口腔内が泡だらけになります。泡が広がることで「磨けた」という満足感が生まれやすく、結果的に磨く時間が短くなる傾向があります。バス法では1ヶ所につき20回の微振動が必要ですが、泡立ちの早い歯磨き粉を使うと患者の多くが5回程度で次の歯へ移ってしまうことがあります。これは痛いですね。


このような背景から、歯科医院でバス法を指導する際には「最初は歯磨き粉なし、または少量」でブラッシングすることを推奨するケースがあります。プラークコントロールにおける歯磨き粉の主な役割は研磨・抗菌・フッ素補給であり、機械的清掃効果(物理的なプラーク除去)はあくまでも歯ブラシの動きによって得られます。発泡剤が清掃そのものに寄与するわけではないという原則を、患者に正確に伝えることが重要です。


電動歯ブラシ(特に音波・超音波ブラシ)とバス法の関係も理解しておきましょう。音波ブラシは毎分数万回の高速振動により、毛先が直接届かない範囲でも水流(キャビテーション)でプラークを破壊できます。バス法の「45度・微振動・境目を狙う」という基本原則は、電動・手動どちらを使う場合にも共通です。電動ブラシを使う際もゴシゴシと動かさず、「当てて待つ」感覚で使うよう指導することが不可欠です。


⚡ 道具別・バス法実践のポイント


| 道具 | バス法との相性 | 指導時の注意点 |
|---|---|---|
| 手動歯ブラシ(やわらかめ〜ふつう) | ◎ 最適 | ペングリップで100〜200gの力加減が重要 |
| 音波・超音波ブラシ | ○ 代替として優秀 | ゴシゴシ動かさない。当て角度はバス法と同じ45度 |
| 発泡剤入り歯磨き粉 | △ 早期泡立ちに注意 | 歯磨き粉なし→最後に少量つけて仕上げる流れを提案 |
| ジェルタイプ歯磨き粉(低発泡) | ◎ 推奨 | 泡立ちが少なくブラッシング時間を確保しやすい |
| 研磨剤配合の歯磨き粉 | △ くさび状欠損に注意 | 知覚過敏・根面露出がある患者には研磨剤無配合を推奨 |


なお、歯ブラシ単体のプラーク除去率は最大でも約60〜80%程度にとどまるとされています。残り約40%は歯と歯の間に存在しており、歯ブラシだけで除去することは構造上不可能です。デンタルフロスや歯間ブラシを組み合わせることで、除去率は約85〜90%まで高まるというデータがあります(サンスター研究データ)。バス法の指導と同時に補助清掃器具の使い方も伝えることが、TBIとして理想的な形です。


参考:サンスター「歯ブラシ単独と歯間清掃具の組み合わせによる効果」


歯科衛生士が知っておきたいバス法指導の落とし穴と改善策

TBIの現場で「バス法を一通り説明して終わり」という指導になってしまっていないでしょうか。残念ながら、こうした形式的な指導では患者の行動変容につながらないことが多く、翌月の再来院時に同じ磨き癖に戻っているケースが後を絶ちません。意外ですね。


歯科従事者がTBI指導で陥りやすい代表的な落とし穴を整理しておきます。


⚠️ TBI指導でよくある5つの落とし穴


| 落とし穴 | 具体的な問題 | 改善策 |
|---|---|---|
| ①一方通行の説明 | 説明するだけで患者に磨かせていない | 必ず染め出し液+鏡で本人に確認させる |
| ②患者全員に同じ指導 | 叢生・根面露出・補綴物の有無を無視した画一的指導 | 口腔内診査後にカスタマイズした指導計画を立てる |
| ③「ゆっくり磨いて」だけで終わる | ブラッシング圧や角度の数値基準を伝えていない | 「100〜200g」「45度」など具体的数字で伝える |
| ④1回の指導で完了させようとする | 1回の指導で患者がマスターできると思い込んでいる | 複数回に分けて反復・フィードバックを行う |
| ⑤補助清掃器具を後回しにする | 歯ブラシだけの指導で終わり、フロスや歯間ブラシへの導入が遅れる | 初回から「歯ブラシ60〜80%+フロス・歯間ブラシ20〜40%」のセットで伝える |


「ペングリップで優しく磨きましょう」という一言だけのTBIが広く行われていることが問題として指摘されており、抽象的な指示ではなく「100〜200gの力」「45度の角度」「1ヶ所20回の振動」という具体的な数値基準を持って指導することが、患者の習得率を高めます。


また、「利き手と反対側の奥歯」「上顎前歯の舌側」は圧倒的に磨き残しが多い部位です。患者自身が「磨きにくいと感じている部位」と、「実際に磨き残しが多い部位」は必ずしも一致しません。口腔内を客観的に評価し、その患者の「盲点」を特定して伝えることが、歯科衛生士にしかできない高度な指導です。


さらに、TBIに関する保険算定の観点からも、指導内容を診療録に記録しておくことが重要です。継続的な指導の履歴を残すことで、治療の流れを医師・衛生士間でスムーズに共有でき、患者の経過観察にも役立ちます。記録が条件です。


患者が「バス法を正しく実践できている」状態を確認する簡易チェックリストを診療に取り入れることも一つの方法です。歯ブラシの毛先の開き具合(1ヶ月以内に広がっている場合は圧力過多)を確認するだけでも、ブラッシング圧の目安をフィードバックできます。これは使えそうです。


参考:歯科衛生士によるブラッシング指導の方法と効果
https://gotou.org/diary-blog/column/2284




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