トライセクション歯科で歯根を残す外科治療の全知識

トライセクション(歯根分割抜去法)は、上顎大臼歯の歯根3本のうち問題のある1本だけを除去して歯を保存する外科治療です。適応症や手術手順、術後のSPT管理まで、歯科従事者が知っておくべき知識を徹底解説。あなたの臨床に活かせる情報とは?

トライセクション歯科の基本から術後管理まで

SPTを怠ると、トライセクション後の歯が10年以内に38%の確率で抜歯になります。


トライセクション歯科 3つのポイント
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歯根1本だけを選択的に除去

上顎大臼歯の3根のうち問題のある1根のみを歯冠ごと分割抜去し、残り2根で咬合機能を維持する保存的外科治療です。

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適応症の見極めが成否を決める

根分岐部病変の進行度・残存歯根の骨植状態・根管治療の可否を総合的に評価しないと、術後早期に抜歯となるリスクがあります。

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術後SPTで10年生存率93%も可能

2〜6ヶ月間隔のSPT(歯周病安定期治療)を継続した症例では、10年生存率が93%という報告があります。定期管理が予後を大きく左右します。


トライセクションの定義と歯科における位置づけ

トライセクション(trisection)とは、歯根が3本ある多根歯において、障害を受けた歯根1本のみを歯冠部とともに除去する「歯根分割抜去法」の一形態です。 歯根が2本の場合に行う「ヘミセクション」に対して、主に上顎第1大臼歯・第2大臼歯を対象として行われます。 yashima-shika(https://yashima-shika.com/hemisection-and-trisection/)


歯科治療の選択肢として、トライセクションは「抜歯」と「歯の完全保存」の中間に位置する術式です。 問題のある歯根だけを取り除くことで、咬合機能の一部を残しながら残存歯根を活用できる点が最大の特徴です。これは単なる抜歯よりも患者のQOLを守る治療につながります。 thedental(https://thedental.jp/journal/column_treatment/4559/)


つまり、トライセクションは「歯を諦める前に試みる最後の保存手段」です。


上顎第1大臼歯の場合、口蓋根(MB根)・近心頬側根(MB)・遠心頬側根(DB)の3根構造が対象です。 口蓋根は最も負担能力が高く、頬側根2本は口蓋根より咬合負担耐性がやや下がります。そのため、臨床上は頬側根のどちらかを抜去し、口蓋根を温存するケースが多くなります。 abe-oyashirazu(https://abe-oyashirazu.com/blog/2020/04/post-38.html)


トライセクションの適応症と非適応症の判断基準

適応かどうかの見極めは、術後予後を大きく左右します。以下の条件を複合的に確認することが基本です。


条件 適応 非適応・注意
根分岐部病変の程度 Ⅱ〜Ⅲ度の病変がある Ⅰ度のみ(外科不要の場合あり)
残存歯根の骨植 良好・安定している 骨吸収が残存歯根にも及んでいる
根管治療の可否 残存根の根管治療が完了または可能 樋状根・根管癒合で分離不可
ルートトランク 短め(分割が容易) 長い症例(分割困難)
咬合負担 残存2根で機能維持できる 対合歯・隣在歯の状態が不良


yukioka-u.ac(https://www.yukioka-u.ac.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/01/%E6%AD%AF%E5%86%85%E6%B2%BB%E7%99%823%EF%80%A23.key.pdf)


歯根が癒合傾向にある第2大臼歯では、分割そのものが困難なケースも少なくありません。 また、髄床底に穿孔・亀裂がある場合や垂直性骨吸収が残存歯根にも及んでいる場合は、たとえ1根の除去でも術後に再発リスクが残ります。意外ですね。 abe-oyashirazu(https://abe-oyashirazu.com/blog/2020/04/post-38.html)


参考:根分岐部病変の治療適応と術式の詳細な解説
ヘミセクション・トライセクション後の歯冠修復(大分市歯科医師会)


トライセクション手術の手順と術中のポイント

手術は大きく「歯冠分割→歯根除去→創面の形成→縫合」の流れで行われます。 各ステップを正確に踏むことが、残存歯根の保護と術後感染の防止につながります。 academy.doctorbook(https://academy.doctorbook.jp/movies/830)


1. 術前準備:根管治療を完了させ、診断用X線(できればCBCT)で歯根形態・骨吸収範囲を確認する
2. 切開・剥離:粘膜骨膜弁を形成し、分岐部の視野を確保する
3. 歯冠・歯根の分割:タービンバーで歯冠から分岐部にかけて切断、除去する歯根を切り離す
4. 歯根の抜去:分割した歯根をヘーベルエレベーターで丁寧に除去する
5. 創面のトリミング:残存歯根の分岐部周囲をなめらかに形成し、プラークが付着しにくい形態にする
6. 縫合・経過確認:フラップを復位して縫合、術後1〜2週で抜糸する


創面のトリミングは見落とされがちですが非常に重要です。 除去後の「くぼみ」に食片が停滞すると歯周ポケットが再形成し、残存歯根を巻き込んだ再発へとつながります。口臭が発生しやすいという点でも、患者指導に必ず盛り込む必要があります。 komaidc(https://komaidc.jp/column/ovrsjz/)


術中に歯根破折が判明するケースも報告されています。 術前のX線だけでは発見できなかった破折線が、フラップを開いて初めて確認されることがあります。その場合は当初の治療計画を変更し、歯の保存が困難と判断せざるを得ないケースもあります。これは術前のインフォームドコンセントで患者に伝えておくべきリスクです。 tokyo-endodontics(https://www.tokyo-endodontics.com/treatment/surgical_endodontics/)


術後の歯冠修復とSPT管理で変わる10年生存率

トライセクション後の補綴は、残存歯根の連結固定が原則です。 大臼歯部は咬合力が集中するため、単独クラウンでは残存2根が過負荷になり、歯根破折のリスクが上がります。 abesika.or(https://www.abesika.or.jp/2018/05/263/)


SPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)の有無が、術後予後を劇的に変えます。治療後にSPTを行わなかった群では、5年評価で30〜57%以上の歯が喪失するという報告があります。 一方、2〜6ヶ月間隔でSPTを継続した群では、10年生存率が93%という結果も示されています。 この数字の差は非常に大きいですね。 abesika.or(https://www.abesika.or.jp/2018/05/263/)


SPT期間中に確認すべき項目は以下のとおりです。


- 残存歯根のプロービングデプスと出血(BOP)の変化
- 根分岐部トリミング部位へのプラーク蓄積の有無
- 補綴物の適合・咬合接触の変化(特に側方圧)
- 隣在歯・対合歯の移動・挺出


参考:SPTの意義と治療期間の目安


トライセクション後に見落とされがちな咬合管理の視点

多くの臨床家が歯周管理に注力する一方で、咬合調整の継続的な評価が後回しになりやすい現実があります。これは独自の視点ですが、術後の咬合変化がトライセクション失敗の隠れた原因になることがあります。


大臼歯部のトライセクションでは、歯根1本を失った時点で歯の支持面積が単純計算で約33%減少します。 残存歯根2本にかかる咬合負担は術前より増加するため、対合歯や隣在歯の移動・傾斜が起きると咬合干渉が生まれます。厳しいところですね。 abe-oyashirazu(https://abe-oyashirazu.com/blog/2020/04/post-38.html)


特に夜間のブラキシズム(歯ぎしり・くいしばり)を持つ患者では、残存歯根への側方力が蓄積して垂直性骨吸収が進行するリスクがあります。術後管理においてナイトガードの使用を検討することが、残存歯根の長期保存につながります。


- 術後3ヶ月・6ヶ月・1年のX線での骨レベル確認
- 咬合紙による側方・前方の接触状態の確認(SPT時に毎回実施)
- ブラキシズムの有無を問診・臨床サインから評価
- 必要に応じたナイトガードの製作・調整


また、「トライセクション後は咬合力を軽減すれば問題ない」という思い込みは危険です。実際には食塊を噛む際の垂直力よりも、会話中や嚥下時のパラファンクションによる側方力が歯根を傷めるケースが多く報告されています。咬合管理と歯周管理は同時に行うことが条件です。


参考:外科的歯内療法とトライセクションの臨床的な使い分けについて
外科的歯内療法(東京根管治療・歯内療法専門医院)