「歯を残したい」と思っているのに、メンテナンスをサボると残した根がかえって5年以内にダメになるリスクが約8割に上ります。
ヘミセクションとは、複数の歯根(根っこ)を持つ歯を股の部分で分割し、問題のある根だけを取り除いて、健全な根を保存する歯科治療のことです。正式には「分割抜歯」とも呼ばれ、日本の歯科診療報酬上では「J001 ヘミセクション(分割抜歯)」として定められた区分になっています。
主な対象は下顎の第一大臼歯(6番)や第二大臼歯(7番)など、2本の根(近心根・遠心根)を持つ奥歯です。これらの歯に問題が生じた場合、通常は全部抜いてしまうところを、悪い方の根だけを取り除き、健全な根と歯冠部分を活かして補綴治療(かぶせ物・ブリッジ)に繋げるのが大きな特徴です。
ヘミセクションが検討される代表的な症状は次の3つです。
- 根管治療を行っても1本の根の感染が止まらない場合:再三の根管治療でも治癒しない根に対して、その根だけを除去することで残りを守ります。
- 歯根破折(縦割れ)が1本の根に限定している場合:物理的に割れた根は基本的に抜歯対象ですが、もう一方の根が健全であればヘミセクションで保存できることがあります。
- 重度歯周病により1本の根周囲の骨が局所的に溶けている場合:根分岐部病変(フルカ病変)の度合いが片側の根だけに限定されている場合に適応となります。
いずれも「片側だけが壊れている」というのが重要な条件です。両方の根に同等の問題がある場合は、ヘミセクションの適応にはなりません。
参考:ヘミセクションの適応条件と治療の基礎知識(ORTC)
https://ortc.jp/topics/dental-knowledge/hemisection-treatment
ヘミセクションは誰でも受けられる治療ではありません。適応には明確な条件があり、その条件を満たさない場合は、残念ながら全体の抜歯が選択されます。適応可能かどうかは歯科医師がレントゲンやCT検査で判断しますが、どのような条件が必要かを知っておくことは大切です。
条件①:残す歯根が顎骨でしっかり支えられている
ヘミセクション後は残った根1本に噛む力がすべて集中します。そのため、残す根の周囲に十分な骨量がなければ処置後に安定せず、かえってトラブルの原因になります。歯周病の進行が残す根にも及んでいる場合は適応外となります。
条件②:2本の歯根同士が十分に離れている
歯根の形状には個人差があります。根の先端同士が接近・癒合(くっついている)状態では、分割時に健全な根を傷つけてしまうリスクがあるため施術できません。CT検査で根の立体的な形状を確認することが重要です。
条件③:歯根が分岐する部分(根分岐部)が浅い位置にある
分岐部が深い位置にある歯では、分割後の根に歯茎がうまく被らず、食べかすが詰まりやすくなって清掃性が著しく悪化します。清掃不良は二次感染のリスクを高めるため、分岐部の位置は重要な判断基準です。
条件④:前歯や根が1本の歯には適応できない
ヘミセクションは文字通り「歯を分割する」治療なので、根が1本しかない前歯や小臼歯には行えません。
これらの条件を確認するために、歯科医院ではパノラマレントゲンや歯科用CTによる精密な診査が行われます。セカンドオピニオンを求める際も、CT撮影の有無を確認することが重要なポイントです。
| 確認項目 | OKの状態 | NGの状態 |
|---|---|---|
| 残す根の骨量 | 十分な骨で支えられている | 骨吸収が著しい |
| 根の形状 | 2本が分離している | 癒合・先端が接触 |
| 根分岐部の位置 | 比較的浅い(歯冠寄り) | 深い位置にある |
| 対象歯 | 下顎大臼歯(2根) | 前歯・1根の歯 |
ヘミセクションは複数の処置が組み合わさる複合的な治療であり、数回の通院では完結しません。治療全体の流れを把握しておくことで、実際の通院スケジュールをイメージしやすくなります。
治療期間は一般的に数ヶ月〜半年程度となり、これはインプラント治療と同等の長さです。短期間では終わらない、というのが基本です。
ステップ1:精密検査・診査(CT・レントゲン)
まず根の状態、骨量、根分岐部の位置などをCTやデジタルレントゲンで詳しく調べます。ここでヘミセクションが適応可能かどうかが判断されます。
ステップ2:根管治療(必要な場合)
ヘミセクションを行う前に、残す根の神経を取り除き(根管治療)、感染がないクリーンな状態にしておきます。すでに根管治療済みの歯でも、細菌感染が疑われる場合は再根管治療が必要です。
ステップ3:歯の分割(セクショニング)
局所麻酔下で、ドリルを使って歯の股の部分(根分岐部)から2つに切り分けます。
ステップ4:問題のある根を抜歯
分割後、感染・破折・歯周病が進んでいる方の根を丁寧に抜去します。残す根を傷つけないよう、高い技術が求められるステップです。
ステップ5:抜歯部位の治癒待機(約2〜3ヶ月)
抜去した根の部分は穴が開いた状態になります。歯肉が覆って治癒が完了するまで、2〜3ヶ月の待機期間が必要です。
ステップ6:補綴治療(かぶせ物・ブリッジ)
歯肉の治癒が確認できたら、残した根に被せ物(クラウン)を装着したり、隣接歯と連結したブリッジを作製・装着して治療完了となります。
参考:ヘミセクション・トライセクションの処置の流れ(DRMA歯科医師マッチング)
https://column.drma.or.jp/news/others/hemi_section_life_span/
費用面について正しく理解しておくことは、治療を選ぶ上で非常に重要です。ここは少し複雑な部分があるので整理してみましょう。
保険適用の場合
ヘミセクション(分割抜歯)は、条件が整えば健康保険が適用されます。診療報酬点数は1歯あたり470点(2024年診療報酬改定時点)と定められており、3割負担の場合はヘミセクション処置だけで約1,400円前後が患者負担となります。
ただし、以下の場合は保険適用が難しくなります。
- 自費の精密根管治療(自由診療)を同時に進めている
- 治療後の被せ物に自費素材(セラミックなど)を選ぶ
- 自費の精密補綴と組み合わせる場合
保険診療の混合適用(保険と自費の同時算定)は原則禁止のため、自費の補綴を希望する場合は、ヘミセクション処置自体も自費扱いになるケースがあります。
自費診療の場合
外科処置(ヘミセクション)+再根管治療+クラウン再製作まですべて含めた場合、5〜10万円前後が一般的な目安とされています。マイクロスコープやCTを用いた精密治療を行う専門医院では、さらに費用が上がる場合もあります。インプラント(30〜50万円前後)と比較すると費用負担は大幅に抑えられます。
保険と自費の選択で将来コストが変わる
保険のクラウン(金属冠など)は審美性が低い一方でコストは抑えられます。セラミックのクラウンは審美性が高く耐久性も期待できますが自費となります。ヘミセクション後の歯は通常より弱くなるため、将来的な再治療も考慮しながら補綴素材を選ぶことが長期的なコスト管理につながります。
参考:ヘミセクションの保険点数と算定要件(社会保険診療報酬支払基金)
https://www.ssk.or.jp/smph/shinryohoshu/sinsa_jirei/teikyojirei/shika/shujutsu/index.html
研究報告によれば、ヘミセクション後の歯の平均生存期間はおよそ5〜10年とされています。ただしこれはあくまで平均値であり、メンテナンスの継続によって20年以上維持された症例も少なくありません。逆に、術後のケアを怠ると5年以内に再発・抜歯となるリスクが跳ね上がります。寿命は患者自身の行動次第で大きく変わります。
なぜ短くなりやすいのか?
ヘミセクションで歯を分割すると、歯質のおよそ3分の2が失われてしまいます。残った根1本だけで噛む力を支えることになるため、通常の歯と比べて強度が大幅に低下します。また、分割後の形状は清掃が難しくなり、プラーク(歯垢)が蓄積しやすい環境になります。清掃不良は歯周病の再発や二次感染の温床となり、最終的に抜歯につながるのです。
成功率は60〜80%というリアル
論文・症例報告による成功率は約60〜80%とされています。主な失敗原因は「残存歯根の二次感染」「清掃不良による歯周病の再発」「咬合圧過剰による歯根破折」の3つです。
長持ちさせるために必要なこと
セルフケアは毎日の習慣として取り組む必要があります。
- 🪥 歯間ブラシ・デンタルフロスで分割部周囲を毎日清掃する
- 🏥 歯科衛生士による定期メンテナンスを3ヶ月ごとに受ける
- 😴 歯ぎしり・食いしばりがある場合はナイトガードを使用する
- 🔬 補綴物の状態確認と咬合調整を定期的に行う
歯ぎしり・食いしばりは特に注意が必要です。就寝中に無意識に行われることが多く、自覚がないまま残した根に過大な力をかけ続けている人も少なくありません。「歯ぎしりの自覚はない」という方でも、朝起きたときに顎が疲れている、歯が削れているなどのサインがあれば歯科医師に相談する価値があります。
ナイトガード(マウスガード)は歯科で保険適用で作製できることが多く、3割負担で2,000〜4,000円程度が目安です。ヘミセクション後の歯を守る最もコストパフォーマンスの高い投資のひとつです。
参考:歯を分割して残す治療「ヘミセクション」について(アップル歯科六本松)
https://appledc-6ponmatsu.jp/wiki/hemisection.html
「ヘミセクションかインプラントか抜歯か」という選択は、単純に「どちらが良いか」ではなく、「今の歯の状態と将来の生活設計に何が合っているか」で考えるべきです。この視点は既存の比較記事ではあまり深く語られていません。
各治療法の特性を整理してみましょう。
| 比較項目 | ヘミセクション | インプラント | ブリッジ | 入れ歯 |
|---|---|---|---|---|
| 自分の歯の保存 | ◎ 一部残せる | × 全部抜歯 | △ 支台歯を削る | × 保存なし |
| 費用(目安) | △ 5〜10万円(自費)〜数千円(保険) | × 30〜50万円 | ○ 保険適用可 | ○ 保険適用可 |
| 治療期間 | △ 数ヶ月〜半年 | △ 数ヶ月〜1年 | ○ 比較的短い | ○ 比較的短い |
| 10年後の耐久性 | △ 要メンテ | ○ 高め | △ 支台歯次第 | △ 定期的な調整必要 |
| 顎骨への影響 | ○ 骨吸収が起きにくい | ○ 骨量維持しやすい | △ 抜歯部は骨吸収 | × 骨吸収が進む |
ヘミセクションだからこそ得られる意外なメリット
あまり知られていないのが「骨量保持」の側面です。歯を抜いた後の顎骨は時間とともに吸収(縮小)していきます。ヘミセクションで根を残すと、その根が骨に刺さった状態を維持することで、骨の吸収を抑制できます。将来的にインプラントへ移行する可能性を考えても、骨量が維持されている方が有利です。
これは使えそうです。
また、ブリッジの設計においてもメリットがあります。奥歯(大臼歯)を全部抜歯してしまうと、ブリッジの土台がなくなって長いスパンのブリッジが必要になり、隣接歯への負担が増大します。ヘミセクションで根の一部を残すことで、ブリッジを短くでき、健康な歯を過剰に削る必要がなくなるのです。
どのクリニックを選ぶかが成功を左右する
ヘミセクションは技術依存度が高い治療であり、すべての歯科医院で対応しているわけではありません。CTやマイクロスコープなどの精密診断機器が整っていること、根管治療・歯周病治療・補綴治療を総合的に扱える医院であることが重要な選択基準になります。「保存治療に積極的な歯科医院かどうか」を事前に確認することが、後悔しない治療選択につながります。
参考:ヘミセクションと他の治療法の比較(やまじ歯科医院)
https://www.yamaji-dental.net/news/3025/