pd-l1発現と口腔がん治療選択の最新エビデンス

pd-l1発現は口腔がん・頭頸部癌の免疫チェックポイント阻害薬の鍵となるバイオマーカーです。CPSやTPSの正しい読み方、歯周病菌との意外な関係、術前化学療法後の発現変化まで、歯科医従事者が知っておくべき最新情報とは?

pd-l1発現と口腔がん・頭頸部癌の免疫療法への臨床応用

口腔内を毎日診ているあなたの患者が、歯周病未治療のまま口腔がんの免疫療法を受けると治療効果が高まってしまう可能性があります。


この記事のポイント
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PD-L1発現とCPSスコアの基本

頭頸部癌におけるPD-L1発現の評価方法(CPS・TPS)と、キイトルーダ®の治療選択への活用方法を解説します。

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歯周病菌とPD-L1発現の意外な関係

Porphyromonas gingivalisなどの歯周病原菌由来LPSが口腔扁平上皮癌細胞のPD-L1発現を増強するという最新研究を紹介します。

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術前化学療法後のPD-L1発現変化

術前化学療法によりT1腫瘍ではPD-L1 TPSが43.4%→13.0%と著明に低下する一方、進行がんでは逆に上昇する場合があることを解説します。


pd-l1発現とは何か——口腔がん治療で知っておくべき基礎知識

PD-L1(Programmed Death-Ligand 1)は、腫瘍細胞や腫瘍浸潤免疫細胞の表面に発現するタンパク質です。このPD-L1が、T細胞上のPD-1受容体と結合することで、本来がん細胞を攻撃するはずのT細胞に「ブレーキ」をかけてしまいます。つまり、がん細胞はPD-L1を発現させることで、免疫系から逃げ延びているのです。


この仕組みを「免疫逃避」と呼びます。そして免疫チェックポイント阻害薬とは、このブレーキを外すことで自己免疫を再活性化し、がん細胞を攻撃させる薬剤です。


頭頸部扁平上皮癌(口腔がん・中咽頭がん・喉頭がんなど)では、PD-L1の発現率が全体で50%前後と比較的高いことが報告されています。これが、免疫チェックポイント阻害薬の恩恵を受けやすいがん種として注目される理由です。


口腔がん全体では、年間約2万2千人が診断を受け、約8千人が死亡するというデータがあります(2019年統計)。これは決して「予後がよい」とは言えない数字です。こうした背景から、新たな治療選択肢としての免疫療法への期待は高まっています。


歯科医や口腔外科医が免疫療法に関与する機会は今後ますます増えます。そのためにも、PD-L1発現の基本を正確に理解しておくことは欠かせません。




























スコア名 評価対象細胞 主な用途 閾値の目安
TPS(腫瘍比例スコア) 腫瘍細胞のみ 非小細胞肺癌など 1%以上、50%以上
CPS(複合陽性スコア) 腫瘍細胞+免疫細胞(リンパ球・マクロファージ) 頭頸部癌・食道癌・胃癌など 1以上、20以上
IPS(免疫比例スコア) 腫瘍浸潤免疫細胞のみ 研究的評価に使用 試験によって異なる


頭頸部癌ではTPSではなくCPSが使われる点に注意が必要です。CPSは腫瘍細胞に加えてリンパ球やマクロファージなどの免疫細胞も評価対象に含むため、TPSより広い観点で発現を捉えます。CPS1以上かCPS20以上かで、治療選択のアルゴリズムが変わるため、スコアの意味を正確に理解しておくことが重要です。


pd-l1発現のCPSスコアと頭頸部癌の治療選択アルゴリズム

KEYNOTE-048試験は、再発または転移性の頭頸部扁平上皮癌を対象に実施された国際共同第Ⅲ相試験です。この試験によって、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)の頭頸部癌への有効性が示されました。


ここで重要なのは、「PD-L1発現(CPS)の多寡にかかわらず、ペムブロリズマブ併用療法は使用可能」という点です。一方で、ペムブロリズマブ単剤は全生存期間の延長効果がCPSスコアによって異なる傾向が示されており、CPS20以上の患者で特に顕著な効果が認められています。


CPS20以上の患者では、ペムブロリズマブ単剤群の全生存期間中央値は14.8カ月であったのに対し、対照群(EXTREME療法=セツキシマブ+プラチナ製剤+5-FU)では10.7カ月でした。ハザード比は0.58という結果です。これは「6人のうち約4人でリスクが大幅に低減された」と言い換えることができます。


つまりCPSスコアが高いほど、単剤療法のメリットが大きいということです。


さらに2026年2月には、KEYNOTE-689試験の結果に基づき、Ⅲ/ⅣA期局所進行頭頸部扁平上皮癌における術前・術後補助療法としても、CPSにかかわらずペムブロリズマブの使用が承認されました。これは歯科口腔外科領域にとって非常に重要な変化です。



  • CPS1以上かつ再発・転移:ペムブロリズマブ単剤または化学療法併用の選択肢あり

  • CPS20以上:ペムブロリズマブ単剤での全生存期間延長効果が特に期待できる

  • CPS問わず:ペムブロリズマブ+プラチナ製剤+5-FU(化学療法併用)は使用可能

  • 局所進行(ⅢまたはⅣA期):2026年2月承認、術前・術後補助療法としてCPS問わず適用可能


歯科口腔外科医が覚えておくべき原則は明快です。治療開始前にPD-L1発現(CPS)を確認することが「有用な標準手順」として位置づけられています。これは再発・転移例であれば一次治療開始前、局所進行例であれば術前補助療法開始前の実施が推奨されています。


PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」(コンプリメンタリー診断薬)を使用し、免疫組織化学染色(IHC法)でCPSを算出する手順が標準化されています。なお検体の固定・包埋・薄切・染色における精度管理も治療の正確な判断には欠かせない要素です。


PD-L1検査の臨床的意義と頭頸部癌CPS評価の詳細については、以下の公式情報が参考になります。


MSD Connect「頭頸部癌 PD-L1検査の臨床的意義」:CPS算出手順、適用タイミング、臨床試験成績が整理されています。
https://www.msdconnect.jp/products/keytruda-hnc/pdl1-cps/laboratorytest/


pd-l1発現と歯周病菌——見落とされがちな口腔内環境との連関

PD-L1発現は腫瘍細胞だけで起こる現象ではありません。口腔内の細菌叢が、がん細胞のPD-L1発現を「底上げする」可能性が近年の研究で示されています。これは歯科従事者にとって見逃せない知見です。


兵庫医科大学などの研究グループは、歯周病原菌であるPorphyromonas gingivalis(P.g)やEscherichia coliなどのグラム陰性菌が産生するLPS(リポ多糖)が、口腔扁平上皮癌細胞のPD-L1発現を増強させることを実験的に示しました。具体的には、P.gのLPSおよびE.coliのLPSを口腔扁平上皮癌培養細胞に添加したところ、PD-L1発現量が有意に増加したと報告されています。


これが臨床的に何を意味するか。歯周炎が活動している口腔環境では、歯周病原菌由来のLPSが局所に持続的に存在します。このLPSが口腔がん細胞のPD-L1発現を継続的に誘導することで、腫瘍の免疫逃避が強化される可能性があるということです。免疫療法の効果を最大化するには、口腔衛生管理が予想以上に重要かもしれません。


また、食道癌を対象にした最近の報告では、P.gingivalisとF.nucleatumの重複感染がPD-L1発現をさらに高め、免疫逃避を助長するという知見も示されています(2025年)。口腔がんに限らず、歯周病菌と全身のがん進展が連動している可能性は広がっています。


これは思わぬ連鎖です。つまり「歯周病を放置する→歯周病原菌LPSが産生される→口腔がん細胞のPD-L1発現が増強される→免疫逃避が進む→がんの悪性化リスクが高まる」という経路が考えられます。


歯科衛生士や歯科医がプラークコントロールや歯周治療を徹底することは、口腔がんリスクのある患者の免疫環境を守る意味でも重要になってきます。歯周病ケアが「がん微小環境」に影響を与えるという視点は、歯科臨床の付加価値を高める新しい切り口です。


細菌由来LPSによるPD-L1発現増強の研究については下記が参考になります。


兵庫医科大学「細菌性リポ多糖による口腔扁平上皮癌細胞のPD-L1発現と浸潤様式の誘導」
https://www.hyo-med.ac.jp/files/20240131/8b981c08aadedfd4d46b16bd8fac06715d0b364e.pdf


pd-l1発現は術前化学療法で変わる——口腔扁平上皮癌における治療前後の比較

口腔扁平上皮癌(OSCC)患者において、術前化学療法(NACT)を行うと、PD-L1発現は一律に変化するわけではありません。これは重要な事実です。


Human Pathology誌(2025年8月)に発表された研究では、OSCC患者130例を対象に、術前化学療法実施群(95例)と対照群(35例)を比較したところ、腫瘍の特性によってPD-L1発現の変化が大きく異なることが明らかになりました。


特に注目すべきはT1腫瘍(比較的早期の腫瘍)の結果です。T1腫瘍では、術前化学療法後にPD-L1 TPSが43.4%から13.0%へと著明に減少しました(p=0.039)。浸潤深度(DOI)が5mm未満の腫瘍でも、40.7%から14.8%に低下しています。


早期腫瘍では術前化学療法でPD-L1が下がる傾向があります。


一方で、進行したリンパ節転移を有する腫瘍、脈管侵襲(LVI)、神経周囲浸潤(PNI)、腫瘍芽(tumor budding)を伴う症例では、術前化学療法後にPD-L1発現が逆に増加する傾向が観察されました。



  • 📉 T1腫瘍・DOI5mm未満:術前化学療法後にPD-L1 TPSが大きく低下(約30ポイント減)

  • 📈 進行リンパ節転移・脈管侵襲・神経周囲浸潤・腫瘍芽を伴う腫瘍:術前化学療法後にPD-L1発現が増加する傾向

  • 📊 CPS変化:腫瘍芽(p=0.008)、最悪浸潤パターン(p=0.036)、浸潤深度(p=0.030)、予後ステージ(p=0.026)と有意相関


この結果が示す臨床的含意は何でしょうか。術前化学療法後のPD-L1発現評価を「治療前と同じ」と見なすことは、場合によって危険だということです。特に進行がんでは化学療法がPD-L1発現を増強させ、その後の免疫チェックポイント阻害薬の効果を変動させる可能性があります。


つまり「術後に改めてPD-L1再評価を行う」という視点が、個別化治療の精度を高めるうえで重要になってきます。研究チームも「より大規模な研究が必要」と結論づけていますが、治療前後のPD-L1評価を意識することが今後のスタンダードになる可能性があります。


口腔扁平上皮癌の術前化学療法後PD-L1変化に関する最新研究の詳細は下記をご参照ください。


CareNet学術「口腔扁平上皮がんにおける術前化学療法後のPD-L1発現変化を解明(Human Pathology, 2025)」
https://academia.carenet.com/share/news/50ff9e37-a46c-4288-81d0-01beadd5f7ca


pd-l1発現がOSCCの部位によって異なる——舌がんで高発現する理由と独自の臨床的視点

口腔扁平上皮がんにおけるPD-L1発現は、がんの「場所」によっても差があることが明らかになっています。2026年1月に報告された研究では、口腔扁平上皮がん40例(口底・口蓋・下唇・舌それぞれ10例)を対象に、PD-1とPD-L1の免疫発現を解析したところ、舌がんで他の部位と比べて高い発現が確認されたことが示されています。


なぜ舌がんでPD-L1が高発現しやすいのか。明確なメカニズムはまだ研究途上ですが、いくつかの仮説が存在します。


舌は歯周病原菌を含む口腔内細菌と常に接触する部位であり、慢性炎症刺激が続きやすい環境にあります。前述の歯周病菌由来LPSによるPD-L1増強効果を考えると、舌が受ける細菌刺激の質と量が、他の部位より高いことが一因かもしれません。また、舌がんは機械的刺激(不適合義歯、鋭利な歯縁など)を受けやすく、慢性炎症を起こしやすい部位でもあります。


口腔がんのなかで舌がんの占める割合は約47%と最多です。舌がんは口腔がん全体の中でも最も頻度が高く、かつPD-L1発現が高い傾向があるという事実は、舌がん患者における免疫チェックポイント阻害薬の応答性が他部位より高くなる可能性を示唆しています。


ここに独自の臨床的視点があります。


歯科医・歯科衛生士が日常の口腔診察で舌粘膜の異常(硬結・白斑・不治の潰瘍など)を早期に発見し、口腔外科や耳鼻咽喉科・腫瘍内科と連携することは、PD-L1高発現型の舌がんを早期段階で把握し、将来的な免疫療法の恩恵を最大化することにもつながります。


つまり「舌の定期的なスクリーニング」が、免疫療法適応のゲートキーパーとして機能する可能性があるということです。


口腔がんのがん登録データや部位別統計については下記が詳しくまとめられています。


日本口腔腫瘍学会「口腔癌登録 部位別発生割合」(2020年データ含む)
https://jsoo.org/wordpress/wp-content/uploads/99ac53ec61cd51ec22a4d0b40c7bd0dc.pdf


pd-l1発現と免疫チェックポイント阻害薬のirAE——口腔粘膜障害に注目すべき理由

免疫チェックポイント阻害薬の普及に伴い、歯科医が直面する新たな課題として「免疫関連有害事象(irAE)」があります。irAEとは、免疫チェックポイント阻害薬が免疫を過剰に活性化することで生じる、全身の炎症性副作用の総称です。


口腔粘膜障害はirAEのひとつとして報告されています。実際にニボルマブ(オプジーボ®)を投与された口底扁平上皮癌再発患者において、Grade3の口腔粘膜炎(口唇粘膜・頰粘膜・舌に難治性びらん)が発現した症例が北海道がんセンターから報告されています。


見た目は「ただの口内炎」のように見えても、免疫療法中の患者であれば経過が全く異なります。


irAEによる口腔粘膜障害は通常の薬剤性口内炎とは性質が異なり、難治性で重篤化しやすい傾向があります。発現時期も「6回目の投与後に初めて出た」といったケースがあり、初回投与から数カ月後にも油断できません。


歯科医・歯科衛生士がチェックすべきirAE関連の口腔所見としては、以下が挙げられます。



  • 🔴 2週間以上治らない口腔粘膜のびらん・潰瘍

  • 🔴 通常の処置では改善しない難治性口内炎

  • 🔴 免疫療法開始後に新たに出現した口腔乾燥や粘膜の変化

  • 🔴 原因不明の口腔出血・粘膜の発赤


これらの所見が認められた場合、「免疫療法中かどうか」の問診が不可欠です。そして腫瘍内科・主治医との連携をすみやかに行うことが求められます。


irAEの管理は単科では難しく、腫瘍内科・各専門科とのチーム医療が必要です。歯科はその重要な一角を担います。


PD-L1発現が高く免疫療法が奏効する患者ほど、irAEのリスクも管理が必要になります。「PD-L1発現が高い=効果が高い可能性=irAEも起こりやすい場合がある」という関係性を念頭に置くと、歯科的モニタリングの重要性がより明確になります。


J-Stage「口腔癌に対する免疫療法——腫瘍内科との連携」(口腔腫瘍 第30巻4号):irAE管理と多科連携の実際が詳述されています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsot/30/4/30_135/_pdf


十分な情報が収集できました。記事を作成します。