ペムブロリズマブの副作用と発現時期を歯科従事者が知るべき理由

ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の副作用は、なぜ歯科従事者にとっても無関係ではないのか?口腔irAEの発現時期や種類、チーム医療での連携ポイントを徹底解説します。

ペムブロリズマブの副作用と発現時期を正しく押さえる

投与が終わってから数か月後に口腔症状が出ても、あなたが最初の発見者になることがあります。


この記事の3つのポイント
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irAEは投与終了後も発現する

ペムブロリズマブのirAEは治療中だけでなく、投与終了後から数週間〜数か月後に現れることがある。通院が終わった患者でも油断は禁物です。

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口腔顔面irAEは10%に発生

ICI単独療法を受けた患者の約10%に口腔顔面部のirAEが起こると報告されており、嚥下障害・口内炎・口腔乾燥などが代表的な症状です。

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歯科は早期発見の最前線

口腔の変化を定期的に観察する歯科従事者は、irAEを最初に気づける立場にある。腫瘍科との連携体制の構築が患者の重症化を防ぐ鍵になります。


ペムブロリズマブの副作用(irAE)の基本:従来の抗がん剤と何が違うのか

ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)は、PD-1(Programmed cell death-1)という免疫チェックポイント分子を標的とした抗体薬です。がん細胞が放出するPD-L1というタンパク質がPD-1に結合することで、本来がん細胞を攻撃すべきT細胞に「ブレーキ」をかけます。ペムブロリズマブはそのブレーキを外し、T細胞の攻撃力を回復させる仕組みです。


頭頸部扁平上皮がん・非小細胞肺がん・悪性黒色腫(メラノーマ)・ホジキンリンパ腫など、多くのがん種で保険適用となっており、歯科・口腔外科が関わる頭頸部がんでも第一選択薬のひとつになっています。


従来の殺細胞性抗がん剤は、細胞の分裂を直接阻害するため、分裂が速い正常細胞(骨髄・消化管粘膜など)にも一定のダメージを与えます。これに対してペムブロリズマブは免疫の調節を介して作用するため、副作用の種類と発現タイミングが根本的に異なります。これが「免疫関連有害事象(immune-related Adverse Events:irAE)」と呼ばれる概念です。


つまり副作用の種類が違う、ということですね。


irAEは全身のあらゆる臓器に発現する可能性があり、皮膚・消化管・肺・肝臓・内分泌器官・神経・心臓・眼・口腔など、まさに体のどこにでも起こり得ます。KEYNOTE-048試験(頭頸部がん対象)でのペムブロリズマブ単独投与群では、副作用の発現率は58.3%でしたが、Grade3以上の重篤なものは17.0%に留まりました。同試験の化学療法群(96.9%/Grade3以上69.3%)と比較すると、明らかに忍容性が高い薬剤です。


ただし、「軽症が多い=軽視してよい」という意味ではありません。重篤化すると心筋炎(致死率が高い)、1型糖尿病(ケトアシドーシスリスク)、間質性肺炎など、命にかかわる状態に至ることもあるため、早期発見の体制が不可欠です。


ペムブロリズマブ副作用の発現時期:「いつ」起こるかを臓器別に把握する

irAEの発現時期は「予測困難」とされています。しかし、臓器ごとに「発現しやすい時期の目安」は存在します。歯科従事者がこの時期感覚を持っていることは、患者の変化に気づくうえで大きな意味があります。


臓器・症状ごとの発現時期の目安は以下の通りです。

















































副作用の種類 発現しやすい時期(治療開始後) 歯科的関連
皮膚障害(発疹・かゆみ・白斑) 2〜4週間 口唇・口腔粘膜に現れることもある
口内炎・口腔粘膜炎 数日〜10日程度(早期型) 直接関与。びらん・潰瘍が長引く
下痢・大腸炎 4〜10週間 全身状態に影響、栄養摂取に関連
肝機能障害 4〜12週間 黄疸として口腔粘膜に現れることがある
ホルモン分泌障害(甲状腺・副腎) 6週間〜数か月以降 口腔乾燥や倦怠感として来院時に気づく
1型糖尿病 数か月以降 多飲・口渇・歯周病増悪として現れる
重症筋無力症・筋炎 数週間〜数か月 嚥下障害・開口障害として歯科で発見
神経系障害(末梢神経・脳炎) 数か月以降 顔面しびれ・三叉神経痛様症状


重要な点が一つあります。irAEは**投与終了後にも発現する**ということです。これが従来の抗がん剤副作用との大きな違いです。投与が終わって「もう安全」と思っている時期に、皮膚・内分泌・神経の症状が現れることが報告されています。


また、初回投与直後(24時間以内)にはインフュージョンリアクション(発熱・悪寒・発疹・呼吸困難など)が起こる場合があります。これは通常点滴中や点滴直後に生じるため、医療機関でモニタリングされますが、歯科来院時の問診で「最近点滴治療をした」という情報を得た場合には、前回投与日や症状の有無を確認しておくと安心です。


投与終了後の油断が一番危ないですね。


参考:ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の添付文書・警告事項についての詳細は、MSDコネクトの安全性情報ページで確認できます。
キイトルーダ 警告・禁忌を含む注意事項等情報 | MSD Connect


ペムブロリズマブの口腔irAE:歯科従事者が見逃しやすい症状と発現パターン

2025年9月、Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology and Oral Radiology誌に掲載された大規模な後ろ向き研究において、ICI単独療法を受けた患者の**約10%**に口腔顔面部のirAEが発生したことが報告されました。その内訳は、嚥下障害が3.6%(最多)、顔面のしびれや三叉神経痛様症状が1.63%、口腔扁平苔癬様薬疹が1.4%、口内炎が1.22%、口腔乾燥症が続きました。口腔顔面部の神経障害が全体の約57%を占めており、「口腔はirAEが起きやすい部位」という認識が必要です。


歯科従事者が特に注意すべき口腔irAEは以下の4種類です。


🔴 **口腔粘膜炎・口内炎(免疫性)**


一般的な化学療法による口腔粘膜炎は、投与から5〜10日で発症し、2〜3週間で回復します。しかし、ペムブロリズマブによる口腔粘膜炎(免疫性)は性格が異なります。抗菌薬うがい薬では改善しにくく、びらんや潰瘍が長期間続くことがあります。ステロイド外用薬や、重症例では免疫抑制剤の全身投与が必要になるケースもあります。


通常の口内炎として処置して治らない場合は、irAEを疑うことが原則です。


🟡 **口腔扁平苔癬様薬疹(OLP-like irAE)**


頬粘膜や歯肉、舌縁などに白色のレース状病変や発赤・びらんが生じる病態で、口腔扁平苔癬と臨床像がよく似ています。ステロイド外用薬が有効なことが多いですが、放置すると疼痛・食欲低下・QOL低下につながります。既存の口腔扁平苔癬との鑑別には、服薬歴の確認が不可欠です。


🟠 **口腔乾燥症・唾液腺炎(シェーグレン様irAE)**


ペムブロリズマブ投与後に唾液腺に急性炎症(急性唾液腺炎)が起きた非小細胞肺がんの症例が報告されています。また、シェーグレン症候群に類似した乾燥症状(口腔乾燥・眼乾燥)が現れる場合があり、既存のシェーグレン症候群との区別が難しいことが指摘されています。口腔乾燥はう蝕リスクを著しく高めるため、歯科としての介入ポイントになります。


🟣 **嚥下障害・重症筋無力症関連症状**


ペムブロリズマブ関連irAEとして重症筋無力症(MG)が発症した場合、眼瞼下垂・複視・嚥下困難・開口障害などの症状が出現します。ある舌癌症例では、ペムブロリズマブ2回目投与の21日後に全身筋力低下・開眼困難が現れ、心筋炎との複合irAEに至った報告があります。歯科で「最近飲み込みにくい」「口が開けにくい」という訴えを受けた場合、ペムブロリズマブ投与中かどうかを確認することが重要です。


参考:ICI単独療法における口腔顔面irAEの発生率と内訳について
免疫チェックポイント阻害薬単独療法、口腔顔面部の有害事象が10%に発生 | CareNet Academia


ペムブロリズマブ使用患者への歯科的対応:問診・観察・連携の実践ポイント

がん治療を受けている患者が歯科を受診する機会は少なくありません。定期メンテナンス、義歯調整、う蝕治療、口腔ケアなど、さまざまな場面で接触します。その際に「ペムブロリズマブを使っているかどうか」を把握することが、患者の安全を守るうえで非常に重要な意味を持ちます。


**問診時のチェックポイント**


まず問診票や口頭確認で「現在がん治療中か」「使用している薬剤名を教えてもらえるか」を確認します。特に頭頸部がん・肺がん・悪性黒色腫などの治療歴がある患者には、キイトルーダ(ペムブロリズマブ)・オプジーボ(ニボルマブ)・テセントリク(アテゾリズマブ)などの商品名を挙げて確認するのが実用的です。一般の患者はこれらを「免疫の薬」「点滴の薬」と表現することが多いため、薬剤名だけで確認しても抜けが生じます。


- 最後の投与日はいつか(投与終了後の患者にも注意が必要)
- 現在どのような症状があるか(発疹・倦怠感・口の渇き・嚥下困難など)
- 主治医から歯科治療に関して特別な指示があるか


**口腔内観察のポイント**


ペムブロリズマブ使用患者に対しては、通常の口腔観察に加えて以下の点を意識します。


- 口腔粘膜のびらん・潰瘍・白色変化(OLP様病変)の有無
- 唾液分泌量の低下・口腔乾燥の程度
- 舌・口唇・頬粘膜の発赤や腫脹
- 義歯床下粘膜の状態(摩擦刺激で炎症が悪化しやすい)
- 開口量・嚥下機能(筋炎・MGの早期発見に繋がる)


これが基本です。


**歯科侵襲的処置を行う際の注意点**


口腔粘膜に活動性の炎症(irAEが疑われる粘膜炎・潰瘍など)がある場合、抜歯・歯周外科処置などの侵襲的処置は延期を検討し、腫瘍内科または主治医に連絡をとることが推奨されます。また、ステロイドを使用しているirAE治療中の患者では、感染リスクが高まっている可能性があります。こうした場合、抗菌薬の予防投与の要否を主治医と協議することが重要です。


疑いがあれば先に主治医への確認が原則です。


参考:頭頸部がんにおける口腔ケアと歯科連携の推奨については、以下のガイドラインを参照ください。
頭頸部癌診療ガイドライン2022年版(日本頭頸部外科学会) ※PDF


【歯科従事者の独自視点】ペムブロリズマブ投与患者の口腔ケアがirAEの重症化を防ぐ理由

ここからは、検索上位にはあまり取り上げられない視点をお伝えします。


口腔衛生状態の悪化が、ペムブロリズマブによるirAEを重症化させる可能性を高めることが指摘されています。その理由は2段階で説明できます。


**第1段階:口腔内の慢性炎症がirAEの「引き金」になる可能性**


口腔内に慢性歯周炎や残存感染源(根尖病変・不良補綴)がある場合、局所の免疫反応が恒常的に活性化しています。この状態でペムブロリズマブによって全身の免疫が過剰活性化すると、口腔局所でのirAE発現リスクが高まる可能性があります。現時点でこれを直接証明する大規模なエビデンスはまだ限られていますが、がん治療開始前に口腔の感染源を除去することは、頭頸部がん診療ガイドラインでも推奨されています。


**第2段階:口腔粘膜炎・乾燥による悪循環**


irAEで口腔粘膜炎が生じると、疼痛により経口摂取が困難になります。栄養状態が低下すると全身の免疫状態がさらに不安定になり、次のirAEのコントロールを難しくするという悪循環に陥ります。実際、口腔irAEに対して専門的な口腔ケア介入を行うことで、疼痛コントロール・栄養摂取量の改善・QOL向上が期待できます。


これは使えそうです。


具体的な介入として、以下が有効とされています。


- 💧 **保湿ジェル・人工唾液の使用**:口腔乾燥による粘膜傷害を軽減。口腔乾燥が著しい場合は、ピロカルピン塩酸塩(唾液分泌促進薬)の処方について内科・腫瘍科に相談することも選択肢のひとつです。
- 🪥 **超軟毛歯ブラシの使用**:口腔粘膜炎があっても可能な範囲で清潔を維持する。歯磨き粉はアルコール・発泡剤が少ないタイプを選ぶ。
- 🌿 **うがい薬の選択**:アルコール含有のうがい薬は粘膜刺激になるため避ける。生理食塩水・重曹水・塩化ベンゼトニウム系うがい薬が比較的安全です。
- 🍽️ **食事指導の補助**:刺激物(辛味・酸味・熱い食品)を避けるよう伝える。柔らかい食事・高カロリー流動食への移行を栄養士と連携して提案する。


口腔ケアの継続が、患者の治療継続を支えることに直結します。口腔外科・歯科が「点滴治療の後方支援」という意識で関わることが、現代のがん治療チームには求められています。歯科従事者が「がん治療中の患者に積極的に口腔ケアを提供できる専門職」として機能することは、患者のQOLだけでなく、irAEの重症化防止という観点からも大きな意義があります。


参考:京都府立医科大学による「がん免疫療法を受ける患者の口腔粘膜炎の発生状況と口腔関連QOL」の研究報告
がん免疫療法を受ける患者の口腔粘膜炎の発生状況と口腔関連QOL(京都府立医科大学) ※PDF


参考:ペムブロリズマブ投与後に心筋炎を発症した舌癌症例(日本口腔外科学会雑誌)—— 歯科口腔外科とのチーム医療の重要性を示す事例報告
Pembrolizumab投与後に心筋炎を発症した舌癌の1例(J-Stage) ※PDF


十分な情報が揃いました。記事を作成します。